今回は ITスキル標準のお話の最後として 少し まとめてみたいと思います。


これまでも お話してきたように ITスキル標準は 情報サービス産業における人材分析のツールで、それ以上のものでも それ以下のものでもありません。

ツールは 何らかの目的と意図を持って初めてその効果を発揮するものであって、ツールを使用することで 目的が見えてくるものではありません。 手段と目的とを取り違えるような ツールの使用は むしろ弊害を多く産出します。

また、ITスキル標準には 多くの職種が定義されていますが それらを全部 適用することを推奨しているわけではありません。 私自身 講演で 繰り返しお話していたのは ”経営戦略上 今後 重要となる職種のみ ITスキル標準を活用して 社員のベクトルをその職種へ向けるとともに 会社としての変革への意思を示すことが有効ですよ”と いうことでした。 残念ながら そのように活用されたという話は あまり聞いておりませんが。


ITスキル標準は、一応 情報サービス産業全体の職種構造を ”是” として分析したものですが、”是”として分析をしたが故の 課題と弊害があります。 ”是” としてスタートすると 現状をスターティング・ポイントとしての改善活動が 主なテーマになります。 そこでは 改革をテーマにすることは 難しく、また 皆の協力を得ることも難しくなります。 それが ITスキル標準が抱えた 影の部分です。


私自身は ITスキル標準の作成に関わった当初から それに気づいていましたので、いずれは その影の部分の解決を模索する企業があれば そのお手伝いをするのが 天命なのだろうとも思っていました。

ITスキル標準センター長を 2年間で辞し、少し その準備のために勉強を始めた矢先 IPAの時にお付き合いのあった企業から 情報部門が企業変革のリーダーシップを発揮するための教育のお手伝いの話をいただきました。 この企業は、会長が ”情報部門が企業変革のリーダーシップを取れ” と 常からおっしゃっておられるのですが 情報部門が 社内の主流である現業部門に対して変革させるべくリーダーシップを発揮するのに苦労されていることから 何らかのヒントになるかもということで お話をいただいたわけです。


ITスキル標準で 定義されていないのは、主に ビジネス・クリエーション、それに伴う変革を主導するリーダーなどの 人材です。 これは、会社全体を指しているのではなく 今 現在 それぞれが抱えている仕事において いかに 新しいビジネスを創造していくのか そして自己だけではなく 周りも含めて変革していくのかということを指しています。 このような人材を育成し、企業の中で活性化(アクティベイト)させることを 試みたわけです。

この企業では 約5年間、お手伝いをさせていただき 有る程度の成果は出たのではないかと思っています。

また、その他にも 5社ほど 部分的ではありますが お手伝いをさせていただきました。


私自身の限界もあり 業界に十分貢献したとは とても言えない状況ですが、いくらかでも そのような種を蒔くことができたのは 周りの方のご協力のおかげであり 非常に幸運であったと感じています。

少し 時間もできましたので その恩返しの意味もあり 私自身の 色々な経験を 今年から ブログの形で、発信することにしました。

これを ご覧頂いた方々に 少しでも お役に立てば 幸甚だと思っています。

今回は ITスキル標準の活用事例の最後として 次のようなケースをご紹介します。


1、日本を代表する製造業の IT部門で 約1500名。 他に 事業部門それぞれに IT担当者がいて 計約100-200名、子会社 に約400名。

2、IT活用についても 日本のトップクラス。

3、ITスキル標準も 発表当初から取り組み 自社に適した形で導入済。 また、自社制度についての 詳細なドキュメントも完備。

4、自社が 導入した形で、ITスキル標準の趣旨にあっているのか、また 漏れている点はないのかを確認したい。 よりよい形で 改善できるのならば そのように対応したい。


以上の趣旨で 分析いただいたわけですが、この社および担当者の方々は 非常によく理解しておられ なおかつ 自社に役立つのであれば なんでも 前向きに取り上げたいという強い意志でご参加いただきました。

この企業の IT部門は 基本的次のような 3つの グループに分けられていました。


1、システムの保守・運用およびそれぬ関わる業務を主体とするグループ

2、システム、およびアプリケーション開発を主体とするグループ

3、事業部のIT部門からの要請を受け ソリューションを企画・確定するグループ


それぞれのグループに どのような職種の人材が どれほど配置されているのかを調べていただいたところ、#1については 長くこの業務を遂行していたところから 人材の配置という観点では 基本的に 問題はありませんでしたが、#2 には アプリケーション・スペシャリストとITスペシャリストが主で PM は ほとんど 配置されておらず、PM は #3 に属していました。 また、#3 において ソリューションを企画・確定するために重要な人材と思われる職種として BPI(ビジネス・プロセス・イノベーター)という職種がこの企業で独自に定義されていましたが(これは ITスキル標準で言う ソリューション・セールスに概念的には近いと思われます)、実際 あまり機能しているようには見えませんでした。


その結果 見えてきたことは次のようなものでした。

1、事業部門の ITグループは そもそも 3年をスパンとした事業戦略を支える IT戦略のオーナーであるべきところ、事業部門の現在の課題に対しての要求を果たすための ソリューション企画・確定の仕事がメインになっている。 それは、本来は IT部門#3の仕事であるべきところ 1段階 下流の仕事をすることになっており、本来の 事業戦略を支えるIT戦略が欠落している。

2、IT部門#3の本来の仕事である ソリューション企画・確定が 事業部門のITグループによって行われているため、この部門は ソリューションの仕切りであるPMの仕事がメインになっている。 PMの仕事は、だれかが定義したものを 成功裡に遂行するものであり これでは IT部門が主体的に何をするのかを決めていないということになる。

3、IT部門#2は、開発を主体的にやるために PMがメインの仕事になるべきところ、#3が PM の仕事をしているため、開発においての主体性を持てない状況になっている。


以上のことから分かるとおり、事業戦略を支えるためのIT戦略の重要性が 事業部門において認知されておらず、そこから逃げて それぞれのグループが 1段階 下流の仕事を 結果的にやることになっており、企業において ITグループの地位が上がっていかない。 この企業では、会長自らが ”ITグループは 企業変革の推進者たれ” と号令をかけているにもかかわらず ITグループの企業内地位の向上に苦労している。


このような分析を通じ ITグループが 本当に企業に役に立つ仕事をするためには、事業部門に対し どのように リーダーシップを発揮していくのかを 戦略的に考え・遂行していく必要があるということがわかりました。

これは この企業に限らず ほとんどの企業で 同じようなことが言えるのではないかと思います。


余談になりますが、私は IPAを退職後 この企業で IT部門の中堅幹部に対し リーダーシップ教育のお手伝いを 5年間ほどやらせていただきました。

私自身にとっても 良い経験になり 多くの新しい知見を得たと思っています。 

今回は 独立系情報サービス企業における PM を 前々回にお話しした 5つのカテゴリーに分けて分析いただいた結果について お話します。


PM (総数:158名)

 #1 : 総数(38) : Level2(3)、Level3(13)、Level4(16)、Level5(5)、Level6(1),Level7以上(1)

 #2 : 総数(12) : Level2(2)、Level3(3),Level4(5)、Level5(1),Level6(1)

 #3 : 総数(1)  : Level4(1)

 #4 : 総数(69) : Level2(16)、Level3(12),Level4(29)、Level5(10),Level6(2)

 #5 : 総数(37) : Level3(11)、Level4(14)、Level5(6),Level6(5),Level7以上(1) 


同じように分析をしてみます。

1、現在のレベルとビジネス実績がバランスしている#1は、24%強で これは アプリケーション・スペシャリスト、ITスペシャリストと比較すると 約2倍の割合になります。 これは、優秀な人材を 早めに PMとして活用していることから 起こっている現象だと思われます。 逆に言うと、残った アプリケーション・スペシャリスト、ITスペシャリストを PMにシフトするのは より困難であることが予想されます。 また、PMでも 76%の人材に対して 何らかのアクションが必要なことも示しています。

2、現在のレベルより ビジネス実績が1レベル高い(#2)のは、総数 12名(8%弱)で 低レベルから中堅にかけて なるべく早く昇進させ より大きな責任を持たせることを検討する人材が見受けられますが、数はあまり多くないため 適切に対応できるのではないかと考えます。

3、現在のレベルより ビジネス実績が2レベル以上高い(#3)のは 中堅に1名いるだけですので これについては 早急に昇進させ より大きな責任を持たせることが必要です。 また、この人材のマネジメントに何か問題があるかどうかのチェックも必要だと考えます。

4、現在のレベルより ビジネス実績が 1レベル低い(#4)は、総数 69名(44%弱)で アプリケーション・スペシャリスト、ITスペシャリストと ほぼ同じ割合です。 この職種においても、年功序列等で処遇が上がっているにもかかわらず ビジネス実績が追い付いていない状況が見られます。 選別した人材には、より大きな責任を持たせ、残りの人材で十分なビジネスの大きさを与えることができない人材は 降格を検討する必要が出てきます。 恐らく 半数はその対象になるのではないでしょうか。

5、現在のレベルより ビジネス実績が 2レベル以上低い(#5)のは、総数 37名(23%強)になります。 これは、アプリケーション・スペシャリスト、ITスペシャリストの 40%強と比較すると低い数字ですが、PM の場合はビジネスに与える影響が大きいことから 早急に 降格等の対策を講じる必要があります。 特に 3レベル以上低い人材が この中に 11名含まれており これについては 今までのマネジメントのあり方も含めて検証する必要があります。


以上のことから、PMにおいても 年功序列などで処遇が上がっているにもかかわらず ビジネス実績が追い付いていない状況が見られますが、これは個人の問題というよりは 企業としてその処遇に見合うだけのビジネスの獲得ができていないことを示しています。 日本の場合、規模の拡大を急ぐあまり 人を採用し 従業員を多くすれば 自然に ビジネス規模が大きくなるというよな安易な考え方で 企業の運営がなされているような気がします。 この企業は違いましたが、一般的にサラリーマン経営者は ビジネスの獲得に対しての考え方が甘く どうしてもこのような傾向がでてきて サービス産業では特に 安売りによってビジネスの獲得に走り 秩序だったビジネスの展開が難しくなりがちです。

以前にも お話しましたが、サービスビジネスを基軸とするとしても ソリューション・ビジネスとの融合は 必ず必要になってくるでしょうし、小さな規模でも良いのですが ビジネス・クリエーション企業へと脱皮する努力をしないかぎり この業界のビジネスはじり貧から 壊滅的な崩壊に至るのではないかと危惧しています。


次回からは もう1例だけ 事例紹介をして ITスキル標準の活用についてのお話を最後にします。

まだ、多くの事例がありますが きりがありませんので。