「どれほど悔やみ続けたら
一度は優しくなれるかな」
「どんなに人を傷つけた
今夜は優しくなれるかな」
ライヴツアー【TOUR2007 天使のリボルバー】では、
この12月29日、日本武道館の最終公演でのみ演奏された「JUPITER」。
12月21日愛知厚生年金会館では、アンコール1は、
「Sid Vicious ON TH BEACH」「Baby, I want you.」の2曲がエントリーし、
12月23日大阪厚生年金会館では、
「Sid Vicious ON TH BEACH」「ROMANCE」「SILENT NIGHT」の3曲となった。
そして最終日、日本武道館に至り、この「JUPITER」。
プルトニュウムの警告マークをデコレーションしたような
“天使のリボルバー・マーク”の後ろから差し込む真っ白なライトアップのなか、
その後光で、顔の表情も見えないという演出で演奏された「JUPITER」は、
どうしても、この年の夏のイベント、
9月8日、メジャーデビュー20周年記念イベントとして開催された
横浜みなとみらい 新港埠頭特設野外ステージの【BUCK-TICK FEST 2007 ON PARADE】
のラスト・シーンを想い出さずにはいられないだろう。
この「JUPITER」によって、すべてが昇天して逝く。
激しい戦闘を繰り広げた天使と悪魔の堕天戦争も、
聖地奪還を目指す、サンクチャリの争いも、
人間の本能の営みの末に、赦しを得て、昇天していく。
星野英彦のアコースティック・プレイから、いつもの旋律で楽曲が始まると、
日本武道館も“赦し”の白い光の中に、すべてが消えて行く。
この日の「JUPITER」もフェス・ヴァージョンのニュー・アレンジで、
序盤より今井寿のスタビライザーが、無数のシューティング・スターを天空へと撃ち上げて逝く。
櫻井敦司が放つ堕天の銃撃リボルバーの弾丸を、
想いを込めた今井寿のシューティング・スターが中和し、天空に光を翳す。
月の螺旋階段を登るように、撃ち上げられる
【哀しみ】【喜び】【絶望】【倦怠】【情熱】【衝動】
唯一無二のBUCK-TICKというバンドが奏でる鎮魂歌は、
愛するアノ人の下へ届くのか?
櫻井敦司は、とっておきの伝家の宝刀を抜くかのように、
天使たちの「JUPITER」を唄い始める。
「そこからは小さく見えたあなただけが
優しく手を振る」
表情が見えないだけに、込み上げるものを感じる。
まるで、昇天したジーザスが微笑みかけるように、唄い出す櫻井敦司。
天使たちは、堕天し、記憶を失い、受肉して人間になった。
そんな過去の記憶を失った人間達にも、夜空の星屑を眺めることで、
天空へのノスタルジックな思い出が甦る。
きっとあの夜空の向こうに、微笑みながら、あなたが手を振っているに違いない。
そんなことを想う。
櫻井敦司も、観衆に向けて手を振る。
まばゆいばかりの後光の中、シルエットとなった櫻井敦司が手を振る。
「頬に濡れ出す赤い雫は せめてお別れのしるし AH^A」
天空の世界と別れを告げ、
この地上で、生命を営むことの意味は、なんなのだろうか?
天使時代の記憶のない人間達は、そう不思議に想う。
私たちは、何の為に、生まれてきたのだろうか?
なぜかわからないが、無性に【SORA】が恋しく映る。
「初めから知っていたはずさ 戻れるなんて
だけど・・・少しだけ」
遥か何億光年の記憶よ。
何故に【SORA】は青いのか?
何故に【SORA】は優しいのか?
不思議だ。
いつか戻れるなんて。
離れ離れになった誰かと、再び、【SORA】で逢えるなんて。
そう感じてならない・・・。
これは、失われた過去の記憶なんだろうか?
「開け進化のMode!」
とばかりに展開する転生の“Loop”は、
ひょっとするとこの遠い過去の記憶に司られていると感じていたのは、
今井寿ばかりでは、あるまい。
高級な愚の猿たちは 幾億年の瞬間【トキ】を経て、
知ってはいけないあっちの記憶に至る。
生き続ける遺伝 。
中枢神経 まっ二つの愛 錯乱の輝き。
冴え渡る夜に覗いた扉、
あなたの宇宙【ソラ】の中、絶頂へ統一。
目覚める破壊の奇跡。
冴え渡る夜に覗いた扉。
生まれる前には人は星だった。
そう前世は、夜空に浮かぶ星だった。
すなわち天使は僕らだ。
流れる皮膚の中、本能を感じてた、ふるえる原子の鼓動。
「忘れよう全てのナイフ
胸 を 切り裂いて 深く沈めばいい」
見えないものを見ようとする誤解は、
すべて誤解だ。
そう言う櫻井敦司は、「JUPITER」で、我々に何を伝えたかったのか?
同曲の収録されるアルバム『狂った太陽』のコンセプトは、
そのタイトルが示している通り、“狂気の世界”を焼き尽くす“巨大な太陽”よる啓示だ。
そして、その表裏一体を表すが如くに「JUPITER」「さくら」の“優しい月”の世界。
ストレートに解釈するなら、それは、“父親”と“母親”の姿に他ならないが、
世界を焼き尽くす父なる太陽の怒りを、優しく包み込むような母なる月が照らしてる。
それは“動”と“静”のモチーフであり、
端的にいうと“生”と“死”の輪廻について、唄っているのだとしたら、
「太陽二殺サレタ」と「JUPITER」こそが、その誕生の秘儀を物語っている。
“死”こそが、“誕生”に必要な絶対的な要素なのだ。
僕達はみな、破滅が好きだ。
今から35年以上前、二冊の“破滅本”が日本全土を席巻した。
小松左京の「日本沈没」と五島勉の『ノストラダムスの大預言』だ。
『ノストラダムスの大預言』では空前の世紀末ブーム、
1999年7月に空から恐怖の大魔王が降ってきて世界は滅亡するとされた。
一方『日本沈没』は、大規模な地殻変動で富士山が噴火し、東京が火の海になり、
日本列島が海底に沈んでいく様を描いた。
暗黒の空に舞う恐怖の大魔王は、
当時、世界の最大の注目事項米ソ超大国による世界最終戦争の比喩だろう。
火山活動によって焦土と化す日本の姿は、太平洋戦争の大空襲や原爆の記憶に繋がる。
敗戦から30年。
国が再び滅び民族が死に絶えることは、リアルな現実として意識されていたのだ。
当時も日本は経済的にも不安定な時代であった。
泥沼化するベトナム戦争で財政悪化に歯止めのかからないアメリカは金・ドル交換を停止し、
急速な円高が日本経済を直撃した。
二冊の超ベストセラーが生まれた1973年には、
オイルショックのパニックでトイレットペーパーの買占め騒動が起きた。
僕はそんな時代に誕生した第二次ベビーブーマー。
混沌こそ、我が墓標と呟く世代だ。
それから30年以上を経て、僕達は新たな破滅の時代を迎えている。
最近の定番物語は日本国の経済破綻である。
少子化に年金問題。
このダウンサイジングに、子孫に債務と続けていく政府。
伝道師たちの預言が正しいかどうか、僕は知らない。
世界最終戦争にも、日本国の破産にも、いくばくかの実現の可能性はあるだろう。
「まぶた 浮かんで消えていく残像は まるで母に似た光」
櫻井敦司の破滅への美学は、こういった状況も、背景にもあるのだろう。
破滅=死は、美しい。
それは、その次に待ち受ける【REBIRTH】の所為だ。
“誕生”がなければ“死”すらも存在しない。
“誕生”こそ「希望」なのだ。
滅亡の物語は、人々の不安を豊かな土壌として、大輪の花を咲かせる。
その妖しい美しさは、僕達を魅了してやまない。
不安は最大の娯楽=エンターテイメントだ。
誰もが不安のない生活を望んでいる。
だが、娯楽のない人生は耐え難いほど退屈にちがいない。
誕生から死まですべて予測可能なら、人生になんの不安も生じない。
そればかりか、将来のことを考える必要もない。
すなはち“夢”もない。
かつての社会主義諸国が、その理想をある程度まで実現した。
「不安のない世界」とは、実にグロテスクな世界だ。
時代は大きく動き、将来はますます予測不可能になっている。
僕達は破滅の予感に怯え、見知らぬ世界を恐れている。
だが未知の海への航海は、
目の前に続く、安全だけど単調な一本の道を歩くよりも、ずっと魅力的ではないだろうか?
人生の設計とは、冒険のための海図とコンパスを準備することだ。
核シェルターの中で恐怖の大王の到来を待つことではない。
未来の言い知れぬ不安。
それを人は「希望」と呼ぶ。
「JUPITER」には、「希望」を感じる。
「そして涙も血もみんな枯れ果て
やがて遥かなる想い」
今度、生まれ変わる時に、現在の記憶はきっと、ない。
しかし、我々の遺伝子がそれを憶えている。
だから、大丈夫だ。
そう言って櫻井敦司は、僕等に、手を振っている。
遥か彼方から、手を振っているように見える。
僕等も手を振り返そう。
そうだね。
今夜【ソラ】に手を振ってみないか?
月が嗤ってる。
‡
‡
‡
‡
‡
‡
‡
‡
今朝、“娼館”から逃げ出せたのは、すべてが偶然だった。
目覚めたときに、ベッドに“恋人”はいなかったし、風がおだやかで肌をささなかった。
三階から非常階段にまわったら、川の流れを渡ってくる風が少しだけ湿り気をはこんでいると感じられた。
そこからは、道に出ることはできない。
ガラス片を埋め込んだ塀の上端部が、そういう勇気を思いつかせてくれない。
それに物心ついたときには、養護院でそだった少女には、
衣食住があたえられる場所は貴重だった。
月に数度、“恋人”という男たちと寝て、彼らの要求に応えていれば、
“娼館”での生活は少女には充分すぎるほど保証されていた。
その様な種類の人々を“恋人”と教えられていたので、
ドラマと現実の違いに戸惑いはあっても、周囲の女たちもそのようにしていたから、
恥ずかしいことではなかった。
むしろ、“養父(マスター)”が細心の注意をはらって“良い恋人たち”を選んでくれたので、
少女は自尊心を持つことがさえできた。
「教会で教えている通りだ。
恋し、恋されるという関係にはいるには、誰でもいいというものではない。
気位が高く、羞恥という身だしなみがなければ、恋されることはない。
恋い焦がれる心がなければ、睦みあいも空しいものになる。
性愛(エロス)というのは、心の交歓だからな」
“養父”はそう教えてくれた。
そのため、彼女が17歳の春に、はじめて“恋人”となってくれた青年は、
聖職者というエリートで、爵位という階級を忘れることのできない青年だった。
「気位の高さという美徳をそなえたお前が、“娼館”に流れてくるとは、
よくよくのことで、あろう。
なんとか、城に呼んでやる」
そんなことを簡単に言ってくれる“恋人”は、少女を城に呼び入れることなどできるものではなかった。
しかし、彼のおかげで、少女は女になったとき、
嫌悪する記憶も持たないですんだ。
非常階段から中庭を見下ろした時、、いつもいる見張りがいなかった。
寺院の最長老の遺骸を河に運ぶために、人手がいったとわかったのは、
ロバに乗ってからだ。
ロバの柵は、鍵が開いたままになっていたので、
いたずら心で跨ってみたというほうが、正しい感触だった。
「あら・・・・・・?」
静かに歩き出したロバに揺られて、外に出られそうだと思ったので、
中庭と外をつなぐ門扉を押してみたら、それも開いた。
寝起きのままだったので、ワンピースになっている衣を纏っただけ、
化粧もしていなかったのが幸いしたのだろう。
誰にも見咎められず町を抜け出られて、大通りを走った。
一度だけ気になるものを見た。
12枚の羽根を生やした始祖鳥のような竜が、茶褐色の空を飛んでいた。
宇宙のことは、教会で教えてくれていて見ていたから、
そのようなものが空を飛ぶことも少女は知っていた。
けれど、それが、自分にかかわりあるものだ、ということは想像する余裕もなかった。
‡
‡
‡
‡
黒い大きな馬の群れは、“娼館”が雇っていた警備の者だった。
二頭が行き過ぎ、三、四頭めは、少女が身をひそめる沙羅双樹の木の下で、止まった。
「・・・・・・考えそうなことだ」
黒い兜と革の上下で身をかためた男たち(女性もいたかもしれない)は、
見上げもせず、そのうちのひとりが、弓矢を取り出す。
先行していた黒馬も戻ってきた。
弓矢を持った黒い兜の男は、狙いをつけもせずに、
少女にすれば、くるな、と感じた瞬間には、足に衝撃を受けていた。
注射針程度のものでも、かなりの速度で飛んできたものが、大腿部に刺されば、
それだけで、幹を抱いていた腕がはじけとぶように感じられ、
「麻酔!?」
と、そう思ったのも一瞬で、少女の身体はズルズルと幹をなぞるようにして、
上体がクルリと下にまわっていた。
「惨いこと!」
痺れの感覚が右足から腰、背筋にはいあがって悪寒になり視界がかすんで逝く。
それでも、緑の縞模様がながれて見えた。
ブロロロ、ルルル・・・・・・!
“それみたことか・・・・”
上空からおしよせる轟音のなかに、そんな意識が閃いた。
“俺のいったとおりになっていしまっただろう”
その声というよりも、考え方といったものが、沙羅双樹の一番下の枝を折った少女の意識をうつ。
少女が知っている男性のものだ。
“・・・・・・だから、俺が、宇宙(ソラ)へ行こうと誘ったときに決心していれば、
こんなことにならなかった”
『ルシファーだ・・・・・・!』
ブロゥウン・・・・・・。
頭上を押さえるよにした轟音が、強風をよんで梢をうち、
強風が木々をおおっていた砂を吹き上げて、二本の足が梢を履くようにする。
『ルシファー!どうしてこんな処にいらっしゃったのです?』
ブーベンビレアの花の色に似せた色彩に塗られた巨体は、
暴風神ルドラかシヴァ神かと思えるように舞い上がる。
“宇宙(ソラ)にあがる日になってここを飛んだら、マリアがロバで走っていた。
それはおかしな光景だ”
それは、声ではないのだが、そう、わ、か、る。
バキバキッ!
巨人の足が、沙羅双樹の花を散らすと、四頭の黒馬は、後ろ足を跳ね上げて四方に散った。
少女マグダラのマリアは身体が下草に落下する寸前、赤い巨人の手がそれを受け止めている。
ヒヒィン!!
赤い巨人の着地する足を避けようとした黒馬が転倒して、
巨人はその黒馬の前に、頭駄袋を落とす。
「その金塊で、不足はないはずだ!」
赤い巨人の頭上には始祖鳥に跨った堕天使が飛んでいる。
四方に散った“娼館”の用心棒たちに聞かせるもので、
金塊をひとりのものにさせない配慮だ。
「マグダラのマリアは、この覇王ルシファーがひきとった。
“養父(マスター)”にはそう伝えろ!」
頭駄袋を開いた黒い兜の男は、袋の中の金の延べ板をたしかめると、
頭駄袋を抱きしめるようにして黒馬に跨り走って行った。
ズゥーン!
赤い巨人はゆらめく空気をマントのように身に纏って上昇する。
その上空には、始祖鳥に跨る堕天使ルシファーと黒い蝙蝠のような翼を持った夢魔サキュバスが、
赤い巨人を待っていた。
‡
‡
‡
‡
「小指にからんでいる赤い糸が、繋がっているようにですか?」
「ハハハ・・・・・・」
マグダラのマリアのあどけない比喩に、堕天使ルシファーは笑ってみせる。
彼が少女の住まわせてもらっている“娼館”に、なぜ行ったのかという質問だった。
天空を追われたルシファーは一時、地上を流浪した。
双子の弟ミカエルに、永久凍土(エキュスコート)に突き落とされたのだ。
が、地上を流浪しながら、ルシファーは無頼になれず、
天空もまた、いつまでも彼を追いかけることはなかった。
「俺が、この赤い巨人を受領するために、ここに来たのだが、
その時、マリアが、俺を呼んだのだ」
それが、赤い糸の比喩に繋がった。
「わかるか?メシアの意図することが?」
ルシファーは、金髪をなびかせるような仕草で、窓のそとに見えている【SORA】をふりあおいだ。
それは、メシアが天に昇ることを示唆していた。
遂に、因果律のまま、彼の刻がやって来たのだ。
マグダラのマリアは、ルシファーに拾われた日のことを思い返していた。
すべては、この刻のために。
そして、わたしは、イエス・キリストの御子を身篭った。

JUPITER
(作詞:櫻井敦司 / 作曲:星野英彦 / 編曲:BUCK-TICK)
歩き出す月の螺旋を 流れ星だけが空に舞っている
そこからは小さく見えたあなただけが
優しく手を振る
頬に濡れ出す赤い雫は せめてお別れのしるし
初めから知っていたはずさ 戻れるなんて だけど。。。少しだけ
忘れよう全てのナイフ
胸を切り裂いて 深く沈めばいい
まぶた 浮かんで消えていく残像は まるで母に似た光
そして涙も血もみんな枯れ果て
やがて遥かなる想い
どれほど悔やみ続けたら
一度は優しくなれるかな?
サヨナラ 優しかった笑顔
今夜も一人で眠るのかい?
頬に濡れ出す赤い雫は せめてお別れのしるし
今夜 奇麗だよ月の雫で 汚れたこの体さえも
どんなに人を傷つけた
今夜は優しくなれるかな?
サヨナラ 悲しかった笑顔
今夜も一人で眠るのかい?