推しがものを盗って解雇された。

ネットニュースをタップして、心臓がバクバクした。

何があったの。

 

あなたはどこからですか。

私のこばゆたは10年前のドリライから。

ミュ好きの友達に連れられて、通常公演を見た事も無いのに参戦。

原作はハマっていたけれど、歌は何一つわからないのにまあノコノコと。

2.5次元も初めてだったので、世界観と観ている女子の熱量にのまれるばかり。

何処を観ていいのかわからない私が目を惹かれたのは、後列の端の方、ライブも後半で皆に疲れが見え始める中、決してセンターではない、後列でも横から2番目くらいにいて、腕の先からぐんと伸ばした足まで全身全力で踊る人。一生懸命力の限り動いてる、けれどダンスがあまり得意ではないんだろうと見てわかるような、でも人の後ろに見え隠れするようなポジションで、全てのパワーを出して全身で踊る人。

友達に名前を聞いて、開演前は買うつもりのなかった物販に並び、カレンダー欲しさに気付いたらグッズをセット買いしていた。それが小林豊だった。

もともと原作では観月推しだったので、好きになるのはあっという間。

公演は既に終わっていたし、初期校の哀しさで出番も少ないので、蔵出しグッズをチェックしてはせっせと購入。手に入らないものは乙女御用達の店で新中古を購入。めでたくミュ自体にもはまって、公演はもちろん、運動会まで行ったし、一緒に観ナイトでみつゆた回が取れた時は頭がぱーんとなりそうなくらい嬉しくて、取ってくれた友達に飛びついてきゃーきゃー喜んだ。平日の横浜までもちろん遠征した。

 

正直に言うと、役者として大変素晴らしいと思っていたわけではない。

ミュからして私の思う観月さんとは違っていたし、鎧武はしっくりこない物言いにハラハラしながら見守った。なのにどうして、追いかけたのか。それが小林豊だったから。

似てるとか役にハマっているとかじゃない。

自分なりの観月を器用じゃないのに一生懸命演じて、自分のものにしていた。

バロンに決定してから苦手なバナナ食べる宣言してまで、克服。初めこそハラハラしていたものの、回を重ねる毎に彼だけの駆紋戒斗になっていった。なんてなんてかっこいいんだ。

器用じゃない人が、その役を、全力で演っていく。演技も歌も役と一つになっていく。彼だけの世界になる。

その姿に胸をうたれたのだ。

だから彼の観月はあれでよかったし、喋りだすとああなのに眉間に皺寄せるような役ばかりなのは…それを引き寄せる感性があるのかな…とは思っていた。

 

鎧武に「しっくりこない」と書いたけど、私にとってそれこそが小林豊でもあった。

ガワにはまらない食パンみたいな、妙な居心地の悪さ。

喋りと文体の可愛らしさ、アイドルらしいウィンク、時々出る強めの書き言葉、天真爛漫みたいなブログにTwitterの書きぶりと反する役の多さ、演じる時のぎこちなさと並走する一生懸命さ、SNSに載せる笑顔。なんだかちぐはぐ。でも公演や作品に臨むときの意気込みはいつも心からに見えた。

ギャップ萌えは全然しなかった。ときめくよりは、そのよくわからなさが不思議で目が離せない。

DVD特典映像で、ルドのみんながゆーちゃむにドッキリをしかける、というのがあった。

時計を進めておいて、寝ている彼に、もう時間だよ!と起こすような内容。

ビジネス天然ならめちゃめちゃ焦ってリアクションする所だろうが、彼の場合、むにゃむにゃ起きてすぐに時間が進められていることを見破りまた寝てしまう。この起伏のない実においしくない映像の価値とは…。せっかくのドッキリだったんですけど…。と虚無りながら、まあなんか、可愛いときもほわほわしてる時も演技の時も、全て本気なんだろうな、こういう人なんだろうな、と思えてしまった。そういう彼がこれまた好きだった。

 

活躍の場が広がり、名前が全国区になる一方で、仕事はいろんな方向に向かってて、どこをめざしているんだろうと思ってた。小林君のやりたい事はできているのかな?事務所の方針はどうなってるの??あくまで名古屋に拠点を置きながら東京で仕事も。名古屋愛もグループ愛もビシビシ感じて全て本当の気持ちに思えただけに、大丈夫かなって勝手に心配してた…。

 

炎上してるのにエゴサする人の気持ちが初めて分かった。

傷つくとわかっているのに見てしまう。いけないことをしたのだ、わたしもこれは、つらい。ぽつりぽつり、ファンらしきコメントがあって、追いつけないくらいの速さで逃げた事へのコメントには泣き笑いした。

運動音痴もキャラ作りだったのか、というコメントも見たけれど、たぶんそれは違うと思う。能力はあるけど不器用…初見でうまくはできない…身体のつながりがぎこちない。それでも一生懸命やって掴み取る所が彼のよさだったよ。私はそう思っていた。

 

嘘であってほしいと思うのに、本人が認めたと事務所が言う。バクバクしながら記事を読み漁り、当日のくだりを読んで、私は思ったより落ち着いていった。ああ、君はそういう所に、心がいたのか。想像する。移動中に聴く音楽みたいに上の空で、ここではない世界に意識をずらしながら、慣れた手つきでそれをしたのだろうか。それともスリルがあったの?でもそれを、知られたくないという気持ちはあったんだね。頭の中で再生された、彼が言ったという言葉は不思議とリアルに聞こえてきた。こんなに悪いことをしていたのがわかって、しかも1度目ではないらしくて、そんなことを知ってショックで指が震えるのに、なぜだかやっと彼が一人の、ひとつづきの人間に思えた。そういうことが、できてしまう人でもあったのか、君は。ガタついていた輪郭が、なぜかしっくりおさまってしまった。どうしてなんだろう。こんな形で思いたくなかった。悲しい。一生懸命やってたじゃないかー。でも、それとこれとは、両立してしまうんだね。

これが本性か、というのは、(彼に限らず)ちょっと違うと思う。

強気も弱気も、優しいも意地悪も、善いも悪いも、全部地続きにその人。

この世は善い人と悪い人に別れているわけじゃない。悪いことは日常の続きにある。でも多くの人はそこにコネクトしない。だから別世界みたいに見える。

 

人は誰しも渦がある。キラキラの光と影の匂いとはひとつのもので、ぐるぐるまわる。混ぜたその時々に、緑が見えたりほとんど赤に見えたりする。

そこからこぼれるキラキラ光るものを愛した時に、後ろには暗がりのその人もいるんだ。

 

逃げている時、彼は何を思ってたんだろう。ヘルヘイムの森を歩くだけで両足挫いたあなたが、よっぽど必死に走ったんだね。もしかしてその瞬間、ゆーちゃむへとスイッチがぶあっと振れて、ゆーちゃむを失う事への恐怖が勝って、かつてない全力疾走につながったのだろうか。わからないのにいろいろ考えてしまう。勝手に推し量るのはよくないと思いつつ、ぐるぐる考えてしまうよ。失いたくないと、思ってくれただろうか。開放されたかったなら、ごめんね。

 

今どうしてるんだろう。これからどうするんだろう。

ゆーちゃむも、ボイメンも失っても、『小林豊』は続いていく。

どんなに消えてしまいたくなっても、私たちは自分を生きるしかないんだ。

どうかこれからのあなたが、なりたい自分に、なれますように。

 

たくさんのかっこいいあなたを見たのに、思い出すのは、出会った一番最初のステージ。

 

あの日あの時、あなたの観月はよかったよ。

すごくすごくよかったんだよ。

 

かなしい。