「愛しいものを全て

 胸に抱いて

 君が宇宙 」







ラストショウ、ラストの一曲・・・。

2007年12月29日の日本武道館も、ラスト2曲目に、
20年前のメジャーデビューアルバム『SEXUAL×××××!』のエンディングと
次の年リリースされたヴィデオ・クリップ集『MORE SEXUAL×××××!』でも、
エンディングを飾った「MY EYES & YOUR EYES」の天使ヴァージョンが演奏されると、
花道に背を向ける櫻井敦司は、暗転するステージの中、後ろに手を組んで、
ドラムス、ヤガミ“アニイ”トールのところまで還ると、
今井寿のギブソン・セミアコ・サンバーストが、お馴染みのギターフレーズを奏でる。

と同時に、日本武道館は客電が全面点灯し、
この2007年の【PARADE】と【天使のリボルバー】の
ふたつのライヴ・ツアーの、すべてのステージで、
エンディング演奏された一曲「スピード」がスタートする。

なぜか、最期の一曲も、この楽曲であることが、明日に繋がっていくような、
そんなポジティヴな鼓動を感じるパフォーマンスとなったと言える
最期の「スピード」!

大観衆は、もう、ひたすら飛び跳ねることになる。
なかには、号泣して顔を抑えて跳ねるファンもいる。
もう、すでに彼女たちの眼には何も見えていないのかもしれない。

どこまでも無限に官能が震える・・・
しかし、それは、聴いた瞬間にすでに過去のもの・・・無?

そう、BUCK-TICKナンバーは、
リスナーの暗い鬱憤を解き放つナニカを持っている。
それまで自身の底に、溜まりつつあるナニカ・・・。
それが、何であるかは、個人によって違いがあるし、
その暗さにも、差異があるのは、間違いないが、
BUCK-TICKの持つ普遍的な愛によって、それが解除される快楽は、
オーディエンス皆が共有出来るモノであるような気がする。

その深さは、思考を奪い、知覚するものは芯を凝視するだけ。
その感覚は、無でもなければ、空でもなく、共鳴する喜びだけが知覚される。

その共鳴こそ至高。
共に震えることは、すべてのロゴスを語る。

始まるという期待があるからこそ、万物は、この共鳴に官能の極致を見る。

だから、失神しても怖くない。
共鳴していられるのだから、自分は、そのものに支えられているという、
溺れていられる幸福のなかにいる。

あるのは震える僕とあなた。

これこそが命が求めて、触れたがっているもの。
しかし、それは過去を追従し再現しようとする意識でしかない。
・・・現実・・・現実は錯誤?妄想?

そうではなく錯誤と妄想から現実は構築されるのか?

そうなるのだ。

そう信じればいい。

一度生まれたら、体験しなければならない大切なこと。
知のロゴスは、そう世界を切り取ろうとする。
だからまだ絶叫する。

愛し合うことは、他者と触れることだから。

命が命を実感できる絶対充実の一刻。

それも愛。



今井寿はイントロのフレーズを奏でながら、すぐさま自身側の花道を登り、
2階のファンのもとにかけより、供に祝福の「スピード」をスパークさせる。
欣喜雀躍する2階席のファンたち。
それを渾身の笑顔見つめる樋口“U-TA”豊に、ヤガミトール。

櫻井敦司は、イントロの間、ナニカ、少し想いに耽るような表情で、
いつものように、鋭い眼光を観客に向けている。
星野英彦のJAZZMASTERからスラッシュするギター・カッティングが空気を切り裂くと、
花道の先端で、今井寿が、足を踏み鳴らしてクラッシュする。
観衆からは、歓声があがる!




「人差し指を頭に突き立て ブッ飛んでいる AA AA

 いつでも頭ギリギリ 錠剤 噛み砕いて AA AA」



もうこの「スピード」は飽きた?

とんでもない!

何千回、聴いたかわからないが、何度聴いても、新しい発見がある。
いつものように指で拳銃をカタチドリ、櫻井敦司は振り回してから、コメカミ目がけてStooting!
喉元に手を這わせて、数えきれないクリスタルを呑み込むと、
銀河の果てまで、ブッ飛んでいく!
跪く櫻井敦司の後ろで、クールにジャイヴするヤガミトール。



「ためらいをとめて 摩天楼 ダイブするのさ」



スクッと立ち上がる櫻井は、両手を広げてすべて赦したいと思えば、
この日本武道館に“新世界”が光臨する。
もう“悪魔”も“天使”も“神”も一緒に、
この「スピード」の向こう側を目指してダイブするのさ!


「今夜も頭ギリギリ 骨まで透けて見えた AA AA

 安らぎをとめて 今宵の共犯者達へ」



そう、今宵は我ら“共犯者”・・・。
この世界を、“新世界”へと塗り潰す“共犯者”・・・。
それは、この17年間変わっちゃいない。
所謂「心の革命」を冒すのだ。
お前の背中が、透けて見るえるゼ!
空っぽの「密室」を【ROMANCE】で満たし、
このハイウェイは、ブッ飛ばして行こう!

意識が物理的に繋がったとしても、それは特別なことではなく、
我々がいつも経験していることだ。
理解しあった親子関係は、そのようなものだし、相互に一目惚れした男女の関係もそうだろう。
仕事関係でも、めざすものものが同じ基盤であれば、成立する共鳴。
戦友ともこんな感覚はあるだろう?

「スピード」は、そんな僕らの共通言語だ。

U-TAが不敵な笑みを浮かべながら、アニイに近づいていく、
アニイもそれに気付いて二人の視線が合う。
もう何回、このリズム・パターンを二人っきりでリハーサルしたことだろう。
でも、その都度、二人は新しい“発見”をして、「スピード」の先まで、アクセルを踏み続けた。
そのエンジンは、普通なら、この長い走行距離の為に、ガタついても可笑しくはない。
しかし、その都度、エンジンは馬力を上げて、猛烈なアクセル・ワークに対応していく。
マシンが、まるで、その身体に馴染んで行くかのように、
「スピード」の先まで、ぶっ飛んで逝く。

制限速度?

それは、この二人には関係ない。
エンジンの回転速だけが、身に沁みいるように伝わってくる。
そんな「スピード」だ。


「女の子 男の子 一筋 傷と涙を
 痺れた体 すぐに楽になるさ」



髪の毛の振り乱しながらU-TAが、ヒデのポジションまで下りていく。
ヒデは、自分側の花道から、櫻井敦司の前を横断して、今井寿のもとに向かう。
今井寿は、ギブソンで、口走りながら、絶妙のマイマイ・ダンスに興じている。
ヒデと寿のランデヴー、今井側花道のフリークは今にもイってしまそう!
気が付けば、U-TAは、櫻井に背を向け腰を振る。
アニイとのコンビネーションが歯車を合わせながら突き抜けて行く。
櫻井敦司はといえば、ステージ中央で、恍惚リボルバーをブッ放している!


「蝶になれ 華になれ 何かが君を待っている
 愛しいものに全て 別れ告げて」



今井が口ずさみながら、足を高くあげるマイマイキックを御見舞している。
スキャットしながらゆっくりと花道を進む櫻井敦司。
彼の絶品ファルセットが炸裂する。


「-イカレタノハオレダケ

 キミハスコシマトモダ-」



サイドの花道から戻ってきた今井寿。
そして、回転しがらJAZZMASTERを掻き毟るヒデ。
乗り乗りのグルーヴに身を任せたU-TAが次々と中央のクリスタル花道へと集結していく。

20年間でも、こんなシーンはお目にかかったことがない!
狭い花道の先端部では櫻井がGLOMROUSに肢体をウネリながら唄い、
その後ろにマイマイを舞う今井寿。
一心不乱にギターを掻き毟る星野英彦。
髪の毛の振り乱してグルーヴする樋口豊。

・・・その最後部では、我らがアニイが、弟達の勇姿を眺めながらニヤリとほくそ笑み、
大胆なブレイクを決めている。


$【ROMANCE】


「スピードをあげて 摩天楼 ダイブするのさ

 ボリュームをあげて 今宵の共犯者達へ」



メロディを奏でる今井寿、ビートを刻むヒデの間のtight ropeを渡るように、
潜り抜ける櫻井敦司。
後部には、U-TAが大股開きでベースを振りかざす。

花道最先端では左右対称のツインギタリスト今井&ヒデが、「スパイダー」の時のように、
鏡映しで、それぞれのパートを味わい深く聴かせると、
ステージ後列では櫻井がU-TAにヒップアタック。
お返しにU-TAが櫻井の背中に顔を埋める。

そうだ。

彼らはバンドを始めた悪友時代となんら変わること無い関係を維持してきたのだ。

ミュージシャンのアイデンティティとか、
ビジネス上の利害関係とか、
それ以前の最もシンプルな人間関係、だたの友、されど友。
純粋な人間関係だけが、彼らの絆となっている。

だから、こそ、最強だ!

人の形態、自然の形態そのものに、記憶機能がある。
その記憶が、めざすべきものが同一であれば、共鳴は強い。

問いかけるもの、求めるものは同じであったからこそ、
直結した意識は、同一のテーマに向かって絡み合う。

互いが、愛し合うという関係を手に入れたい。

そのためにはどうしたらいいのか?

それがこの状況でできるのか?

できるようにしたい。

そうすれば愛し合える。

愛し合えば、

アイシ、アエレバ・・・・・・

ア、イ、アレバ・・・・・・

すべてが解決するのか?

解決できるように、し、よ、う。



「女の子 男の子 君には自由が似合う
 これが最後のチャンス アイシアオウ!」




定ポジションに戻るメンバー達・・・。
櫻井敦司はセクシーに股間から力強くガッツ・ポーズを出している。

そうでなければ祝福されることのない愛は、人を不幸にする。

それは充分な愛ではない。

愛するということは、充分に愛されることだ。

充分に愛される為には、充分に愛することだ。



「蝶になれ 華になれ
 素敵だ お前が宇宙
 愛しいものを全て 胸に抱いて
 君が宇宙」



今井のコーラスとともにBREAK!


「目覚めは今日も冷たい 月夜のガラスケース AA AA
今夜も頭ギリギリ 骨まで透けて見えた AA AA」



ステージに腰掛ける櫻井は、愛すべきファン達に早口で語りかける。



「どうも、アリガトウ!!」


壮大なるラストブレイクが、世界を点滅させながら始まる。

櫻井敦司は手を振りながらクリスタルの花道を進む。
大観衆は、当然、この「スピード」が最期の一曲とわかっている。
寂しさと同時に、愛しさが溢れ出し、もう、どうしていいかわからないといった表情。

絶叫は、言葉ではなく、時空の流れに共振して、
虚空を広大無辺なものだと教えてくれる。

わかっているから絶望する。
わかっているから、慟哭する。
諦観の波は虚無に向かう激流になり、
その静かな渦のなかに肢体を見ては、肌の乾いたぬくもりに触れなければならない。

両腕と胸と腹部と足ともに肌の感触となって押し寄せ感触を逃すまいと力をこめて抱きしめる。
その掌の広がりが背中いっぱいに感じられる。

これが愛している人がくれる至高か!
これが、愛しているものの深さか!

その観客に向けてブレイクの最中にMCを始める櫻井敦司。



「どうも・・・アリガトウ!

20年間どうも・・・21年目も・・・

宜しくお願いします!

“みなさんに幸あれ”!

武道館、どうも、ありがとう!

また、逢いましょう!!」




そして、櫻井敦司が珍しく客席を煽っての掛け合いが始まる。

櫻井「Hoooooo!」

観客「YEAH!!!!!」

全身で客席を煽り
ちょっと照れたように下を向いて親指を立て

「GOOD」サインを示す櫻井敦司。

「THANK YOU!!!!」

後ろを向いて叫んだ櫻井を笑顔で見つめるアニイ。

その前を横切り最期の最後には彼らしく礼儀正しく
「どうも、ありがとうございました!」
と、挨拶をしてステージを後にする。



櫻井敦司は立ち去った後も、残ったメンバーでのアウトブレイクは続く。

四人は何度も顔を見合わせながらも、大きな波と作り出すようなアウトブレイク!

ブレイクの指揮を執るのは・・・今井寿。

再度、自身の花道の先端で、ファンに感謝と贈りながら3度のブレイクを決める。
そのタイミングに、アニイとU-TAの樋口兄弟が、
「嗚呼。また、やってる」と目を合わせて笑う。
ヒデは、ステージに今井が戻ってくるの待つかのように、
渾身を込めてギターをかき鳴らす。

今井寿がメインステージに戻ってると、ラストのアウトブレイクが弾ける。
瞬間、日本武道館も大きく揺れる。

今井が地団太を踏み、ヒデが回転し、U-TAが仰け反る。
アニイのドラムが武道館が歪むようなソロを決めると、
今井のギターが余韻を残しつつ最後の最後の最後のブレイク!

20年間ありがとう!BUCK-TICK!

これからも、宜しく。



結論、僕は、彼らの魅力から離れられそうも無い。


そう強く実感した20年目が、終わる。

















「なぁ!マダム!
今度、バンドを組むことにしたから、
この“店”で演らせてくれよ!」



“ダム・ドラの店”。



「可笑しなこというわね!ルシファー。

いいこと。オーディションをして“契約”をしてからよ!
私には“契約”が、大切なの!
わかるでしょ?ルシファー」


突然、何を言い出すのか?と少し驚いた顔を見せるマダム・サキュバス。
生粋のサディストを気取っていた彼女も、
いつの間にかペースをこの流れのギタリスト・ルシファー・ディアボロに握られるシーンが、
増えて来たことには、気付いている。
だから、こそ、上下関係を、もう一度示すためにも、
大声を張り上げて、この喧騒の中の“ダムドラの店”で、客の前で怒鳴りつけた。


「あははは!怒った!怒った!
でも、メンバーを見てそんなこといってられるかな?マダム」

とまるでいたずらっ子のような表情で、まったくマダムの威厳を無視するルシファー。
その表情には、宝物を見つけた子供ような瞳がキラメキを称えている。

“どうも、この子には、調子を崩されるわ”

と少し苦虫を噛み潰したようなマダムも、
自分に生意気な口をきく、このギタリストのことは認めざるえなかった。
それは、ギターの技術というよりは、彼の内面から滲み出る可能性といったほうが正しかった。
そう、技術的には、決して傑出したギタリストではない。
彼よりも美しい音色を奏でるギタリストは、この世界にゴマンと存在するし、
酒場に、バンド形式の大所帯は、ギャラから言っても、決してオイシイ話ではない。

ただ、ルシファーの作り出すメロディには不思議な魅力があった。
奇抜で、どれも初めて聴くような曲が多かったけれども、
ギターをまるで、魔法の杖のように使って紡ぎだすメロディには、
不思議とマダム・サキュバスを、なにか、なつかしい昔に運び込むような魅力があった。

そう、彼女の遠い遠い過去の記憶に引き戻すような、
遺伝子レベルで惹きつけられるような説明できない魅力があった。
だからこそ、彼女は、ルシファーと“契約”してみようと思ったのだ。


「なぁ、マダム!
そんなこと言ってっと、絶対、後悔するゼ!

まあ、見てろよ。

連れてくるヴォーカリストのツラを見たら、マダムでも腰を抜かすぜ。
あんな美しい男は、いねえからな、いくら、この世界中見回しても、だ!」


と軽口をルシファーが叩いている内に、マダム・サキュバスの瞳孔が開くのがわかった。
まるでガラス玉の猫の目のようだ。

そのまま硬直したマダム・サキュバスは手にしていたワイン・グラスを落として割った。
砕け散ったワイングラスには、血のように赤い 「ロマネ・コンティ」がまだ残っていた。
このワインは"飲むことより語られることが多いワイン"とも言われ、
"世界最高の赤ワイン"と称される味わいもさることながら、
投機の対象として利用されるケースも多いとワインだ。

砕け散ったワイングラスも一目惚れしそうな美しいロブマイヤー社のワイングラスで、
バレリーナブルゴーニュというグラスで、
国賓のギフトや大統領府、各国のオーストリア大使館で使用されてる品物だ。
熟練した手作りの伝統があって昔からの技法を守り続け、
マシーンメイドでは実現できない芸術作品と言えた。

そんなモノをこよなく愛していたマダム・サキュバスも、
この高級ワインも、そして砕け散ってしまった高級ワイングラスも、
意識から遠のいたように、硬直して動かない。

そして、どこで、どのように感じて声を発したかも、わからないが、
ひとこと、こうかすれた声を発した。


「・・・ジーザス?」


「フン!来たか・・・」


とルシファーはほくそ笑む。


「ほら。言ったこっちゃない・・・」


“店”のウエスタンドアが開くとその先にはひとりの男が立っていた。

それは、イエスの顔をした男で、鋭い眼光で“店”を見回していた。


「こっち!こっち!」


とバーカウンターで、ルシファーが、バーボンのグラスを高くあげて呼び込む。


「探したよ。ルシファー・・・」


鋭い眼光が少し優しく緩んで、男は、ルシファーの処へゆっくり歩いてくる。
マダム・サキュバスは気が動転してまだ、身動きがとれないようだ。

そんなマダムの手を取って、男は、礼儀正しく手の甲にKISSをする。


「ウィ、マダム。ご機嫌麗しゅう」

「アラアラ・・・」


とルシファーが硬直するマダムを見て両手を挙げる。

確かに美しい男だ。
帽子深く被り、煌めくような黒髪のワンレングスで、
男だか女だかわからないような格好をしている。
誰がどう見ても美しいとしか表現できない風貌は、
中性的なフェロモンを振り撒いて男性にも女性にも、
虜にしてしまうような輝きを讃えていた。
同時に、笑顔になっても変わらない鋭い眼光は、
まるで、この世の罪をすべて背負ったような"闇”の深さを感じさせる。
黒いロングドレスを纏ってロッカーというよりは、
何かの別の空気観を漂わせている。

こんな男を侍らせてみたい。

これは、正常な女性の感覚だろう。
海千山千のマダム・サキュバスをもそう思わせる風貌であったことは間違い、ない。

しかし、彼女の身体がかたまって動かなくなってしまったのは、別の理由だ。
遠い遠い遺伝子に残された記憶が、光の束になって、
彼女の「密室」から分泌され、それが蜜のようにドロドロと溢れ出てきた所為だ。
それを抑えようとすると身体が、一ミリも動かなくなってしまう。



$【ROMANCE】






「紹介するよマダム。うちのヴォーカリストのジョナサンだ」


「・・・ちょっと、ルシファー。どういうことよ!
どうなってんのぉ。どう見てもイエスじゃない!?
アンタ憶えてないの?イエス・キリスト!
私たちのメシアよ。」


「はぁ?何言ってんだ。マダム?
高いワインばっか飲んでるから、
脳ミソが溶けて頭でもおかしくなったんじゃないのか?

こいつは、ウチのバンドのヴォーカリストだよ。
まっ、最近まで、ドラム演ってたんだけどな。
こいつも、あんたのように世捨て人みたいに、酒ばっか飲んで、
この世界を、憐れむような目をして喧嘩ばっかしてたから、
面白いってんで、声をかけたのさ。

初めは俺をニラミつけやがって全然言うこときかなかい野良猫みたいだったけど、
俺がギターを引き始めたら、急に、目を輝かせやがって、
バンド演ろうゼ、って、言い出して。

俺はメンドくせーから一人で演るよ、言ったら。
こいつが、駄目だって言い張って。

じゃあ、俺がベースやるよ。
って俺の弟分が言い出して。
そいつは、馬鹿なふりしてんだけど、実は凄いしっかりしたヤツで、
俺の足りないとこ全部持ってるんだ。
気が利くから、すぐにバンドに必要な楽器とか何処からか調達してきて。
チッチャいヤツなんだけど、頼りになるヤツで、
俺たちが酔っ払って暴れても、しっかり後始末を黙ってやってくれるようなヤツなんだ。

そいつが、今度、もう本格的にドラムやってる実の兄貴に教わろう、って言い出して。

そしたら・・・

ジョナサンが・・・

なんの心境の変化か、急に唄いたいなんて言い出して。

それで、そのベーシストの兄貴を無理矢理ひっぱり出してバンドに参加させたよ。
まあ、ウチのバンドには勿体無いくらいのいいドラムだよ。
結局、得したかもな。

でも、コイツも意外と唄わしたら凄いんだ。俺もビックリしたよ。
ルックスだけじゃない。

それとその他にもベーシストがどうしてもって自分のマブダチも仲間に入れてくれっていうから、
身体つきのデカイギタリストも、もう一人いるから宜しくな。マダム」


何かに獲り憑かれたように、早口で捲し立てるルシファーの説明に、
瞳を真ん丸くして、少女のような表情で口をホカンを開けているマダムは、
なんとか、ルシファーに言い返した。



「アンタ。何言ってのよ!本当なのコレ?」


「ああ、ウルセーな。本当だよ。本気なの!俺のバンド!」


「ねぇ、ルシファー。一曲演って見たほうがいいんじゃないかな?」


そういってこのジョナサンという美しい男は、ニヤリと片方の口をあげて微笑んだ。


「楽しくなるゼ。骨までしゃぶっていいかな?」


「ああ、そうだな。そうするか?
まぁ、まだ、バンド名も決まってないけど、非難轟々な感じで一曲演りますか?」


「うん。演ろう。とろけそうな【ROMANCE】で、皆、逝かせてやろう」


そして、二人は“ダムドラの店”のステージに勝手に上がり即興で唄い始めた。

まるで、お互いに足りなかったものを補い合うような二人。
確かにルシファーのギターは、この美しい男を最高に魅力的に魅せるし、
このヴォーカリストも歌唱力そのものよりも、ルシファーの持つ世界観というものを、
何倍にも増幅して表現するパフォーマーに違いない。

そこまで、瞬時に見極めたマダム・サキュバスも、
自分のアーティストを見る目も、まだまだ棄てたモンじゃないと感じる。
でも・・・
勝手にステージに上がられて唄い始められると“店”にとっては商売になったもんじゃない。
実際そのあと用意されていたすべてのバンドの演奏は、スケジュールが滅茶苦茶になり、
怒って演奏せずに、帰ってしまったJAZZピアニストもいた。

でも、楽しそうの演奏する二人を見てると、
もう一曲くらい“契約”のないバンドマンに、このステージを貸してやってもいいか、と、
ため息交じりに諦めてメンソールのスリムのシガーをふかすマダム・サキュバス。



“ああ、もう、契約どころじゃないわよね。
どうなっちゃってるのかしら?
あのイエス・キリストが復活したっていうの?
こんな時代に!なぜ?
冷やかしならおととい来やがれって感じね。

嗚呼、どうせ、これも“夢”よね?
人生は夢、幻のよう・・・。
本物よ、でもダイヤモンドもただの石ころ。
愛だとか恋なら要らない。
なら、見せてみな。
熱いのかい?アンタのハートさ。

ミリオンナイト 大衆の夜
カサノヴァ 女王蜂 Hip Hip Shake
救いも無ければ意味もないね?神様。
動機が欲しいか・・・理屈は抜きよ。 ジーザス。

いいじゃない?
ちょっくらい。・・・死にゃあしないのさ。

闇に這う天使たち・・・
愛の太陽浴びて融けちゃいたい。


愛 愛 LOVE LOVE、、、、って。


もう、、、、わけわかんないわね。ルシファーのすることは!


もう、、、、勝手に、し、や、が、れ。”









$【ROMANCE】







スピード
 (作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)


人差し指を頭に突き立て ブッ飛んでいる
いつでも頭ギリギリ 錠剤 噛み砕いて
ためらいをとめて 摩天楼 ダイブするのさ

今夜も頭ギリギリ 骨まで透けて見えた
安らぎをとめて 今宵の共犯者達へ

女の子 男の子 一筋 傷と涙を
痺れた体 すぐに楽になるさ
蝶になれ 華になれ 何かが君を待っている
愛しいものに全て 別れ告げて

-イカレタノハオレダケ キミハスコシマトモダ-

スピードをあげて 摩天楼 ダイブするのさ
ボリュームをあげて 今宵の共犯者達へ

女の子 男の子 君には自由が似合う
これが最後のチャンス アイシアオウ!
蝶になれ 華になれ 素敵だ お前が宇宙
愛しいものを全て 胸に抱いて
君が宇宙

目覚めは今日も冷たい 月夜のガラスケース
今夜も頭ギリギリ 骨まで透けて見えた






$【ROMANCE】

$【ROMANCE】