NHK 交響楽団 第2010回 定期演奏会

5月11日 土曜日  6:00〜  NHKホール  プログラムA 

 

指揮             ファビオ・ルイージ  

コンサート・マスター  篠崎史紀

 

休憩前に リッカルド・パンフリ という方の 〈戦いに生きて〉という曲と、レスピーギのローマ3部作の交響詩〈ローマの松〉が演奏されました。

休憩後は、〈ローマの噴水〉〈ローマの祭り〉でした。

 

昔々、初めてヨーロッパへ行った時、イタリアの郊外を走っているバスの中から、「あちらの林の方にある道が、アッピア街道なんですよ」と言われて、田園風景の中、周りに生えているのがイタリアの松なんだろうか、と思ったことがあるのです。

その時の風景が 「アッピア街道 」というと浮かんでくるのです。

その頃、世界に冠たる国としてローマは存在し、ローマの軍隊があの道を行き来したのだろうなと思ったのです。

やっぱりその時に浮かぶメロディーは、あの〈アッピア街道の松〉なのです。

 

久しぶりに実際のオーケストラでこの曲を聴いて、やっぱり音はこうでなくては……と本物の音色というものを強く感じたのでした。

 

定期演奏会の座席位置はNHKホールの一階の中央より上手寄りの、前方よりの位置です。

ここの座席で何故か何十年も聴いているのです。

一度席替えをしましたが、その後ずーっとこちらで聴いています。そんなに気に入っているわけでもないのですが。

 

でも今回は、この座席で良かったといきなり思えたのです。

実は休憩前の最後の曲が〈アッピア街道の松〉だったのですが、トランペットとトロンボーンがパイプオルガンの演奏席の張り出しの部分と向かいの張り出し部分で演奏したのです。

ここで金管楽器を演奏すると、独特な音が耳に飛び込んでくるのです。

 

〜そのまた昔、ヤナーチェクの〈シンフォニエッタ〉を初めて聴いた時もこの場所にトランペットが並んで、あの独特なメロディーを演奏して、いたく心打たれたことがあったのです。

私は、印象に残った曲でも曲名をすぐに忘れてしまうので、音と作曲者と曲名をしっかりと覚えているのはかなり珍しいことなのです。おかげさまで、村上春樹さんの小説にこの〈シンフォニエッタ〉が登場した時に、この曲の感触をすぐに思い出すことができたのです〜

 

今回はこのパイプオルガンの演奏席側の客席寄りにトロンボーン奏者の方が2人いらっしゃって、あの圧倒的な〈アッピア街道の松〉の時にそこの場所から演奏されたのです。

トランペットも隣に並んでいたのですが、頭の上から降ってくるそのトロンボーンの音に一瞬全身が捕らわれたように思いました。この頭から降ってくる音って、心が吸い取られるといいますか、なんとも言えない音なのです。

 

〜この感じは、以前みなとみらいホールのパイプオルガン(ルーシー)をちょっぴり弾かせていただいた時にも、その頭から降ってくる音に感動したのです。(教育職にあった時の特権でほんの数小節を弾かせていただいただけですが、その時の天上から降ってくる音感覚を覚えているのです)〜

 

今回、この頭から降ってくるトロンボーンの音を聴いた時、何か涙が出そうになりました。心が震えるという感じでしょうか。

曲は、そんなに宗教的な曲でもないし、全部の楽器がガーンとなっている時ですし、宗教的な厳かさとは無縁な世界だったのですが、なぜか頭の中に天使がトロンボーンを持っている絵が出てきたのです。

音楽史の授業だったのでしょうか、トロンボーンがオーケストラの楽器として入ってきたのは、ベートーヴェンの交響曲からで、ベートーヴェンの初期の交響曲にはまだトロンボーンは入っていなかったことを習ったように思います。

そしてこの楽器は主に教会の楽器として、聖なる楽器として扱われ、その説明の時に天使がトロンボーンを持っている絵を見たことがあるのです。

それがとっても不思議で、「どうしてトロンボーンが聖なる楽器なのだろう」と納得できなかった覚えがあるのです。

でも、今回わかったように思うのは、頭の上から降ってくるこの音を、地上にいる我々が聴くと、えもいわれぬ気持ちになるということなのです。

 

やっぱりこれは天使の楽器なのだからでしょう。