ヤマハのオートバイでSRというのがある。

というか、あった。

400cc空冷単気筒エンジンで(500ccもあった)、1978年から基本形を変えずに最近まで新車で販売されていた。

今でも国外のタイあたりでは新車販売されているが、日本国内では排ガス規制のあおりで終売になった。


この何年かの傾向として、二輪市場では世界的にネオレトロとかいうジャンルが出来上がっている。

いわゆる、ノスタルジー系の懐かしい感じのバイク。

当のヤマハではヘリテージと呼んでいる。

ヘリテージとは遺産とか伝統とかいう意味であるらしい。


二輪市場でノスタルジー系のジャンルが出来上がる以前から、クルマでもオートバイでも懐かしいデザインが売れる傾向というのはあった。

いっとき、普通の軽自動車のヘッドライト周りのデザインをクラシックな感じにしたやつとか、各メーカーが一斉に出したりもしていた。


わたしは個人的には、そういう懐かし系のデザインはあまり好きではない。

歳とった人間が昔馴染みのあるデザインを見て心惹かれる構図というのは、少し安直な感じがする。

あるいは若い人にとってもクラシックデザインは、脳内のノスタルジー中枢を刺激する何かがあるのかもしれない。

とにかく、懐かしい感じのデザインを出すととりあえずは市場で一定の支持が得られるという構図は作り手としてのチャレンジが今ひとつ足りない気がする。


ヤマハのSRは1978年にデビューした時は普通に「最新の」バイクだった。

7、8年経って1980年代に後継モデルとして「SRX」が出た。

SRXはSRと同じく空冷単気筒で、600cと400ccの2種類あった。

SRXは単純な懐かしデザインではなくて、新しいディテールを追求しつつ全体として不思議なクラシック感のある格好いいバイクだった。


30何年か前に、わたしはSRXが欲しかった。

友達が400cc版を買って、実際に乗っているのをしょっちゅう見て先を越されたと思った。

しかし車検もあるし、金が無いから買えない。

そうこうするうちにSRXは1990年頃にフルモデルチェンジして、雰囲気はそのままにいっそうモダンになった。

その時にはわたしのバイク熱はやや冷めていて、結局SRXとは縁のない人生を今まで過ごしている。


そしてその数年後、ヤマハは何を思ったのか1978年からマイナーチェンジを繰り返しつつ販売継続していたSRを残して、後継モデルだったはずのモダンなSRXを販売中止にした。

その時はもうそんなにSRXを買いたい気持ちは無かったのだが、しかし、なんだかヤマハに裏切られた感じがした。

わたしのノスタルジーデザイン嫌いは、あの時に始まったのかもしれない。


そのSRも2、3年前に排ガス規制で国内販売からは消えた。

消えてみると少し寂しい気もする(どうせ買わないのに)が、しかしやはり、オートバイのデザインは単純ノスタルジーでなく、いつでも新しさを追求していて欲しいと思う。



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