コルンゴルトのオペラ「死の都 」のこの歌を聴いたのは、NHK FMの 「オペラファンタスティカ」のエンディングの曲としてだと思います。

残念ながらこのオペラを実際に聴く機会に恵まれず、オペラとして通して聴いたことがないのです。

しばらく前まで、コルンゴルトの名前すら知らなかったのですから。

この「オペラファンタスティカ」という番組は、14:00〜18:00までという長時間の番組ですので、4時間まるまる聞き通すことがなかなか難しく、いろいろこれを聴くためには、午前中などにバタバタ動いて、この時間を生み出すといったことをやってみるのです。

またこの放送がある金曜日は、私にとって唯一の平日の休みの日ですので、いろいろとやらねばならないことが集中してきて、時間が重なることが多いのです。

たまたまその日が空いていて、4時間を聴き通すことができると、う〜ん、やったね、聴き通すことができたという満足感に似たものと、オペラの全曲録音に続いて流れてくる曲もなかなか聴くことができないものが多く、心が満たされる気持ちがするのです。

そのホットした安堵感と、満足感に浸っている時に美しく流れてくるのがコルンゴルトの〈ピエロの歌〉この曲なのです。

 

この曲はその後、どなたかのリサイタルでお聴きして、ああこれはコルンゴルトの曲だったのだと初めて知ったのだと思います。

 

この曲と、もう一つ、ソプラノのアリアとしてはよく歌われているマリエッタのアリアとの出会いも不思議な感覚でした。

 

お弟子先生がこのマリエッタの曲をセリフを入れて大先生にレッスンしていただいたのを聴いた時が、初めて でした。

なんとも言えない不思議な曲だなあと思いました。今までにない雰囲気を持っていて、しかもドイツ語の歌詞で、セリフも入る……「これは誰のなんという歌だろう」とずっと引っかかっておりました。

しばらくして、これもどなたかのソロでお聴きする機会がありました。

ああコルンゴルトの曲なのだということがわかったのだと思います。

もしかすると……とレッスンで聴いた時、なんとなくコルンゴルトかな?と感じてはいたのです。

 

このどちらの曲も美しいメロディーが切々と聴いているものに深い感動を与える曲です。

 

一度通しでこのオペラを聴いてみたいものだと思っていました。

この3月にこのオペラの鑑賞会があり、出席するつもりでしたが、このコロナのために中止になってしまいました。

 

そしてまた4月のオペラ講座が、このオペラを取り上げることになっていたのですが、講座自体がなくなってしまいました。

本当に残念な気持ちでした。

 

昨年の夏、コルンゴルトの〈シェークスピアの詩による4つの歌曲〉に取り組みましたので、コルンゴルト自身のこともその時に調べてみたのです。

 

あんなに美しいメロディーを自身の内に持っている、しかも早熟な方だったのですね。

戦争に翻弄され、アメリカに渡り、映画音楽という分野に大きな足跡を残したのですが。戦争が終わってヨーロッパに戻った時には、音楽の新しい流れが生まれていて、彼の音楽を流行遅れのものとして切り捨てるような仕打ちが待っていたようです。

映画音楽を一段低いものとして扱う世の中の動きが、ハリウッドで成功をおさめた彼に待っていたのです。

あのシェーンベルクですら、アメリカで映画音楽を作曲しようとしていたのに(これはうまくいかなかったようですが……)です。

 

彼の大きな才能が、映画の場面を見てすぐにそれに合わせた曲を作ることができたというのに、それが戦後のクラシック音楽界では受け入れられなかったのですね。

 

ちょっと古いですが、「スターウォーズ」など映画はあのシンフォニックな曲があってこそ脳裏に刻まれ ジョン・ウイリアムズに引き継がれていく映画音楽の流れは、彼から発しているとされているのに……

 

という彼の晩年は、残念ながらこのオペラを超えていくものが見当たらないとされているように思うのです。(もちろん私が知らないだけなのですが……)

 

昨日、この〈ピエロの歌〉を3人の方の歌で聴き比べてみました。あのヘルマン・プライもこの曲を歌っていました。

なんとなく、彼の歌のイメージはフィッシャー・ディスカウに比べて明るめの声で、〈冬の旅〉を聴いても、明るすぎるような気がしていました。ディスカウの声が日本のクラシック界の一世を風靡していたような感覚でしたから。

 

その明るさは、今聴いてみると彼の声の質からくるものばかりではなく、ちゃんと頭声の部分に響いている、喉がちゃんと開いている発声の賜物だったのだ、ということに気がついたのです。

今聴いてみると、なるほどと思えるもの、今まで見えなかった、聴こえなかったものがいっぱいあるのだということに気がつくのです。

やっぱり、勉強はとことん続けるものですね。

そんな気がした1日でした。