「あんたの痛みなど ごめんよ 解りはしない」
カミソリのような夜の上を、器用に飛び移れ
銀色に輝く糸を吐く蜘蛛のようさ
「スパイダー」は、先行第一弾シングル「RENDEZVOUS~ランデヴー~」リリース後に展開された、
対バン形式の20周年アニヴァーサリー・ライヴツアー【PARADE】で、
アンコールの「モンタージュ」とともに、披露されたロックンロール・ナンバーであった。
【PARADE】初日公演の6月6日(水)神奈川/YOKOHAMA BLITZ公演では、
7曲目に登場した「RENDEZVOUS~ランデヴー~」に続き、
8曲目にエントリーし、初披露のハズであったが、
「スパイダー」のハードで印象的な星野英彦のギター・イントロが、
機材トラブルの為、音が全く出ず、一時、メンバー全員が楽屋に下がってしまった。
その後、櫻井敦司に、
「新曲は、出来あがったかなぁ~?
それでは、聴いて下さい「スパイダー」!!」
とタイトルが告げられ、発表前にニュー・アルバム『天使のリボルバー』の
ストレートで、キャッチーで、毒々しいロック・テイスト溢れるギター・ロックが披露された。
鳥肌モノのスリリングなロック・チューンであった「スパイダー」は、
コーラスが印象的な「モンタージュ」と共に、ライヴツアー【PARADE】の一番の見せ所となり、
各会場を盛り上げていたが、この【TOUR2007 天使のリボルバー】が始まると、
最も、今井寿と星野英彦のギター・バトルが、呼び物となった。
早くも進化し続ける『天使のリボルバー』の新曲たちは、
ライヴでの演奏回数をこなす程、その鋭利な本性を顕し始めたのだ。
セクシーで、スリリングで、エロティックで、リスキーなBTロックが満載の
【TOUR2007 天使のリボルバー】は、この中盤の「スパイダー」からの展開で、
見事に発火し、疾走を始めると、エンディングまで、全力疾走を始める。
アルバム『天使のリボルバー』では、BUCK-TICKの新たなる至宝「Snow white」で、
しっとりとリスナーの瞳を潤ませた状態で、一気に気付け役を果たす11曲目に収録された「スパイダー」。
そして、この「スパイダー」で覚醒を終えるとアルバムはいよいよクライマックスへと突入して行く。
続く12曲目の先行シングル第二弾のメランコリック・ゴシック・ポップ「Alice in Wonder Underground」と、
BUCK-TICKのアルバムすべてに言えることであるが、一番の自信作で13曲目の「REVOLVER」で、
一気に駆け抜けるようにアルバム『天使のリボルバー』はフィナーレを迎える。
まさしく“暴走天使”の如くに、駆け抜けて逝ってしまう印象は、
確かに、余韻にいつまでも浸っていたい長年のファンにとっては、
「ああ、もう、終わってしまったのか・・・」と物足りなさを感じさせる内容かも知れないが、
その一曲一曲のストレートな中に集中した情念の分子の密度は、
恐ろしいほどの高密度で、それが、各ライヴステージで、オーディエンスの熱で気化して、
各会場を言い知れぬ空気感で一杯にしていった。
“高密度、高純度ロックンロール”
これが、『天使のリボルバー』の正体であり、
その重要なヒントは、この「スパイダー」や「モンタージュ」「BEAST」などの
ロックンロールに隠されていたことを、彼らのライヴ・パフォーマンスから感じる結果となった。
然るに、この【TOUR2007 天使のリボルバー】最終公演、12月29日の日本武道館も、
この「スパイダー」からの展開は、まるで一瞬の輝きの如き光で、
恐ろしいほど、時間の経過が早く感じられた。
そんな超加速“ブースター”のスィッチを握っていたのは、
このBUCK-TICKの永遠のツイン・ギタリスト・今井“ルシファー”寿と星野“ヒデ”英彦に他ならない。
欧州の車線幅の物凄く広いハイ・ウェイを爆走する真っ赤な天使は、
ひとつもアクセルを緩めることなく、このなだらかなカーヴを描きながら、
スピードの向こう側へと飛び込んで行くのだ!
行こう!
その先に待ち受けるのが、“天獄”でも“地獄”でも!
ヤツらと、一緒ならダイジョウブだ!
俺達は“愛”と“死”。
俺達は、“天使”で“悪魔”。
“エロス”な“タナトス”だ!
タズナを握る堕天使ルシファーの申し子“今井寿”。
「黎明の子、明けの明星よ。あなたは天から落ちてしまった。
もろもろの国を倒した者よ、あなたはさきに心のうちに言った。
「わたしは天にのぼり、わたしの王座を高く神の星の上におき、
北の果てなる集会の山に座し、雲のいただきにのぼり、いと高き者のようになろう。
しかし、あなたは陰府に落とされ、穴の奥底に入れられる」
(前200年頃『イザヤ書』第14章12『聖書』より)
現在では悪魔の頂点とされているルシファーだが、聖書ではここにしか登場しない。
この一節は、ヤコブが「バビロンの王をののしって」言ったものであり、本来は悪魔の話ではない。
しかも、もともとヘブライ語で書かれた『イザヤ書』のこの部分は、
ヘブライ語ではHelel ben Shaharすなわち「輝く者」である。
紀元前後のギリシア語訳(所謂『七十人訳ギリシア語聖書』)ではeosphorosとなり、
これが405年に聖ヒエロニムスによってラテン語に訳された時(俗に『ウルガタ聖書』という)、
「明けの明星」を表す“lucifer”となった。
つまり、聖書だけを見るなら、ルシファーという悪魔は、存在しないに等しいのである。
だが、キリスト教の神学者たちによって、ルシファーは悪魔化していく。
明けの明星ルシファー:今井寿は、「スパイダー」についてこう語る。
「「スパイダー」は、特に変わった展開もなく、速くて暗めのロックンロールにしようと思って」
新登場のサンバーストのレッド・マイマイが炸裂している。
ストレートな程、「スパイダー」はスピード感が増す。
ヒラヒラと漆黒の翼を靡かせて、
櫻井敦司は、ケダモノのようにしゃがみ込んで唄い始める。
「絡まる指と髪 夜な夜な糸吐く
あんたの願いなら 叶えてあげたいけど」
櫻井敦司の描くロックンロールには、血の匂いがする。
それは、エロティックな生命の赤だ。
歌詞自体は完全に男女の性を描いており、
激しく身体を求めながらも、中身としては空虚を感じる虚しさが出ている。
どこまで求めあっても、足りない二人・・・。
やがて、蜘蛛の巣に絡まりあったかのように、
お互いの身体の内部へ浸透していく様はパートとパートをまるでパズルみたい絡まり合わせる
「モンタージュ」での性交の続きのようである。
「綺麗な横顔 青白く浮かぶ
あんたの痛みなど ごめんよ 解りはしない」
そして、どんなに絡まり合っても、結局は、相手の痛みすら共有出来ない、と理解してしまう。
いくらオルガズムに達していても、それが、相手と同じ温度で感じることは不可能だ。
もし、感じていると思っていても、それが真実かどうか?は確認が取れない。
だから、何度も、何度も、相手を求めあう。
何処まで逝ってもそれは終わらない蜘蛛の巣。
「もっともっとベット震わせて
こんなもんじゃ駄目さ突き上げろ天井裏スパイ愛」
そんな探り合いのスパイ・ゲームが、毎晩CAIや、FBIのように繰り広げられる。
始めはスパイであったはずの相手が、だんだん敵か味方かわからなくなってくる。
蜘蛛女は、別れのKISSをする。
『蜘蛛女のキス』(原題:El Beso De La Mujer Araña, 英題:Kiss of the Spider Woman)は、
アルゼンチンの作家マヌエル・プイグ作の小説である。
1979年に出版されベストセラーになった。
全編がモリーナとヴァレンティンという二人の対話で綴られている。
日本では野谷文昭の手により翻訳されている。
後にマヌエル・プイグ自身の手で戯曲化され、1981年、マドリード・マルティン劇場で世界初演を果たし、
1985年には、エクトール・バベンコ監督により映画化された。
その後、ジョン・カンダーとフレッド・エッブによりミュージカル化され、こちらも定評がある。
「縺れる舌と指 夜な夜な糸吐く
あんたの望みなら叶えてあげたいけど」
舞台は、南米ブエノスアイレスの刑務所の獄房の一室。そこに二人の男が同じ房に入れられていた。
ひとりは社会改革を目指す若き活動家のヴァレンティンで、
偽造パスポートを使おうとして現場を押えられたのだった。
もう一方のモリーナはゲイ=ホモセクシュアルで未成年に対する性犯罪で投獄されている。
同房に居合せながらまったく別の世界をもつ二人。
映画好きのモリーナは、いつか見た映画の話をバレンティンに語り聞かせている。
しかし、ヴァレンティンはその話にうんざりしており、
同志と全く連絡もとれず茫然とただ時を過ごす日々が彼を消耗させていたのだ。
第2次大戦ナチス占領下のパリ。
美人シャンソン歌手レニと青年ドイツ将校の恋--それがモリーナの今語っている映画の内容だった。
ヴァレンティンにもかつては愛する女がいた。
政治家と癒着する大資本家の娘で、
反体制活動家の彼は、活動を続けるために彼女を捨てて旅立ってしまったのだ。
ある日、モリーナは、所長の部屋に呼ばれた。
実は、モリーナは、ヴァレンティンの地下活動を探るために同房に入れられていたスパイだったのだ。
うまくいけば刑をまぬがれることができる。
しかし、機密を聞きだすためのヴァレンティンへの献身工作はいつしか彼の愛情へと変わりつつあり、
ヴァレンティンを騙しているという自責の念にかられていた。
そうとは知らないヴァレンティンも、次第にモリーナの愛情を感じるようになってゆく・・・。
「波打つ胸元 青白く走る
あんたの痛みなど ごめんよ解りはしない」
一方、向いの房に入れられていた顔をおおわれた男が、ヴァレンティンには気になっていた。
たえず拷問をうけていた彼は遂に死んだ。
ヴァレンティンは、さらされた彼の顔を見て驚愕した。
なんと、思想家のリーダー・アメリコ博士で、
以前、偽パスポートでヴァレンティンが国外に逃亡させようとして失敗したのは、
このアメリコだったのだ。
彼のミスで、アメリコは帰らぬ人となってしまった。
自責の念に苦しみ、
落胆するヴァレンティン。
そのことを所長に告げたモリーナ。
そのためにモリーナの釈放が決まった。
ヴァレンティンは、出てゆくモリーナに重大なメッセージを頼んだ。
「もっと ぎゅっと糸を手繰り寄せ
こんな愛じゃ駄目か?苦しいか?」
使命感に燃えるモリーナは、街に戻った。
母親や友人たちとの久びさの対面のあと、
彼は、ヴァレンティンから頼まれた電話番号を回した。
約束の場所と時間に出むいたモリーナ。
しかし、彼は、銃声のもとに倒れるのだった。
秘密警察がモリーナを尾行し、路上でゲリラに会おうとしたモリーナを逮捕しようとした矢先、
口封じのためゲリラが自動車から発砲し、彼は、銃声のもとに倒れるのだった。
刑務所に残ったヴァレンティンも拷問を受け、
瀕死のヴァレンティンは、昔愛していた女性ゲリラの夢を見ていた。
いつしか、房のヴァレンティンは、モリーナの語る映画の中にいた。
南洋の海辺で愛する女とボートにのる彼・・・。
「乱れてるのは お前のせいだ
ShakeHipHit!俺は飛び散った 哀しきスパイダー」
蜘蛛女は、別れのKISSをする。
今井寿は、サンバーストのマイマイでスピードを上げて逝く。
星野英彦のJAZZMASTERがブギーなロック・リフを繰り返す。
眩しい目潰しフラッシュが、日本武道館を襲う。
漆黒の翼をヒラつかせる櫻井敦司を横切り星野英彦が、中央のクリアグラスの花道へと進む。
ブギーなリフを弾きながら花道へと進む。
樋口“U-TA”豊が、何かを叫んでいる。
スリリングな「スパイダー」のスピードはレッド・ゾーンに入っている。
花道の先頭でギターを聴かせるヒデの背後には、いつのまにか今井寿が忍び寄っている。
ヒデのリフと今井のチョーキング・プレイが花道で重なり合う。
最高のギター・バトルだ。
奈落の底からクリアグラス越しに背中合わせのBUCK-TICKギタリストふたり・・・。
ため息のでるような展開だ。
これこそ、ギター・ロック・バンド“BUCK-TICK”。
櫻井敦司、樋口“U-TA”豊、ヤガミ“アニイ”トールもステージ後部から、
少し見惚れるように、この二人の美しきギター・バトルを眺めるようのパフォーマンスする。
櫻井敦司が、U-TAの背後で舞い上がる。
「乱れてるのは お前のせいだ
ShakeHipHit!俺は飛び散った」
スポットライトを浴びるヒデ×今井のツイン・ギター。
日本武道館のオーディエンスの最高の興奮を感じている。
「乱れてるのは お前のせいだ
ShakeHipHit!俺は飛び散った 哀しきスパイダー」
歓声を上げるオーディエンスを見て、星野英彦が花道を後にする。
先端に残させた今井“ルシファー”寿は、お得意のキック一発!
言葉がみつからないかっこ良さだ。
こんなセクシーなギタリストを二人とも堪能させる「スパイダー」は、
ストレートな中に、純度の高いブツが仕込まれたリスキー・ロックだ。
日本武道館の大観衆も、ノックアウトされたのは、仕方ない。
“ダムドラの店”には、また、来客があったようだ。
綱渡りの人生を生き抜いてきたような40代のその男の目は赤く血走りながら、
ジャーナリストと思われる20代後半の女性に、
止まることなく語り続けている。
夕方の、やや、混み合い始めるこの時間帯の“店”には、
ミュージシャンは、まだ、演奏の準備をしていない。
セッティングの前に、一杯、強い酒を煽ってから、今夜は何をプレイしようかと思案する。
そんなルシファーの目にも、この二人は、ちょっと場違いな空気を醸し出している。
育ちの良さそうなジャーナリストの女性は、
波乱万丈の人生を語る40代の男の話をレコーダーに記録しようとしているが、
おそらく、ルシファーの演奏が始めれば、うるさくて取材も何もないもんだ、と想う。
どうして、こんな“店”を選んだのだろうか?
「人間って、ホント、面白いナ」
そう、ルシファーは想いながら、できるだけ取材の邪魔にならないように、
メランコリックな曲を演奏しようかな、と考え始める。
「・・・でも、マダムがうるさいからな・・・」
そう、想うと、少し〝ゆううつ”になるのだ。
「少し古い曲にしようかな・・・客にもマダムにもウケがいいからナ・・・。
でも、新しいヤツのほうが、自分に刺激が強くて演ってて楽しいんだけどナ」
彼の頭の中には、天空から授かった約3000曲ものメロディ・フレーズのアイデアが、
“実は”眠っている。
それは、脳内宇宙のカオスのなかに漂うにように、原型を留めてはいないが、
リスナー、すなわち、聞き手が、必要とするメロディを、瞬時にその混沌の中からチョイスし、
巧みに組み合わせ、まるで料理のレシピを考えるようにアレンジし奏でることが可能だ。
しかし、この“店”の常連達も、それを知る者は少なく、
どうしてルシファーが、毎晩、こんなにも色んな曲を演奏出来るのか不思議に思っている。
これは、内緒にした訳ではなく、彼は“店”のオーディションで口にしたが、
“店”のオーナーの“マダム”は、
「面白いジョークを言うわね」
と言って、勝手に冗談にされてしまった。
「ジョークが、面白いからって訳ではないけど、君さえ良ければ契約してもいいわよ」
そういう“マダム”に、ルシファーは、心の中で、
「チェッ、“契約”は、俺の専売特許だっつぅーの」
とひとりごちたが、結局、様々な姿を表す被造物人間とその姿をした魑魅魍魎が来店する
この“店”の空気感が気に入って“マダム”と“契約”を結ぶことにした。
しかし、少し勤めてみてスグにわかった。
どうして、下界のこの“店”に、こんなにもすべての縮図を表したかのような
様々な人間や魑魅魍魎が訪れるのか?
この“マダム”だ。
この“マダム”は、ブラックホールのような女だ。
少し勤めて正式に契約したの後に一曲演奏してみろというので、
ルシファーは、ギターで、「スパイダー」を奏でた。
すると“マダム”はこう言ったのだ。
「ねえ、わたしの目を見てごらんなさい。
何か欲情してるような目でしょう?
濡れていない?ね、濡れているでしょう?
そうなの、実際わたしは、今欲情しているのよ。
でも、勘違いしないで欲しいんだけど、欲情しているからって、わたしはミスはしないわよ。
わかって貰えるかしら、わたしはそういう状況すべてに対して欲情しているのよ。
欲情したわたしを見て光栄だと思いなさい」
光栄だと思いなさい。
光栄だと思いなさい。
光栄だと思いなさい。
光栄だと思いなさい。
光栄だと思いなさい。
光栄だと思いなさい。
光栄だと思いなさい。
光栄だと思いなさい・・・・・・
ルシファーは、「光栄だと思いなさい」という“マダム”の台詞を、
ほとんど無限んい続くかと思えるほど繰り返した。
そして確信した。
「間違いない・・・。
コイツは、サキュバスだ。
こんな処で逢うとはな・・・」
スパイダー
(作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)
絡まる指と髪 夜な夜な糸吐く
あんたの願いなら 叶えてあげたいけど
綺麗な横顔 青白く浮かぶ
あんたの痛みなど ごめんよ解りはしない
もっともっとベット震わせて
こんなもんじゃ駄目さ突き上げろ天井裏スパイ愛
縺れる舌と指 夜な夜な糸吐く
あんたの望みなら叶えてあげたいけど
波打つ胸元 青白く走る
あんたの痛みなど ごめんよ解りはしない
もっと ぎゅっと糸を手繰り寄せ
こんな愛じゃ駄目か?苦しいか?
乱れてるのは お前のせいだ
ShakeHipHit!俺は飛び散った 哀しきスパイダー
もっともっとベット震わせて
こんなもんじゃ駄目さ突き上げろ
もっと ぎゅっと糸を手繰り寄せ
こんな愛じゃ駄目か?苦しいか?
乱れてるのは お前のせいだ
ShakeHipHit!俺は飛び散った
乱れてるのは お前のせいだ
ShakeHipHit!俺は飛び散った 哀しきスパイダー
