回顧録: 息子への手紙 12 | グローバルに波乱万丈

Dear MY SON、

愛する者の死は、突然やってくるほうがいいのでしょうか? それとも、知って、覚悟し、最後の時間をつくしてあげれるほうがいいのでしょうか? 


ベットの上で寝返りができなかった前夫の体には、すぐに痛々しい床ずれができました。 体の重みがかかる肩、骨盤、肘、踵の皮膚が薄くなり、赤身が出てシーツとくっついてしまいます。 だから、数時間置きにあちらこちらに枕を挟め、体のポジションを変えないといけませんでした。 着替えさせるのも、オシメを替えるのも、小さな私が一人でするには大変なことでした。 毎日、体も拭いてあげました。 瞬きをしない時があるからか、目が化膿していたので、目薬を何度もさして目が乾かないように軟膏を塗ってあげました。 流動食のチューブが通るお腹の穴もすぐに化膿するので、欠かさず消毒して薬を塗ってあげました。 最後の日々を、気持ちがよく、痛みなしで過せるように。


クリスマスは義理の家で過し、夕方、貴方と前夫と私の三人はアパートに戻ったの。 前夫の硬直し丸くなった体を、義父は両腕にしっかりと抱きかかえ、車からベットへ運びました。 

自分より背が高く育った息子を抱え、義父の頭には何がよぎっていたのかしらね。 初めての息子を、病院で胸に抱いた時のことかしら。 テレビの前で寝てしまった小さな息子を、可愛い寝顔に微笑みながらベットまで抱えたことかしら。 義父はそっと前夫をベットに寝せ、毛布を掛け、息子のおでこにそっとキスをしました。 最後のグットナイト・キス。

義父も私も、あまりも長期にわたる悲しみに、心が擦り切れ、疲れきっていたのでしょうね。 義父は涙を流すこともなく、私もそんな痛ましい光景をただ呆然と眺めていたわ。 


子供が先に逝くということほどの親不孝はありません。 子供を失った義理の両親の悲しみは、私には想像もつかないし、想像したくもないわ。 だから、後に私を攻めた義母のことも、私をかばわなかった義父のことも、憎むことなどできないの。


翌朝、流動食を流す機械を止めました。 

それが彼が求めることと確信があっても、自分のしていることは彼を餓死させるということ。 二週間も三週間も、段々と弱っていく彼を見ながら、罪悪感と戦い続けることができるだろうか。 不安でした。 だから、黙々と彼の世話を続けたの。 

そして、ある日、彼の様子にどんな変化があったのか覚えていないのだけど、私には彼が逝ってしまうことが感じられました。

異国で恋に落ち、たくさんの障害を乗り越え一緒になることができ、息子も生まれ、人生で一番幸せなはずの時。 家族や自分の将来のために大学に行き始め、夢や希望いっぱいだったはずの時。 死にたくなどなかったでしょう。

彼の手を握り、「いいよ。 もう、いいよ。 もう、頑張らなくてもいいよ。」と、彼の耳に囁きました。 私の声が聞こえたのでしょうか。 彼は最後に一度大きく息をし、呼吸を辞めたのでした。

人は死ぬ瞬間、体を離れて、上から自分の体を見ると言うわよね。 だから、私は見上げて、「よかったね。 やっと、体から自由になれたね。 これからは上から息子と私を見守って。 I LOVED YOU VERY MUCH. さよなら。」 

貴方が生まれた時、命の誕生、感動的な人生の始りを、そして、一年半後、死、虚ろな人生の終わりを目の当たりにすることとなりました。

流動食を止めて9日目のことでした。 痩せ衰え、弱ることもなく、彼は去っていきました。 私は、それは彼の私への最後の思いやりだと信じているの。 私が苦しまなくてもいいように、早く逝ってくれたのだと思います。


いくら覚悟をしていても、夫や妻を亡くし、残されるということは胸が引き裂かれるような、身をよじるような苦しみです。 益して、長年連れ添った相手が突然居なくなってしまうのは、どんな思いなのでしょうか。 もし、お父さんに何かがあったらと、怖くて、不安でしょうがない時があるわ。 再び取り残されるのはイヤ。 でもね、お母さんね、お父さんに先に逝ってほしい。 だって、お父さん、毎晩、私の手を握って眠るの。 私が居なくなったら、お父さんどうなるの? お父さんが苦しむくらいなら、私が苦しむ方がいい。 


前夫はあの時の私のお願いをきいてくれているわ。 貴方は一度も病気も怪我もしたことがないわよね。 それに貴方が立派な青年に成長したのは、ずっと今まで彼が見守ってきてくれたからだと思います。 だから、心配せずに将来へ突き進んで行ってください。 そして、私がこうして今幸せなのも、彼のおかげのような気がします。 きっと、彼のことだから、私をあんな悲しませたことを悪く思い、償ってくれているでしょう。 

続きは次の手紙で...

Love、MOM


追伸

生きたくて、生きたくて、どうしようもなく、でも、生きれなかった人達がいます。 私達、生きていれる者は、そんな人達の分まで精一杯生きなくてはいけません。 生きれること、無駄にしてはいけません。 I love you with all my heart, and I will always love you no matter what. You are my son forever and ever.