「真白な世界の女神手まねく」



戦慄の“フーガ ト短調 BWV 578”と“足テルミン”

最狂の組み合わせでBUCK-TICKの最強アレンジへと進化した
「見えない物を見ようとする誤解 全て誤解だ」。

かつて、楽曲は生き物のようだ、と表現したが、それを目の当たりに魅せつける彼ら。
ストレートさを標榜したはずの彼らが、切り開いた今回のライヴツアーでも、
一番の見所と、ツアー初期から、ファンの間で噂は広まり、
この「見えない物を見ようとする誤解 全て誤解だ」を聴きたいが為に、
この日本武道館に来てしまったファンも多いことであろう。

幸運にも、映像化されたこの楽曲は、彼らの傑作中の傑作アルバム『Six/Nine』から、
ディレクター田中純一のアドヴァイスで、櫻井敦司による全く別のヴァージョンと言える歌詞を載せ、
同アルバムからシングル・カットされたのだ。

その後、何度も感動的にライヴ演奏されて来た究極のダーク・ロック・エンブレムであるが、
このヴァージョンを以って究極の最強形態へ進化したと言えるのではないか!

実は、恐らくコレには、僕が勝手に想像する背景があった。

「恋とは、魅力的な人に出逢ったときに、始まるのではない。
 恋とは、嫉妬を感じたときに、堕ちるものである」


この『天使』ヴァージョンの「見えない物を見ようとする誤解 全て誤解だ」の
ニュー・アレンジが出来上がるまでに、同楽曲は、結成20周年を記念して企画された
BUCK-TICKのトリビュート・アルバム『PARADE~RESPECTIVE TRACKS OF BUCK-TICK~』において、
櫻井敦司のソロ・プロジェクト『愛の惑星』で「新月」というゴシック大作を提供し、
その後、櫻井敦司のメンター的な存在を果たすミュージシャン土屋昌巳によってカバーされたのである。

このトリビュート・アルバムの4曲目に収録された「見えない物を見ようとする誤解 全て誤解だ」を
耳にした時、一瞬、頭を過ぎった予感。
このアレンジで櫻井敦司がもし、ヴォーカルを取ってしまったら・・・。
ひょっとすると、これは、オリジナルを越えてしまったかも知れない!
という事実であった。

以前に書いたが、櫻井敦司のソロ・プロジェクトでの「新月」を初めとするゴシック・ソングに、
美しい“嫉妬”を描いたと言われる今井寿が、
それのお返しとも言わんばかりの究極のゴシック世界を描いた傑作『十三階は月光』を創り上げたのは、
櫻井敦司の向こう側に、この土屋昌巳の姿を思い描いていた、とする僕の仮説を基にすれば、
このライヴツアー【TOUR2007天使のリボルバー】の直前に、
9月8日の【BUCK-TICK FEST 2007 ON PARADE】で競演する前に、
ライヴツアー【PARADE】の東京公演Zepp Tokyoのステージで、
対バン形式で参戦した土屋昌巳バンドの「見えない物を見ようとする誤解 全て誤解だ」のステージに、
誰あろう登場を果たしたのは、櫻井敦司自身であったのだ!

まさしく奇跡のパフォーマンスとなった土屋昌巳と櫻井敦司の競演。
そして、そこで繰り広げられた究極なる「見えない物を見ようとする誤解 全て誤解だ」。
それを、目撃した今井寿・・・。

そこに、創作の“嫉妬”の炎が燃え上がるのは、必然と言えるのではないか?


【BUCK-TICK FEST 2007 ON PARADE】で土屋昌巳は、
この「見えない物を見ようとする誤解 全て誤解だ」を演奏しなかった。
結果、其処に今井寿と遠藤ミチロウの競演の如く、再度、櫻井敦司と土屋昌巳の競演は実現しなかったが、
それは、もしかすると、この最強のニュー・アレンジ「見えない物を見ようとする誤解 全て誤解だ」が、
控えるライヴツアー【TOUR2007天使のリボルバー】用にすでにスタンバイしていた為だった可能性は、
極めて高いだろう。

少し、ゴシップ的に、煽り立てて書いてしまったが、
単純に今井寿が、土屋昌巳にインスパイアされてこのニュー・アレンジに挑戦した可能性は高いだろう。

だと、したらこの至極の「見えない物を見ようとする誤解 全て誤解だ」天使ヴァージョンは、
今井寿と土屋昌巳という怪物クリエーターの“情念”の戦いの中で、
創り上げられた最高の姿なのではないだろうか?

恐らく今井寿、ひとりのアイデアだけで、この地点まで到達したかどうか?
というのは、愚かな僕個人の邪推である。
が、それほどまでに、このニュー・アレンジは素晴らしかったと言える。

ひょっとすると今後も、更に手を加えられニュー・アレンジに形態を変化させるだけの可能性を、
いくらでも内包した懐の広い楽曲が「見えない物を見ようとする誤解 全て誤解だ」であろうが、
これ以上の耽美さを、また、越えて進化するようなことが、在り得るのであろうか?

その可能性を信じたいという気持ちと、
この完成度に、言葉を失った自分としては、
もう、この辺で勘弁してくれ!と泣き言のひとつも言いたくなる気持ちが交差する。

ソレくらいの完成度と美しさを誇るアレンジであった。


本当に映像化してくれた林ワタル監督にも感謝を捧げる他ない。








『天使のリボルバー』ヴァージョンの「見えない物を見ようとする誤解 全て誤解だ」は、
星野英彦のソリッドなギター・リフを経て、
ヤガミトールのダークリズムのダイナミックな展開から、
いきなりテルミンを響かせる今井寿の「フーガ ト短調 BWV 578」が、序盤より炸裂する。


言い方は拙いが、世界のバッハの力を借りてまでも、神:土屋昌巳を倒そうとした、
堕天使ルシファーの如き今井寿の執念を感じる。

そして、それを引き起こした・・・男・・・

櫻井敦司。





「フーガ ト短調 BWV 578」は、ヨハン・ゼバスティアン・バッハのオルガン曲で、
一説には、アルンシュタット時代(1703年~1707年)の作品であるとされるが、
イタリア盛期バロック音楽の影響も見られることや、
フーガ主題のバランスのよさから、ヴァイマル時代(1708年~1717年)以降の成立とする説もある。

作者の巨匠:ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(Johann Sebastian Bach)は、
18世紀が生み出したドイツの大作曲家である。
「近代音楽の父」、「音楽の父」とも称され、
ベートーヴェン、ブラームスとともに“ドイツ三大B”と呼ばれた。
現代においてもなお新鮮さを失うことなく、
ポップスやジャズに至るまで、あらゆる分野の音楽に応用され、
多くの人びとに刺激を与え続けている。

ベートーベンは、「バッハは小川でなく大海だ」と評した。
(ドイツ語の“Bach”が文字通りには“小川”を指すことからくる駄洒落)


バッハ一族は音楽家の家系で、その他のバッハとの混乱を避けるためにJ.S.バッハと略記することがある。
また、バッハ家でもっとも偉大であるという意味で大バッハという呼び名も古くから使われる。

バッハは幅広いジャンルにわたって作曲を行い、オペラ以外のあらゆる曲種を手がけた。
その様式は、通奏低音による和声の充填を基礎とした対位法的音楽という、
バロック音楽に共通して見られるのものであるが、
特に対位法的要素を重んじる傾向は強く、当時までに存在した音楽語法を集大成し、
さらにそれを極限まで洗練進化させたものである。

従って、バロック時代以前に主流であった対位法的なポリフォニー音楽と
古典派時代以降主流となった和声的なホモフォニー音楽という2つの音楽スタイルにまたがり、
結果的には音楽史上の大きな分水嶺のような存在となっている。

バッハはドイツを離れたことこそなかったが、勉強熱心で幅広い音楽を吸収した。
とりわけ、古典派のソナタにも比すべき論理性と音楽性を持つフーガの巨匠として名高い。

「フーガ ト短調 BWV 578」にもあるように、バッハの作品はシュミーダー番号
(BWV、「バッハ作品目録」 Bach Werke Verzeichnis の略)によって整理されている。

「バッハ作品目録」は、1950年にヴォルフガング・シュミーダーによって編纂され、
バッハの全ての作品が分野別に配列されている。

また1951年からドイツのヨハン・ゼバスティアン・バッハ研究所(ゲッティンゲン)で
「新バッハ全集」の編纂が開始され、
1953年にバッハアルヒーフ(ライプチヒ)もこの編纂に参加するが、
10年で終わると予想されていた編纂作業がドイツの東西分断など事情で難航し2007年に
「新バッハ全集」103巻が完成した。

「新バッハ全集」には1100の作品が収められている。

尚、現在も作品の整理が継続中である。


「フーガ ト短調 BWV 578」は、一般には、同じくト短調である「幻想曲とフーガ BWV 542」
との混同を避けるためもあって、「小フーガ」との愛称で親しまれている。
尚、「幻想曲とフーガ BWV 542」については、楽曲の規模から特に「大フーガ」と呼ぶこともある。

4小節半のフーガ主題は、バッハの最も分かり易い旋律として名高い。
作品は4声フーガとして、数学的に精密に構成されている。

エピソードの中でバッハはコレッリの最も有名な作曲技法を取り入れている。
すなわち、模倣し合う2声のそれぞれに8つの音符が現れ、
前半4音で一気に駆け上がったあと、後半4音で一息に駆け下りるという手法である。


BUCK-TICKとともに、バンド・ブーム後のヴィジュアル・ショックを創世した
X JAPANのメジャーデビューアルバム「BLUE BLOOD」に収録されている
「ROSE OF PAIN」はこの楽曲がモチーフとなっている。



そんなバッハの人類的傑作の旋律を奏でる今井寿。
しかし、それに負けないくらい、星野英彦も魅惑的な「見えない物を見ようとする誤解 全て誤解だ」の
戦慄のフレーズで、づんづんと我々を攻め立てる。

樋口“U-TA”豊の重厚なベースが加わると、この奇跡的な楽曲の進化をもたらした根源、
魔王:櫻井敦司が再び漆黒の翼を纏い、舞い上がる。


「宇宙(ソラ)に出かけよう さあ手を繋いで」


櫻井敦司は、手の平を前に出し、力強く握り締める。
今井寿がトレードマークのマイマイ新型サンバーストモデルをスクラッチすると大観衆も背筋に戦慄が走る。
そのまま、今井は、手をテルミンへと伸ばし、日本武道館を、異次元空間に誘い込む。


「腐った世界のネオンが見える」


櫻井敦司は、握り締めた拳を開き、手を真っ直ぐ前方へと伸ばし、
何か空間を、こちら側に引き寄せるような“魔”を発している。

BUCK-TICK。

彼らは、この楽曲で、本当に“神”に挑戦を挑んでいるのかも知れない。

そんなことが、不図、頭を過ぎる。


「いつものように 歌い狂って 踊りまくるのさ」


バッハの歴史的遺産とも言える「フーガ ト短調 BWV 578」を再び奏でる今井寿のギターをバックに、
漆黒の羽を振り回して舞う櫻井敦司。
この夜も、彼は、僕らの前で、道化師を演じようとしているのか?



「籠の中の俺は上手く鳴けるか」



翼で顔を隠し、蹲るようにしゃがみこむ櫻井をトレースするように、
今井寿はまたもや、ゆっくりとレッド・サンバースト・マイマイをスクラッチする。
クールにダークにJASSMASTERをカッティングする星野英彦は、
まるで、この先を先導する黙示録の宣教師だ。
この冷静な情熱のリズムは、今宵、我々をどこに誘うのだろうか?



「真白な世界の女神手まねく」


ツーフィンガーで躍動する魂:樋口“U-TA”豊。
チリチリとコメカミを焦がすようなノイズが、浮かんでは消える。
今夜は君と会える約束であったはずだ。
どうしたんだこの世は!
どうしたんだ人間は!
どうしたんだ俺は!
神と悪魔が唄い踊るよ!


「今夜は特に 気が狂(ふ)れそうに」


この世にこんな美しいモノがあるとは、思わなかった。
それを手に入れようと、俺はすべてを画策しのだ。
しかし、それは、無謀だったのかも知れない。
神の畏しさを知りながら、あえて神に反逆するルシファー。
黙って神に服従するよりは、破れてもいいから自分の意思で行動することを選んだ。
それは、主!あなたが、あんなにも美しいモノを持っていたからなんだ。

ミカエル、ガブリエルといったメジャーどころの大天使たちも、
美形でなかなかカッコいい立ち回りをするが、しょせん主の飼い犬だ。

魅力はルシファーに及ばない。


「夢を売れば 俺は絶望の中」


俺はそれを手にしようとしていた。
その主の持つ美しき精神とも言えるものだ。
そして、俺は、他人を羨ましがったり、妬んだりするみにくい感情を放棄した。
そういった醜い感情から自分を自由にして生きていくと決めたんだ。
それは、すごいパワーを持っていた。
サディスティックなサタンになった途端に世界は、俺にひれ伏した。
今井寿の赤マイマイは、それ自体が意思を持ったように、
巨匠:バッハのフーガから発展していくような旋律を奏で始める。



「踊らされて 俺は生きていける」



それは“絶望”の淵で見つけた宝物であった。
あの日、“嫉妬”に感情が芽生えるまでは・・・。
しかし、それは、起こってしまったんだ。
ルシファーならこう言ってすぐに立ち直ったかもしれないな
「一敗地に塗れたからといって、それがどうしたというのだ? すべてが失われたわけではない」
そうだ。喧嘩に負けない極意は、負けたと認めないことだ。
しかし、それは、鈍感なヤツにしか許されないことだろう?
俺は、またしても、その美しさに目を奪われてしまったのだから。
傷付いたのさ。
そうして、自分が道化師だったと気付いたのさ。

今井寿の先の尖ったブーツが目の前に登場し、
テルミンにケリを入れるようにスペイシーなノイズを響かせる。
星野英彦は、もうどうしようもなく洗練されたこの旋律を繰り返す。
間にまたフーガを挿入する今井寿。

櫻井敦司はアルバム・ヴァージョンとシングル・ヴァージョンの歌詞を少しだけブレンドして唄う。



「俺は仲間と 歌い狂って 踊りまくるのさ」



いくらもがいてもしょうせんこの世だ。
真実が知りたい。俺は狂い始める。


「楽しい夜さ 気が狂(ふ)れそうに」


鳥は囀り、僕は君へと歩き始める。
真実が知りたい。君は狂い始める。


「誰かが生きれば 泣いてやるさ いつでも
 誰かが死ぬなら 笑いかけてやるのさ」



普通は、反対だろ?つまんないこというなよ。
知ってるさ。俺は天邪鬼なんだ。
でも、このほうが、実はみんな上手くやっていけるって知ってるかい?
だってそうだろう。お前、そんなに辛そう顔してしがみ付いて生きてるじゃないか。
本当にそうさ。
あとは、それが、出来るかどうか・・だけなのさ。





「真実を知るには 此処にいても見えない
 真実を知るなら 此処にいてはいけない」



笑って送り出せたら・・・最高だろう?

それには・・・

此処にいてはいけない

此処にいてはいけない

此処にいてはいけない

此処にいてはいけない

此処にいてはいけない


此処にいてはいけない・・・


真実を 真実を 真実を 嘘を 嘘を 嘘を






「恋とは、魅力的な人に出逢ったときに、始まるのではない。
 恋とは、嫉妬を感じたときに、堕ちるものである」





見えない物を見ようとする誤解 全て誤解だ
 (作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)


宇宙(ソラ)に出かけよう さあ手を繋いで
 腐った世界のネオンが見える

いつものように 歌い狂って 踊りまくるのさ

籠の中の俺は上手く鳴けるか
 真白な世界の女神手まねく

今夜は特に 気が狂れそうに

誰かが生きれば 泣いてやるさ いつでも
誰かが死ぬなら 笑いかけてやるのさ
真実を

夢を売れば 俺は絶望の中
踊らされた 俺は傷ついている

俺は仲間と 歌い狂って 踊りまくるのさ
楽しい夜さ 気が狂れそうに

誰かが生きれば 泣いてやるさ いつでも
誰かが死ぬなら 笑いかけてやるのさ

真実を知るには 此処にいても見えない
真実を知るなら 此処にいてはいけない

真実を 真実を 真実を 嘘を 嘘を 嘘を





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