さて、今回からは新シリーズ、「おたけの事件簿」です。

私がこれまで経験してきた様々な事件を少しずつお話ししていこうと思っています。

もちろん、特定を避けるため設定を多少変えていますが、それを除けば全て真実です。

 

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まず、第一回目は思い出深い「法廷車椅子事件」。

一歩間違えると、私も法廷で大けがを負うところだった事件です。

 

 

「先生、ちょっと大変な事件がありまして・・助けてくれませんか?」

「どんな事件ですか?」

 

ある日、よく知る保険会社の担当者から連絡がありました。

さっそく打ち合わせの日をとって話を聞きました。

 

その事件は、

交通事故で下半身麻痺になり車椅子になった

と5000万円を超える損害賠償を求める裁判を起こした高齢男性(仮名:ミチシバさん)の事件でした。

金額は大きく、後遺症も重い事件ですが、交通事故の事案としては珍しい事件ではありません。

しかも、既に裁判には別の弁護士がついて対応しているとのことでした。

そのような段階で助けを求められるというのはよほどのことです。

 

「どの点に困っておられるのですか?」

「実は・・・」

 

ミチシバさんは弁護士をつけず、ご自分で毎々裁判所に出頭しているとのことです。

それだけなら特に問題はありません。しかし、車椅子で裁判所にくるミチシバさんは、事故のことを思い出すと感情的になるのか、ほとんど毎回、裁判で、

「こんな体にしてどう考えているんだ!」

「おかげで、これからの仕事が全てキャンセルになった!」

と、机をたたいて大声を出しているとのことでした。

こまった裁判官がやんわりと注意しても、

「裁判官は誰の味方だ!」

と裁判官にもくってかかり、

また、ご自身で裁判対応するので、手続き的に不備が多く、

それを裁判官が丁寧に説明するのですが、

それも毎回大声で遮り、裁判手続きが止まることもしばしば。

 

「まあ、大変な事件ですが、それだけで私に助けを求めませんよね?」

「はい、今はなんとか担当弁護士が耐えて進めてくれています。しかし・・・」

保険会社の担当者は、資料を出して、私の前に差し出しました。

(続く)