「宇宙 世界中 体中」
さて、特別な一年となった2007年も、あとわずかで暮れようとしている。
この12月29日という日の日本武道館が、BUCK-TICKというバンドのライヴ予定のスケジュールで、
埋まっているのは、例年通りであったが、この年は、恒例の年末スペシャル・ライヴではなく、
ニュー・アルバム『天使のリボルバー』のライヴツアー【TOUR2007天使のリボルバー】最終公演となっている。
このデビュー20周年という節目の年に、
これまでに比類を見ないストレートなロックンロール・アルバムをリリースしたBUCK-TICKにとって、
ライヴ・ステージが、彼らの棲み処である、というモチーフを描くかのように、
寝ても、醒めても“ライヴ!!”という一年であったのは、言うまでもない。
そして、この日も、【TOUR2007天使のリボルバー】が幕を開ける。
アルバムのオープニングを飾った「Mr Darkness & Mrs Moonlight」。
アルバムのライヴツアー【TOUR2007天使のリボルバー】の前半では、
この楽曲ではなく、先行第一弾シングルの「RENDEZVOUS~ランデヴー~」で、
幕を開けていたツアーも、11月に入り、オープニング・ナンバーを、
この「Mr Darkness & Mrs Moonlight」を変更するセットリスト・チェンジを行っている。
恐らく、この年を象徴するような「RENDEZVOUS~ランデヴー~」を公演の終盤に配置換えすることで、
より印象的な演出の盛り上がりを図る意図が、あったのだろうが、
それまでも、二曲目にセットされていた「Mr Darkness & Mrs Moonlight」が、
いきなりトップに配置されたことで、
頭からドップリとアルバム『天使のリボルバー』の世界へと嵌り込んで行く感覚がある。
カラー的には、このアルバムの中でも、印象的に、ダークな今井作詞:作曲の楽曲である。
2003年の「ノクターン -RAIN SONG-」以来の今井寿&星野英彦による
ダブル・アコースティックで奏でられるダーク・ロックであるが、
以前のように、ドラマチックなエレクトロニカ的なエフェクトは皆無で、
生ギター2本で、グイグイと引っ張るような魅力が、グラマラスなロックの艶を鈍く光らせる。
今井寿が、アルバム・リリース前に、ファン・クラブの会報で、
かなり煽り気味のコメントで匂わせていたが、
蓋を開けてみると、逆に、今までに聴いたことのない生サウンドで描かれるダーク・ワールドで、
今井一流の天の邪鬼なフェイントとも取れるが、こういった楽曲がラヴ・ソングであることが、
BUCK-TICKらしいといえよう。
思い起こすのは、大作『Six/Nine』の「love letter」のようなラヴ・ソングであるが、
恋愛とは、誠に、綺麗な面だけではなく、このような情念のドグマが真実あろうことは、
BUCK-TICKのリスナーが一番良く知っていることであろう。
この日の日本武道館でも、オープニングSE「ANGEL」での緞帳が、頭上に残されたまま、
白い光が、ステージ方向から、スモッグのように照らされ、
やがてヤガミ“アニイ”トールと樋口“U-TA”豊のビッグバンド風の低く重たいリズムから、
星野英彦のこれもダークな生ギターでのフレーズ・ループで骨組みが構成される
「Mr Darkness & Mrs Moonlight」が動き出す。
「RENDEZVOUS~ランデヴー~」での祝福の光からスタートする序盤のロック・ショウとは偉い違いだ。
今井寿のアコースティック・プレイも、少しアドリブっぽく聴こえるブルース色が基調だ。
そこに漆黒の羽を纏ったシルク・ハットの櫻井敦司が光臨し、
自慢のオクターヴ歌唱法で聴かせるエンジェリック・カンバセーションが、
この「Mr Darkness & Mrs Moonlight」の正体だ。
アルバム『天使のリボルバー』収録時に、頭と結を固める
この「Mr Darkness & Mrs Moonlight」と「REVOLVER」には、
SELIAという男性ヴォーカリストのカウンターテナー・コーラスが挿入されている。
この両曲が、このアルバムのBUCK-TICK色を他のアルバムと繋ぎ合わせている。
前作『十三階は月光』と次作『memento mori』の凝縮したミニュチュア世界のようだ。
よって、アルバム『天使のリボルバー』は、この序章とフィナーレに挟まれる
2曲目の「RENDEZVOUS~ランデヴー~」から
12曲目の「Alice in Wonder Underground」の両シングルナンバーまでが、
本質的な内容とも言っていいだろう。
このカウンターテナーは、今井寿によると、
「「Mr.Darkness & Mrs.Moonlight」に関しては、
コーラスを重ねて、ドワッとした感じが出したかったんです。
派手さと言うか、奇抜さと言うか、下世話なギラギラした感じ。
当然自分達の声じゃ違うんで、知り合いからアイデアが出て、
やってもらうことになったんです」
ということで、エレクトロニカ等のエフェクトの代わりに、
こういった“生”のエフェクトを効果的に使用することで、
独特の『天使のリボルバー』テイストを醸し出していると言えよう。
この生のカウンターテナーに、さらに生の今井寿のコーラスが重なる。
ロックマン・スタイルの今井寿ならでは、楽曲であるし、
もし、このスタイルが10年前であったら、考えられないシンプルさと重厚さを兼ね備えた楽曲である。
空気感は、どこまでもダークなテイストである。
とはいっても、今井寿:特有の記憶に残るメロディ・フレーズは健在で、
ゴシックな“ダムドラの店”に、場違いな、頑な性格の“悪魔”が迷い込んでしまったかのような、
そんな風情がある楽曲である。

その頑固な“悪魔”は、実は、誰よりも純粋な魂を持っていて、
淫靡で、淫らな、この“ダムドラの店”の情景を見て、嘆くかのように、訴えている。
もしかしたら、こんな頑なな魂の持主こそが、“天使”という天空界のエリートの姿なのかも知れない。
彼は、映画『ゴッドファーザー』に登場するようなイタリア製のシルクのダーク・スーツに、
まるで、探偵のようなトレンチ・コートにソフト帽を粋に被って、
この快楽の溜まり場“ダムドラの店”に、古い友人を訪ねてやってくるのだ。
頑なな“天使”は、店のウエスタン・ドアを開くと、
凍りつくような、冷たい視線で、店内を見回し、
店の奥のステージで、ギターを肩から下げているものの、
一向に弾こうともしない飲んだくれの一人が、娼婦と談笑しているのを見つける。
当然、こんな下界の酒場に場馴れしていない彼は、不真面目な“DIABOLO”の姿を見て、嘆くのだ。
「俺が、唯一、美しいと認めた堕天使よ!なぜ、こんな所で!」
道化師“DIABOLO”になりすましたルシファーは、ニヤリと笑う。
「どうだい?人間は、生きることをエロス。死ぬことをタナトスって言うんだぜ!
刺激的だろ?やめられなくなるぜ!」
そのルシファーの姿を見て、頑なな“天使”は、嘆くのだ。
「下界は、“麻薬”と一緒ってのは、本当だな…。ハマったら抜け出せない。
なあ、ルシファーよ。
聞いたかい?
ミスター・ダークネスとミセス・ムーンライトの恋物語を。
あの時、お前は、主に、嫉妬したのさ。
お前は、主よりも、自分のほうが有能だと、感違いした。
だから、天上界から、抜け出して被造物:人間の世界に新しい“楽園”を創ろうとしたんだろう?
それが、この様か?
ただ、酔っ払って、おどけてるだけじゃないか?
これが、お前の言っていた“理想郷”=サンクチャリの姿なのか?
たしかに、アソコは退屈さ。
天獄だろ?
なにせ、憎しみもないから、愛情だって、わかりゃしない。
闇がないから、光も目立たない。
でも、汚れたこんな下界よりは、マシだぜ。
ここじゃ、その愛憎だって、嘘で塗りたくられてるじゃないか?
皆、愛してるのは自分の事だけ。
自分の欲望だけで、そう欲望だけか?欲望だけさ。
よくあることさ。よくある芸だ。
垂れ流された快感(オルガズム)が、たどり着いたマンホールから覗く。
それが鉄のブーツをはいて、悦ぶお前の心蹴り上げる。
わかるさ。
エロスとタナトスは、快楽さ。
だから、人間は、そんなことの為に血反吐を吐きながら生きてるんだろう?」
噎せ返るようなストレートのコニャックを啜りながら、
頑なな“天使”は続ける。
「ミスター・ダークネスは立派だったよ。
ミセス・ムーンライトの為に、彼は契約したのさ。
自分の為じゃなく、彼女のためさ。
彼は言っていたんだ。
彼女の痛みは、そのまま自分の痛みだ、って。
彼女が、シンデ、“月”になるなら、私は、“月”を包む“夜”になりたい、だなんて。
人間風情が、なかなか言えたもんじゃないよな?
でも、彼は、主に、そう願ったんだ。
他に、何もいらないから、そうしてくれって。
お前には、わかんねぇだろうな」
ルシファーは、目を伏せて答える。
「ああ、俺には、わかんねぇな」
そうして、フフッと少しだけ笑った。
「そうか。下界はそんなに楽しいのかい?」
「ああ、最高だ。
ここには、すべてがある。
愛 憎悪 苦痛 快楽 生 死 すべてがここに…
これこそ人間!これこそ魔よ!」
そういうとルシファーは、また、フフッと笑みを浮かべるのだ。
その顔は、道化師“DIABOLO”の顔から、美しき堕天使ルシファーの表情に戻っていた。
頑なな“天使”も、少し笑ってこう言った。
「そうか。ああ。
わかってたよ。お前がそう言うんじゃないかって…。
もう一杯もらったら、俺は天空に帰るよ。
でも、なぁ、主もさ、実は寂しがってんだよ。
ああ、勿論、口には、しないさ。
あの方は、偉大な方だ。
無駄口は、決して叩かない。
でも、見てればわかるよ。
あの方は、ひょっとすると、お前の事を一番愛してたのかも知れないな。
それで、今回のミスター・ダークネスとミセス・ムーンライトの一件だろ?
主も、ちょっと、寂しそうでさ。
正直、見てらんないんだよ。
…だから、もし、お前が帰って来てくれたら…、
昔みたいに、楽しくやれるんじゃないかってさ。
ちょっと、想って。
でも、いいさ。
お前は、過去を繰り返すようなヤツじゃない、って。
俺もわかってたんだよ。
邪魔したな。
もう、来ないよ」
そう言うと頑なな“天使”は“悪魔”の表情に戻り、
グィっとコニャックを飲み干すと、タバコに火を付けて席を立つ。
古い友人を見送るルシファー。
「ああ、ありがとう。ごめんな」
「元気でな」
「じゃあな」
そうして、頑なな“天使”は、“ダムドラの店”を出て行く。
ルシファーは、少し昔を思い出すかのように、“天使”を見送った後、
ひとり、つぶやくんだ。
「ミスター・ダークネス。
あんたは、立派だったよ。
アイツは、知らなかったのかな。
あんたが、契約を交わしたのは、俺だった、ってことを。
・・・しらねぇ訳ねぇよな」
そういってバーボンを一ショットで飲み干すと、再び道化師“DIABOLO”の姿に戻って、
店の小さなステージに戻り、アコースティック・ギターを奏で始めるのだ。
「この曲は、“或る吐き気がするほどロマンチックな二人”に捧げる曲だ。
聴いたら、みんな、今夜も、たらふく飲んでくれよ!」
そうして、奏でられた曲は、どうしようもなくダークなロックで、
宇宙、世界中、体中に響き渡った。
Mr.Darkness & Mrs.Moonlight
(作詞・作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)
天使のように完全 天国より禁断
uh..bravo uh..bravo
宇宙 世界中 体中
Mr.Darkness & Mrs.Moonlight 地獄のように熱いんだ
Mr.Darkness & Mrs.Moonlight 死ぬほど愛してるBaby
Mr.Darkness & Mrs.Moonlight
クロスで契約交わしたんだ 魔王の角で貫いてよ
愛してる My Sweet Sweet Baby
死ぬほど愛してるBaby 魔王の角で貫いてよ
愛してる My Sweet Sweet Baby
ルシファーに売るBlues 十字架で落とす
oh..my god oh..my god
宇宙 世界中 体中
Mr.Darkness & Mrs.Moonlight 地獄のように熱いんだ
Mr.Darkness & Mrs.Moonlight 死ぬほど愛してるBaby
Mr.Darkness & Mrs.Moonlight
クロスで契約交わしたんだ 魔王の角で貫いてよ
愛してる My Sweet Sweet Baby
死ぬほど愛してるBaby 魔王の角で貫いてよ
愛してる My Sweet Sweet Baby
Mr.Darkness & Mrs.Moonlight 死ぬほど愛してるBaby
Mr.Darkness & Mrs.Moonlight 死ぬほど愛してるBaby
Mr.Darkness & Mrs.Moonlight 死ぬほど愛してるBaby
Mr.Darkness & Mrs.Moonlight 魔王の角で貫いてよ
