2024都民フェスティバル

東京二期会オペラ劇場2024年 2月28、29、3月2、3日

 

2月28日  (水)  17:00〜      東京文化会館 大ホール

 

【ヘルマン】加藤宏隆  【タンホイザー】サイモン・オニール  【ヴォルフラム】大沼徹  【ヴァルター】高野二郎   【ビーテロルフ】近藤圭  【ハインリッヒ】児玉和弘  【ラインマル】清水宏樹  【エリーザベト】渡邊仁美  【ヴェーヌス】林正子  【牧童】朝倉春菜 【4人の小姓】本田ゆりこ  黒田詩織  実川裕紀  本多都    

【合唱】二期会合唱団   【管弦楽】読売日本交響楽団

 

指揮  :  アクセル・コーバー    演出  :  キース・ウォーナー

 

幕が上がって初めて気がつきました。この演出の《タンホイザー》拝見したことあったんだ。

2021年の公演だったのですね。

プログラムに載っていた、過去の公演の記録を見ましたら、指揮がセバスティアン・ヴァイグレ

で、タンホイザーがたしか芹澤佳通さんが歌われた日を、拝見、拝聴させていただいたように思います。

私はあまり過去の公演にこだわらないので、自分の中に記憶として残っているものを大事にしている感じでしょうか。何年経っても、部分的にであっても、自分の中に残っているものが自分にとって大事なものなのだと思うのです。ですから人の名前もすぐ忘れてしまいますし、自分の中にかなり残っているものでないと、後から思い出すこともないのです。

 

今回、序曲の部分を聴きましたら、もうこの音楽と深く結びついった、2019年の新国立劇場の公演を思い出したのです。この劇場のてっぺんの4階で眺めた、舞台の奈落の底から湧き上がってきた情景を思い出しました。この音楽が深いところから湧き上がってくるような気持ちがぴったりとするのです。その情景が自分の中に刻み込まれたのだと思うのです。しかもそれを、高い所から眺めた記憶が蘇ってきたのです。

そのあと、今回の演出でタンホイザーがヴェーヌスブルクで愛欲にふける場面になって、思い出しました、この安物の古いキャバレーのような場所、赤い寝椅子を持ち歩く女性。絵の額縁の中で動き出す人たち……

ああ、この演出は一度見たものだ……

その時も絵の中の人物が動き出した時にはびっくりしたのでした。

そこで一気に記憶が蘇ったのです。

その時にもこの舞台設定はあまり好ましくは思えなかったのでしたっけ。

あの赤いカーテンやどこか暗い広間の設定で、せっかくのタンホイザーの歌もちょっと詰まった感じの声に聴こえてきてしまうのです。

戦時中のナチスの党大会のような、怪しげな雰囲気と申しましょうか……

 

しかし演出や舞台設定は、好きではないのですが、第2幕以後は、サイモン・オニール  さんの歌もさすがに説得力のあるものに聴こえてきましたし、エリーザベトもヴォルフラムも納得できる歌唱に思いました。

 

今回は、このサイモンさんのタンホイザーを聴きにきたという感じだったのですが、2重唱の部分や、3重唱の部分で感じたことは、やはり言葉の発音でしょうか。

この方もニュージーランド出身とのことで、決してドイツ語を普段母国語として話していらっしゃるのではないわけですが、語る部分の発音の明晰さ、子音の部分の違いはさすがだなあ思いました。言葉が前に立って流れていくのです。

今回は珍しいことに一階の前方におりましたので、エリーザベトと合わせて歌っている時に、その声が彼女の声を消してしまわないように、気をつけていることが感じられました。

エリーザベトのお声は、息の流れを大切にされて決して力で歌われてはいないのですが、子音などの発音の部分でどうしても消えてしまう部分があるように思いました。

それを、隣で歌われているタンホイザーの声が前面に出すぎてしまわないように、気をつけていらっしゃるように感じました。こういうことが聴こえるのはこの近さでないとわからないことなのですね。

唇の部分の筋肉の発達が、子音を複雑の使い分ける言葉を話している方と日本語の方と違うように思うのです。うーんなるほど………上唇の緊張度の違いかもしれません。

 

〈夕星の歌〉とても胸にグッとくるものがありました。