NHK交響楽団 第2004回 定期演奏会
2024年 2月3日 (土) 6:00 〜
指揮 井上道義 バス アレクセイ・ティホミーロフ
男声合唱 オルフェイ・ドレンガル男声合唱団 (合唱指揮: セシリア・リュデインゲル )
コンサートマスター 郷古 廉
【プログラム】
ヨハン・シュトラウス Ⅱ 世
ポルカ「クラップフェンの森で」 作品336
ショスタコーヴィチ
舞台管弦楽のための組曲 第1番
ー「行進曲」「リリック・ワルツ」「小さなポルカ」「ワルツ第2番」
ー休憩
ショスタコーヴィチ
交響曲 第13番 変ロ短調 作品 113
「バビ・ヤール」
Ⅰ バビヤール Ⅱ ユーモア Ⅲ 商店で Ⅳ 恐怖 Ⅴ 立身出世
井上さんの指揮者を引退なさる期限が、2024年の12月ということなので、N響を振る機会はこれが最後になるという定期演奏会だからでしょうか、NHKホールがいっぱいのお客様でした。
皆さんも、それをご存知だからでしょう。
あの踊るような華麗な井上さん独自の指揮の仕方を今年でもう拝見することができなくなってしまうのですね。
昨年でしたでしょうか、地元の音楽堂で小さめのオーケストラでしたが、井上さんが指揮をされた時、どうして自分で引退の期限を宣言をしたかということを、お話しされたことがありました。
自分が若い頃、巨匠と言われた指揮者の、サブ指揮者をしたり、研修をさせていただいたりをした経験が影響しているのだとおっしゃっていました。
どんなに凄いと言われた指揮者でも、年齢を重ねていくと、やはり衰えが隠せないのだとのことで、自分はそういうことを経験しているので、そうなる前に自分は自分で期限を決めて引退をすることにしたのだということを語られました。
それまでのコンサートでもいろんなお話をなさって、それをお聞きする機会がありましたが、どのお話もとても興味深いものでした。
このような感じでお話をされる指揮者は、今まで他にいらっしゃいませんでした。
最初に指揮を拝見した時は、動きが独特でしたし、お話もたくさんされますし、どんな方なのかとびっくりした覚えがあります。
そういった色々なお話中でも、「自分で期限を決めた」というお話が一番心に残ったように思います。
演奏された曲にちなんだ、自分の生い立ちのお話も、お聞きしたように思いますが………
最後の年をいよいよ迎えたわけです。昨年お身体の調子が悪かったようで心配していました。
残された日々が満足いくものであってほしいと願っていました。
今回は、自分が生涯取り組みたいと言われていたショスタコーヴィッチのプログラムでした。
以前の定期演奏会でも記憶が正しければ、ショスタコーヴィッチの曲をお聴きしたように思います。
その時初めて、井上さんとショスタコーヴィッチの関係ということをプログラムで知ったように思います。
土曜日、日曜日とAプログラムの指揮をなさるわけです。
その指揮が、ショスタコーヴィチのシリーズのいよいよ最後となるわけです。
そういったせいもあるのかもしれませんが、昨日の演奏はもうエネルギーがほとばしり出ていたように思います。
3曲めの〈バビ・ヤール〉は、彼のN響の最後の ショスタコーヴィッチ としてふさわしいものだったと思います。
何しろ、男声合唱はスェーデンからやってきた合唱団ですし、バスのソロを歌われた アレクセイ・ティホミーロフさんは、ロシアの方で、井上さんが指揮台に乗っても身長が高いかなと思えるくらいの、縦、横共に大きな方で、もう合唱もソロも、舞台に出てきただけでその圧力はかなりのものでした。
指揮台の上の井上さんが、もうかなり小さく見えるのですが、曲が始まると彼の今までの指揮者としての情熱と技術を持って、指揮をされるのです。
ある時は軽妙に、ある時は重々しく、オーケストラもその指示をしっかりと音にするべくかなりの熱演だったと思います。
演奏が終わって、NHKホールいっぱいのお客様を見上げた井上指揮者の胸に去来するものは何だったのでしょう………
自分で決めた期限に向かって歩み始めたこの一年が、無事終えることができるように。
滑り出しは好調でした。