親の真の姿を悟る時 3 | グローバルに波乱万丈





九月に、主人と二人で、カナダに住む姪っ子に会いに行った時、たまたまその街に留学中の甥っ子は、姪っ子のところに泊まっている私達に、毎晩会いに来てくれました。


甥っ子、叔母の私とは七年ぶりの再会。

従姉の姪っ子とも、五、六年前、義母の法事で顔を合わせて以来で、それ以前も、母親が親戚つき合いをしなかったので、いとこ同士が会うことはめったにありませんでした。


それにも関わらず、とても心の優しい姪っ子は、乳児の我が子の世話で大変なのに、甥っ子のアパートが見つかるまでの一ヶ月半、うちに住まわせ、面倒をみてやったのでした。




姪っ子、姪っ子の奥さん、赤ちゃん、主人、私、そして、甥っ子とテーブルを囲み、わいわい言いながら、楽しく食事をしました。

考えてみれば、甥っ子がいとこや叔父さん、親戚と過ごすのは、随分久しぶりのことだったのでしょう。


何かの話から、昔、夏には皆が集まった、義父母が住んでいた海辺の街の、アイスクリームのお店の話になりました。

そのお店にまつわる、懐かしい話で盛り上がっていると、甥っ子がぽつりと 「僕、知らないんだ。」 と言ったのです。

「僕、小さな頃に行っただけだから、お祖母ちゃんの家も街も、記憶にないんだ。」 

主人も姪っ子も、当時の義姉の状態を思い返し、どう反応したらいいのかわからない様子で、黙り込み、甥っ子も、その時はそれ以上、何も言いませんでした。




「冬休みの二週間、どうするの? お母さん達が会いに来るの?」 と聞くと、 

「ううん、お母さん、すでにパリ行きのチケットを買ってしまって、予定を変えれないから...」


甥っ子のカナダ留学が決まったのは、四月くらいのこと。

その時点で、十二月のパリ行きのチケットを買ったのは、信じれないような気がしますし、息子のことを本当に想うなら、一年近くも会えないのだし、外国生活をする姿を見に行くためなら、パリ行きの三万円くらいのチケットを無駄にするなど、容易いことでしょうけども。




私達がフロリダに戻って数日後、甥っ子は突然、子供の頃からどれだけ悲しい思いをしてきたか、辛い思いをしてきたか、恥ずかしい思いをしてきたか、

「お母さんは、僕の気持ちなんか考えてくれなかった。 機嫌が悪い時は、僕は無視されていた。」

「お母さんのせいで、大好きだったお祖母ちゃんのところに会いに行けなかった。 お祖母ちゃんは死んでしまった。」

堰を切ったように、母親への怒りを、姪っ子にぶちまけ始めたのだそうです。



きっと、カナダで私達と一緒に過ごし、従姉はこんなにも自分を想ってくれて優しいこと、毎夏、皆はお祖母さんのところで楽しく過ごしていたことを知り、

今まで聞かされ、信じていた母親の話の矛盾やウソに気がつき、次々と今までの納得のいかないことが浮かび始め、

取り返せない過去の時間に切なさと共に、裏切られたような気持ちで、母親に対しての怒りが込み上げたのでしょう。





子供にとって親は絶対で、完璧で、子供はひたすら親を尊敬し、愛し続けるものです。

成長し、自分で物事の判断ができるようになり、周りの事情を理解し、比較するようになり、そして、親を一人の人間として判断しするようになり、

ある日、親の酷い実態を悟った時、今まで忠実に愛してきただけに、衝撃も怒りも大きいのです。





甥っ子の話を聞きながら、涙が出てきました。

自分が親の実態に悟った時のことと重なり、甥っ子の苦しい気持ちが感じられたのです。


物心がついた時から、母親から父親の悪口を聞かされて育ち、父親を憎く、母親が哀れでしょうがなく、

体の不調を訴え、「私なんか、死んでもいいんじゃけ。」 と言う母を救いたい一心で、不安で、辛い子供時代を過ごし、

ある日、過去を辿って、様々な事実に気がついた時の衝撃、怒り...





甥っ子は、当分の間、傷つけられた親の言葉、態度、顔つきが、何かの度に頭に浮かぶことでしょう。

他の親子をみては、「自分もあんな母親がほしかった。」 などと羨み、胸を痛めることでしょう。


甥っ子が母親のことを許すことができる日が来るのかどうか、わからないけど、いつか、「自分はいい親には恵まれなかったんだから、しかたがない。」 と割り切り、親に対する怒りや恨み、そして、親をそんなふうに思う罪悪感から自分を開放し、楽になってほしい。

そして、自分が親になった時、自分の親がしたことを繰り返さない強さを維持し、いい親になることで自信をつけ、甥っ子自身は、心の満ちた人生を送ってほしい。




いつか、義姉は、自分がしてきたことに気づき、後悔に苦しむのか、それとも、このまま、母親のように人生を終えたくないと、自分のために生き続けるのか。

随分年上のご主人に先立たれ、パリにも行けなくなった時、義姉はモロッコで一人、寂しく老後を過ごすのだろうか。




モロッコに出張中の主人から電話がかかったら、義姉のところに顔を出してお茶でもしたらと、勧めてみるつもりです。

そして、甥っ子に、冬休みはうちで息子達と私達と過ごさないかと、誘ってみようと思っています。