強烈な個性とハスキーなヴォーカルで1986年にシングル「俺の声」とアルバムでメジャーデビューを飾ったシンガーソングライター、SION。福山雅治が大ファンでSIONの曲をカバー、コラボシングル(2005年)もリリースしていたり、BRAHMANのTOSHI-LOW、横山健、ZIGGYの森重樹一…など多くのミュージシャンにリスペクトされていることでも知られる彼の傑作は数々あれど、今も歌われ続けている名曲「俺の声」や「新宿の片隅で」をはじめ、代表曲のひとつとして挙げられる「コンクリート・リバー」や「街は今日も雨さ」が収録された1stアルバム『SION』は30年の月日が流れた今でも刺さりまくってくる名盤である。

 



タダモノではないという期待を裏切らない声と生々しい歌
初めてSIONの存在を知ったきっかけは歌ではなく、1枚のポスターだった。ツンツンに立てた髪といい、鋭そうな眼光といい、今風に言ったらキレッキレ。写真を見ているだけで噛みつかれそうな野良猫みたいなイメージで、パンクロッカーなのかと思っていた。その写真を見た時に「この人の歌を聴いてみたい」と思った。そうして触れたSIONの曲は“ぶっこわしてやる”みたいな青臭い攻撃的な曲ではなかったが、時に鋭利で時に優しくて人間臭くて、“この人はタダモノではない”という期待を裏切らない声と歌だった。


アルバムを聴いた時に一番感じたのは歌わなくては生きていけない人が歌詞を書いて歌っている曲だということ。“自分にはこれしかないんだ”と追い込んで、腹を決めた人の歌だということだった。そういう人はたぶん、自分の道を決めるまでに多くのことを捨ててきている、あるいは犠牲にしてきている。ちなみにSIONは山口県下関出身のシンガーソングライターで、地元のライブハウスでの弾き語りを経て、19才の時に上京。なかなか自身の音楽が認められない不遇な時代を経て、1985年に自主制作盤『新宿の片隅から』を発売し、その翌年にメジャーデビューを飾る。代わりのきかない存在、代わりのきかない歌がリスナーに熱狂的に支持され、現在に至るまでコンスタントに作品を発表し続けているシンガーだ。



アルバム『SION』
デビューシングル「俺の声」と同時発売された初のフルアルバムであり、SIONが上京してからライブハウスなどで歌い続けてきた曲が中心に収録されている。イントロのSIONのイラついたシャウトにドキッとさせられる「風向きが変わっちまいそうだ」は右も左もわからない街で混乱し、仕事を探しても赤い髪が原因で断られ、《つかまるもののない俺は とばされていくしかないのかい》と行き場のない気持ちを吐き出すロックンロール。いったい、この場所で俺はどうやって生きて、歌えばいいのか? このアルバムには当時のSIONの生々しい心境が言葉になってメロディになって溢れ出している。
今もライヴで歌われている代表曲のひとつ「SORRY BABY」(福山雅治が後にカバー)はSIONのしゃがれた声が染みてくるバラードで、愛する女性に約束もしてやれない男性の不甲斐なさ、情けなさを歌ったナンバーである。


著者:山本弘子