今日はあなたと付き合い始めて丸11年
結婚してから10年を迎える日。









先週の土曜日
出張であなたがいない夜
私は1人映画を観ていた。




新婚当初
あなたが教えてくれた映画
「セントオブウーマン」



見るたびに
違う台詞やシーンが胸を打つ
とても素晴らしい映画。







アルパチーノ演じる
退役軍人のスレード中佐が
見知らぬ若い女性と
タンゴを踊るシーン。



彼氏を待つドナという女性に
中佐が声をかける。



中佐
「タンゴを習いたい?」

ドナ
「今?」

中佐
「レッスン料なしで私が教えよう。どうだね?」

ドナ
「でも怖いわ」

中佐
「何が?」

ドナ
「間違えることが…」

中佐
「タンゴは人生と違い、間違わない。
簡単な所が素晴らしい。
足が絡まっても踊り続ければいい。
どうだね?」

ドナ
「いいわ」



そうして2人は
レストランの真ん中でタンゴを踊る。



最初は恐る恐るステップを踏むドナも
中佐のエスコートで踊るうちに
楽しそうに笑って踊りだす。



私はこのシーンが大好き。





昨夜もあなたと久々にこのシーンを観た。
何故だかこのシーンを
あなたと今観たいと思ったのだ。



そしてあなたと観ながら
まるで私たちみたいだなと思った。








結婚という未知の世界。


そこに勢い良く踏み出してみたものの
私は怖くて怖くて仕方なかった。



あなたと結婚した途端
私はあなたを失うことを恐れるようになった。



あなたと生きる人生を
失うことがこの世で一番怖くなった。



それまでの私は刹那的で
失うものなんて無いと思って生きていた。



だから何にでも挑戦できたし
どんな相手にも立ち向かえたし
あまりに辛いことがあれば平気で逃げれた。



あなたに恋をして、結婚した途端に
私は弱々しい女になってしまった。



いや、あなたを前にして
やっと肩の力を抜くようになり
弱々しい自分を自覚するようになった
というのが真実なんでしょう。



けど虚勢を張って生きてきた私は
そんな自分を悟られまいと
あなたと闘うようになった。



「私はいつでもここから去る覚悟はある」



そんな強がりに満ちた言葉の武器を胸に
あなたを見張り続けた。



そして不安に押し潰されそうになると
別れを切り札にあなたを責めた。



それなのにあなたは
「俺はどこにも行かない」と
大きな巨木の如く
私の前から動こうとしなかった。








あんなに欲しがってたものを手にした途端
それを失う恐怖に襲われた私。



自分に絶望した日もあったし
もういっそのこと別れてしまいたいと
投げ槍になったこともあった。



どうしたらこの結婚がうまくいくのか
どうしたら平和な結婚生活を送れるのか
どうしたらこのカオスな私が変われるのか



そんな問いを自分に投げかけ続けた。



全く見当もつかなくて
一喜一憂しまくる私にあなたは



「うまくいかせる必要などない」
「それが俺たちの結婚なんだ」
「変わる必要などない」
「そのままの瞳子でいい」



そう身をもって
何度も何度も伝え続けてくれた。







私はあなたを何度も傷つけた。



あなたが悲しむ言葉を必死に探して
それを投げつけた。



それでもあなたは
私と生きていくことを選んだ自分を信じ続け



お互いの気持ちが分かり
心が繋がった奇跡の瞬間を忘れず



暴れる暴君に成り下がった私の中に
ひとかけらの純な私を見いだし



「今はプロセスなのだ」と諦めなかった。




そうして私たちは
怖がる私をあなたがしっかりエスコートして
結婚生活というタンゴを踊り続けてきた。






今だって
あなたを失うことは怖い。
死ぬほど怖い。



でも
それでも今幸せだと思う。



当たり前みたいに過ぎてく
あなたとの毎日が
私を生かしてくれている。



「はーめんどくさいなあ」と
仕事に向かうあなたの後ろ姿



仕事の合間に送ってくれるスタンプ



いつだって目の前のことに
真摯に向き合うあなただからこそ
漏れる本音



私が食事の支度をしているとき
時々話してくれる
仕事で起きたこと



嬉しそうに話してくれる
好きな車や靴なんかのこと



私がふと台所に行き
お菓子を持ってリビングに戻ると
「やっぱりそうだと思った」と
食いしん坊の私をからかう悪戯な眼差し



私が「ねえこれどう思う?」と質問をすると
反射的に「分からん」と言って
「考える前にそう言うよね」と私がイラッとして
それからやっと考え出す天邪鬼なとこ



「そうだね」と流しておけばいいものを
「そうかな?俺はこう思う」と
いつだって自己に忠実に在ろうとするとこ




そんな風に繰り返し目に映る
あなたとの日常の一コマ一コマが
愛おしくてたまらない。



平凡だけれど
私たちにしか踊れないタンゴ。





「大切なものは失って気づくもの」



巷でよく聞く言葉だけど
私は失う前から分かっている。



これは怖がりであることの
メリットといえるかもしれない。



もう昨日と同じような明日は来ないかもしれない。
だから毎日今の私なりの愛を伝え続ける。



めんどくさいなぁと呟きながら
掃除機をかけ
洗濯をして
気難しいワイシャツにアイロンをかけ
買い物に出かけ
時々夕食を作る



不甲斐ない自分に憤りを感じながらも
出来ないことは出来ないと正直に伝え
腹が立ったらそれもきちんと伝え
私は私に忠実で在ろうとする。
あなたのように。



黙ってやればいいものを
「これやったから褒めてアピール」もする。



ほんとは褒めて欲しいだけじゃなく
愛の告白なのである。


 
その愛を
「ありがとう」と受け取って欲しいだけなのだ。



あなたは決して私に感謝を求めない。
ただひたすら自分の意志をもって
私を愛で包む。



私はおそらく一生そうはなれない(笑)



でも10年あなたといて分かってきた。



最大の愛っていうのは
「あなたがここに居てくれること」
「私がここにいること」だということ。



機嫌の悪いあなたでも
喧嘩中のあなたでも
停滞気味のあなたでも



どんなあなただろうが
私の愛する人として
今目の前に存在してくれていること。



私がただ私のまま
ここにいること。









「私は神社でお祈りするとき、 
必ずあなたの名前も一緒に名乗るんだよ」
と自慢げにいうと
「俺もだよ」と言ってたのには驚いた。



自分だけが健康でも
自分だけが幸せでも
本当の意味で幸せにはなれない。



そう分かっているから
そうするんだ。







今日はこの曲が頭の中に流れている。





10周年記念日。



平日だから普通に過ごす予定だけれど
特別な日であることは確か。



その特別な日を
普通に一緒に過ごせることが嬉しい。



今夜もきっとまた
うさこと私が
あなたの争奪戦を繰り広げる。



とりあえず今日は
他に何もいらない。





すっぴんパジャマのまんま
「おかえりなさい」と言うのだ。






おかえりなさい。