皆様こんばんは



今宵も私のどうでもよい身の上話の続きを
お送りいたします~







祖父が亡くなったあと祖母は

体こそとても元気だったものの認知症になってしまいました。




はじめのころは

ん?と思うような事がたまーにあり

年も年ですし
ある程度の物忘れなどは気にもとめませんでした。



しかしそのうち


母にお金を盗まれたとか

父が靴や服を持って行ったと夜中に電話をしてくるようになりました。


時にはお願いなので返してくださいという手紙までよこしたのです。




実は祖父が亡くなったことをきっかけに
色々面倒なことがあり


スーパー短気な父と母は
父の兄弟と不仲になっておりました。




そして祖母が認知症だと
まだ誰も気づいていない頃


祖母のおかしな言動により
父の兄弟の不仲は悪化し、しまいには祖母とも絶縁してしまったのです。





ですが私には何も関係のない話ですので

私は祖母の様子をちょこちょこと見に行っておりました。






そして認知症と診断され

それでも家を離れたくないという祖母。



父の弟が面倒を見るという事になっておりましたが


さすがの父と母も心配し

引き取られるまでの間
祖母の家を行き来しておりました。




私は
祖母の怒ったところを一度も見たことがありませんでした。



声を荒げたり

人を悪口を言ったところも
見たことがありませんでした。



穏やかで
いつもニコニコしていて





しかしそんな祖母が

私に向かって言いました。




『あんたの家族は泥棒なのよ!』と。




大きく目を開き声を荒げて。






私は言いました。


「おばあちゃんそんなわけないでしょ?本気で言ってるの?」





そうすると祖母は


『だって盗んだところ見たもの!』と怒り狂うのです。





かと思えば
昔の祖母に戻ったような穏やかな時もあり



若かった私は戸惑い


どう接していいかわかりませんでした。






気づけば私は

忙しさをいいわけに
あまり祖母の家に行かなくなっていたのです。




忙しいと言いながらも
ちょこちょこと札幌へ遊びに行くために電車に乗り


祖母の住む町の駅を通りすぎる。





その町に電車が少しの時間止まっている間


おばあちゃんの顔が脳裏によぎり


しっかり私にこびりついたおばあちゃんの声が聞こえました




けれど私は寂れたその町から目をそらし

考えないようにつとめたのです。





そのうち祖母は父の弟のところへと引き取られ

施設に入ることになりました。





家も取り壊す事になり

引っ越しの日私は


おばあちゃんが好きなグリーンの膝掛けと手紙を持って久々に家へ行きました。





私のことはもうわからないだろう
そう思っていましたが




私の顔を見ると

あら、ちーさん!と言って笑ってくれたのです




叔父と叔母が迎えにきており
荷物をまとめていました





私は家の中をぐるりと見渡して

祖父母と過ごした日々を思い出していました






ソファーにどっしりと座り


大きな湯呑みでお茶を飲み
静かに相撲を見ているおじいちゃん





おばあちゃんの朝ごはんを作る
トントントントンという音


煮干しでとった出汁の匂い




よく隠れて困らせた
あの押し入れや
大きな窓にぶら下がるカーテン




私が使っていた
茶碗や箸





記憶や想いが一瞬でよみがえりました。





おばあちゃんは
荷物をまとめながら



「またすぐ帰ってくるからね」



ニコニコしながらそう言うのです。





きっと本当の事は知らされていなくて

息子のところへ少し遊びにいくと思っているようでした



もしかしたら話したけど
忘れてしまっていたのかもしれません






荷物もまとまり

私も電車の時間があったので



膝掛けと手紙を手渡し



「ばあちゃん、待ってるからね!またね!」

そう言ってしっかりと手を握りました




溢れそうになる涙を必死にこらえ

うんうんとニコニコ頷くおばあちゃんに




大きく大きく手を振り

電車へ乗り込みました




昔私が帰るときに
おばあちゃんもいつもこうして


私が見えなくなるまで
大きく大きく手を振ってくれた事を思い出しました。






また会える




会いに行けばまたいつだって会える






けれど




きっと次会うときは
もう私のこと覚えていない


そんな気がしたのです








その後

1度祖母の施設を訪ねた時



祖母は私に



どなたかわかりませんが
今日は来ていただいて
どうもありがとうございます



そう言いました






私はたくさんの毛糸を渡して

私にマフラーを編んでくださいませんか?
とお願いいたしました




認知症の症状が進んでも
編み物だけは体が覚えているようで毎日していると聞いたので






しかしそのマフラーが出来上がる前に
祖母はこの世を去ってしまいました。



最後に施設で会った祖母は

私を誰だかはわかっていなかったけれど




穏やかで


優しい顔をしていました





きっと最後は穏やかに暮らせていたんだ

そう思えることだけが心の救いだったのです








そう


そんな思い出がある
祖父母が暮らしていた町



もうここにはおばあちゃんもおじいちゃんも

思い出の家も無いけれど





今もその駅で電車が止まる度に


もっとここへ来て
おばあちゃんと過ごせばよかった


変わっていくおばあちゃんから目をそらさずに
そばに居てあげればよかった


そう思い胸が苦しくなります。









先日も友人に会いに行くその電車の中で

その小さな町を通りすぎた時



ちょうどイヤホンから流れてきた

手嶌葵さんの「明日への手紙」






涙と一緒に

たくさんのごめんねとありがとうが
溢れ出しました







ありがとう




ありがとう




ごめんね 










そう

そんな事がありまして




誰が興味あるかわからないけれど

この事を文字にしたためたくなったのです。






長い長い他人の思出話を

ご清聴いただきまして




ありがとうございました。



































今日はこのへんで



失礼いたします。