このコンサートのうたい文句は、なんと「ベルカントの宝物」とのこと

どういう意味で「宝物」なのでしょう。

そんな興味からでしょうか。

2024年 (日) 14:00〜

浜離宮朝日ホール

テノール    マキシム・ミロノフ           ピアノ   ジュリオ・ザッパ

 

プログラムにこの「宝物」の意味らしいことが書かれておりました。

 

本当のベルカントを表現できる世界一優美なテノール

 

とのことで、なぜ「優美」かというと、

高音の表現が「テノールの超高音は今では胸声で出しますが、1830年代まで、胸声を響かせるのは下品だと考えられていました。マキシムはその当時の気品あるスタイルで歌える、世界でも指折りの歌手です」と、共演経験があるメッゾ・ソプラノの脇園彩さんが言っていたと載っていました。

ペーザロで、ファン・ディエゴ・フローレスがデビューし、フルボイスで歌うテノール歌手が驚異をもって何人かオペラの世界に登場しました。

どうもそちらの声と比べて、この方がファルセットや頭声を混ぜて、低音から超高音まで繋がって響くことで、優美な テノーレ・ディ・グラーツィアと呼ばれる声になるようで、それがこの「ベルカントの宝物」という風に宣伝された原因のようです。

フローレスのように超高音をフルボイスで歌うとその声を聴くだけで、その声の煌めきに圧倒されたことを思い出しました。

フローレスを初めて聴いた時には、ビックリし、この声に魅せられたように思います。

しかし、やはりミロノフは、超高音をガンガン出すというタイプのテノールではないと思いました。

その声の魅力にも、歌唱の技術にもビックリしたのですが、この方で一番びっくりしたのは、歌への取り組みが非常に丁寧で、しっかりしていると感じたことです。

それを大きく感じたのは、休憩後の2曲のドイツ語の歌詞のオペラアリアを歌われた時にかなり丁寧にドイツ語を歌っていらっしゃっているなあと思ったのです。

なぜだかわからないのですが。そんな印象が頭に浮かんできました。

実は一番その勉強の姿勢にびっくりしたのは、アンコールで歌われた〈この道〉でした。

この歌の日本歌曲の研修を受けた時に、詩で歌われている視点がだんだん遠くなっていることをちゃんと意識して歌うことを教えていただいたのですが、この方はその内容をちゃんと意識して歌われていたのです。細心の注意を払いながら……

それに実はびっくりしたわけです。

日本人の歌手ですら、そう言った歌い分けをされない方も多いのですが、この方はきちんとその視点が変わっていることをちゃんと表現されていたのです。

1番・アカシアの花が咲いている

2番・白い時計台

3番・お母様と馬車で行く

4番・あの雲もいつか見た雲

 

というような視点が詩の中で変わって、言葉にも表れているのだということで、内容が変わってきているのだという微妙なところを、この方は歌い分けていらしたのです。

イタリア語の歌が多く、イタリア語のニュアンスがどうであったかということはわたしにはよくわかりませんが。

よく外国人の歌手が、日本の聴衆のために怪しい日本語で歌われることがありましたが、この方は、発音も強弱の考え方もしっかりこなしていらっしゃったのですから、その姿勢が素晴らしいと思ったのです。

この「宝物」の方は、ものすごく細かいところまで勉強されているのですね。

なんだかその姿勢に感銘を覚えました。

お声ももちろん低音から高音までつながる優雅な美しい歌い方でした。