電話は 彼からでした

 

 「家に帰りたい 迎えに来て欲しい」

 

   消え入るような声は 重く沈んで聞こえました

 

    「分った 職場に話してから 行くね」

 

      そう 返事はしたけれど

 

     何があったのか それすら聞く事が出来ず

 

    私の心は早鐘のように 連打していました

 

   病院にいるから 何とかなる

 

  彼は強い人だから 奇跡を起こしてくれる

 

そんな思いを 抱き続けていたのです

 

 退院の手続きを済ませ 家に帰る車中

 

  どんな時も 明るい彼なのに 

 

   無口で 外を眺めているばかりです 

 

    私は努めて 明るく声を掛けました

 

   「同じ部屋の人は 治療を受けているのに

 

   僕は することもなく 居るだけなのよ」

 

  その言葉に 私はどう返したらいいのでしょう

 

 一瞬 考えました

 

「私は 貴方が側に居るだけで 良いのよ」

 

 それには 応えないで 

 

  外の景色を 眺め続ける 彼でした