「また、こういう時は時間が無いって決まってるんだよね…

 アイツとアイツみたいなもんさ…」




やはり、アルバム『狂った太陽』だけは、特別な存在だ。
なにせ、「スピード」と「JUPITER」が入ってるんだから…。

昨今、リリースされた写真集のインタヴューでも、星野英彦が、

「星野さんが自分のお墓に1枚だけCDを入れるとしたら、何を持って行きたいですか?」

という質問に、

「『狂った太陽』(91年)ですかね。自分の作った「JUPITER」が入ってるし、
自分としてのひとつのターニングポイントになっているアルバムのような気がするんですよね」

と答えているし、
2005年のテレビ番組での櫻井敦司へのインタヴューでも、

「ファンの間では、名作である、と同時に、
現在のBUCK-TICKの方向性を確立したアルバムでもある、
という評価があるんですが、櫻井サン御自身は、どう評価されますか?」

という質問に、櫻井敦司も、

「う~ん。そのファンの人の分析といいますか、スゴく的を得ている、と思います。
自分自身でも、あの、色んな面で、転換期、転機になったアルバムですね」

と答えている。





2007年9月8日、横浜。


みなとみらい 新港埠頭特設野外会場の『BUCK-TICK FEST 2007 ON PARADE』も、
遂に、最終局面に突入している。

これが、彼らの“20周年”の賜物だ。

櫻井敦司のMC。

「こういう時は時間が無いって決まってるんだよね…

 アイツとアイツみたいなもんさ…」


時間という概念。
終わりがあるから、美しいという希少性は、
時間という概念に、支えられている。

もし、これが、なかったら…、
なんて、無粋で、醜い世の中か?

時間がすべてを浄化してくれる。
なるべきように、してくれる。
時間を、時を、信じよう。

そこに、“永久”はきっと、ある。



「本当にありがとう!!
 清春!
 BALZAC!
 RUNAWAY BOYS~kyo and nackie!
 AGE of PUNK!
 ATTACK HAUS!
 M.J.Q!
 THEATRE BROOK!
 土屋昌巳!
 abingdon boys (High)school!
 Rally!
 J!
 MCU!
 KEN ISHII!

 そして・・・」



客席に、マイクを向ける櫻井敦司。


大観衆は、声を張り上げて叫ぶ

「BUCK-TICKー!」

櫻井は言い直すように

「・・・YOU!!!
(そして…あなたたち)」


櫻井敦司の、BUCK-TICKの“祝福”は、“Loop”する。
20年間、その後を追い続けてきた熱心なファン達は、
この一言で、本当に20年見続けてよかった、と涙したに違いない。
そして、この後、その姿を見守り続けることを、堅く心に誓った。

それは、バンド側:BUCK-TICKも一緒だ。


そして、櫻井は付け加える。
一緒に走り続けてくれた仲間が、ここにもいる。


「そして、なによりも、スタッフに!!!
感謝してます!ありがとう!!(拍手)」



そう、裏方の彼らの存在は、当然、最も目立たない。
目立たないことが、彼らのプロ根性そのものだ。
しかし、見ている人は、必ず見ている。

この大舞台の最後に、観客も、アーティストも、一緒になって“感謝”を贈ろう。

素晴らしいステージを“ありがとう”!
きっと、誰ひとり欠けても、こんな、素晴らしいステージは実現しなかった!

大観覧車の時計もぴったり終了予定時刻間近の【8:50】。

まさしく、プロフェッショナルの仕事といえる。

彼らのお陰で、参加アーティストもストレスなく、
観客も9時間という長丁場を立ちっぱなしで、声援を送り続けた
勿論、主役:BUCK-TICKもいつも見ることのない上機嫌の表情で、
このステージをパフォーマンス出来る。

これほど、素晴らしい事があろうか!

最後の一曲に、この“感謝”を込めて・・・

渾身の想いを載せて「JUPITER」。



考えると、ここで、最後に演る一曲は、これしかなかった。



BUCK-TICKのフェイヴァリット・ソングを、
たった一曲だけ選ぶのは、不可能だ。

しかし、「JUPITER」には説得力がある。

誰にも文句を言わせないだけの名曲であるのはたしかだ。

作曲者の星野英彦も、語っている通り、「JUPITER」は特別な存在だ。
その後も、珠玉の美しいメロディをリリースし続けているヒデであるが、
未だ、この「JUPITER」を超えるものはないかも知れない。

と、いうよりも、それは、不可能なのかも知れない。
それぐらいの独特な神聖なる輝きを秘めた楽曲である。
まさしく、この“最後の場面”には、相応しい一曲だ。
そんな説得力を持つ。


アルバム『狂った太陽』からは、先行シングル「スピード」。
そして映像作品としてもリリースされた「M.A.D」に続き、
3枚目シングルとして「JUPITER」は、発売された。

アルバムのライヴツアー【狂った太陽Tour】では、セットリストに組み込まれず、
1991年の【CLUB QUATTRO BUCK-TICK】でのライヴハウス・ギグで、初めて披露されてから、
翌1992年の【殺シノ調ベ This is NOT Greatest Tour】でセットリストに組み込まれ、
初期BUCK-TICKライヴの集大成【Climax Together】では、
開幕を告げるオープニング・ナンバーとして、劇的にエントリーされる。

こういったメロウなバラードで幕を開けるライヴ・パフォーマンスが、
その衝撃と共に、独創的なBUCK-TICKの世界観を構築していったのは、言うまでもない。



右手を高くあげる櫻井敦司。
同時に、星野英彦が、アコースティック・ギターで、アノ旋律を奏で始める。
今井寿は、初期、この楽曲において、中盤まで沈黙を守っていたが、
BUCK-TICKの変遷の中で、「JUPITER」初め、様々な楽曲にアレンジを加え、
新たなる命の息吹を吹き込んでいる。

まるで、横浜の夜空に向けて、シューティング・スター=流れ星を飛ばすように、
スペイシーな【ROMANCE】を撃ち上げるのだ。
今井の“弾無しリボルバー”は、愛機スタビライザー。

全てを浄化していくような櫻井敦司の声と、
今井寿のスタビライザーの音色が、青い光と共に空に吸い込まれていく。

楽曲に合わせ、青いライトが横浜の夜空を照らした。
雲一つ無い、何処までも続く夜空に吸い込まれていく。


櫻井敦司は、この楽曲に、亡くなった母親への悲哀を捧げた。
所謂、レクイエム(鎮魂歌)というモノであったが、
長い年月を経て、そう言ったモノを超越した神聖な楽曲として光臨することになる。

すべての想い。哀しみも、そして喜びも。
すべての感情を包みこんで、月の螺旋階段から夜空のあなたへ贈る「讃美歌」「聖歌」となった。

「死んで、君が、星になるなら、
 俺は、星を包む“闇”になりたい」

そう語る櫻井敦司の想いが重なるその刻に。
この「JUPITER」こそが、慈愛の象徴たる聖母マリアのように、
神聖化し、人々の心に昇華していく。



人は、いつか死ぬ。

それは、紛れもない“事実”だ。

そして、人は“原罪”を持って生まれ出る。

これも、“事実”だ。


しかし、どんな人間にも、“懺悔”は許されるのだ。



土屋昌巳のコメントに映画『ゴッドファザー』が上がっていたので、
久しぶりにシリーズを確認した。

『ゴッドファーザー』(原題:The Godfather)は1972年に公開されたアメリカ映画。
フランシス・フォード・コッポラ監督によるマフィア映画で、
マリオ・プーゾの小説『ゴッドファーザー』を原作に映画化した作品で、
タイトルにも『Mario Puzo's The Godfather』とされている。

このシリーズ最終章『ゴッドファーザーPARTIII』(原題:The Godfather Part III)では、
主役のアル・パシーノ扮する マイケル・コルレオーネが、
ローマ大司教を前に、“懺悔”して泣き崩れてしまうシーンが印象的だ。

マフィアの首領(ドン)が、自分の心の「密室」に仕舞い込んでいた“原罪”を懺悔し、
泣き崩れるのだ。

大司教は、「そんな“原罪”を抱えて…辛かったでしょう」と、
その“原罪”を「赦す」のだ。

この「赦し」こそが、ジーザスが、そしてマリアが、人類に残した遺産。

アル・パシーノ扮するマイケル・コルレオーネ(Michael Corleone)は、
『ゴッドファーザーシリーズ』におけるヴィトー・コルレオーネ(Vito Corleone)と並ぶ主人公。
ヴィトーの三男としてコルレオーネ・ファミリーに誕生し、
1950年前後の一連の出来事を通して、ファミリーを引き継ぎ、2代目首領(ドン)となる。

第二次世界大戦、太平洋戦争を海兵隊として過ごし、その活躍で英雄と呼ばれる。
高い知性を持ち、理想に燃えたり、人に自然と尊敬を持たれたりと、
ヴィトーも後継者にするつもりはなく、やがて知事や上院議員になる器であると考えていた。

しかし、ヴィトー暗殺未遂事件、その数奇な人生の波に呑まれ、長兄ソニー暗殺を経て、
コルレオーネ・ファミリーの首領(ドン)となる。

首領(ドン)になってからは、奸智に長け、冷徹な命令を平然と下し、
邪魔者は徹底的に排除するという性格になる。
これによって裏世界でも成功し続け、父・ヴィトーをも越える勢力と資産を築くも、
父親と違い、家族を守るためにやったことが、
ファミリーを崩壊させる結果を招き続ける悲劇に襲われるのだ。

1990年公開の『ゴッドファーザーPARTIII』では、
マフィアのボスとして絶大な権力を握ったマイケルの最晩年の物語が描かれる。

本作品でのマイケルには『Part I』や『Part II』の時のような冷酷さや非情さが消え、
物語は彼の懺悔と苦悩を中心に描かれている。

また、1970年代後半から1980年代に明らかになったヴァチカンにおける金融スキャンダルと、
それに関連して起きたと噂されている1978年のヨハネ・パウロ1世の「急死」や、
1982年に発生し世界を揺るがす大スキャンダルとなったロベルト・カルヴィ暗殺事件といった
実在の事件が作品に織り込まれている。

さらにマイケルには、糖尿病という病魔が忍び寄っていた。
病状は進行し、時には崩れ落ちてしまうという深刻な状態に陥ってしまう。
そこに加わる過去幾度も犯した、おぞましい“原罪”の数々。
その“原罪”が、マイケルの心を侵食し、そして想像を絶する罪悪感に苛まれ、苦しみ続ける。

マイケルに、「赦し」が施された後、マイケルは、首領(ドン)の座を、
兄ソニーの息子:ビンセント・コルレオーネ(アンディ・ガルシア)に譲るのだ。

しかし・・・。







万感の想いを込めて、今、すべてが、横浜の空に浄化されて逝く。

召されよ。痛渾の想いよ。

唄は月日と共に変化し、そして成長していく。
人間と同じ生きモノだという事を改めて実感させてくれる「JUPITER」。


この一日の出来事が、走馬灯のように、脳裏を駆け廻る。

そして「JUPITER」。

すべてが浄化されていくような「JUPITER」。

今宵も、闇深き男:櫻井敦司が、唄っている。
最高のフィナーレだ。

「歩き出す月の螺旋を 流れ星だけが空に舞っている」

ちぎれた体に救いはない。
クスリは悲しいだけ。
あなたの窓辺に月が満ちる前に、
そっと舞い降りて、波が、あなたをさらって行く。

この月への螺旋階段の先に、
あなたが待っている新世界は「綺麗な惑星」だ。
その螺旋を登ることが、人生そのものかも知れない。
「すぐに行くよ・・・」と蒼い部屋で、あなたに伝えたけども…
あなたは、「まだ、ここに来てはいけない」と言ったね。

逃れる術も知らず、それは誰の下にも、いずれ訪れるモノだから…
だから…その時が、来るまで、「ここに来てはいけない」と言ったね。

その螺旋を登りながら…
手を振って、あなたは、僕に言ったんだ。
「ずっと永遠さ」



「頬に濡れ出す赤い雫は せめてお別れのしるし」

人は、“罪”を犯してしまう生き物だから、
あなたは、その“罰”を引き受けたように、笑って螺旋を登る。

でもね。
見送る僕達は、あなたを忘れたりなんかしない。
聖母マリア像の瞳から、今宵も、慈愛の涙が、零れ落ちる。
その“赤い雫”で、夜は、真っ赤に染まるんだ。
これは、せめてもの“ハナムケ”。
沈みゆく太陽、空に煌く星。
この世は全部、あなたの夢 Baby ,I Love You.
気が付けば、僕の頬にも“赤い雫”薄く紅差す。



「忘れよう全てのナイフ
 胸を切り裂いて 深く沈めばいい」


いいか忘れるなよ。いいさ忘れちまえ。
“罪”も“罰”も時間すべてを熔してしまう。
この“狂った太陽”に焼かれて、
さよならを、言う前に・・・。
嗚呼、影絵の中で独り置き去りのまま。
彷徨う夢と指が腐りかけた。
感じる。これこそが生と死だ。傷を付けてやる。
震える。俺こそが生と死だ。刻み付けてやる。
足掻き、もがき、この愛と死を全うしよう。



「そして涙も血もみんな枯れ果て
 やがて遥かなる想い」


天使が見ているから月を消して。
花を飾ろう綺麗な花を。
嗚呼、真っ白な世界。
眠れるあなたの夢か幻。
たった一筋、モノクロームの頬に紅差す。
キラメク星が消えたなら、
最後は愛と泣けるから。
キラメク海が枯れたなら、
最後は愛と笑うから。



「どれほど悔やみ続けたら
 一度は優しくなれるかな?」


あたなは、懺悔を信じる?
赦されない“罪”なんてないって。
ジーザスって男が言ったみたいなんだ。
そのかわり、彼は十字架に架けられた。
人類の“原罪”を、ひとりで背負って。

こんな、ことが、あっていいのか?
でも、「赦し」がなければ、人は生きていけないんだ。
だから、マリアは、ただ、血の涙を流した。
悲しかったんだ。
でも、どうすることも出来ず、血の涙を流したんだよ。

それ以上の“優しさ”を知ってるかい?
「わたしは死んだとき葬式で誰が泣いてくれるだろうと考えることがある」とあなたは言った。
そんなことに意味はないと僕は思った。
自分の葬式を見ることはできないからだ。
だが、自分の葬式を眺める方法がひとつだけあるのだとあなたは言った。


「今夜 奇麗だよ月の雫で 汚れたこの体さえも」

涙は、“月のしずく”だ。
すべてを浄化してしまう。
今日も、月とおしゃべりしながら、あなたを想う。
この螺旋階段の先に、あなたが待っている。
でも、あなたの言う通り、僕はまだ、登らないよ。

いつか、また、逢えるその日まで。

僕の“罪”がこの“月のしずく”で綺麗になるまで。

今度は、上手に笑えるかな?


櫻井敦司が客席にKISSを送り叫ぶ。


「どうもありがとう…最高です。

・・・また明日」




「また明日」・・・そう、これは、ひとつの到達点ではあるが、
決して、“終わり”ではない。
明日は、どんな日にも、到来するのだ。
そう、明日は、常に誕生を迎えている。


「JUPITER」の終わりと共に、ステージ上ではこの日最大のサプライズが用意されていた。


「どうも、ありがとう!アイ・ラヴ・ユー・オール

オール・アーティスト!オール・ファン!グッバイ!

 &スタッフ!

・・・バッッック・ティッッック!!!」


櫻井の最後のMC。
爆発音と共に花火が上がり、幾筋もの光の放物線が夜空を彩るのだった。
今井寿のスペイシー・ノイズが、一線、夜空に放たれる。
花火の明かりに、オーディエンスたちの笑顔が照らされる。
長年、BUCK-TICKを見続けて来たが、こんな彼らは本当に初めてだ。


「ありがとう」

「心からありがとう」

「愛してるぜ!Baby!」

「BUCK-TICK」


退場口のゲートには、そんな彼らのメッセージが映し出される。

帰宅の途に付く観客の顔には“笑顔”が溢れている。




【BUCK-TICK FEST 2007 ON PARADE】は、台風9号が猛威を振るう中、
懸命にステージを設営したスタッフ達や、
リハーサルも十分に出来ない状況でも逆境を楽しむかのように、
素晴らしいパフォーマンスを繰り広げた出演アーティスト達、
そして、BUCK-TICKを応援し続けている多くのファンが成功に導いた“奇跡”であった。
誰もがこのフェスを創り上げることの素晴らしさを体感したに違いない。

同時にBUCK-TICKというロックバンドが、
また、新たなる世界を切り開いた、記念すべき一夜ともいえるのだ。



“奇跡”は、また創り出される。


多くのアーティストから。

BUCK-TICKから。

そして、“あなた”から。




“ありがとう”。









【BUCK-TICK SETLIST】

SE (with KEN ISHII)
1.Baby,I want you(with KEN ISHII)
2.RENDEVOUS~ランデヴー~
3.Alice in Wonder Underground
4.ROMANCE
5.DIABOLO
6.夢魔-The Nightmare
~ENCORE~
1. スピード(with MCU)
2. JUPITER







JUPITER
 (作詞:櫻井敦司 / 作曲:星野英彦 / 編曲:BUCK-TICK)


歩き出す月の螺旋を 流れ星だけが空に舞っている
そこからは小さく見えたあなただけが
優しく手を振る

頬に濡れ出す赤い雫は せめてお別れのしるし

初めから知っていたはずさ 戻れるなんて だけど。。。少しだけ
忘れよう全てのナイフ
胸を切り裂いて 深く沈めばいい

まぶた 浮かんで消えていく残像は まるで母に似た光
そして涙も血もみんな枯れ果て
やがて遥かなる想い

どれほど悔やみ続けたら
一度は優しくなれるかな?
サヨナラ 優しかった笑顔
今夜も一人で眠るのかい?

頬に濡れ出す赤い雫は せめてお別れのしるし
今夜 奇麗だよ月の雫で 汚れたこの体さえも

どんなに人を傷つけた
今夜は優しくなれるかな?
サヨナラ 悲しかった笑顔
今夜も一人で眠るのかい?


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