中山さんの小説のまとめ買いをしましたが、その中の小説を、脈絡なく手にしたものから読んでいったのですが、今回その中の小説で新しい感覚のものに出会いました。
以前の話の続きのようになっているものだったり、どこかで繋がっていたりするものが多いのですが、今回のものは他とは関係なく、一つで成り立っている小説でした。
話の中で、もちろん殺人事件が起きるのですが、それが主だった出来事にならないと言った感じのミステリーでした。
この話の中心になるのは映画監督なのです。
この映画監督が、映画を撮る時に発する言葉が、「スタート!」な訳です。
この巨匠と呼ばれた映画監督が、自分の生涯最後になるかもしれない映画を撮っていく話なのですが、その過程がそれこそテレビドラマのように描かれているのです。
ちょっと今までのものと違った感覚があるのです。
興味が繋がって、いつものようにこの話がどうなっていくか結末を見てしまう気にはならないのです。
過程のなかに映画とテレビドラマとの違いなどがでてきます。
演技の仕方や、カメラワークの違いなどにも触れているのですが、今まであまりそんなことに注意して映画やドラマを見たことがなかったので、なかなか面白かったということがあったのかもしれません。
そういう目で映画を見たりテレビドラマを見たりすることができれば、また新しい発見があるのかもしれません。
そんな気がしてくるから不思議です。
これまでのように謎解きをする、刑事やピアニスト、その事件の当事者になった、犯人などがどうしても主人公になっていく形式が多いのですが、こちらの主人公は映画の助監督で、その立場で見たことが語られていて、その弟が刑事という図式になっているのです。
彼の小説は最後の最後にどんでん返しが起こる形が多いので、「彼が犯人なのかな?」などと思ったりもしたのですが、こちらは無理にどんでん返しをすることもなく割合オーソドックスな形で話は終わりました。
何かそういう形がふさわしいと思える話でした。
かなり買いためてあった、彼の本を脈絡なく読んできたのですが、「へえ〜」と思った本でした。
他のものとちょっと違った色合いを感じたのかもしれません。
いつものように、レッスンの行き帰りや、ちょっとした隙間に読んでいたのですが、その本の世界から抜け出しにくい気持ちがしたのですから……
時々彼が描くピアノの世界というものが、あまり実感を伴って迫って来ない気がしてはいたのですが (岬洋介のシリーズ )、この本も映画に携わっていたり、映画をよくご存知の方はどう読まれるかわかりませんが、素人の私はかなりのめり込んで読んだ本でした。
彼の本を読むきっかけになったのは、『さようならドビュッシー』だったように思うのです。
そして『いつまでもショパン』あたりでちょっと呆れたのですが、そこでやめにならずにとことん読んでみようではないかと思ってしまったのですから不思議なものです。
うーん、その中で結構、ガツンときたものがこの『スタート!』だったのかもしれません。
この本の題名も、この方らしくないように思いました。
しかし、思わず本を手に取らせる力があるのですね、きっと。