METライブビューイング《めぐりあう時間たち》世界初演

2022年12月10日上演のもので、先週の金曜日から上映されておりました。

80年の時を経て重なり合う3つの人生!

豪華キャストで贈る話題のオペラ世界初演!

ピューリッツア賞に輝く名作の映画化を下敷きにした、まったく新しいオペラが、METの舞台で世界初演!とのこと。

コロナ禍にこのオペラの企画がなされ、台本を書いたG・ピアス、と作曲をしたK・プッツがインタビューで語っていましたが、外出できない時期にお互いに莫大なメールを送りあってこのオペラを作ったそうです。

 

【指揮 】   ヤニック・ネゼ=セガン      【演出 】     フェリム・マクダーモット

 

【キャスト】

クラリッサ・ヴォーン………ルネ・フレミング (ソプラノ)

ローラ・ブラウン………………ケリー・オハラ  (ソプラノ)

ヴァージニア・ウルフ…………ジョイス・ディドナート(メゾ・ソプラノ)

リチャード…………………………カイル・ケテルセン(バス・バリトン)

サリー ………………………………デニース・グレイヴス(メゾ・ソプラノ)

バーバラ/ミセス・ラッチ………キャスリーン・キム(ソプラノ)

 

この名前だけは存じ上げている有名な映画も見ませんでしたし、ヴァージニア・ウルフの著作も読んだことはなく、全くどんなお話なのかがわからないままこのオペラを拝見しました。

はっきり申しまして、第一幕は同時に話が展開しなければならない意味も分からず、何だかごちゃごちゃと違う要素が絡み合い、これがどうなっていくのかちっとも分からなかったのです。

どちらかといえば、音楽を楽しむわけでもなく、映像的な美しさがあるわけでもないのです。

この幕は80分ぐらいあったようですが、ちょっと退屈してしまったところがありました。

この3つの話がどういう風に関係していくのかという興味を持って見ていましたが、いろんな出来事が脈絡なくボコボコ忙しく出てきて、ちょっと疲れてしまったというのが本音です。

色々な要素が忙しく出入りするので、一つ一つの場面に集中できませんし、その意味もわからないままなので………。

 

まあ、ライブビューイングの映像なので、途中のインタビューでは、ディドナートがいつも自分が歌っている声ではない部分を使って、この役のキャラクターを出そうとしているお話や、ルネフレミングが《薔薇の騎士》のマルシャリンでMETを引退したと思われていた後にこの新作でMETへ復活したのだというお話などが出てきますと、この3人を演じる歌手がどれほどの思いでこの役に取り組んでいるのかがわかりました。

ケリー・オハラも以前2018年の《コジ・ファン・トゥッテ》でお聴きした時よりも数段役の中に入り込んでいて、その歌唱力も増しているように感じました。この時に感じたちょっと違和感めいたものは、この役では払拭されていました。

この人があって、このローラという役の存在感でした。

リチャード役のカイル・ケテルセンもこの人の役があってこの物語なのだと納得できるものでした。

 

台本作家と、作曲家が3つの時代の3人の生活が同時に流れていくこの構成について語っていたことですが、こういうことができるのはオペラだけの特性だと言っていました。

これもよくオペラの特性として言われていることなのですが、一人一人がさまざまな違った気持ちを一緒に歌うことができるということをうまく生かしているようにも思いました。

時代も場所も考え方も違った3人が違った心情を吐露して音楽が流れていくのですから………。

 

最後の場面に至って、やっとその繋がりが見えてくるのです。

歌舞伎などの衣装の早変わりのように衣裳の引き抜きのような技が使われ、流れるように次の場面に繋がった時、この3つの話の関係性がわかる仕掛けになっているのです。

ここのラストの場面で、すとんと胸に落ち、その時になんとも言えない感動のようなものがありました。

前半の煩わしいような気持ちがあるからこそ、この場面が活きるのかもしれません。