昔、20代の頃に社会人になっていろいろ戸惑うことがあったのだと思う。
ひとつは電話。
わたしは知らない人と電話をするのがとにかく苦手だった。
特に会社に、よく怒るオジサンから電話が掛かって、たまたまそれを取った時とかは緊張で呼吸が苦しくなった。
ただでも上手く喋れないのに、ますますロレツが回らなくなった。
しかし慣れというのは恐ろしいもので、2、3年もすると電話恐怖症は知らない間に治っていたのかもしれない。
ただ慣れてくれば慣れてきたなりの電話のトラブルというのは発生するものだ。
そのひとつは、さっき掛かってきた電話の内容を忘れる、というやつ。
クルマの運転と同じで、最初はコワゴワとそろりそろりと運転するから、万が一事故してもそんなに損害は大きくならない。
しかしなまじ慣れてくると、適当なナガラ運転になって事故ると命に関わったりする。
社会人電話に慣れてくると、電話の取り方が明らかにそれまでより雑になる。
誰さんからの電話だっけ、うちの会社の誰に宛てて何を頼まれたんだっけ、とかいうのをうかうかしているとすぐに忘れる。
こういう場合に備えて、ちゃんとした会社の電話機の脇にはメモ紙とボールペンが置いてあったりする。
本来なら電話で話しながらメモをして、メモした後に確認の復唱とかすると良いのかもしれない。
しかしながらわたしは、新入社員マナー研修とか見たこともない人間なので、そういう基本動作は一切すっ飛ばしてそれまで生きてきたのである。
やりかけの作業をしながら電話を取ることもしばしばで、電話が終わって、2秒経つ頃には内容を忘れている。
特に、電話の内容が込み入っていて話が長い人からのは、とても憶えられない。
そういう場合、憶えられそうにないと思って途中からメモを取り出す。
しかしメモを取る前の内容が頭に残っていない。
電話が終わった時に不完全なメモが残る。
しかし多くの場合不完全なメモであっても、そのメモを当事者に渡すとそれなりに内容が推測可能。
「ナントカ企画っていう会社のナントカ村さんみたいな名前の人から、なんか怒り気味で電話があった」みたいな情報でもだいたい推測可能。
推測不可能な場合は、よほどどうでもいい奴からの電話であることがほとんど。
そんなに重要な要件なら、あらためて直接本人に掛け直すに違いない。
つまり結論的に、電話の伝言は不完全でも命に別状はない。(ことが多い)
今となってはEメールも携帯電話もあるので、固定電話の伝言ゲームみたいなのはあんまり無いのかもしれない。
電話が発明された時は、何千キロも離れた相手と話ができて便利だと思ったのかもしれないが、今思うと電話っていうのは、かなり面倒くさい業務ツールだったような気がする。
というか今も電話で仕事の話をすることはある。
しかし今の電話では、時候の挨拶とか要領を得ない長い話とか減ったような気がする。
何より電話の内容をメモることがほぼ無くなった。
ということですぐに忘れるような内容の電話はどうせ大した電話ではない、というのはある種の真理であるかもしれないと思ったりした。