今までもこちらのホールで何人かの方のヴァイオリンを聴かせていただきました。
いずれの方も、素晴らしいテクニックと美しい音色でございました。
しかし、何かこの方は違って聴こえるのです。
なんと言ったら良いのでしょうか。ヴァイオリンの音色と、その奏者が対している感じではなく、何故か奏者とヴァイオリンが一体化しているという感じなのです。
そのヴァイオリンの音色がその方の身体から流れてきているような感覚と申しましょうか。
楽器に相対して、その楽器に挑戦したり、克服したりする感覚ではなく、「私がヴァイオリンよ」という感覚でしょうか。
不思議な感覚でした。
ステージに出てきて直ぐに音を紡ぎ出されるのです。
それが身体からスルスルと美しい音が紡がれているように感じるというのでしょうか。
声楽家が、自分の声を自然に発しているように感じるのです。
しかし、歌手とて何気無く自然に声を出しているようでいて、その声を自分が思っているように出すためにはものすごい練習を積んでいることは痛いほどよくわかるのです。
自然に声が聴こえるように、自分の満足がいく音がすぐさまでてくるようにするのはとても大変なのだということはわかるのです。
その演奏に至るまで、その裏にどれだけの時間が費やされているのかがわかるように思うのです………
このかたの生の演奏を今回はじめてお聴きしたように思います。
〜今回が今年の春の3回シリーズの最終回です。こちらのホールのコンサートシリーズは、普段自分がチケットを購入する傾向のものではないのですが、演奏される方が充実しているので結局継続しているのです。
座席はそのシリーズの時の3回は同じ座席なのですが、そのシリーズが終わると抽選し直すので違う場所になります。
先日、今年の秋のシリーズのチケットがまいりましたが、次回はかなり端の座席になってしまいました。
こちらのコンサートに来るようになったときは少し空席の部分があったように思うのですが、この春の3回シリーズは、lいすれも完売だったようです。
そんなに大きなホールではありませんが、その反面ステージと客席が近く臨場感があるのです。
コロナ禍で、予定されていた外国からの出演者が来日できないこともあって、その時は国内で活動されている方が代役になられました。
また、別な演奏会で幸いにも来日することができた演奏者が演奏されたりしたこともありました。
どちらかといえば、普段あまり聴きに行くことがないジャンルのコンサートを耳にして、気持ちが新しいことに気がつく場所と申しましょうか。〜
バッハ ヴァイオリン・ソナタ第3番 ホ長調 BWV 1016
無伴奏ヴァイオリン・パルティータ 第2番 二短調 BWV 1004
〜休憩〜
R・シュトラウス ヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調 作品18
ヴァイオリン:堀米ゆず子 ピアノ : 加藤洋之
というプログラムで、R・シュトラウスのヴァイオリンソナタを聴くのは初めての経験のように思います。
こちらもヴァイオリンの音色や曲想などは、ヴァイオリンと対話するという感覚ではなく、自分の中から放たれていく感じの美しい音色でした。
ヴァイオリンを聴いてこんなことを感じたのは初めてのように思います。
堀米さんは日本ヴァイオリン界のレジェンドと言われているようですが、何しろその音色の美しさが、自分から離れたものではなく文字通り自分の音になっているのです。
よくG線などをギュッと強く弾いて、強さを強調して弾かれる演奏者もいらっしゃいますが、この方の身体から出てくる美しい音の連なりは本当にバランスが良く、自然に自分の中に取り込まれるような気持ちがいたしました。