はるかに望むエベレスト

 

インド北東部にある空中都市

 

ダージリンに別れを告げて

 

隣国ブータン王国を目指す。

 

国境超えには陸路と空路があるが

 

煩わしくなさそうな空路を選んだ。

 

ダージリン麓までは

 

かのヒマラヤ鉄道で下山し

 

ブータン便のある

 

バグドグラ空港に向かうべく

 

乗合タクシーに乗ったわけだが

 

手前のシリグリという街に降ろされた。

 

街に着けば何かしら

 

宿場があるだろうと期待したが

 

空港と逆方向の少し離れた

 

隣町までいかないといけないようだ。

 

ブータンへの便は朝早い。

 

起きてから慌ただしくしたくない。

 

現地点から空港までは10kmほど。

 

進めば何かお導きがあるだろう

 

そう遠くもないので歩くことに。

 

わたしの旅の信条は

 

計画を立てないこと。

 

地図を持たないこと。

 

直感を頼りに進む旅には

 

予期せぬイベントや出会いが待っている。

 

ただし良いことばかりとは限らない。

 

それも含めて旅の醍醐味である。

 

 

さて、惜しむらくはすでに黄昏時。

 

薄暗いし進めば進むほど鄙びてくる。

 

道すがらすれ違う地元住民に

 

情報を求めるが、やはり

 

この辺に宿場はないようだ。

 

宿場どころか

 

この先はホント何もない

 

空港もクローズしてしまうから

 

行かないほうが良いと

 

何人からか忠告される。

 

大事な助言もあったろうけど

 

これまでの旅程で

 

インド人に何度も欺かれて

 

人間不信に陥ってたのもあり

 

信じ切ることができず

 

こんな時間に騙されて

 

すったもんだもしたくないから

 

大丈夫、何とかなるよ、と言い張り

 

せっかくの親切を振り切ってきた。

 

どんどん暗くなってきて

 

空腹で足取りも重くなってきたが

 

本当にレストランもない。

 

さすがに心許なくなってきたが

 

ここまで来たら進むしかない。

 

空港に着けばどこかに

 

雨風しのげる場所くらいあるだろう。

 

ふらふら歩いていると後ろから

 

自転車に乗った男たちが近づいてくる。

 

通り過ぎ様にわたしを振り返り

 

何か言葉を浴びせてきた。

 

先程助言をくれた人たちだった。

 

ちゃんと聞き取ることはできなかったが

 

「ほら言ったろ!ざまあみろ!」と

 

言わんばかりの口調だった。

 

 

国道のような道路をひたすら歩き

 

空港へと向かう交差点に差し掛かり

 

ようやくゴールへの兆しが見えてきた。

 

まっすぐに伸びる道路は

 

まっくらな畑に挟まれていて

 

人家もなくなってきたが

 

ついに空港のゲートが見えた。

 

安堵するのもつかの間

 

どうも営業している感じはしない。

 

そこにいた警備員に尋ねたところ

 

やはり・・・まあ期待はしていなかった。

 

敷地に入れさせてくれて

 

屋根の下でも貸してくれた良かったが

 

それすらも叶わなかった。

 

空港のまわりには

 

途方もなく畑だけが広がっている。

 

さすがにもう気力が尽きた。

 

何を考えていたのかわかないが

 

畑のすみで野宿することにした。

 

畑に入ってみるとどうやら

 

ここら一面茶畑であったようだ。

 

よもやインドの茶畑で

 

草枕を結うことになろうとは

 

思ってもいなかったが

 

道路から見えないよう

 

樹木の陰に隠れるように横たわった。

 

今の境遇がどんなもんかと考えるより

 

やっと腰を下ろせたことの

 

安心感の方が大きかった。

 

インドの夜空を懐き

 

いざ眠りに入ろうとしたその時

 

人の気配する。

 

しかもこっちに近づいてくる。

 

起き上がってみると

 

足先の方に人が立っていた。

 

やや、地主かと思ったら

 

確かに近くの住民であったようだ。

 

不審に思って来たらしいが

 

怒られるかと思いきや

 

こんな挙動不審の外国人に対し

 

特段慌てることもなくその住民は

 

毒蛇が出るから

 

こんなところで眠るのは危ないよと

 

情けをかけてくれたのだ。

 

さすがに「構わないでくれ」なんて

 

不法侵入者が言う資格もなく

 

ありがとう、と言って

 

茶畑を去ることに。

 

 

今度こそ本当に途方に暮れてしまう。

 

ええぃ、ままよ。

 

とにかく来た道を戻り

 

どこでもいいから

 

野宿できそうな場所を探そう。

 

もう何時だろう、深夜を回ったろうか。

 

しばらく歩くと後ろから

 

自転車を乗る男が近づいてきた。

 

先程空港で出会った勤め人だった。

 

帰宅途中であったようだが

 

わたしを心配してくれていたようで

 

後ろに乗れよ、と言われる。

 

あとでお金をねだられても

 

何をされてもいいから

 

助け舟に載ることにした。

 

ただいたたまれなかったのが

 

人間一人ならいいものの

 

わたしは荷物を抱えている。

 

旅荷自体はほんの少し

 

最低限のものしか持っていないが

 

迷惑なことにゴッタンを

 

2棹も持ってきている。

 

それでも彼は文句を言わず

 

わたしと旅荷を荷台にのせ

 

一生懸命ペダルを漕いでくれた。

 

その後の経過はよく覚えていないが

 

途中で降ろしてもらい

 

特にお金をねだることもなく

 

彼は去っていた。

 

道路沿いにある大きな街路樹に

 

いい具合のウロがあり

 

そこにすっぽりはまって眠ることにした。

 

蚊の量がひどかったのを覚えている。

 

当時にして人生最大の襲撃であった。

 

数十匹の蚊に囲まれて到底眠れないので

 

全身をマントに包んで眠った。

 

決して眠り心地は良くなかった。

 

翌朝・・・

 

昨夜は暗くて分からなかったが

 

何かの施設の近くだったようで

 

少し離れたところで

 

銃を持った警備の人間が

 

こちらに睨みを効かせている。

 

わたしが目を覚ますや否や

 

シッシッと、追い払う動作をしたので

 

慌てて身支度をしその場を去った。

 

昨夜歩いた道をもう一度辿り

 

無事に空港へと到着。

 

ブータンに旅立ったのである。

 

 

これといったオチもありませんが

 

かつてのインド旅行のお話です。

 

気づけばもう10年も経つ。

 

自由奔放に生きていた10年前。

 

なんだかまた外国に行きたくなってきて

 

心の整理をしがてら

 

思い出話をしたくなったのでした。

 

 

この写真好き(笑)

 

 

 

やすとも