Pretender〜i音とDと韻と〜 | 不可思議?

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不定期に面白い不思議ネタを書けたらいいな。

人間が詩文を書くようになって、見つけてしまった秘術が「韻」。

同じ音や似た音を拍感のある場所に置くと魂が震えることに気がついてしまった。

人によっては中学校の英語でなんかの歌詞を学んだときに、例えばBeatlesの「Yesterday」の

Yesterday, all my troubles seemed so far away
Now it looks as though they're here to stay
Oh, I believe in yesterday

この「Y」の羅列で、

人によったら国語の漢詩の授業で、

春眠不覺曉
處處聞啼鳥
夜来風雨聲
花落知多少

の「鳥」と「少」で、学んだり体感したりするあれ。
ちなみに漢詩の韻は106種類ある!

しかも、これはルールが難しいわけじゃ決してなく、Beatlesのような港町の不良少年でも使いこなせる、人間とことばの間にある魔法の約束。

タイトルの「Yesterday」の「Y」と「y」につなげて納めていくって、詩文を体感していればできることで、詩型と韻、漢詩の平水韻や平仄のような難しいルールもこういった実感を整理して、経験則と発見から出来上がっている。

ところがである。日本語は述語が文末に来るために、規則的な韻というのが実に難しい言語なんですね。

と、言われ続けていたところに降って湧いたのが去年のヒット曲Official髭男dismさんの「Pretender」。

サビ頭のタメも効いているが、冒頭の脚韻、それに続く繰り返しや脚韻が実にわかりやすく、効果的に使われている。

「ラブストーリー」と「予想通り」
「アイムソーリー」と「いつも通り」
はわかりやすいが、「i」音が「ひとり芝居」や「悪くはない」に続いている。実に基本に忠実で実に上手い。
冒頭の「ひとり芝居だ」「観客だ」の「だ」の締め方もいい。

この「i」音の多用と脚韻、「もっと〜で」の繰り返しで強調される子音「d」の効果も絶大で、キーになるフレーズ「君は綺麗だ」に全部落とし込んでる。

サビだってそう。
「グッバイ」、「ない」の連発、「辛い」「難い」の形容詞。中盤の「痛い」「いや」「甘い」「いやいや」で完全に「i」音ワールドに引っ張り込んでの「kImI wa kIreI da」の「i」で推して「d」でまとめる締めは計算が行き届いていて、生理的にも不自然さがない。しかも曲のメロディや拍もそれをしっかり強調する。

ここ数年の中高生で韻がわからない子がいなくなるんじゃないかなという韻の大傑作。


「i」音の持つキレや薄さも切ない詞の内容にうまく絡んでくる。こういうのって作れそうで作れないし、二の矢は難しいので、これは圧倒的ひとり勝ちでしょう。