日本オペラシリーズNo.85
木下順二作 團伊玖磨作曲
《夕鶴》 オペラ全1幕
【キャスト】
つう/ 佐藤美枝子 与ひょう/ 藤田卓也 運ず/江原啓之 惣ど/下瀬太郎
児童合唱: こどもの城児童合唱団
管弦楽 : テアトロ・ジーリオ・ショウワ・オーケストラ
指揮 : 柴田真郁 演出 :岩田逹宗 総監督 : 郡愛子
近頃珍しいことですが、オペラの映像を見ました。
実はこのDVD は、2月にオペラ《ニングル》に行った時に購入したものでした。
購入した時、すぐ聴く方がそれを聴きたいと思った心の動きに沿っているのですから、自然だと思うのですが、なかなかそうもいかないのです。
しかし、今暗譜などに追われてちょっとイライラしていることもあって、ちょっと覗いてみたいと思ったのが正直なところでしょうか。
日本のオペラのアリアの中で、よくソプラノの方が歌われるアリアは、團伊玖磨さんのこの《夕鶴》の中のつうのアリア2曲です。
最初このオペラを聴いた時に、普通オペラの中で、「レチタティーヴォ」、「アリア」と意識する感じとは少し違う形で、現代のオペラにある全体が切れ目なく流れて行く印象でした。
メロディーはわかりやすく、童謡のメロデイーも聴こえてきますが、「つう」のアリアとして部分的に歌われることに最初はちょっとびっくりしたものでした。
このオペラを初めて聴いたのは、かなり前のことと思います。
その後、富山県で一週間にわたって行われた声楽の講習会に参加した時に、オペラアリアの講座に参加しました。その時にこの「つう」のアリアを歌われた方がいて、そのレッスンを聴講させていただいたのです。
〈与ひょう、私の大事な与ひょう〉と、〈与ひょう、身体を大事にしてね〉の2つのアリアでし
た。
日本語で内容がわかるように歌われるものですが、かなり音域も広く、高音の部分の出し方も絶叫型ではなく、語るように歌われるものでしたし、お芝居の要素も多く、それをどう歌ったら良いのかということを、コレペティトーアの先生がかなり厳しくレッスンされていました。
そこで初めて、日本語のこの歌をどうやって歌っていったら良いのかということを考えたのでした。
その後、このアリアを勉強してみたくて、ヴォーカルスコアを購入して、この2つのアリアを歌ってみました。その同じ時期に、この場面を聴いてみたくてCDの全曲盤を購入したように思います。
オペラの舞台も何回か色々なソプラノ歌手の方が歌われたものを聴きに行ったように思います。
あの「佐藤しのぶ」さんの「つう」を見に行った時から、間が空いていたように思います。
それから、月日は流れ、今回映像になった《夕鶴》にお目にかかったのです。
自分で挑戦して歌ってみると、このアリアは、かなり難しいもので、レッスンしてもらったり、自分で何かの時に歌おうというにはかなり無理があるなあと感じたのです。
この歌は音程をとってそのまま歌えば良いというものではないのです。
メロディーの音程をしっかり捉え、ただ歌うだけでもかなり難しい歌なのです。
声が揺れると、日本語に聴こえなくなりますし、意味がわからなくなるのです。
挑戦はしてみたのですが、歌ってみて日本語のオペラの難しさに初めて気がついたように思います。
日本語の特性として母音を長く伸ばし、しかも言葉のニュアンスを伝えるわけですから大変です。伸ばしている時に声が揺れると日本語にならなくなるのです。
そのせいかもしれませんが、このDVDには日本語の字幕がついておりました。
新国立劇場の日本語の新作のオペラも、この前の〈ニングル〉も字幕がついていたように思います。
日本語で歌われるオペラアリアや、レチタティーヴォにビヴラートがついてしまうと、意味がわからなくなるのです。
難しいものだと思います。
やはり日本語の特性もありますし……
この演出と音楽は今まで経験したものより、速さが早めで、劇的に演奏されているように感じました。
歌もドラマティックに歌われておりましたし、演出もかなりお芝居の要素が強かったように思いました。
今まで見たものは「鶴の恩返し」というファンタジーとしての要素が強かったのかもしれません。
今回は、人間ドラマとしての要素が強く感じられました。その方が現代風の演出なのかもしれません。