「アダムスミスは自己の利を求めることで、
グループにとって最も良い結果を得られると言った。
しかし、これは正しくない。
グループにとって最も良い結果とは、みなが自己の利と、グループの利を求めた結果である」
(ジョン・ナッシュ)
映画『ビューティフルマインド』の中で天才数学者が言う。
原文はこうだ。
「Adam Smith said the best outcome for the group
comes from everyone trying to do what's best for himself.
Incorrect. The best outcome results
from everyone trying to do what's best for himself and the group」
こう言って天才数学者ナッシュはナイト・クラブで、ブロンドの美人を獲得することに成功する。
映画『ビューティフル・マインド』(A Beautiful Mind)は、
ノーベル賞受賞の実在の天才数学者、ジョン・ナッシュの半生を描く物語で、
2001年のアカデミー賞では作品賞、監督賞、助演女優賞、脚色賞を受賞し、
ゴールデングローブ賞では作品賞(ドラマ部門)、脚本賞、主演男優賞、助演女優賞を受賞した。
「人生に確かなことなんてない、それだけが確かなことなんだ」
と語るこの天才数学者ジョン・ナッシュは、大学生の時統合失調症になる。
本人はそうだと気付かずに生活していくなかで、数による真理を見つけるのだ。
その結果、妻に支えられて幻覚や幻聴と闘いながらも、ノーベル賞を受賞する。
或る意味、現実は、映画の世界より数奇であったいえよう。
実際のジョン・フォーブス・ナッシュ・ジュニア(John Forbes Nash, Jr.)の
専門分野はゲーム理論と微分幾何学である。
1994年、彼は他の二人のゲーム理論の専門家、
ラインハルト・ゼルテン、ジョン・ハーサニとともにノーベル経済学賞を受賞した。
ナッシュはバイセクシャルであり、男性との浮気がもとで離婚しているため、
映画化されたナッシュは現実からあまりにも美化されていると物議をかもした。
また、映画における統合失調症の誇張された描写がこの病気に対する誤解を招くとの指摘もある。
具体的には、幻聴は統合失調症の経過においてしばしばみられる症状の一つだが、
この作品にみられるほどの明瞭な幻視体験は稀なことなどである。
ナッシュは17歳の時、カーネギー工科大学にジョージ・ウェスティングハウス奨学生として進学。
入学当初は専攻が化学であったが、教員の勧めで数学に変更。
選択科目で国際経済学を学び、経済学に対する興味を持つ。
この大学で学士号を取得し、1948年には修士号を取得する。
取得後、プリンストン大学に移り、ゲーム理論の研究を本格的に始める。
この時、カーネギー工科大学での指導教官がプリンストン大学へと送った推薦書は
「この男は天才である」と書かれただけの一行の文章であったという。
少し堅い話になったが「疾走のブレードランナー」で証明されるBUCK-TICKの機能美に、
この姿を見る様な気がする。
ライヴ【THE DAY IN QUESTION】は、このチーム・ワークの結晶といえる
「疾走のブレードランナー」から今井寿のスタビライザーのShootinを残したまま
「Baby,I want you.」へと突入する。
板倉雄一郎のエッセイでナッシュの言葉が引用されて「市場流動性」が翻訳されている。
アダムスミスの言う己を個人投機家、ナッシュの説く己を個人投資家と解釈することができる。
板倉雄一郎の文章における、最後の引用もなかなかどうして素敵であるが、
加えて、ジョン・ナッシュの言葉そのものに感銘を受ける。
チーム(グループ)のためにという言葉は良く聞く。
それは企業然り、サッカー然り、ラグビー然りのチーム・ワークの基本のようだ。
同時に自己の最善を求めることが、グループのためになる、というところ。ここがいい。
よくある言葉かもしれないが、現代において感じることが多い事項で身に染みるのだ。
誰もが、共同体と共にいきつづけているからだ。
言葉は、その言葉に触れる瞬間の状態で、味わい、その人にとっての意味が随分と変わってくる。
ナッシュの言葉を解釈すると、
自己の短期的な利を積み重ねることは誰かの利を奪うことになるのではないかということだ。
長期的に自己成長を実現することは、誰からの利を奪うどころか、
属するグループに良い刺激を与えることが可能ではないだろうか。
その逆もしかりで、グループに属するものに良い刺激を受けることになると考える。
最終的にはそういう人間が揃うことで、集団としてハッピーということになる。
自分のために、グループのために。
目の前の利にやや踊らされつつも、長い目でみた成長を志す。
BUCK-TICKの誘惑はまさしくコレだ。
個性をぶつけ合わせて、魅力的なオブジェが完成することがある。
しかし、長期的には、刹那の美しさで、終焉を迎える。
が、BUCK-TICKは、その個人の足りない部分をメンバーが補い合って此処に至る。
だから、こそ、到達出来得る境地が、其処にはある。
どんな天才も、ひとり切りでは、仕事ひとつ出来ないのだ。
天才:今井寿の世界を実現するメンバーが其処には、在る。
そして、カリスマ・パフォーマーを生かす楽曲とサウンドが存在する。
その実りを享受し、エネルギーを贈り返すオーディエンスが集結する。
その、実に機能的な理想“Loop”が実現しているのが、【THE DAY IN QUESTION】だ。
ジョン・ナッシュは1950年、非協力ゲームに関する論文 "Non-cooperative Games" で
Ph.D.(博士号)を取得した。
この論文はアルバート・ウィリアム・タッカー教授の指導の下に書かれ、
後にナッシュ均衡と呼ばれる非協力ゲームにおける均衡解に関する定義と特性が含まれていた。
ナッシュ均衡(Nash equilibrium)は、ゲーム理論における非協力ゲームの解の一種であり、
いくつかの解の概念の中で最も基本的な概念である。
当然、このネーミングはジョン・フォーブス・ナッシュにちなんで名付けられた。
ナッシュ均衡は、他のプレーヤーの戦略を所与とした場合、
どのプレーヤーも自分の戦略を変更することによって、
より高い利得を得ることができない戦略の組み合わせである。
ナッシュ均衡の下では、どのプレーヤーも戦略を変更する誘因を持たない。
ナッシュ均衡は、必ずしもパレート効率的ではない。
その良い例が、囚人のジレンマである。
囚人のジレンマ(Prisoners' Dilemma)は、ゲーム理論や経済学において、
個々の最適な選択が全体として最適な選択とはならない状況の例としてよく挙げられる問題で、
非ゼロ和ゲームの代表例でもある。
この問題自体はモデル的であるが、実社会でもこれと似たような状況
(値下げ競争、環境保護など)は頻繁に出現する。
シリアスになり過ぎる櫻井敦司のジレンマを、
何処までもぶっ飛び過ぎる今井寿のジレンマを、
自己主張しなさ過ぎる星野英彦のジレンマを、
緻密になり過ぎる樋口豊のジレンマを、
頑固になり過ぎるヤガミトールのジレンマを、
BUCK-TICKが溶かしていく、「Baby,I want you.」が溶かしていく、
日本武道館に溶けてゆく。
グループが、最大の利益を得るために。
この世界が、最高の輝きを放つために。
「もう少し 側にいてくれるかい?
後少し 夜が逃げていくその前に
さあ踊ろう 泣けてきちゃうくらい
喜びで 狂おしいほど震えるさ 」
「Baby,I want you.」以前に
BUCK-TICKがここまでの4つ打ちのダンスナンバーを披露したことあったろうか。
現在もライヴでパフォーマンスされると必ず会場が揺れる。
どこまでも、クールで、デカダンで、ダークなロック・バンドの、
感電しそうな、アッパー・スタイル・スーパー・デジタル・ロック。
そして、官能的な世界を描かせたら、右に出る者はない櫻井敦司の会心の「SEX SONG」。
この火傷しそうなくらいに、あなたを求めるハイパーチューンで、
2000年9月20日リリースのBMGファンハウス第一弾『ONE LIFE,ONE DEATH』は、幕を開ける。
このアルバムを初めて聴いた時、それまでのBUCK-TICKワールドは、一瞬真っ白に消えた。
そんな、脳裏の“過去”を振り切る程の刺激が、この楽曲にはあった。
このハイパーチューン、楽曲の構成自体は非常にシンプルと言えよう。
AメロBメロで乗せるだけ乗せて置いて、サビで一転。
甘い感覚を呼び寄せ、更に追加されたグルーヴでトドメを刺す。
終盤の全プレイヤーかき鳴らしの轟音では、誰しも鳥肌が立ってしまうだろう。
ロカビリー・テイストな樋口“U-TA”のベース・フレーズが、またも印象的に楽曲を引っ張る。
イントロのテルミンも今井寿のスタビライザーのノイズ・アートもふんだんに取り入れられ、
星野英彦の刻むレッド・バーニーからの歪んだブギー音に感電しそうだ。
ヤガミ・トールは、やや後ろ目から余裕のロック・ドラミングを聴かせてくれる。
アニイのドデカい、バスドラが日本武道館に響く。
マシナリーなDAT打ち込みサウンドとグルーヴを合わせていくようなリズム隊。
「HEY! U!!!」
そう、すでにお約束になった櫻井敦司のコールで、
樋口“U-TA”豊のバリバリにキマッタ、ベースが嘶くと、
新アレンジは、20周年のアニヴァーサリー・ヴァージョンとも言える今井寿の
ロケン“Lucy”からの引用「GA GA DISCO」フレーズが更に同期化される・・・。
樋口“U-TA”豊が、ステージ全面に登場し、美麗なゼマティスベースを
まるで、生き物の様に嘶かせる。
今井寿と星野英彦がそれぞれの花道へ進みオーディエンスを煽る。
ステージ中央では、櫻井敦司がドラム・キットに登り、
ヤガミトールに寄り添うように、唄い、踊る。
5人でひ・と・つ・だ。
いや、お・ま・え・と・ひ・と・つ・だ!
この日本武道館9,000人がひとつだ。
バンド・サウンドとしての一体感でも、最高のクライマックスを
この「Baby,I want you.」は見せてくれる。
ヤガミトールを後方に残し、
今井寿、櫻井敦司、樋口“U-TA”豊、星野英彦がステージさ前面で観衆を煽る姿と、
バンドのここまでの軌跡がまるで“輪廻”のように渾然一体となる。
完璧なるロック・ショウだ。
この時、BUCK-TICKは、“最強の武器”を手にしたと言えるだろう。
「Baby,I want you!
嗚呼、今夜も、おまえが、ほ・し・い・・・」
この一曲だけで、この後50年は、ロックが滅びることはないと確信出来る。
2008年12月29日、日本武道館「Baby,I want you.」そして「ANGELIC CONVERSATION」
が立て続けに演奏され、一気に場内はBUCK-TICKワールド全開に突入して行く。

Baby, I want you.
(作詞:櫻井敦司/作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)
トロピカル SEXY天国 飛び散るステーキソース
美味いぜ 血も滴る様なBABY
ざわめく獣の瞳を かすめるピンヒール
逃がした 魚デカイゼBABY
タフに生くのさ デラシネのBoys&Girls. 愛の夜に
ハードにディープに縛られ 自由が燃え上がる
あなたも 疼いてくるだろうBABY
さあ今 踊れよこの世で お前の腰がSWEET
可愛い あの娘を抱いて踊れ
クールに生くのか デラシネのBoys&Girls. 愛の夜に
もう少し 側にいてくれるかい後少し 夜が逃げていくその前に
さあ踊ろう 泣けてきちゃうくらい喜びで 狂おしいほど震えるさ
勇気を見せるか デラシネのBoys&Girls.
胸を張るのさ 美しきBoys&Girls. 愛の夜に
さあ踊ろう 泣けてきちゃうくらい喜びで 狂おしいほど震えるさ
さあ踊ろう 濡れてきちゃうくらい喜びで 気が狂うほど震えるさ
