僕は恋におちてしまった
きっかけは彼女の歌声だった。
各クラスごとに一人ずつLIVE形式で歌を披露するイベントがあって
もちろんSさんは、そういうのに出る側の人じゃなかった。
それなのに急遽歌わされる事になった。
本来は合唱部にいた学級委員長が歌う予定だった。
Sさんと学級委員長は、まさに正反対のタイプで犬猿の仲と言われていたが
なんだかんだ言って、実は仲が良かった・・・
世話焼きで放っておけない性格の学級委員長と
ヤンキーで態度悪い癖に優しいSさん。
学級委員長は直前に事故に遭ってしまって入院する事になった。
大事には至らなかったが、学校に来ることは出来なくなり、その代わりをSさんに頼んだようだ。
Sさんは学校でも嫌だ嫌だ!と猛反発!![]()
「なんで自分なんだ
」とそれなら学校に来ないと言い張り、
先生とのやり取りが続いていた。
そのやり取りをクラスのみんなは見守るしかなかったが、
本当は歌いたい人は他に沢山いたと思う。
でも学級委員長はSさんの歌声を知っていて、Sさん以外には譲りたくないと
こちらも強い意志で訴えていたらしく
最後は学級委員長が泣いて頼む形になり、結局Sさんは渋々承諾せざるを得なくなった。
口は悪いけど、泣かれて断れる人じゃないよなSさんは、と思った。
その嫌がる様子から、可哀想に・・・と心配していた。
Sさんは人前が苦手だし、昔と変わらず赤面症だし、正直大丈夫か?と思った。
当日は自分だけではなくクラスのみんなも本人並みに緊張して見ていた。
思った通り、曲が始まっても眉間にしわを寄せた状態で、
赤面して下を向いていた。
あれだけ嫌がっていたのを皆も知っているので固唾を呑んで見守っていた・・・
が
歌い出した途端、全身に鳥肌が立った!
みんなも同じことを言った!
驚きのあまり両手で口を押えて目を見開いている人達![]()
も大勢いた。
僕達の心配をよそにSさんはまたもや人を惹きつけるオーラを醸し出してしまった。
カラオケが上手いとかいうレベルでは無い、神がかった声の持ち主だった。
たとえSさんの事が好きでなくても、その声で
気持ちを持ってかれそうになった人は大勢いたはずだ。
音域が広く、透き通っていて・・・どこか切なくて・・・
凡人では出せない儚さと危うさを感じさせる声で、しかも天性のうまさ。
現代で言うならば、女版「秦基博」といったところでしょうか。
こう言っちゃ申し訳ないけど、普段の声から想像が出来ないくらい衝撃のギャップだった。
学級委員長が歌う予定だった
「Woman "Wの悲劇"より」と「翳りゆく部屋」という随分前の曲で
僕は全く知らない曲だった。
衝撃な歌詞だったが、それから僕はこの2曲を狂うほど聞くようになった。
Sさんの歌声を聴いた瞬間、
全身に雷が落ちたかのような衝撃を受け、しばらく放心状態になった
そのあとも鳥肌が立ちっぱなしで正直泣きそうだった・・・
僕は
恋に落ちてしまった と 実感した。
Sさんは歌い終わると、何の挨拶もせず、ぶっきらぼうにマイクを置くと
顔を真っ赤にして、そのままスタスタと舞台から降りて行った。
なんだかその姿さえも演出してるかのように印象に残っている。
でもSさんは相当緊張していたのか、はたまた怒っていたのか
舞台から降りただけではなく
そのまま学校から出て行ってしまった。