カイゼンから見える日本と欧米の思想の違い
経営学の用語となって久しいカイゼン(KAIZEN)について、改めて
今井正明さんが書かれた「カイゼン 復刻改訂版」を読んでみました。
カイゼン 復刻改訂版
日本企業が国際競争で成功した経営ノウハウ
という副題が、本質を良く表しています。
1980年代の日本企業、とくに工業分野での圧倒的な輸出競争力、外貨獲得を演出したのは
カイゼン(TQC:全社的品質管理と同義)という日本人の思想に根差した経営思想・経営手法であったと言えます。
現場の従業員を巻き込んだカイゼン活動によって、製品の品質は上がり、コストは下がり、必要な時に必要な場所に、顧客が求める商品が届けられる。そして、そのカイゼンは留まることなく続けられ、顧客の心を掴み続けるのです。
日本の貿易黒字が大きくなり過ぎて、貿易不均衡を訴える米国政府高官の発言を何度も耳にさせられた時代でしたが、顧客の求める品質のものを安く速く提供出来ない米国をはじめとした海外企業にこそ問題があったのです。
この後、日本企業があげる収益を、為替の円高誘導・米国債購入などによって、日本は吐き出し続け、米国に貢ぎ続けて現在に至る訳ですが、疲弊した日本経済は1990年代以降長期低迷の時代に入ります。
それでも、1960年代にカイゼンの経営手法を確立した日本の伝統的製造業は、飽くなきカイゼンを続けていて、引き続き競争力を保ち続けています。
近年ではISOが企業の質のバロメータのように思われていて、世界の経営手法を制覇してもおかしくなかったカイゼンは、日本の中でも大きく取り上げられることが無くなっているように思えます。
1988年に初版が出て、その後20年の時を経た2010年にこの本が復刻された、その間絶版になっていたということが、「カイゼン」の日本での位置付けを物語っています。
この本を読むと、カイゼンが普遍性を持った経営手法であり、更には個々人の生き方そのものでもあることに気付かされます。
カイゼンの根底にあるのは、人間への信頼です。経営者も管理者も間違いを犯し得ることを素直に認め、現場の労働者の持つ無限の能力を生かして行こう、経営層の現場作業者も垣根を越えて共感しながら顧客のニーズに応えて行こう、というものです。
欧米型の人間不信、経営層と労働者という階級的思考からは、このような考え方は出て来ません。更に、カイゼンの思想が欧米と大きく異なるのは、結果志向ではなく、プロセスそのものを高く評価することです。カイゼンの経営思想は結果だけでは評価しないのです。
現在、管理人は怒濤のような歳月を経て、ベトナムの日系企業で働いていますが、この地の人々も欧米と同じく、侵略に次ぐ侵略の歴史を経て、人々は「人間への信頼」とは全く逆の思考をせざるを得ない、という話を聞きました。
カイゼンの思想を自然に持ち得たのは、日本の特殊な環境によるもので、日本と欧米の違いというより、日本とそれ以外の全ての国の思想の違いと言って良いかも知れません。
海外に日本的経営思想を根付かせようとする人々にとって、海外にあってはカイゼンの根底にある思想は異質なものであることを理解した上で、仕事を進めることが重要なのだと思います。
経営学のお堅い本のように思えるかも知れませんが、各企業、各現場の人々のカイゼン活動の事例や、企業経営者達のエピソードに時折胸が熱くなります。
復刻版を発売して下さった日本経済新聞出版社さんに感謝、感謝です。
