一長堂に注文していた高橋克彦著「火怨―北の燿星アテルイ」と「水壁―アテルイを継ぐ男」が到着。
どちらも史実をもとにした蝦夷と朝廷の戦いにまつわる物語。「火怨」はNHKでドラマ化もした英雄アテルイが主人公の有名な作品ですが、元慶の乱を描いた「水壁」は能代も舞台のひとつとして登場する負けず劣らずの名作。
「水壁」は過去に読了しましたが、蝦夷と朝廷の勢力構図が昨今の能代市を彷彿させるものがあり、今春の戦を控え無性に読みたくなり購入しました。
全体どれくらいの能代市民が、かつてこの地に“蝦夷”という民が暮らしていたこと、そして彼らが自分たちのご先祖であるということを平生認識しているでしょう。
縄文時代と言えば何千年何万年前のはるか昔の話だと思うでしょうけど、実はこの北東北の地では1000年ちょっと前の平安時代頃まで稲作によらない狩猟採集を中心とする“続縄文時代”が続いていました。そして能代は日本最後の縄文文化圏のひとつでした。
そこに暮らしていたのが縄文人の末裔である“蝦夷(えみし)”と呼ばれた朝廷にまつろわぬ民。日本史には詳細な記録が残っていないうえ虚偽も多いと思われるため、蝦夷と東北史については謎に包まれている部分が多いです。しかも獰猛で野蛮な卑しい民として苛まれていたため、なおのこと歴史の表舞台には現れません。
宮崎駿監督「もののけ姫」の主人公アシタカも蝦夷として登場してますが、彼らは自然と共生しながら悠久なる平和な暮らしを営んでいました。それはまさに今我々が死物狂いで求めている“持続可能な社会”。つい1000年ちょっと前まで持続可能な社会は、この能代にもあたりまえに存在したのです。
能代にも数多の蝦夷の集落があったことがこれまでの発掘調査でわかっています。そのシンボルが向能代にある杉沢台遺跡。発掘当初は日本最大の竪穴式住居として全国的に注目されました。
また能代にはアイヌ語地名が多く残っていて、朝廷の支配が十分に及ばない蝦夷たちの生活圏だったということが推定されます。例えば浅内、田床内、梅内、天内、仁鮒、切石、苅又石、築法師…。わたしの暮らしている母体もそのままアイヌ語に直訳でき「静かなる森(または小さな森)」という意味になります。
以前一般質問でも取り上げましたが、昨年世界文化遺産に登録された北海道・北東北縄文遺跡群に、過去に本腰を入れて遺跡調査に臨んでいれば能代市だって参入できる可能性は十分にあったでしょう。
さて彼らの平穏を脅かしたのは天皇を主君とする朝廷。朝廷は土地と資源を奪うために蝦夷征伐を繰り返し、領地を北へ北へと広げていき蝦夷たちを追いやっていきます。しかし朝廷は北東北の掌握に苦心します。そこには勇猛なる蝦夷がいたからです。
特に屈強だったのが蝦夷連合のリーダー阿弖流為(アテルイ)。蝦夷の方が圧倒的に兵力も物資も乏しい状況にありながら、地の利を生かした得意のゲリラ戦によって万もの朝廷軍を退けます。
そこで派遣されたのがアテルイのライバルであり能代にも縁が深い坂上田村麻呂。その後の経過は日本史ではかなり端折られてますが、当初は蝦夷勢力が優勢かと思いきや最終的にアテルイ率いる蝦夷連合は朝廷に降伏します。
おそらくアテルイはお互いの共存共栄を願い和平協定を結びたかったのではと思いますが、相棒のモレ(母礼)と共に田村麻呂に従い上京。仁星の田村麻呂は2人の救命を切に願いましたが、彼の嘆願は聞き入られることなく公卿たちの判決により斬首刑。北の英雄は無念の死を遂げます。
「水壁―アテルイを継ぐ男」にはアテルイの子孫が主人公として登場。朝廷の圧政に苦しんでいた秋田の蝦夷たちの反乱“元慶の乱”がモデルとなる物語で、我々能代市民にとっても親近感が湧く作品です。
かつての岩手における蝦夷と朝廷の戦火と同じくして、圧倒的に条件が不利なはずの蝦夷たちの連合が朝廷軍を次々と打破し、物語上では最終的に朝廷と和平を結び、米代川以北を蝦夷自治区として獲得します(実際は五城目馬場目川付近以北ではと推測される)。
必ずしも権力や数が勝つわけではない。戦いの描写が鮮明に脳裏に思い浮かび、勇敢でありながら平和を愛する蝦夷の精神に心を打たれ、小説を読んであんなに涙を流したことはなかったです。多分「火怨」を読み終える頃には鼻水がびしゃびしゃになってる事だろうと推定されます。
先の巨岩の写真は「火怨」のワンシーンで登場する花巻市の丹内山神社にある、蝦夷が篤く信仰していた土着神アラハバキの御神体。3年前林業講習のついでに立ち寄ったときのものです。
美しい自然資源が巨大企業に次々と貪られていく能代。決して巨大企業が根本悪ということではないし必要以上に排他的になる必要もないと思います。ただ持続可能な社会を築くために、自然環境や生態系、そして住民生活を第一に守ることが行政の使命ではないでしょうか。
その上で中央資本だろうと外資だろうと巨大企業と共存共栄すればいい。利用できるところは利用しまくればいい。わたしたちのご先祖蝦夷に学ぶべき精神だと思います。
そういえば過去にこんな記事を書いてました。
長面三兄弟は菅江真澄が書き残した三種町の民話に登場する蝦夷。その三兄弟のひとり“阿計留丸”から我が子の名前をもらってます。
見よこの剣さばき
公約「“水壁”を市民の必須課題図書に位置づけ、約2,000万円の予算を組んで市内全戸に強制配布します!」(冗談)
落合康友