現在の『水瓶座の時代』と言うものは
19世紀以降に広まった考え方である。
そしてニューエイジ思想によって、
現代まで受容されている
 
『水瓶座の時代』とは物質的な現在に
対するアンチテーゼであり、
精神的な世界の到来を
意味する程度のものだったはずだ。
 
しかし、後々にいろんな意味
が付加されて、何が何やら
わからなくなってしまったものの
一つだ。
 
ニューエイジは、諸説があるが、
16世紀ごろから始まった薔薇十字思想を
受け継いだ者達が
18世紀に、例えば薔薇十字団や
フリーメイソンなどが言葉として
使っていたようだ。
 
ニューエイジに思想的な意味が
付加されたのは19世紀以降と考えていい。
 
ニューエイジ思想には
人間の潜在的な各能力は無限であり
それらによって、現在までの物質的な
世界がもたらす各種問題を
解決できるというものが根底にある。
 
 
このような考え方には
大抵ブラヴァツキーやシュタイナーが関わっている。
 
今回も、ニューエイジ思想の原泉には
彼らの存在が見え隠れするが、
神智学とニューエイジ思想が交わったのは
イギリスのアリス・ベイリー(Alice Ann Bailey,1880−1949)からだ。
 
そして、ニューエイジ思想と
『水瓶座の時代』を同義として扱った初期の人間でもある。
 
 
物質的世界から精神的世界への移行を
占星術的解釈したものが『水瓶座の時代』というものだ。
 
現代占星術家のマーガレット・ホーンは、
『現代占星術教科書』(The Modern Textbook of Astrology)の中で、
歴史と星座を対応させ、
時代を獅子座から魚座まで
の時代を区分した。
 
現代の魚座の時代は紀元前60年から
始まったと述べているが、
この歴史区分は星座との関連が強く、
時代の移行が
なにによって行われるのか
はっきりしなかった。
 
 
それを明確に指摘したのは、
占星術師ではなく
心理学者のカール・グスタフ・ユング
(Carl Gustav Jung, 1875-1961)であった。
 
彼の晩年の著作『アイオーン』(Aion, 1950)では
 
「われわれの宗教の歴史の推移とともに
・・・・<<中略>>・・・それらの経緯、
成り行きについては
魚座の星位を通る春分点の歳差移動から、
時間的にも内容的にもある程度予言することができた」
 
と述べている。
 
この物質的な現世『魚座の時代』は、
ユングによると、魚座を構成する星々を
通過する春分点の歳差移動によって
示されていることらしい。
 
つまり、春分点の歳差移動によって
時代は移行すると言い換えられるのだ。
 
 
歳差とは何か。
地球は傾いて自転しているが
自転軸は一定の傾きを維持しているわけではなく、
自転軸が円を描くように振れている。
 
これを歳差運動という。
この運動によって、春分点・秋分点が
黄道に沿って少しずつ西向きに移動する。
これを歳差と言う。
 
ユングは春分点の移動と
宗教の歴史の移行を対比して考察している。
 
歳差による春分点の移動によって、
キリスト教が広まり、
二匹目の魚に春分点が差し掛かったところで
宗教改革が起きているというのだ。
 
キリスト教の抱える物質と精神の矛盾も
魚座が二匹の魚を有することに
対応しているともいう。
 
歳差による春分点の移動は
25,920年をかけて黄道を一周する。
各サイン(星座)は30度ずつ分割されているので、
一つのサインを春分点が歳差移動するのは
2,160年が必要になる。
 
この歳差については、プラトン年と混同されることがある。
 
プラトンは『テアイテトス』の中で、
ピタゴラス学派の思想をベースに
36,000年で歴史が循環すると考えた。
これをプラトン年という。
 
プラトンの歴史観は循環するものと考えられる。
プラトン年とは、地球を回る8天体が元の位置に戻るのに
要する聖なる周期とされ、
36,000年かけて宇宙の更新が行われる。
 
 
歳差運動が発見されたのは
プラトンの時代よりも新しく、
紀元前150年頃のギリシャの
天文学者ヒッパルコスによった
 
プラトン年と歳差運動には関連はない。
しかし、現在ではプラトン年が25,920年とされ、
春分点の歳差移動と混同されることがある。
 
では、いつから、魚座の時代から
水瓶座の時代に移行するのか。
 
マーガレット・ホーンによれば紀元前60年から
魚座が始まった。よって、魚座は西暦2,100年までとなる。
 
しかし、水瓶座の時代の開始については諸説ある。
 
例えば、上述した西暦2,100年と言うのは
一つのサインを通過する時間を考慮したものである
黄道に存在する星座と占星術上のサイン(星座)は
同じものではない。
 
後者はあくまでもシンボルであり、
黄道を12等分したもの(以降、サインとする)、
 
実際の星座の星座の広さを
担保したものではない。
 
ユングの説だと実際の星座を考慮して
春分点の歳差移動に意味を付加しているのがわかる
 
 
その場合、魚座の一部と水瓶座の一部が重なっている
ことから、どこから水瓶座の時代なのかわかり難い。
それゆえに、諸説存在するようになったと考えられる。
 
水瓶座の時代の始まりが、歳差運動ではなく、
コンジャンクションであると主張するものがいる。
 
コンジャンクションとは惑星の合(会合という)を
示す占星術用語であり、
昔から占星術的に最も重要視されたものは
土星と木星のコンジャンクションである。
 
この合をグレート・コンジャンクションと呼ぶ。
 
グレート・コンジャンクションは20年に1回起こり、
その度に時代が変わると言われる
この合は同じ属性のサインに約240年留まる。
 
これをミューテーションと呼ぶ
占星術では火、水、土、風の属性が
各サインに当てられている。
 
このミューテーションを4回繰り返す、すなわち960年で、
そのサイクルは初めの属性に戻る
これをグランド・ミューテーションと呼ぶ。
 
リシャール・ルーサ(Richard Roussat)は
1550年にリヨンで
諸時代のミューテーションと状態の書
(Livre de l’estat et  Mvtation des Temps, 1550)
 
を出版し、その中で
ミューテーション毎の宗教的な
歴史を当てはめている。
 
グレート・コンジャンクションと
宗教歴史を結びつけた書としては、
イギリスのウィリアム・リリィ(William Lilly, 1602–1681) の
イングランドの預言者マーリン
(England's Prophetical Merlin, 1644)がある。
 
 
 
彼は牡羊座から始まる
グレート・コンジャンクションを特に重要視している。
 
我らが碩学ノストラダムスの予言詩の中にも
グレート・コンジャンクションについての記述が見られる。
 
 
第1章16番
大鎌は人馬宮の方へと結合された沼を持つ
その昂揚の高き頂点にて
疫病、飢え、軍隊の手による死
その世紀は再生に近づく
 
この詩を占星術的に読み解くと、
大鎌は土星の象徴。
 
二行目の昂揚の高き頂点という文脈から、
沼(estang)は錫(estain)の同音異語として
使われたものだろう。
 
なぜなら、錫は木星の象徴であり、
木星が人馬宮の支配星であるからだ
二行目の人馬宮を昂揚させるのは降交点である。
 
土星と木星が人馬宮で合をなし
降交点も人馬宮にある時期が予言されている
年代となるだろう。
 
人馬宮は火の属性である
リリィは、火の属性の中で起こる
グレート・コンジャンクションでは
大きな変化によって神に祝福される
と述べている。
 
上記の予言詩もその文脈にあるようだ
火の属性でのグレート・コンジャンクションは
疫病、飢え、軍隊の手による死をへて
再生(新しい世界あるいは時代)に向かうのだ
という終末論的予言詩だと言える。
 
もう一つ、
 
第1章51番
白羊宮の頭 ユピテルとサトゥルヌス。 
永遠の神よ、何たる変転! 
長きにわたりて、その悪しき時期が戻り来る。 
ガリアとイタリア、何という騒乱!
 
1行目のグレート・コンジャンクションは
リリィが重要視した牡羊座から始まる
グレート・コンジャンクションのことであろう。
 
なぜなら、2行目の変転は
明確にミューテーション(Mutation)と書かれているからだ。
 
ここでは、神に祝福されている様子はない
フランスとイタリアでの騒乱が起きるとされているが、
グレート・コンジャンクションの前の
終末論的世界を予言しているのだろう。
 
ルーサは白羊宮の頭での
グレート・コンジャンクションについて
次のように記述している。
 
… union de Sturne & Iupiter, qui se fera pres la test d’Aries, l’an de nostre Signeur mil sept cens & deux, 
 
木星と土星の合は、白羊宮の頭の近くにあるだろう。それは我らが主の紀元1702年である。
 
ルーサはその年代は1702年と特定していた
リリィは1603年だと言う。
 
示す年代には違いがあれど、
ルーサ、ノストラダムスもリリィも
当時の伝統的な占星術の文脈
にあったと言えるだろう。
 
リリィは風のエレメントに
グレート・コンジャンクションが移行する時は
優れた学識あるものが生まれ世界に益を与えるという。
 
現在、グレート・コンジャンクションが
水瓶座で起きている
これを根拠に水瓶座の時代に入った
というものも存在する。
 
しかし、グレート・コンジャンクションと
上述した水瓶座の時代には何の関連性もない。
 
春分点の歳差移動による歴史の解釈は、
歴史を星座の意味に当てはめることでしか
成り立っていない。
 
ユング的シンボルの意味付けは、
どちらが主でどちらが従であるかが
曖昧だ。
 
時代の移り目には、
えてして終末論が蔓延るものである
上記のノストラダムスの予言詩を見ても、明らかだ。
 
それは、戦争であったり、疫病であったり
するのだろう。
 
水瓶座への移り目において、
コロナの流行と終末論をつなげる人間も出ているようだ。