「狂った俺は“かげろう”だ
“ゆううつ”さに歌うよ Lady」
“ゆううつ”という“絶望”よ。
・・・おかえりなさい。
2007年12月29日の日本武道館のステージ。
ここに至るまでの17年という年月を経ても、
BUCK-TICKというロックバンドの生み出すロックサウンドの普遍性を見ずにはいられないナンバーといえよう。
「MY FUNNY VALENTINE」
この楽曲が17年前に存在していたという事実こそが、
そのすべてを物語るようでもあったし、“スタンダード”という観点からも、
決して、どのバンドでも実現しえなかった“前衛性”を感じる今井のメロディに、
これまた、櫻井敦司の世界を抉り取ったような歌詞背景が、
このバンド“BUCK-TICK”たる由縁なので、あろう。
この「MY FUNNY VALENTINE」が収録されたアルバムこそ、
BUCK-TICKを象徴する2曲「スピード」と「JUPITER」が収録されるアルバム『狂った太陽』であったが、
先に行われた9月8日のメジャーデビュー20周年記念イベント
横浜みなとみらい 新港埠頭特設野外ステージの『BUCK-TICK FEST 2007 ON PARADE』のフィナーレで、
上記の2曲が並べて演奏されるという奇跡を目撃していたファン達は、
現在のBUCK-TICKという存在の方向性を決定付けたアルバム『狂った太陽』を、
古い自らの倉庫の中から掘り起こし、聞き返して、
その歴史的な“価値”について再認識したことであろう。
アルバム『狂った太陽』は、音源として聴いた時に、
ひとつも色あせない“前衛性”を称えた楽曲集である事は、
間違いのない事実と思い知らされる。
前作『悪の華』のジャパン・ゴシック・シーンの縮図から一転、
エレクトリカル・ノイズや電子音といったテクノ的要素を本格的に取り入れたアルバム。
本作よりほぼ全ての作詞をヴォーカルの櫻井敦司が担当するようになる。
ハードロック的な2曲目「MACHINE」や9曲目「MAD」、
タンゴを取り入れた5曲目「エンジェルフィッシュ」、
絶望的な心情を歌う11曲目「太陽ニ殺サレタ」などの多彩な楽曲の中にも
果敢にノイズや電子音を織り交ぜる実験的な“前衛性”。
このアルバムでの主題“狂った太陽”とは、
人類が抗うことの許されない絶対的な存在を指しており、
前年に亡くなった櫻井敦司の母親に対する想いも込められている。
そこに内包される“狂気”“進化”“覚醒”“新世界”そして“親愛”という存在。
当時の彼らのリアル・タイムのドキュメント映像を見るかの如くに、
脳裏に巻き起こる妄想は、まさしく、ドラッグ・アルバムとしてのクオリティを輝かせている。
こんな“前衛的”な内容にも関わらず、
アルバム『狂った太陽』は第33回日本レコード大賞において優秀アルバム賞を受賞し、
セールス的にも認められた彼らの真骨頂であった。
当初、櫻井敦司はアルバムタイトルを「太陽二殺サレタ」にしたかったと語る。
その後の彼らの活躍は、ご存知の通り、ややアンダーグランドに潜り、
セールス第一主義とは一線を画いて、自らのドグマともいえる“情念”を、
熱く、また、クールに表現し続けた。
「MY FUNNY VALENTINE」というタイトルは、
1937年にリチャード・ロジャース&ロレンツ・ハートにより作詞・作曲され、
ミュージカル『ベイブス・イン・アームス』で発表されたショー・チューン。
代表的なジャズ・スタンダードの楽曲でもある。
ヴォーカル・トラックとしてもカバーされているが、
マイルス・デイヴィス等によりインスト・トラックとしてもカバーされ、
その他にもチェット・ベイカー、フランク・シナトラ、
エラ・フィッツジェラルド、サラ・ヴォーン等の錚々たるミュージシャンがカバーしている。
そんな往年のスタンダードのタイトルを冠したBUCK-TICKの「MY FUNNY VALENTINE」も、
名に恥じない名曲で、2曲目のハードな「MACHINE」から3曲目収録されて、
一本調子のロックじゃないこと、高々と表明している。
木霊するようなサウンドが響くと日本武道館は、このBUCK-TICKゴールデン・スタンダードに酔う。
バンドの背後には、2004年9月11日、ヴィデオ収録のため開催された
スペシャルライブ『悪魔とフロイト -Devil and Freud- Climax Together」での
横浜アリーナを思わせる巨大バックモニターに、時空の流れを表現するような映像が流れ出す。
今井寿:赤マイマイのキャッチーなギター・フレーズと
星野英彦のJAZZMASTERによる上質なシャッフル・カッティングも、
魅力的に再現されると、
妖艶な唄い手:櫻井敦司の洗練されたヴォーカルを堪能できる。
そして、どこまでもアヴァンギャルドな空気感を醸す今井寿のコーラス・ヴォーカルが混ざり合えば、
其処にBUCK-TICK唯一無二の神秘世界が実現するのだ。
この楽曲が、ライヴツアー【TOUR1991狂った太陽】や【殺シノ調べThis is NOT Greatest Tour】で、
ライヴ・パフォーマンスされた時も、観衆からは、
「こんな楽曲も、ライヴで演るのか!」という驚きともに、
ライヴ・バンドBUCK-TICKの世界観が広がっていくような期待感とともに評価されたのだ。
これは、ジャパン・ロック・シーンのルネッサンスと言っても過言なかろう。
勿論、僕は、少し廃れてしまったギャグでそういっているのでは、ない。
それは、人間の持つ反復機能を指しているのだ。
だから、いくら古い楽曲も、一向に朽ちず、錆びず、衰えない。
そんな反復する“普遍性”をこの「MY FUNNY VALENTINE」を初めとするBTクラッシックスは、
持ち得ているのは、間違いない。
その証拠に、この日の観衆もブレイクで叫ぶ!
「OH!MY FUNNY!!!」
まるで、1992年の【Climax Together】が、再現されているような錯覚に陥る。
決して、これは、僕のノスタルジックではないのだ。
リアル・タイムとしての彼らが演じているリアル・ロックが、
この「MY FUNNY VALENTINE」なのだ。
そして、この櫻井敦司による歌詞。
この芳香は、なんともいえないノーヴルなものを醸し出しているではないか!
「最後に教えてあげるよ 灰に埋もれたRhapsody」
まるで、フランス文学を封じ込めたような「ばら色の日々」だ。
「La vie en Rose~ラヴィアン・ローズ~」を待たずしてこの【ROMANCE】を実現していた櫻井敦司、
今や、魔王か、はたまた、漆黒の黒い翼の大天使が、
地上に降り立ちデカダンスな狂った世界を愛おししげに、嘆いているではないか!
その美しさも“普遍性”を称えるものであるし、
生々しく我々の胸に響き渡るじゃないか!
重なり逢う様に、今井コーラスもアンニュイに響く。
ファルセットでなぞられるコーラスは、僕達のホンネをトレースするかのようだ。
「アア僕ハコンナニ 待チ焦ガレテル Valentine
ソウ愛シイ君ガ 赤イ血ヲ注グ Valentine」
今井ダンスが披露されだしたのも、この楽曲が演奏され出した頃のことだ。
堕天使ルシファーが舞う天空に楽園を目指す無謀なる策略の数々。
こんな事を頭に浮かべる僕はすでに“狂気”に侵食されてしまったのかも知れない。
この“快楽”の前には、あまりにも、僕は無防備だ。
「夢見たお前幻だ 気懈さに躍れよ Lady
ZAKUROにむさぼりつくのさ 見世物小屋の Last Show」
このアルバムに会った頃、僕のなかで“幻想”は生まれていた。
“幻想”。
なんて便利な言葉だろう。
ありもしないことを“幻想”というのだ。
「アア君ノカカトガ 通リ過ギテク Valentine
ソウ狂オシイ程ニ 胸ヲ切リ刻ム Valentine」
イマジンというのとは、少し違ってね。
自分の都合のいいように想像するのが“幻想”ってことかも知れない。
「死んでもいいよな太陽 血肉まで溶ろけ出してゆく
怖くて仕方がないのさ 鏡に映る Destiny」
そういう風に考えていくとこの世に“幻想”じゃないものって、
存在するのかどうか、わからなくなるね。
「アア僕ヲ置キ去リ 君ハ残酷ナ Valentine
ソウ美クシイ君ヲ 二度ト眠ラセル Valentine」
まさしく“幻想”のカタマリが、この狂った世界の正体なのかもしれないね。
そして、今、“狂った太陽”が、そのすべてを蒸発させようとしている。
「今夜燃え尽きたいのさ ふたりきり灰になる
全て憎んでもいいだろ 君さえも俺さえも」
そうだ。灰になって混ざり合ってしまえば、
もう、ドッチが僕か君かわからなくなってしまうよね。
櫻井敦司がジャケットをゆっくりと脱ぎ、
そして、それを肩にかけるシーンは、まるで映画のワンシーンか、
なにか、ひどく歪なのに高価な絵画をみているような「MY FUNNY VALENTINE」。
星野英彦の心地良いシャッフルカッティングに身を委ねて、揺れていると、
なにか、混ざり合い、溢れ出す蜜になってしまったようだ。
今井寿が、回転しながら、ソロ・パートを演奏すると、
櫻井敦司はジャケットをマイクスタンドにかけ、擬人化すると優しく抱きしめる。
「今夜崩れ落ちたいのさ ふたりきり灰になる
全て裏切りと信じた 君さえも俺さえも」
時空を“Loop”するようにビッグモニターが、向こう側へ誘い込む。
向こう側に、存在するのは、“死”か?“狂気”か?
それは、行って見なければ、わかるはずがない。
「死にゆく愛しの Valentine I want Valentine
オヤスミ愛しの Valentine My Funny Valentine」
星野英彦の心地良いシャッフルカッティングで“廻る廻る 世界が廻る”。
デカダンスを知らないニヒリスト達が、味わう最上級の退屈はグルメな舌が溶けてしまいそうだ。
感覚が剥き出しになっている。
センスが狂いそうだ!
センスが暴れそうだ!
本当、彼らは“悪魔”か?“天使”か?
もう、僕には、わからない・・・。
・・・ただ、頭のなかで延々と繰り返される。
ふたりきり灰になる
ふたりきり灰になる
ふたりきり灰になる
ふたりきり灰になる
ふたりきり灰になる・・・
MY FUNNY VALENTINE
(作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)
狂った俺はかげろうだ ゆううつさに歌うよ Lady
最後に教えてあげるよ 灰に埋もれたRhapsody
アア僕ハコンナニ 待チ焦ガレテル Valentine
ソウ愛シイ君ガ 赤イ血ヲ注グ Valentine
夢見たお前幻だ 気懈さに躍れよ Lady
ZAKUROにむさぼりつくのさ 見世物小屋の Last Show
アア君ノカカトガ 通リ過ギテク Valentine
ソウ狂オシイ程ニ 胸ヲ切リ刻ム Valentine
死んでもいいよな太陽 血肉まで溶ろけ出してゆく
怖くて仕方がないのさ 鏡に映る Destiny
アア僕ヲ置キ去リ 君ハ残酷ナ Valentine
ソウ美クシイ君ヲ 二度ト眠ラセル Valentine
今夜燃え尽きたいのさ ふたりきり灰になる
全て憎んでもいいだろ 君さえも俺さえも
死にゆく愛しの Valentine I want Valentine
サヨナラ愛しの Valentine My Funny Valentine
今夜燃え尽きたいのさ ふたりきり灰になる
全て憎んでもいいだろ 君さえも俺さえも
今夜崩れ落ちたいのさ ふたりきり灰になる
全て裏切りと信じた 君さえも俺さえも
死にゆく愛しの Valentine I want Valentine
サヨナラ愛しの Valentine My Funny Valentine
死にゆく愛しの Valentine I want Valentine
オヤスミ愛しの Valentine My Funny Valentine

