「ありがとう 時間が無いらしい、
 
 言葉は抜きだ!

 愛してるぜBaby!!」





2007年9月8日のメジャーデビュー20周年記念イベントとして実施された
横浜みなとみらい 新港埠頭特設野外ステージの『BUCK-TICK FEST 2007 ON PARADE』でも、
言えることであるが、2007年の最も印象的BTナンバーを訊かれると、
寝ても覚めても「スピード」に尽きるだろう。

勿論、この年にニュー・リリースされたシングル「RENDEZVOUS~ランデヴー~」と、
それに続く「Alice in Wonder Underground」の2曲は言うまでもなく名曲のレベルであったし、
この一大イベントの後にリリースされたニュー・アルバム『天使のリボルバー』に収録される楽曲の、
ストレートなバンド・アンサンブルが、2007年を象徴しているのは確かであるが、
20周年を記念しての活動という観点で観た時、どうしてもこの一曲が脳裏から離れない。

「スピード」

アニヴァーサリーイベントの前段として周ったライヴツアーでは、
アンコールの最後に必ず演奏されたのが、同曲「スピード」であったし、
この【BUCK-TICK FEST 2007 ON PARADE】のアンコールに一曲目で、パフォーマンスされ、
この日のどのアーティストのどの楽曲よりも、一体感を持って演奏されたのは、
間違いなく、この「スピード」であった。
ちなみに、このフェスのあと敢行されるライヴツアー【天使のリボルバー ツアー】でも、
アンコール2に頻繁にエントリーし、各会場を沸かせることになるし、
同ツアーの最終公演:日本武道館の【天使のリボルバー 追加公演】の、
ラスト一曲でフィナーレを飾ったのも「スピード」であった。

この「スピード」こそ、BUCK-TICKの20年の象徴と言える楽曲なのかもしれない。

それは、同楽曲を収録するアルバム『狂った太陽』にも、同じことが言える。
BUCK-TICKメンバー全員の最大公約数を要約するとやはり
メジャー5枚目のアルバム『狂った太陽』ということになるのであろう。

その証拠という訳ではないが、この2007年9月8日の【BUCK-TICK FEST 2007 ON PARADE】の、
押しに押しまくった展開のなかでのアンコール楽曲は、
「スピード」と「JUPITER」という『狂った太陽』を象徴する楽曲を2曲並べて演奏するという、
パフォーマンスに至ったのだ。

野外ライヴということもあり、この業界の常識ではあるが、
時間制限という制約が、通常のライヴ会場よりも厳しい条件下で、
実施されたフェス・イベントであったから、この奇跡的な2曲を並んで聴けることの感慨は、
例えようのないモノであった。

勿論、繰り返し、メンバーが述べているが、
参加してくれたアーティストとこの会場に集結したファンへの感謝と共に、
この一大イベントを実現してくれたスタッフと、その陰に協力してくれた関係者各位、
また、この会場に参加できなかった全国のBTファン(まさしく20年を支えてくれた人々)に、
感謝を込めて贈られたナンバーが、この「スピード」であり、「JUPITER」だったと言える。

この2曲が時空を超えて、此処に存在すること自体が、
まさしく“祝福”そのものと言えるだろう。

BUCK-TICKのメンバーもインタヴュー
『Yahoo JAPAN MUSIC』のリポートコーナー「私のターニングポイント」
で、その事に触れている。

以下、引用抜粋する。






私のターニングポイント
 第22回 櫻井敦司・今井寿(BUCK-TICK)
「もっと自由に思うがままにやっていいってことに気がついた」



 今、気になるあの人の、人生や音楽活動に影響を与えた出来事や出会いとは? 
注目のアーティストに、自らのターニングポイントをじっくり語ってもらう連載「私のターニングポイント」。
第22回目の今回は、
8月8日にニューシングル『Alice in Wonder Underground』をリリースするBUCK-TICKの登場です。
 日本のオルタナティブロックのパイオニアといえばBUCK-TICK。
メジャーデビュー20周年を迎える今年は、作品のリリースに加えて、
6・7月のライブハウスツアーや、9月に行われる豪華ゲストを13組迎えてのフェス主催、
その後のツアーなど、活発な状況。
不動のメンバーによるメジャーシーンでの20年間。
その間のターニングポイントといえるような出来事とは?



「みんな、ひとりじゃ何もできないって思ってるんですよ(笑)」(今井)



「『狂った太陽』(1991年)というアルバムで、レコーディングへの立ち向かい方が変わったんです。
今までとらわれていたものから解放されて。
エンジニアの比留間(※編集部注)さんとのやりとりで覚えていったものが大きくて。
それまではライブで再現できないものはレコーディングでやっちゃだめだと思ってたんです。
でも、もっと自由に思うがままにやっていいってことに気がついたんですよね」(今井)

「私的なことですが、その時期に母親の死がありまして。
このアルバムで心情を吐き出して救われたんです。
個人的な感情がバンドをとおして色濃く出た作品ですね。
そして、比留間さんとのスタジオワークによって、
レコーディング作業がちゃんとでき始めた時期でもありました。
出会いって大きいなって思いましたね」(櫻井)



 この発見こそが、20年間という長き活動のモチベーションになったのではないだろうか。
傑作と語り継がれるBUCK-TICK5枚目のアルバム『狂った太陽』。
通常、ロックバンドにとって5枚目のアルバムは鬼門といわれる。
なぜなら、やりたいこと、やるべきことを出し尽くしてしまうタイミングと合致することが多いからだ。



「BUCK-TICKでできることがまだ残っていると全員が思っているんですよ。
あと、解散のやり方がわかんないんですよ、イチ抜けたとかね。
解散の話はしたことないですから。せいぜい兄弟げんかぐらいで(笑)。
……バンドを長く続ける秘けつは、我慢と惰性かな(笑)。これ聞いたらがっかりするかな(笑)。
みんな、ひとりじゃ何もできないって思ってるんですよ(笑)。
それに、家族より長い時間一緒にいるしね。
全然しゃべんないときもあるし、一緒にメシ食いに行って飲みながらたわいもない話もしますよ」(今井)

「兄弟(ベースの樋口豊とドラムのヤガミ・トール)が、
阪神vs.巨人の話でなぜあそこまで話すことがあるのか不思議(笑)。
ユータ(樋口)が寂しそうにしている今井さんをかまったり、
退屈そうにしてるおれや、ヒデ(星野英彦)にちょっかい出したり。
たわいもない話の発信地はユータですね」(櫻井)



「生々しさが伝わればいいな、と」(櫻井)



 8月8日リリースのシングル『Alice in Wonder Underground』は、
デビュー初期を思い起こさせる、きらめくようにポップでギターが前面に出たバンドサウンド。

「キャッチーなメロディーとシンプルなアレンジ。
このシングルは、アルバムのなかにこんな曲があったらおもしろいなと思って作ったんです。
自分で作詞した作品がシングルになったのは初めてかな」(今井)



 9月19日にリリースされる15枚目のアルバム『天使のリボルバー』もポップで、
ギターを軸としたバンドサウンドがテーマ。
まさに、彼らにしかできないダークかつキャッチーでポップな質感が前面に出ていながら、
BUCK-TICK未体験のリスナーにも受け入れられやすい作品に仕上がっている。



「前作『十三階は月光』が、コンセプトアルバムだった反動があるのかもしれないですね。
今回ギターロックとしてこだわった点は、たまにはギターソロをいっぱい弾こうかな、とか。
ギター2本でできるアレンジを考えたり」(今井)

「ボーカルは生身なので。
その生々しさ、肉であり血であり、人間的行為だとか、汚いものもきれいなものも、生っぽく伝わればいいなと。
その生々しさ、ロックっぽさに乗る声。
歌詞は手に届く言葉なので、曲の一部として楽しんでもらえたらいいなと思います」(櫻井)


※編集部注 / 比留間整。BUCK-TICK、L'Arc~en~Cielなどを手がけるサウンドエンジニア。
『狂った太陽』がBUCK-TICKを担当した最初の作品となった。


(インタビュー・文 / ふくりゅう)






(以上、引用抜粋)






2007年9月8日、横浜。

ノイジーな殺シノ調ベが響き渡るなか、
櫻井敦司の顔面右半分がモニター・スクリーンに映し出され、少し笑って、こう語った


「ありがとう・・・
 これからも・・・
 ・・・よろしく」

本篇のラストを壮厳かつスピーディなゴシックナンバー「夢魔-The Nightmare」の衝撃のまま、
演奏を終了したBUCK-TICKは、時間を置かずに、コールされる「アンコール」に、応える。

大きく手を振りながら登場する樋口豊。
U-TAは、反対側の花道までダッシュして大観衆にあいさつ。
その後から、ヤガミトールが、すぐに、ドラムキットに付き、
U-TAの入場のドラムロールをするかのようにドラムを叩き、笑っている。

星野英彦は、いつもように手を叩きながら入場する。
スタッフにレッド・バニーを手渡され、手短にポジションにつくと、
横浜の熱にやられたか?今井寿は、レッド・ジャケットとパープルのフリルシャツを脱ぎ棄て、
イエローのツアーTシャツを着晒してラフな感じで登場する。
肩からは、すでに、スタビライーザーをぶら下げている。

一拍置いて、櫻井敦司が、少し急いだ感じで入場してくる。
恐らく休憩など、ろくに取れていないだろう。

足早にマイク・スタンドを掴むと、こう語るのだ。



「時間が無いらしい、
 
 言葉は抜きだ!

 愛してるぜBaby!!」




今井寿が、なにかのメランコリックなフレーズを奏でてから、
例の「スピード」イントロが横浜に鳴り響く。

BUCK-TICKが、BUCK-TICKたるアイデンティティ。
彼らのテーマ・ソングと言ってもいいだろう。

この楽曲に、オーディエンスが、熱狂しないのは、“不可能”だ。


「唄ってくれ!」

櫻井が合唱を要請する。


この楽曲が、この日の【BUCK-TICK FEST 2007 ON PARADE】で一番盛り上がったのは間違いない。
横浜みなとみらい 新港埠頭特設野外会場も一つのカタマリとなって踊る。
いや、この会場だけじゃない。
どこで、いつ、プレイしても「スピード」が、NO.1だ。

なにせ、今井寿の弾け方が、他の楽曲とは違う。


「いつでも頭ギリギリ 錠剤 噛み砕いて」


いつもの滑舌の良い櫻井のヴォーカルが、炸裂している。
こんなにも、言葉の聴こえ方に拘るロック・ヴォーカリストが、存在したであろうか!
それは、自分の歌詞に責任を持つ事への表れだ。

かつて、高層ビルから飛び降り自殺を推奨するドラッグ・ソングとばかりに、
この「スピード」を批判する声も存在したが、
今では、“錠剤”というリスキーな部分の歌詞も、包み隠さずしっかりと唄う櫻井。

その奥にある意味を考えてくれよ。

そう、彼は言っているように、感じる。

たしかに、ドラッグのリスキーなイメージを匂わせ、
刹那的な印象をバンドに残す隠し味として使用していた。
BUCK-TICKとは、そういうバンドだ。

それを、隠す気なんて、毛頭ない。

目に見える真実なんて、僕のなかには、なにもなかった。
すべて、誤解だ。

それでも、現実は容赦なく進み続ける。
だから…
だからこそ…「スピード」が必要だ。

「スピード」の向こうに、「新世界」がある。

それは、“妄想”だって?

それでも、いい。

信じるものは、“神”じゃない。
走り出すこの俺だけさ。


「安らぎをとめて 今宵の共犯者達へ」


さあ、今宵の共犯者達よ!
天の水辺羽遊ばせて、命ゆめゆめ踊れBABY!

さあ夜明けだ!さあ羽ばたけ!さあ ゆっくり ほら…。


この瞬間は、BUCK-TICKファンも、他のアーティストのファンも、関係ない。
全員でひとつだ。
怖くないだろう?
ここが、永久だ。
最上階、衝動的、ギリギリ、イケないNO NO BOY!
Oh Oh 水も滴るBOYS & GIRLS!
Oh Oh とろけそうな【ROMANCE】!
Oh Oh 浮世色めく BOYS & GIRLS!
Oh Oh 粋に狂い咲け Oh Yaeh!
急上昇、挑発的、骨までしゃぶっていいかな?
Oh Oh 足踏み鳴らせ!
Oh Oh 浮世轟く BOYS & GIRLS!
Oh Oh 一気に駆け上がれ Oh Yaeh!
女の子も男の子も、一筋【傷と涙】を、混ぜ合わせて一つになれ!


「蝶になれ 華になれ(今井)

 何かが君を待っている
 愛しいものに全て 別れ告げて」



名曲「スピード」が披露されている。
楽曲の間奏に入ると、櫻井敦司が、誰か呼び出す。


「OK!友達を紹介したい!!」

間にスキャっトを挟んで、

「OK!MCU!Come On!!」


黒の【ON PARADE】Tシャツをうれしそうに着込んで、
登場するMCU。

景気よくラップを決めながら登場しつつ、ステージ全面までくると、
そこから一気に、コラボレートが始まる。
2005年の『PARADE~RESPECTIVE TRACKS OF BUCK-TICK~』で、
トリビュートした「スピード」が、ここに開花する。

やや少な目のライヴ・アクト時間であったMCUもここで、渾身を込めて爆発する。
U-TAとアニイの間で、櫻井敦司も、MCUのラップに乗る。
今井寿は、スタビライザーを駆り、このヒップポップな「スピード」に拍車をかける。
まさしく、RUN.D.M.Cとエアロスミスの名作コンピ「WALK THIS WAY」の
ジャパニーズ・ヴァージョンを「スピード」で実現したかのようなコラボ。



清春とのデュオで魅せたファルセット・ヴォイスがMCUのリリックに重なる。

「-イカレタノハオレダケ キミハスコシマトモダ-」

モニター・スクリーンには、肩を組み唄う2人の姿が映し出され、
最高潮に盛り上がるオーディエンス。


「MCU!」

「RIGHT!NOW!! BT! 」


ライヴツアー【PARADE】のBALZACのHIROSUKEもそうであるが、やはり、
カリスマ・シンガー櫻井敦司に肩を組まれると、
このMCUも緊張するようだ。

「オレは今、憧れのロック・スターと同じ舞台に立っている!」

そんな身の震えが、伝わってくるようなシーンだ。
しかも、彼らの代表楽曲、そして僕らの代表楽曲「スピード」だ。

「そう、俺も、同じ体験をしたよ」

そう言いたげなミチロウと共演を果たした今井寿。ハジケ飛ぶ「スピード」。
限られた時を慈しむかのように星野英彦も、ステージ上を駆けまわっている。
髪を振り乱すU-TAは、笑顔でマイクを通さずに唄っている。
ヤガミトールのドライヴするバスドラが、ドコドコ跳ねる。

今夜は逝けそうだ。
「スピード」の向こう側へ。
“お前のいる新世界”へ。


「スピードをあげて 摩天楼 ダイブするのさ

 ボリュームをあげて 今宵の共犯者達へ」



時間にして、“一瞬”ともいえるコラボ。


「これが最後のチャンス アイシアオウ!」

「RESPECT BT!(愛してるぜBT!)」


絶妙のアウト・ブレイク!
これこそが、『天使のリボルバー』で目指すべき、バンド・アンサンブルの極致。
結局、20年間の成果は、この一瞬の為にあったのだ!


櫻井敦司は、叫ぶ。

「アンコールありがとう!

 すべてのアーティストに、

 アンコールありがとう!!」


MCUも、短時間で燃焼し尽くし、クルリとバンドを振り返り、敬意を込めて深々と一礼する。
それを返すように櫻井敦司は、深々と頭を下げ、礼を返すと、
MCUは、足早に今井寿の後ろからステージ袖へ帰って行く。
今井寿が、アウトロを決めながら、ハウリー!とMCUに感謝を贈る。

あまりの大舞台に、緊張したか、もしくは、想い残す事など何もない、といった感じで、
一目散にステージを去るMCU。

きっと彼は、こう感じていたんだ。

「うわぁぁ、この感じ。忘れる前に、俺の「密室」にパッケージしたい!」

だから、脇目も振らずに、去って行った。
この胸の高鳴りを、早く冷静に戻って再確認したかったから…。



個人のアクト時間が一番短かった彼にも、BUCK-TICKは最高の贈り物を残した。
いや、彼だけじゃない。
みんなに贈り物を残した。

時間の長短は“価値”じゃない。
寧ろ、刹那のほうが貴重な時もある。

そんな「スピード」であり、
そんなBUCK-TICKのライヴ・アクトであり、
そんなフェス【ON PARADE】でだった。

そして、20周年夜も最終局面に入る。



愛しいものを全て胸に抱いて!

君が宇宙!!





【BUCK-TICK SETLIST】

SE (with KEN ISHII)
1.Baby,I want you(with KEN ISHII)
2.RENDEVOUS~ランデヴー~
3.Alice in Wonder Underground
4.ROMANCE
5.DIABOLO
6.夢魔-The Nightmare
~ENCORE~
1. スピード(with MCU)
2. JUPITER






スピード
 (作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)


人差し指を頭に突き立て ブッ飛んでいる
いつでも頭ギリギリ 錠剤 噛み砕いて
ためらいをとめて 摩天楼 ダイブするのさ

今夜も頭ギリギリ 骨まで透けて見えた
安らぎをとめて 今宵の共犯者達へ

女の子 男の子 一筋 傷と涙を
痺れた体 すぐに楽になるさ
蝶になれ 華になれ 何かが君を待っている
愛しいものに全て 別れ告げて

-イカレタノハオレダケ キミハスコシマトモダ-

スピードをあげて 摩天楼 ダイブするのさ
ボリュームをあげて 今宵の共犯者達へ

女の子 男の子 君には自由が似合う
これが最後のチャンス アイシアオウ!
蝶になれ 華になれ 素敵だ お前が宇宙
愛しいものを全て 胸に抱いて
君が宇宙

目覚めは今日も冷たい 月夜のガラスケース
今夜も頭ギリギリ 骨まで透けて見えた




$【ROMANCE】


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