美月と初めて出会ったのは中学校の入学式の日。

初めて市立第三中学校に足を踏み入れたとき、
後に続いて玄関に入ろうとした女子生徒に、俺は扉を開けておいてあげた。


「ありがとう。」


綺麗な声だった。
その時点で俺は彼女に惹かれていたのかもしれない。


教室に足を踏み入れると、隣の席にはさっきの女子生徒。
正直、運命的なものを感じざるを得なかった。

中学校で初めて会話 ―と呼べるものかわからないが― を交わした女の子と
席が隣なのだ。

思春期を生きる男子中学生なら、きっと誰だって「運命」だと思うだろう。
俺だって例外ではないのだ。

「あ、さっきの。 名前、なんて言うの?」
「木村友哉。 そっちは?」
「うちは、若村美月。美月、でいいからね。 苗字、嫌いなんだ。」
「おう。そっちも、拓己、でいいからな。」
「うん。 よろしくね!」

たわいもない挨拶。
その間、俺の視線は美月の大きな瞳に釘付けだった。

こんな綺麗な瞳は見たことがない。

綺麗な声、綺麗な瞳。
そして、すらりと肩まで伸びる綺麗な髪と、整った顔。

一目惚れの要素は十分だった。



実際、一目惚れだったのだ。
俺は今日もいつも通りの通学路を歩く。
家から学校までは徒歩5分。恵まれた宅地だ。

吹きつける風は、夏の生暖かい風から、冬の冷たい風へと変わってゆく。
教室の窓から見える緑の山々も、紅葉を経て、散ってゆくのだろう。
毎年起こる、なんでもない変化。
でも今年は、なんだかとても寂しい気分になるのはなぜだろう。



「おはよーー!」

教室に入ると、拓己が声をかけてきた。
これもいつもの光景だ。

「なあなあ!昨日の試合見たか!? あのホームラン!」

俺と拓己は野球部に所属している。
俺はピッチャー、拓己はサード だ。
俺達の野球部はそれなりに伝統のある部活で、数年前に全国大会に出場した らしい。

「ああ、見た見た。すごかったな。外角低め、うまく運んだなぁ・・・。」

そんな風に拓己に調子を合せながら、俺は教室を見まわす。
その時、背後から声をかけられた。
瞬間、俺の心臓の脈動は、今にも飛び出してきそうなくらい、激しくなった。

「おはよー、友哉。」



美月の声を聞いて初めて、俺の朝は始まる。