「僕ら 蛇行の巣で絡み合う」




“SEX DRAG ROCK'NROLL”という陳腐の表現で“ロック”を形容していた時代は、
明らかに、終わりと告げていたはずである。

この“悪魔”のような“天使”達は、それを再興させようと目論んでいるのであろうか?
だと、したら、その行為に、何の意味があるのだろう。

アルバム『天使のリボルバー』収録楽曲で、
先行シングルの2曲を除いて、この「モンタージュ」と「スパイダー」が、
2007年の前半の活動を彩るライヴツアー【TOUR PARADE】で披露されてから、
時間的には、やや多くのモノを消費し過ぎていたせいで、
この「モンタージュ」が、ライヴツアー【TOUR2007天使のリボルバー】の最終公演、
12月29日の日本武道館で演奏されるときには、すでに、往年のロックナンバーを奏でているような、
そんな錯覚すら感じられたのである。

しかも、それは、今井寿の十八番アレンジ=テルミンの導入を、
このツアーに入ってからは繰り返されていたから、
まるで、BUCK-TICKクラシックスの一曲が、装いも新たに登場したような印象すらある。

映像作品のライヴDVD『TOUR2007天使のリボルバー』(2008年5月7日リリース)では、
Woopの林ワタル監督による2ショットのカット割で、この日のライヴの模様が楽しめる。
レギュラー・ヴァージョンでは、メンバーの様々なアクションが堪能出来る分割カット割と
ライヴの生々しさを伝えるワンショット・ヴァージョンがチャンネル割けされているが、
このカット・イン・ヴァージョンが本領発揮するのは、この「モンタージュ」からで、
目まぐるしいカット・インが、まさしく“モンタージュ”というワードを具現化しているようにも感じる。


ロックの醍醐味を感じさせよう作り上げられたこの楽曲では、
ブレイクから、バンドの一体感を感じるイントロで、櫻井敦司が叫ぶ。

「踊ろうぜ!トォオキョウ!」


シルクハットを脱いでマイクスタンドにかけ、擬人化する櫻井敦司は、
このツアー中に前髪をカットし、さらに、ウィッグを取り付けていてファッショナブルだ。
帽子を取ると、麗しい美顔が、今宵も披露される。


フェルナンデスのレッドバーニーで、ロックらしいリフを星野英彦が、
ミュート・カッティングすると、
今井寿が印象的な単音ピッキングとスクラッチで、サウンドをハウリングさせる。


今井自身も

「音作りの面で言うと、音数が少ないんで楽と言うか、そういうストレスはないですね。
だから変わったといえば、ノリを気にするぐらいでした。
どんどんアレンジが出て来たら、これをどうしようっていうせめぎ合いと言うか、
音数をシンプルにしなくちゃだとか、そういう葛藤とかあるのかと思ってたら、わりとなくて。
ああ、もうこれで終わりって。アレンジもすんなりで」

と語るように、シンプルな展開のロックでありながら、
BUCK-TICK特有のキャッチーさと毒々しさを併せ持つ今井らしいナンバーと言えよう。
まさしくギターを鳴らせる楽しさが、この「モンタージュ」には、充満していて、
楽しそうにギターを響かせる今井&ヒデのコンビネーションが、
この楽曲の本質であろう。

ホワイト“ペンギン”が光を放つようにプレイされる「モンタージュ」。

まさしく、“光”と“闇”を表現するようなロック・ナンバーであるが、
歌詞も今井寿の手によるものであり、
少し櫻井敦司を喰ったような“エロティック”なSEXナンバーでもある。

「Yeah Yeah Yeah Yeah Yeah Yeah Yeah Yeah!」という今井らしいコーラスが、
この「モンタージュ」を加速させる。


「降り注ぐ太陽 眩しくてたまらない」


という入りの歌詞もアルバム『COSMOS』収録中に、
童話の『北風と太陽』を連想したという今井らしい表現であるが、
彼の作詞が素晴らしいのは、
それをロック・シンガー:櫻井敦司が唄っている姿を仮定して書かれている点に尽きる。

妖艶な雰囲気を醸す櫻井敦司が、太陽の熱狂で、グラマラスな女性を焼き尽くすかのように、
一枚づつ、自ら、洋服を脱がせていく。
結局、櫻井敦司は、指一本触れずに、この魅力的な女性を裸にしてしまうのだ。

僕らは、気が付くと、地獄みたいな熱で、蒸発しそうなくらいに急上昇しているのだ。

ワン・フレーズが終了すると、今井寿のテルミンが起動し、
ファンタジックなスペイシー・ノイズがこめかみを痙攣させる。
ホワイト“ペンギン”のセクシーなネックが揺れる度に、
媚薬が効いてきた身体は自由を失い、快楽の底へと落ちていくようだ。


「透ける皮膚 血の管 咬みついて 放さない
 縺れたら 解けない もう二度と 解けない」



その快楽の分子が、ミクロサイズに変化し、彼女の肌から浸透し、
血管を伝わって、下へ下へと落ちていく。
まるで、アップ系コカインで、鼓動を早くした後に、ダウン系のヘロインを少量追加し、
焼き焦がれながらも、精神だけは、覚醒していく、
堕ちた底には、まるで、蛇の群れが蠢くような洞穴の底が待っていて、
すべてが混ざり合い自我を崩壊させて行くのだ。

そして絡まりあった二つの身体は、一体化するかのように、
互いの欠落して部分を補い合って溶けていく。
あらゆるものが液状化してドロドロと身体の外側に溢れ出していくよう情事。

今井寿は、それをお得意の歴史的事件のトピックを利用して表現している。

「僕ら 蛇行の巣で絡み合う
 解けない誘惑のオズワルド」


ここで言う“疑惑のオズワルド”は、情事に絡み合った身体を表現する比喩として登場しているが、
今井寿の使う“ワード”は、余りにも印象が強すぎる為に、
逆に、この「モンタージュ」という楽曲に主題を喰ってしまっている帰来がある。
リー・ハーヴェイ・オズワルド(Lee Harvey Oswald)は、
有名すぎるアメリカ合衆国第35代大統領ジョン・F・ケネディ暗殺の実行犯とされる人物で、
逮捕直後に、ジャック・レオン・ルビー(Jack Leon Ruby)によって暗殺される。

このジャック・ルビーは、テキサス州のダラスのナイトクラブのオーナーで、
リー・ハーヴェイ・オズワルドがケネディ大統領の暗殺の罪で逮捕された2日後、
1963年11月24日にダラス警察署の地下でテレビ中継中にオズワルドを射殺した。

ジャック・ルビーは、貧しかった少年時代にアル・カポネの使い走りをして、小遣いを稼いでいた人物。
1950年代に、マフィアの仕事でキューバへ行き銃や金の運び屋をしていた時期もあった。

オズワルド殺害の理由を尋ねられたルビーは、

「夫が暗殺され悲しんでいるジャクリーン夫人とその子供のため」

と供述している。

しかし、その後の調査でマフィアやCIA、
反カストロのキューバ人亡命者グループなどと深い関係にあったと言われており、
その供述を信じるものは少ない。

ルビーは、1964年3月14日に「悪意を備えた殺人」で有罪と判決された。
再審を待っている間、獄中のルビーは精神の安定を欠き
「何者かに癌細胞を注射された」
「ワシントンの刑務所に移送してくれたら本当のことをすべて話す」
など不可解な言動が見受けられたという。

暗殺事件前後に“オズワルド”を偽称する者が複数目撃された証言があるなど、
暗殺に関してオズワルドは実際の暗殺犯ではなく
他のものを代表して行動したと主張する論者が多数存在する。

マフィアとの関係が指摘されるルビーが何故やすやすと警察署に入ることができたかという疑問や、
オズワルドとルビーの間には共通の知人が何人もいたことや、
2人自身が顔見知りの関係であったという証言もあるなど、
暗殺犯はオズワルドではない、あるいは単独犯ではないという説は未だ根強い。

しかしながら、ウォーレン委員会の正告によると、
様々な物的証拠を検証するとオズワルド単独犯で説明がつくと結論されている。

真実は2039年に解禁されると言う。

こんな“ワード”を持ち出されては、「モンタージュ」という犯人捜査のタイトルが付いた楽曲に、
隠された秘密があるのではないか?と探りたくなるリスナー心理を、
巧妙に利用する今井寿一流の流用であろうが、
あまりに、インパクトが強すぎた為、本来のSEXソングというモチーフが薄れてしまったと言えるだろう。

しかし、そのドッチツカズのアンバランスさが、却って今井寿のロック・ナンバーという
アイデンティティを示唆するような余韻を残す。





$【ROMANCE】






12月29日の日本武道館【TOUR2007天使のリボルバー】最終公演では、
中央に設置されて、観客席の中心部付近まで延びているクリア・フロア(撮影の為か?)の花道で、
今井寿のホワイト“ペンギン”による迫真のギター・ソロを聴かせる。

そのロック・サウンドの素晴らしさに、逆にBUCK-TICKショウの特徴的な進化を見たとい言えるだろう。
本人も久しぶりにギミックも最小限にギターを弾きまくりたいと語っていたライヴツアーだけに、
ギタリスト:今井寿の本気を拝める一曲でもある。


「ねぇ知らないだろう ほら終わらない黒を
 闇より深い 暗い 暗い 闇を」



迫力のギターサウンドをバックに、擬人化したマイクスタンドを、
まるで“モンタージュ”のカット割りに使用する櫻井敦司が、
スタンドを左右にフラッシュする。

中央のスタンドに飾り付けられたシルクハットを覗き込むと、
まるで帽子の中が、“闇”への入り口かのように吸い込まれそうになる。
そう“闇”を見るときは、注意しなくてはいけない。
見なくていい“疑惑”の真実を知ってしまうと同時に、
疑惑の“闇”も、また、こちら側を注意深く覗き込んでいるのだ。
もし、その瞳と目が合ってしまったたら、こちら側に帰ってこれる可能性は、極めて低くなる。

そんなモチーフとしてオズワルドを持ち出したのかどうかの真実も、
疑惑の闇の中であるが、BUCK-TICKリスナーの深読み癖を知り尽くす男:今井寿の、
クリエイティヴな技巧が光る一曲に仕上がっているのは、間違いない。


とにかく、古臭い“SEX DRAG ROCK'NROLL”というロックのキメセリフを待ち出すまでもなく、
我々の妄想は、情事、快楽、暗殺事件、マフィア、人間関係と、
様々なモチーフが、混ざり合い、絡み合い、解けない。

それは、実は、ロックというストレートな表現を構築する舞台裏の、
情念と言えるモノなのかも知れない。

かつて、ロックというジャンル別けに、なんの意味もないと言ったが、
もし、“ロック”こそが、そういった営みのすべてを、
一本の太い糸として表現出来るアイティムであるのならば、
今井寿というクリエーターが利用しない手はないのだ。

そういった渾然一体としたドグマが、液状化して、身体の外側に溢れ出してきてしまう。
ドロドロを蜜のように光沢を称えて分泌されるその液体が、
眩しい太陽に、晒されて、蒸発し、周りの人たちに伝播していく。

そんなカタチのないナニカこそが“ロック”という衝動なのかも知れない。

しかし、それは、もともと自分の持ち得るパートと化学反応を起こして蒸発していく。
自分の中の声は、モトに戻り、これらのことを忘れろ、と警告していた。
「今からでも、遅くは無い・・・、
 この“ロック”を聴くのを辞め、家に帰って眠ってしまえば済むことだ…」
その声は今やほとんど効力を持たなくなっていた。
自分は気付くべきだったのだ。
自分が変わったのだと気付くべきだったのだ。
人間がまったく新しく生まれ変わるなんてあり得ないのだから、
今の自分を支配している何かは、昔から自分の中にあったということになる。
そういうパートは、恐らく誰にでもあるのだろう。

酒に酔った時に、そういうパートが拡大することもあるし、
火事で力を発揮することもあるし、
大切な人を救うために泳げない人を海に飛び込ませたりすることもある。
それが、どんなリスクを産むかは、自分にだってわかっている。
しかし、科学的に考えても、それは不可能なことではない。



例え、これが、ロッカーというキャストを演じているBUCK-TICKの姿であったとしても、
どこまでが、幻想で、どこからが真実かなど、誰にも証明出来ないのだから。



その証明出来ない情念こそが、今回にツアーの主題…。
“モンタージュ”を組合わせたような、どこにも存在しないような平凡の姿で、
個性を表現しようとした歪な毒々しさを持ったBUCK-TICKにしか出来ないロックの姿なのかも知れない。


そこに映し出された顔は、もしかすると、あなたの顔にそっくりかも知れない。





モンタージュ
 (作詞・作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)


降り注ぐ太陽 眩しくてたまらない
いっそ ただ 影のよう 消し去って かまわない

僕ら 地獄みたいな熱で
僕ら みんな蒸発させて
僕ら・・僕ら・・

透ける皮膚 血の管 咬みついて 放さない
縺れたら 解けない もう二度と 解けない

僕ら 蛇行の巣で絡み合う
解けない誘惑のオズワルド

ねぇ知らないだろう ほら終わらない黒を
闇より深い 暗い 暗い 闇を

YeahYeahYeahYeahYeahYeahYeah!
何もかも溶け出して
YeahYeahYeahYeahYeahYeahYeah!
抱き合いたい 雑ざり合いたい
YeahYeahYeahYeahYeahYeahYeah!

僕ら 蛇行の巣で絡み合う
解けない 誘惑のオズワルド
僕ら まるでモンタージュみたい
僕ら 雑ざり合い君がいない

ねぇ知らないだろう ほら終わらない黒を
闇より深い 暗い 暗い 闇を

YeahYeahYeahYeahYeahYeahYeah!
何もかも溶け出して
YeahYeahYeahYeahYeahYeahYeah!
抱き合いたい 雑ざり合いたい
YeahYeahYeahYeahYeahYeahYeah!
何もかも溶け出して
YeahYeahYeahYeahYeahYeahYeah!
抱き合いたい 愛し合いたい
YeahYeahYeahYeahYeahYeahYeah!
YeahYeahYeahYeahYeahYeahYeah!
YeahYeahYeahYeahYeahYeahYeah!

降り注ぐ太陽 眩しくてたまらない
いっそ 僕 影のよう モンタージュ もういない

抱き合いたい 雑ざり合いたい


$【ROMANCE】