昨日、なんだのかんだの書いたトリエステ・ヴェルディ歌劇場の《椿姫》をしっかり聴いてきました。
結局、公演が終わってから、私はタイトルロールを歌ったマリナ・レベカの日本先行発売のCDを買ってサイン会に並んでいたのです。彼女の出身国であるラトビアで録音されたものでした。
実は私は彼女の歌唱力にちょっと感心してしまったのです。
時々、固い感じの声は聴こえますが、テクニックが凄いのです。特にピアニッシモ。
あの第1幕の幕切れの彼女の長大なアリアでのこと。
「ああ、そはかの人か〜花から花へ」
E Strano から自分の気持ちを吐露するわけですから、様々な解釈があっても良いと思いまし
たが、いつも聴く感じとは違っていました。
Follile ! Delirio vano e questo ! の部分が弱声で歌われたのです。普通は、この部分で曲調を変える意味でも、強く歌われる方が多いのです。(私が今まで聴いてきた方はほぼここをこの歌
の調子を変えるきっかけに吐き出すように歌われる方が多かったと思うのです。)
さてヴェルディの指示はどうなのでしょう?
スコアの類は実家に持って行ってしまったので今手元にないのでわかりません。調べてみます。
というように、耳が、あれ?ここはこう歌うのか……と捉えるところが結構あったように思います。たくさん見聴きしている歌だからこそ、そういう風に思うのだと思います。それをよくご存じで、どう歌えば自分の歌を聴いて新しいと感じるかということも考えていらっしゃるのだと思
うのです。きっと……
今回のこの歌劇場の《椿姫》は、もっともオーソドックスな演出の代表的な例だと思います。
演出がこのオペラの筋や、歌を邪魔しないもっともわかりやすい演出といえば良いのでしょうか。実は、みている方はなぜかホッとする演出なのです。
夏に同じ文化会館で拝見した宇宙船まがいの《トゥーランドット》最後に自殺してしまうお姫様にあっと驚くということもなく、本当にわかりやすくしっかりとした形でした。
それが良い意味で納得できたのは、歌手たちの力でしょうか。歌唱力という……
5階から見下ろしてまず感じたことは、オーケストラピットがちょっとスカスカしているように見えたことです。特に弦楽器の人数が少ないのです。いつも割合ぎっちり人数が入っているのですが、今回かなり余裕なスペースです。管楽器はもともと弦楽器に比べて必要な人数しかいませんが、今回引越し公演にあたって、必要なギリギリの人数のオーケストラに削ったのか、このトリエステの劇場自体がもっと小さいのかがわかりませんでしたので……
メインホールは1270席とのこと。
文化会館が2303席とのことですから、およそ昨日の文化会館より1000席ぐらい小さい歌劇場な訳で、あのオーケストラピットのガラガラな感じはそこからもきているようにも思いますが。
はっきり言って、1幕の冒頭、夜会の場面になって、合唱団がわっと歌った時、伴奏が 少し弱いかなと感じたところがありました。
合唱団の声量も立派でしたし、ちょっと弦楽器の音量が弱めだったせいなのかもしれません。
しかしそれからは、あまり音量のことを気にせずに聴くことができたように思います。
この合唱団は立派でした。見た目からいうとちょっと年配の方が多いように思いましたが、第2幕 第2場のフローラの家の夜会では、バレエの方は男女1名ずつで、それぞれ女声の何人かの方はロマの格好、男声の何人かは闘牛士の格好をなさってそれなりの振りをこなしていらっしゃったのです。場面の位置配置も計算されていてコンパクトでしたが「なるほどね」というものでした。
こういう演出だと、見た目が単調に陥りやすいので、余計にそういった気持ちを抑えるのは、それぞれの納得がいく歌唱力、歌の力だと思うのです。
それは主だったソリストだけに限らず、合唱の力も大きいのです。
そういった点でも、よくまとまった演出だったと思います。
しかし、10月25日の愛知芸術劇場から、11月10日の三重県文化会館まで、14回にわたってほぼ毎日演奏するわけですからすごいです。
プログラムによると今回ヴィオレッタ役の方は4人。アルフレード役は3人。ジェルモン役も3人でした。どの方がどこでお歌いになるのかは、わかりませんでしたが。
昨日は今回の最高のキャストだったのだと思います。
歌唱力の点ではヴィオレッタを始めとして良かったなあと思います。
オネーギン以来1ヶ月ぶりのオペラでしたが、イタリアオペラを堪能した感があったと思います。
しかし今の時代の複雑な演出に慣れた方は、ジェルモンがほぼあまり動きもなく歌っていらっしゃる姿を見て、演技力がないと言われるだろうなとは思いました。
例えば、第2幕第1場で、アルフレードが怒りに駆られてパリに行く時など、字幕の言葉では、「待て」と言っているのですが、前を向いて同じ位置でじっとしているのです。
その前のヴィオレッタと話している時も、ずっと杖を持ったままお話をしたり慰めたりで、ちょっとあまりにも演技という点ではどうかなと感じる点はありましたが……
演技のリアルさはあまり追求されていないのだと思います。
総監督の方がプログラムにこう書いていらっしゃいました。
私たちはイタリアの伝統的なスタイルでオペラをお見せします。オペラとは伝統そのものですから。
《椿姫》を通じて私たちが担ってきたイタリアオペラの伝統を感じていただければと思います。
なるほど……