「目を閉じて・・・」


さて、新約「tight rope」であるが、
カップリング楽曲として、先行シングル第二弾「Alice in Wonder Underground」に収録された楽曲で、
原曲収録のアルバム『COSMOS』のヴァージョンが、打ち込みで創り上げられた“幻想”世界から、
大胆に、アレンジ変更されてギター・アンサンブル主体の生音「tight rope」として誕生した楽曲である。

当然、このアレンジはニュー・アルバム『天使のリボルバー』のコンセプトを、標榜したモノのであるが、
前年の2006年の【THE DAY IN QUESTION】でもセット・リストにもアップされていた
「MY EYES & YOUR EYES」とともに『天使のリボルバー』外伝というカタチで、
ライヴ・パフォーマンスされ、このライヴツアーでも好評を得た一曲である。

アルバム『COSMOS』に収録された原曲の創り上げられた世界観が、あまりにも完璧過ぎた為、
このニュー・アレンジは逆に、軽い印象のアンサンブルで、原曲を少し崩したカタチでアプローチされた。

が、しかし、この楽曲を唄う櫻井敦司のライヴ・パフォーマンスが、
“やはり”というべきか?あまりにも情熱的である為に、
銀河の彼方に、我々を放り出してしまうような感覚にさせられてしまうのは、
この楽曲の持つマジックと、櫻井敦司の持つマジックが掛け合わされた為であろう。

ヤガミ“アニイ”トールのカウントから、メインとなる星野英彦がJAZZMASTERをワン・フレーズだけかき鳴らせば、
櫻井敦司が、サビの一節を唄いこのニュー・アレンジはスタートする。


「目を閉じて・・・」


オリジナルにあるアンニュイな世界観はこのニューアレンジには皆無だ。
水の音から深く深く海中を潜って行き、
いつの間にか、その海中が宇宙へと変わり、
宇宙遊泳を楽しみながら、星になった愛しいあなたのもとへと向かうオリジナルの「Tight Rope」は、
いかにも、神秘的な、精神世界を唄っていたが、
このニュー・アレンジには、その深淵に希望の欠片を見つけ出すようなポジティヴなニュアンスである。

生命の根源を、この宇宙創世の物語に辿ると、あまりに神秘的であるため、
自分の存在が、本当に小さく感じてしまうのは、
アルバム『COMMOS』の偉大なるカオスの中に放り込まれた我々が、
すでに経験して来たことなのであろう。

母なる星雲に抱かれて、彷徨う憂鬱なる自身の矮小さに、うんざりしながらも、
食い入るように背後のビッグモニターの銀河映像世界に遥かなる郷愁の想いが溢れ出す。
そして、もう癒えたかと思っていた傷口が再び疼き出す。
遠い昔の想い出は、その残像すらヴィジョンに思い浮かばないのだけれども、
しっかりと、この胸に、残っている。


櫻井敦司は、しっとり右手で何か流線型のものをトレースするようにゆらゆら揺らす。
それに合わせるかのように、星野英彦のギター・カッティングで進行するニュー・アレンジ。
リズム隊のアニイ&U-TAの二人も、原曲よりもリズムの粒をしっかりと立てて、
その楽曲のシェイプをカタチ取って行く。
今井寿は、ヤガミトールのドラム台に腰かけてサンバーストのGibson ES-335をつま弾く。

ギター・オリエンテッドで進行する「tight rope」も、聴き入る程に味が出てくるようだ。
一貫してこのライヴツアー【TOUR2007天使のリボルバー】で演奏されるニュー・アレンジで、
日本武道館の大観衆も、気持ち良さそうに揺れている。

こんな“コスモス”の揺れは、きっと母親の子宮を連想してしまうのだろう。
恐らくは、こんな“闇”の中で過ごした“絶対的”な安堵の中に、
あなたを追い求めて、僕は、産まれ落ちた。
人間という原罪を持ちながら、タイトロープのような人生を歩む為に。






両手を広げて、すべてを許したいと願いながら、綱を渡る櫻井敦司。
クリア・アクリル製で創られた花道の奈落の底から映し上げる映像は、
儚げで、幻想的だ。

まるで、生まれたての子鹿が、立ち上がるような誕生のシーンにも見て取れるだろう。
黒き漆黒の翼の天使は、この様に誕生するのかもしれない。

そう、人生は一度きりというのは事実であるが、
何度も生まれ変わり、立ち上がり、歩き出す宿命を誕生というものは有している。

ギター・アンサンブルというシンプルな手法で描き出されるこの幻想世界の宇宙遊泳は、
一歩また一歩と前に進む人間の強さを表している。

「ゆっくり歩くことを恐れるな。止まることを恐れろ」

とは、中国のことわざであるが、前に進むことで、傷と涙は結晶となる。
こんな儚い綱渡りの人生でも、恐れず前を向いて一歩進み出す勇気さえあれば、
いつの日か、あなたのイマジネーションも現実のものとなって、
あなたの前に現れるのだ。


これは、気休めでは、ない。
断じて、ない。

真実なのだ。


「僕は今夜 精神異常 何処までも
 ああ 落ちて行くみたい」



自らを抱擁しながら跪くいてしまう櫻井敦司であるが、
見ろ。再び立ち上がり、頼りない綱渡りを再び始めるではないか!

挫け、停滞を味わってもいいのだ。
我々、人間には、再び立ち上がる本能が、確かに在るのだ。

そして、もし、
その挫折や、絶望という傷が、再び疼き出し、
恐怖で、身体が凍えたように固まってしまうのなら、

「目を閉じて・・・」

もし、揺れるこの人生のタイトロープと渡ることに怖気づいてしまったら、
目を閉じてしまえばいい。

そして、両手を広げ全てを許したいと願うのだ。
右足左足と慎重に確かめながら一歩一歩、前へ進む姿は、感動的ですらあるだろう。

勿論、奈落の底を見てはならない。
前方の目的をしっかり見つめろ、と周りは言うかも知れないが、嘘だ。
“目を閉じる”のだ。
そうすれば、イマジネーションが広がり、あなたは、自分自身を探求する冒険者となるだろう。
そして、死の匂いだけを頼りに、何が大切で、自分がどうするべきか、
そう、自分に問いかければいいのだ。

自分のやるべきこと、ゆらゆらと揺れている身体を止めようしてはいけない。
その揺らめきに身体をゆるすのだ。
そして、その先に待つ愛する人のために、一歩、また一歩、慎重に踏み出して行けばいい。

焦る必要はない。
何人にも“死”は、必ず訪れる。

だから、それまでの時間を、揺れながら進んでゆけばいい。

「君が飛べば 僕も行ける 何処までも
 ああ 落ちて行くみたい」


そんな感覚がしたら、こっちのモノだ。
空中ブランコで笑う天使達と共に、宇宙遊泳をするように、
この宇宙(ソラ)を泳げるようになっているだろう。




パリのオルセー美術館には、フランス象徴主義の大画家オディロン・ルドンの
最も重要な作品のひとつ絵画『目を閉じて(閉じられた目、瞑目) (Les yeux clos)がある。

本作は長男ジャンの死から三年後の1889年に次男アリが誕生した翌年に制作された作品で、
水面らしき地平の彼方で眼を閉じた巨大な女性が描かれている。

本作が制作される以前のルドン作品は『眼=気球』や『笑う蜘蛛』の様に、
一見不気味で奇怪な世界を、
木炭やリトグラフを用い黒という単色のみで構成される色彩で描いたもの(作風)が大半であったが、
本作には観る者の心に染み入るような温もりを感じさせる豊潤で幻想的な色彩が溢れている。

これは長男ジャンが生後6ヶ月で死去し、大きな失望を味わったルドンが、
その3年後に次男アリを授かったことで、
(画家自身、里子に出され孤独な幼少期を過ごしたことも含めて)
これまでに得ることができなかった幸福感に満たされたことが、
画家の作風に決定的な影響(色彩)を与えたと考えられる。

またルドンは≪目(眼)≫という画題に対して、
特別な思いを抱いており、本作を手がけるまで『眼=気球』のように、
その目は闇や精神的内面、孤独、不安、死などへと視線が向けられていたものの、
本作では、それらから開放されかたのように目を閉じ、
穏やかで安らぎに満ちた(目の)表情を見せている。

さらに陽光を反射する水面を思わせる画面下部の最も輝度の高い部分は、
次男アリの誕生によって画家の内面(心)に射し込んだ希望と喜びの光が反映しているとも
解釈できるほか、上空の美しい青色の空の表現には、
画家ルドンの孤独的な過去からの決別を感じることができる。

なおルドンの黒の時代からの離脱と、色彩の採用という重要な転換点となった本作は
1904年に国家が買い上げ、現在はパリのオルセー美術館に所蔵されている。


どんな“絶望”の淵に立っていようが、目を閉じて、
自分の内なる声に耳を傾け、一歩だけでいいから前へ進んでみることだ。
喪失したものの埋め合わせが出来るなんて、
そんな神がかり的なことは保障できない。
しかし、そこに新たなる希望が待ち受けている可能性はある。

たしかに生きることは、絶対の安らぎを誇る母親の子宮で宇宙遊泳していた時代から、
この狂った世界に生れ落ちることで、喪失の連続とも言えるだろう。
それでも、新たなる“死”に向こう側に、生まれ変わり“希望”の芽を拾うのだ。

そんな、前向きなメッセージと“希望”が漲るニュー・アレンジで、
【TOUR2007天使のリボルバー】最終公演、日本武道館でパフォーマンスされた「tight rope」。

力強き「tight rope」は、揺れていて、振り落とされそうになるが、
決して切れてしまうことはないメビウスの輪だ。

文学作品においてメビウスの輪はしばしば無限の繰り返しを比喩的に表すものとして用いられる。
メビウスの輪は一周して戻ってくると向きが逆転しているという性質を有していることから、
登場人物がなんらかの経験を経て考えをあらためて過去(あるいは元いた場所)に戻る際の
比喩としてメビウスの帯が使われることもある。

同じ道を目を閉じて歩く内に、いつしか、それは裏側に辿り着くということもある。
すべては一歩、前に進んで見なければわからない神秘だ。

それはアンニュイであったこの楽曲の生まれ変わりを見れば明白だ。

まさしく【ーRIBIRTHー】という意味で、
非常に新鮮な意味合いを持ち生まれ変わった楽曲であった。
そう言わざる得ない一曲であろう。






「この宇宙(ソラ)を泳ぐ あなたと

 夢の果てで逢える?

 目を閉じて・・・」




そう、目を閉じて・・・。行こう。


たった・・・。


たった、一歩だけで、、、いい。







Tight Rope
 (作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)


目を閉じて・・・

揺れる君を 指で辿る いつまでも
 ああ 何て狂おしい
泳ぐように 君が揺れる この空を
 ああ 何て美しい

闇の淵で 誰かが笑う 手招いた
 ああ 僕がそこに居る
僕は今夜 精神異常 何処までも
 ああ 落ちて行くみたい

死の匂いだけが頼り

ゆらゆら ゆらら 揺れてる 僕は綱を渡る
 目を閉じて
ゆらゆら ゆらら 揺れてる 僕は綱を渡る
 目を閉じて


揺れる君を 指で辿る いつまでも
 ああ 何て狂おしい
君が飛べば 僕も行ける 何処までも
 ああ 落ちて行くみたい

死の匂いだけが頼り

死の匂いだけが頼り

空中ブランコにあなたが 僕は綱を渡る
 目を閉じて
この宇宙を泳ぐ あなたと 夢の果てで逢える
 目を閉じて
空中ブランコが揺れてる 僕は綱を渡る
 目を閉じて
この宇宙を泳ぐ あなたと 夢の果てで逢える?
 目を閉じて

君が揺れている 君が揺れている
 青い青い空 青い青い海
君が揺れている 君が揺れている
 青い青い空 青い青い海


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