「人間性について“絶望”してはいけません。
なぜなら、わたしたちは“人間”なのですから」

(アルベルト・アインシュタイン)




2008年12月29日。日本武道館。


「こんばんわ!ようこそ!

来てくれて、ありがとう!感謝してます!

・・・どうぞ、楽しんで行って下さい」


キュートでメランコリックな「Alice in Wonder Underground」で、
幻想世界で幕を開けた【THE DAY IN QUESTION】は
アルバム『極東 I LOVE YOU』のオープニング・ナンバー「疾風のブレードランナー」へ流れる。

ニュー・シングル「HEAVEN」の発売とマーケティングとリンクして、
公式ファン・クラブ限定ライヴ【FISH TANKer's ONLY 2008】でも、
BUCK-TICKの歴代の傑作アルバムのオープニングを飾って来たナンバーが、ずらりと並び、
熱狂満載のライヴ・パフォーマンスを繰り広げて来ただけに、
この入り方は、或る種の“意図”を感じざる得ない展開と言えよう。

そう、新しいナニカが、始まろうとしていた。

それは、形容し難いカタチのモノであるが、
前向きなエネルギーに満ちていることが、
【FISH TANKer's ONLY 2008】のセットリストの選曲でも、解っていたことだ。

そして、この「疾風のブレードランナー」は、或る種、それを後押しするような、
ポジティヴな輝きに満ちた楽曲であることは間違いなかった。

ややアヴァンギャルドに、やや陰惨に満ちた芸術性を追求していた
マーキュリー時代のBUCK-TICKは、文字通り、“闇からの使者”とも言えるシェイプで、
ロック・ミュージックを造形していたカルトに他ならなかったが、
光への渇望とも言えるBMGファンハウスの第一弾『ONE LIFE,ONE DEATH』で、
前向きに翼を生やして進んで行く姿が、描かれたが、
(それは後半の「RHAPSODY」によって為された)
それを、引き継ぐカタチで2002年3月6日にBMGファンハウスよりリリースされた『極東 I LOVE YOU』。
そのオープニングは、この「疾走のブレードランナー」のSEの感動的なカウントダウン
(まるで、David Bowieの「Space Oddity」だ!)

「Ten death Waiting for every one
 Nine goddes Eight hole boots
 Seventh Heaven Six gun Five, Four star
 Three Angels fly fly fly
 A Boy and a Girl fall in love
 Every one a pleasure song
 Zero 」

から、当時の先行シングル「21st Cherry boy」へと希望を繋ぐような展開がドラマチックだ。

BUCK-TICK史でも、この場面は、名場面と言えよう。

それを「Alice in Wonder Underground」のアッパーな空気感から、
この「疾走のブレードランナー」へ、
そしてそれは、ライヴ・ゴールデン・ナンバー「Baby,I want you.」に繋がるのだから、
まさしく怒涛のBTアップ系メドレーと言えよう。

「疾走のブレードランナー」が収められる
BMGファンハウス移籍後2枚目のアルバムとなる『極東 I LOVE YOU』は、
溢れ出す今井寿のイマジネーションに拍車がかかり
収録時には同作に収められていない楽曲も何曲かレコーディングされていたが、
曲順等を決める際にどうにも収まりが悪く溢れてしまい、
2枚組にする案も出たがそれには曲数が足りず、何より締め切りが迫っていた為、
とりあえず保留ということになり、
その時点ではその数曲をミニアルバムとしてリリースするという話が挙がっていた。

結局は翌年2003年に新たに楽曲を追加し、『Mona Lisa OVERDRIVE』としてリリースとなる。
(※しかし、ほとんどの楽曲を、新しく作り直したと今井寿が語っている)
これにより次作『Mona Lisa OVERDRIVE』と『極東 I LOVE YOU』とは、
対を成すアルバムとして位置付けられており、
静の『極東 I LOVE YOU』と動の『Mona Lisa OVERDRIVE』は対照的な内容の双子アルバムと位置付けられる。

また、それぞれの1曲目と最後の曲が互いに繋がるような構成になっており、
最後の楽曲のタイトルもそれぞれ「Continue(続く)」、「Continuous(連続的な、途切れない)」と、
2作品が対を成していることを示唆している。
更に上記した導入部のSEではの最後の楽曲で
「Continuous」を聴くことが出来る。
(※、『Mona Lisa OVERDRIVE』製作時に今井寿が、『極東 I LOVE YOU』の
「疾風のブレードランナー」を解体、再構築したインスト楽曲となる)

このように様々な網の目のようなネットの“Loop”が、張り巡らされた中に、
時空を越えて存在しているのが、この「疾風のブレードランナー」と言えよう。


【ROMANCE】で僕は、この「疾風のブレードランナー」という楽曲が、
アルバム『極東 I LOVE YOU』という戦時のドキュメントとは、やや違う時間に存在しているのではないか?
と書いた覚えがあるが、
(※正確には、この「疾走のブレードランナー」と「21st Cherry Boy」が、である)
その考えは、今だ、変わっていない。

その戦時を乗り越えた人類の遺伝子を持つ何代か先の子孫が、
映画『ブレードランナー』の世界観の中で、希望を見つけ【ソラ】を舞う姿が描かれているのでは、
ないだろうか?と思えてならないのだ。
そして、その世界観は、当然、
映画『ブレードランナー』をモチーフにした「細胞具ドリー:ソラミミ:PHANTOM」へと“Loop”する。

更に不思議の国「細胞具ドリー:ソラミミ:PHANTOM」の世界こそが、
「Alice in Wonder Underground」のファンタジックな穴の底に存在したのでは、ないだろうか?



2008年の【THE DAY IN QUESTION】では、このドラマチックなSEは省かれ、
唐突的に、樋口豊のベース・ラインが走り出し、
それに、ノイジーな今井寿のスタビライザーが呻きをあげる。
更に星野英彦のレッドバーニーが、ギターリフを刻み始めると、
櫻井敦司が、気合を入れ、キャッチーな今井寿のイントロに繋がって行く。


2本指でオーディエンスを指差し回る櫻井の眼光は鋭い。
エッジが、いつもよりも、鋭く感じるのは、この【THE DAY IN QUESTION】も
【FISH TANKer's ONLY 2008】と変わりない。


「降りしきる酸性雨 黒い雲
 風が吹き 雷が鳴り響いている」


と、まるで小説作品のように、情景を明確に描写している「疾走のブレードランナー」の歌詞は、
今井寿の傑作中の傑作と言えるが、それをイメージさせるように唄う櫻井敦司のパフォーマンスも、
神がかり的だ。


「感じるか 愛しいものの気配を
 そうだろう なんて素敵な光景」


と、まるで愛しい赤子を優しく抱きかかえるような櫻井敦司のパフォーマンスは、
見る者すべてに、愛すべき者の姿を連想させる。

・・・そして大合唱!

「Baby Maybe 共に青い春を駆け抜けよう
 Baby Maybe 思うまま 叶うはず」


この年の【THE DAY IN QUESTION】は、頭から全員参加的なノリで躍動感を伝えていく。
これもベテラン・ライヴ・アクター“BUCK-TICK”のテクニックと言えるだろう。

ロック・バンドを見ていて想うことのひとつに、
それは、ほぼ同期のロックバンド“X JAPAN”や後輩格の“LUNA SAE”を観ていて想うのであるが、
各パートでの“対決”的な印象を受ける点である。
彼らは、自らの才能を光に変えて楽器や声を通じて、ぶつけ合うようなライヴ・アクトが、
どうしても、激しい“対決”を連想させるのだ。

その戦場では、様々のオーラを纏ったカラーが乱反射し、アルマゲドンを繰り広げている。
その戦闘を、まるで、戦争映画を楽しむが如くに見惚れるオーディエンス。


しかし、BUCK-TICKは、どこか違うのだ。

それは、良い悪いの問題ではなく、エンターティメントの種の違いかもしれない。

戦闘を繰り広げている感覚には、違いないのであるが、
ナニカ、巨大な共通の敵を前に、各個人の力を合わせて、挑んでいく。
そんな印象があるのだ。

そして、モチロンのその仲間に、オーディエンスも加わる。
彼らの応援が、BUCK-TICKに力を与え、巨大な敵を協力して倒して行くような光景が目に浮かぶ。

まるで、陳腐なアニメ・ドラマみたいだが、
このSFアニメ・ヒーローモノの主題歌みたいな「疾走のブレードランナー」を聴いていると、
そんなイメージが浮かんでくるのだ。

そして、その巨大な敵とは何か?

この狂った現実世界そのもののような気がしてくる。

「崩れてく黄昏 -SUNSET- 走り抜け
 加速する 俺は疾風 お前はロータス」


今井寿のロックな人生にブースターが付いたとすれば、
それは、まさしく“愛する人”の存在がロータスなのかも知れない。
僕達は、何処までも、この巨大な敵“現実”と愛と死を賭けて闘っているのだ。
それが、“生きる”ということだ。

だから、苦悩し、失墜を経験し、這い上がり、その度に愛する者の気配を感じつつ、
再び、巨大な敵に挑んでいくのだ。

BUCK-TICKは、我らを叱咤激励する。


「聞こえるか 風は狼のブルース
 忘れるな 世界は輝いている」


そう・・・

「Baby Maybe その向こうに風が吹いている
 Baby Maybe わかるだろう叶うはず 祝福だ」



BUCK-TICKもまた、共に闘いつつ、我々にエールを贈ってくれている。
こんな!ロック・アーティストが、今だ、存在したであろうか!?
だから・・・僕らも諦める訳には、い・か・な・い!


「今夜 お前に届けよう 宝物だ 約束だ
 頬をつたう酸性雨 青空の下で あふれてる」



だから、僕は、この曲を聴くたびにあたたかい涙が込み上げてくる。


「夜を彩る あの星座 見つけたんだ 永遠だ
 心を奪う感覚 -SENSATION- 闇にひとつ 流れてる」


【ソラ】と【ミウ】の冒険物語のように、
僕達も、日々、不安と戦いながら、その先に輝く“希望”に向かって、
挑み続けるのだ。

何度、失墜したって構わない。

それが、生きた証拠になるのだら・・・。

今井寿のスタビライザーから奏でられるギター・ソロが、胸を熱くする。
それに、寄り添うように櫻井敦司が横に立ちコーラスを観衆に求めている。


「Baby Maybe 共に青い春を駆け抜はよう
 Baby Maybe 思うまま 叶うはず」

「Baby Maybe その向こうに風が吹いている
 Baby Maybe わかるだろう叶うはず 祝福だ」



哀しみも、憎しみも、乗り越えて、
我々は、不毛の大地を渡り、此処に至る。



君が駆け抜ける。
この世界は輝いている。

酸性雨が、この身を撃ちのめしても、
いつか世界は、輝くでしょうと、歌い続けるのだ。

輝くんだ 世界中 目覚めてくれ。
深い闇で生まれたお前は愛。


お前の鼓動を聞かせてくれ!






$【ROMANCE】









疾風のブレードランナー
 (作詞・作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)


Ten death Waiting for every one
Nine goddes Eight hole boots
Seventh Heaven Six gun Five, Four star
Three Angels fly fly fly
A Boy and a Girl fall in love
Every one a pleasure song
Zero

降りしきる酸性雨 黒い雲
風が吹き 雷が鳴り響いている

感じるか 愛しいものの気配を
そうだろう なんて素敵は光景

Baby Maybe 共に青い春を駆け抜はよう
Baby Maybe 思うまま 叶うはず

崩れてく黄昏 -SUNSET- 走り抜け
加速する 俺は疾風 お前はロータス

聞こえるか 風は狼のブルース
忘れるな 世界は輝いている

Baby Maybe その向こうに風が吹いている
Baby Maybe わかるだろう叶うはず 祝福だ

今夜 お前に届けよう 宝物だ 約束だ
頬をつたう酸性雨 青空の下で あふれてる
夜を彩る あの星座 見つけたんだ 永遠だ
心を奪う感覚 -SENSATION- 闇にひとつ 流れてる

Baby Maybe 共に青い春を駆け抜はよう
Baby Maybe 思うまま 叶うはず
Baby Maybe その向こうに風が吹いている
Baby Maybe わかるだろう叶うはず 祝福だ

今夜 お前に届けよう 宝物だ 約束だ
頬をつたう酸性雨 青空の下で あふれてる
夜を彩る あの星座 見つけたんだ 永遠だ
心を奪う感覚 -SENSATION- 闇にひとつ 流れてる

$【ROMANCE】