飛行機で大阪に着くと、タイムスリップしたような街並みが迎えてくれた。
一昨年の3月、高速バスで不安を揺らし、

小さなバッグと大きな希望と少しの勇気を持って奈良に。

いつの日か、必ず地元に帰ると誓って。


八代駅に止まる列車はシクシク泣いてるように聞こえた。

新しい駅が建って、利用する機会が減って、その声も聞かなくなった。


地元を離れたはずなのに、地元のことを知り、そして色々な「ひと」も知った。

4月だというのに、知り合いのいない町は寒くて、ひんやりと感じた。

でも、近所のばあちゃんは優しくて世話焼きで、孫のように話しかけてくれた。
一人じゃまともな料理も作れなかった俺に、ばあちゃんはトマトやコーヒーをくれた。

腹をすかせて、行った食堂のおばちゃんは熊本の話を「うん、うん」と聞き入ってくれた。

お金がなくて、食事が細い時は生協のおばちゃん(お姉さん)がトッピングをサービスしてくれた。

赤レンガの対象は無口だったけど、一人で昼ごはんを食べに行くと、おかずをちょっとくれた。

健康教室のおばさま方は、学校であっても街であっても、いつも同じように笑顔で話しかけてきてくれた。

そして、子どものように孫のように心配したり話を聞いて下さった。

あと3ヶ月でお別れだ。


毎日、研究室から夕日を見るたびに、朝日を見るたびに、地元の空を思い出した。


肥薩(ひさつ)線、煙を上げる製紙工場、八代海を望む橋が目に浮かんだ。

街の一日の始まりを見送る竜峰山。
田園に命を運ぶ球磨川。

朝日を浴びて歩く子供たちの目の奥に、夢はあるのかな。
傾く商店街。

消える店と、店員さんの笑顔と幼い頃の街の記憶。

建っても潰れ行くショッピングモール、ショッピングセンター。

埋められていく田園地帯。

苦しむ農家の人々。

見えない未来。

失くしたものは、自然?もの?建物?経済?ひと?こころ?


地元から離れて、奈良にいるのにそんなことを考えることが多くなった。

考えるたびに、心ここにあらず。

天理のアパートの前の中華料理チェーン店の子はいつもドリンクバーをサービスしてくれた。

大学から帰って、夜遅く一人で食べに行くたびに店員さんの笑顔に癒され、床に就いた。

近所の韓国料理屋のお兄ちゃんは熊本の地酒とメニューにない丼ぶりをくれた。

大学前のコンビニのおばちゃんはいつも何かと世間話をしてくれた。

たまにおまけをくれたりしてたけど、俺のこと野球部だと間違えていたな。

守衛のじいさんたちは毎朝毎晩会釈をしてくれた。

時々迷惑かけてしまうこともあったけど、ニコニコと話しかけてくれていた。

そんなところとももうお別れになる。

奈良で学んだ「おおきに」という言葉と中身。

どこにいってもあるだろう、人の心。

くしくも、街の人たちからそれを知ったのはここ何年かでだった。


もう少しで新幹線も全線開通。

これからどうなる?

昔見た景色は、昨日見た景色は、今見える景色は?

周りの田畑は消えは、農家は潰れ、職場のない若者も出て行ってしまった。

目標もなく、職もなく、残った若者の目はどこかうつろに見える。

チカチカしたバイクを乗り回してどこに行きたいのか。

夢はあるのか、目標はあるのか、生きる目的は、あるのか。

本当は一人ひとり、輝く場所があるはずなのに。

その芽を潰してしまったのは、その場所をなくしてしまったのは、救いの手を差し伸べなかったのは一体。

大人達にはこの子らの声が聞こえるのか?

荒んだ目で、色眼鏡で見る大人たちこそ心が荒んでるんではないか。


誰がこんな街にした。

 誰が故郷を壊したいと思うものか。

  誰が変えてくれるのか。

     自分から動き出さなければ何も始まろうとしない。

 誰か手伝ってください。

  誰か一緒に立ち上がりましょう。

   誰か・・・と、すがるだけの自分はもうやめだ。


「義」で動くのが人間ならば、「理」で動くのもまた人間。


俺は政治家でもなければ、宗教家でも革命家でもない。

まして、教育者と名乗れるほどの者でもない。

これから、色んな戦いが始まるのかもしれない。

身を削ってでも、しないといけないこともある。だろう。

死ぬまでに、できることは何か。

未来に残せるものは何か。


分かってますか?自分の事。

 見つめていますか?相手の瞳。

  感じてますか?五感を使って、心を使って。


信じていますか?自分の力。

 見えていますか?自分の足元。

  やれるはずです、みんな考えることができるから。


登ってみませんか?陽の見えるところまで。

 感じてみませんか?手をつなぐってことを。

  見てみたくありませんか?笑顔の街を、笑顔で育つ子ども達を。


やってみませんか?自分も輝くために。

 やってみませんか?一歩踏み出すことを。

  やってみませんか?手を差し伸べることを。


 やってみませんか?共に支えて立つことを。

   目に浮かびませんか?みんなが戻ってくる姿が。


こんなに早く帰れるとは思わなかったが、俺はまた帰る。

自分じゃなくても日本中を探せば、代わりはいくらでもいるだろう。

むしろ、もっとデキル人はたくさんいる。

自分がそこに呼ばれた理由は何なのか、考えなければならない。

俺にしかできないことがあるのかもしれない。

見えない力で、突き動かされる。

どこかで、何かが、誰かが待っている。