この日はロイヤル・オペラの《リゴレット》の初日の日でした

先週のオペラ講座でのロイヤル・オペラの映像を見てちょっとがっかりした《リゴレット》でした。

しかしパルマ王立歌劇場のライブビューイングは、これだけのものはなかなか見られないだろうと思うものでした。

パルマのこの歌劇場の大きさはどれくらいかわかりませんが、今回の演出でこのオペラを上演するには最適な大きさのように思いました。

ここでは毎年秋にヴェルディ・フェスティバルが行われるそうです。

ヴェルディが1813年に当時のパルマ公国の小さな村、レ・ロンコーレに生まれ育ったという御縁のようです。

MET.のライブビューイングよりも身近な感じでしたし、なによりもこの《リゴレット》という主人公の内面的なもの、ジルダの内面的なものが、よく見ているものに伝わってくる演出でした。

何しろこのオペラのキャストの素晴らしいこと。スパラフチーレ(マルコ・スポッティ)や、モンテローネ伯爵(ロベルト・タリアヴィーニ)、それに、それに、マントヴァ公爵を歌ったフランチェスコ・デムーロ。

歌ももちろん、見た感じも素晴らしく、これもこのオペラの大きな要素でした。

 

実はこの映画で1番胸にキュッときたのは、第2幕が終わった時に歌った2重唱のアンコールでした(まだ上演の途中なのに……)リゴレットとジルダの2重唱でした。

このアンコールの前の2重唱がドキドキするほど素晴らしかったのです。

マチャイゼがこの歌の最後の高音を喉の奥が見えるぐらいカッと開いて歌った、何しろ相手役があのヌッチなのですから。

2重唱の時は、ほんの一瞬でも相手より長く声を保って歌い終わるのが極意だというお話を聞いたことがあります。もうこういう時は相手とのバトルだそうですが………

 

やはりヌッチさんはちょっと特別でした。

この《リゴレット》は本当に素敵でした。

この方がこういう風に歌い、演じるので、ほかの歌手も自分の力のかぎりを尽くそうとなさっているように思うのです。

かなりの熱演だったと思います。

ヌッチと同じ舞台で歌うことができるという何か熱に浮かされたようなものがあったようにも思います。

先程書いた2重唱のアンコールの時のことですが、やはり微妙にその前の本番の時と違った感じはありましたが、どちらも見事であったことに変わりはありません。

歌い終えたヌッチさんの、はるか遠く、はるか天井桟敷を超えて空を仰ぎ見るような表情の美しさ。人生の中であんな瞬間を味わえることができたら素晴らしい人生だと思うのです。ああいう一瞬を求めて皆さん精進するのですよね。

でもそこまで到達することができる人は、本当に少ない………

 

本当に限られた少数の人もちろん事前にこうなったらこうしようということにはなっていたのだとは思いますが。普通はああいった瞬間は訪れないように思います。

2人でカーテンコールを受けている時、いきなりオーケストラがドンとなってアンコールが始まったのですから。これがすごい………

 

今回は映像だったので、いろいろこの話の背景を噛みしめることができました。

ジルダが陵辱されてからも、リゴレットは3ヶ月間、道化の仕事をしていたのだ………

セリフにありました。「この3ヶ月、仮面の中で血の涙を流しながら耐えていた」と………

 

考えられないことですが、道化の仕事に復帰していたのですね。

暗殺の報酬も払わなければならないし、ヴェローナでまた新しい生活を始めなくてはならない…

 

注意深く眺めると、ジルダも世間知らずといえ、結構若く男前の男性に心惹かれ、金持ちか貧乏人かの区別もつかず、心ウキウキしているという心の隙があるのです。

新しい街に来てずーっと家に閉じ込められている生活な訳ですから、特に憧れる気持ちが強く、自分が騙されていたことがわかっても、自分に対する気持ちだけは本物だと思っているのです。

まだ、自分の本当の価値ということに気づいていないのです。

実際公爵も最初はジルダに対していると、一時期 気持ちが純粋になるということは言っているのです。

 

リゴレットの方は、ジルダの気持ちには気付かずに、自分の宝物を守ろうとしているわけで、あのままヴェローナにジルだと逃げることができたとしても、大人になっていくジルダに対することができなかったようにも思いますが…………