「尖るシッポ
  群がる淑女
   眠れない夜」




2007年9月8日、20周年記念イベントとして開催された
横浜みなとみらい 新港埠頭特設野外ステージの『BUCK-TICK FEST 2007 ON PARADE』。

ここにも、BUCK-TICKの“魔”が降臨していた。
残された時間は少ない。
真昼の13時から繰り広げられた数々の名アクトも、
すでに7時間以上の時の刻む。

「ROMANCE」の登場で、この時を待ち侘びた大観衆は、エクスタシーに達したと言っていい。
そして、ここから、先の時間は、まさしく“夢の一瞬”であったといえよう。
それくらい、時間が経つのを速く感じたのだ。

「ROMANCE」で、BUCK-TICK特有の“魔”の刻が扉を開くと、
この現実世界でも、“時空”が歪むのかも知れない。
すべての出来事が、まるで“13秒”の間に起こってしまったことのよう。

重なる身体の疲労と、耽美に魅せ付けられた「ROMANCE」の“絶対的なナニカ”に、
オーディエンスも、スタッフも、そして、参加してくれたアーティストの面々も、
皆、正直、放心状態で、彼らを見つめる他なかった。

たしかに、「20周年」という記念では、あった。
しかし、それ以上の感慨が押し寄せるのは、BUCK-TICKのライヴ・アクトと、
自身のそれまでの人生を走馬灯のように回想しているからに他ならない。

そして、この手のアニヴァーサリー・イベントに有りがちな、
往年のヒット・ソング・メドレーを演るという選択肢を、彼らは、取らなかった。
その手は、すでに、恒例のライヴ【THE DAY IN QUESTION】で、実施済みであったし、
なにより、自分たちよりも、参加してくれるアーティストのパフォーマンスを、
トリビュート楽曲を含めて、彼ら自身も、非常に楽しみにしていた。

そして、最後、いざ、自分達のステージが周ってきた。
誤解を恐れずに言えば、そこに、どんな楽曲がエントリーしようと、
彼らBUCK-TICKには、大勢に影響しなかったことだろう。

そして、そんな自分達の“現在”を、切り取った楽曲達が、
素直に、そのまま、この日のBUCK-TICKライヴのセット・リストとなった。

しかし、それこそが、まさしく合理的かつ感動的であった。



この【BUCK-TICK FEST 2007 ON PARADE】の後の実施された
2007年二つ目のライヴツアー【天使のリボルバー】が9月22日より開始されるが、(12月29日まで)
このセットリストに、ほぼ、前作アルバムの『十三階は月光』からのエントリーはされなかったのだ。
(僕の記憶が正しければアンコールに数回登場した「ROMANCE」とよこすかの「夢魔-The Nightmare」のみ)

それは、新アルバム『天使のリボルバー』が『十三階は月光』とは、
正反対のアプローチで、制作されたことにも関係するであろうが、
彼らの過去の栄光を引きずらない体質による、反骨精神の表れとも取れた。
当時、彼らを表現するのに、最も容易い方法論“GOTHIC SHOW”は、避けられた、と言っていい。
彼らにしてみれば、自然とそうなった、というのが、正直なところであろうが、
BUCK-TICKの本能は、それを、自然と避けた、と言ったほうが、正しいかと思う。

よって、一時的に、この彼ら“降魔の儀”は、この9月8日を以って封印される。
そう「Alice in Wonder Underground」で余韻だけを残しつつ。

後から観れば、そういった価値も、この日は有していたことになる。

そういった意味でも、“GOTHIC”に塗り固められたBUCK-TICKの姿を、
目撃するという意味で、このイベントは、記念に残るフェスであった。

なにせ、名曲の“るつぼ”と言えるライヴ【THE DAY IN QUESTION】においても、
『十三階は月光』リリース後は、【十三階】セットコースとも言える演奏を、
特別エントリーして、コーナー化していたくらいなのだから。



そして、同時に、これを切欠に“十三階楽曲達”も、アルバム・コンセプトから独立し、
おのおの個々の楽曲のアイデンティティを発揮し出すことになる。

楽曲が、個々の生命の息吹を注入された瞬間とも言えるかもしれない。






2007年9月8日、「ROMANCE」で幕を賭けた“GOTHIC SHOW”は、
その世界観を初めにトレースした「DIABOLO」に突入する。
この「DIABOLO」のアイデアが、“妄想”として今井寿の頭に渦巻いた時点で、
アルバム『十三階は月光』のコンセプトの半分以上は出来上がったといえるだろう。
その後、個々の細かいディティールが、櫻井敦司の手によって脚色されていく。
(※ちなみに「ROMANCE」のアイデアは、今井がもっと以前から暖めていたモノとされる)



今井寿が、トロピカルなギターを奏で、オーディエンスも次に何が演奏されるのか
予想もつかなった。
ひょっとして「Sid Vicious ON TH BEACH」!?
もしくは、「スピード」か!?
そう想った方もいるのではないだろうか。
(※そう想った方もあながち間違いではない。
 その後のライヴツアー【天使のリボルバーツアー】には、
 レギュラー・メニューとして組み込まれたのであるから)

しかし、今井寿の腕には、しっかりと“DIABOLO仕様”のブラック・マイマイが握られている。

次の瞬間、安定感のある樋口豊の低音とヤガミ・トールによるリズムに、
美しいギターアレンジが絡み合えば「DIABOLO」が、堕天使を呼び込む。


「さあさあ寄っておいで覗いてみな
 今宵皆様お贈りするはbaby
 ありとあらゆる愛ヌラリ
 お楽しみあれ」



ついさっき、「Alice in Wonder Underground」で今井寿のヴォーカル・ソロ
【ENTER DIABOLO】を聴いたばかりなので、何かリフレインしているかのような、
不思議な気持ちになる。

しかし、今度は、しっかりと櫻井敦司が【ENTER DIABOLO】を唄っている。

一度に聴くと、まるで、予知夢(デジャヴゥ)を見ているかのような、
そんな錯覚に捕らわれる。

それは、「Alice in Wonder Underground」のトランプのカードをひっくり返すと、
「DIABOLO」という“JOKER”を引いてしまったような感覚だろう。

そして、そんな“JOKER”ソングは、「ROMANCE」とは違った一風独特な“GOTHIC世界”へ、
我々を誘い込んでいる。

まさしく“万能”の役を持つ“JOKER”だ。

横浜みなとみらい・新港埠頭特設野外会場が、巨大な酒場“ダムドラの店”へと変化する。
どいつも、こいつも、勝手にしやがれ。

吐き捨てるように、礼儀正しく、吠える櫻井敦司は、
今井側花道へと歩みよる。

嗚呼、彼は檻の中で暴れる獣の様さ。
金色に輝く髪、風に、ただなびかせた。

嗚呼、何て醜い街だ。夢も見えないぜ。

もう、捨ててしまえばいいさ。この顔も声も。
体中に絡みつく甘い空虚。さあ引き千切れ。

この時、櫻井は、狼か?ライオンか?

ナニカ獣が、乗り移ったような視線を光らす櫻井敦司。
花道の鉄骨に寄りかかりオーディエンスに、訴えかけるように唄う「DIABOLO」。
ヤガミトールと樋口豊のビッグバンド風のリズム・セクションに、
気持ち良さそうに腰を揺らす今井寿が、堕天使サタンとなり、ギターを鳴かせる。

この牙は肉を喰らうのを今は忘れ、
飢えている胃は空っぽのまま。

コンクリートの森でこの爪はボロボロに。

誰かの遠吠えに、見憶えのある誰かの顔が浮かんでは消えた。
ギラギラ鈍く光る目をした奴等が狙っている。
そう笑いながら、ライフルが火を吹いて跳ねあがる。
この体は真っ赤に汚れて落ちるんだ。

お前の重さを感じたい。
最後に月へと吠えた。
目を閉じてさあ行こう、お前の夢へ。


サキュバスがそう誘惑している。
この酒場では、悪魔達も気を赦し、半分獣の姿が現われてしまうのか。
平然と一般人になりすまし、現実社会に潜伏する悪魔達。

それを、見つけ出すことが、もし、出来るとしたら、注意したほうがいい。
あなたも、その悪魔の眼を所有してしまった証拠になる。
だから、わかっていていも、誰も、彼らを見つけ出すことは出来ない。

でも、此処は別。
“ダムドラの店”。
此処では、やつらも気を赦して、半分その正体を晒している。
見て見ろよ、あいつのケツを。

ほら、尻尾を出しているのに、気付いてない・・・。

こうなると、悪魔も間抜けなもんだ。
こんな紳士淑女の成りをして、バレバレだよ。



「ああ 今夜も血に塗られた 魔王の羽ブルーベルベットbaby
 尖るシッポ 群がる淑女 眠れない夜」




でも、いいんだ。
今夜だけは。
そう堕天使サタンが言っている。
この世の天獄に、乾杯しようじゃないか!
ここは失楽園:地上界。

美しい。胸にせまる。

【愛】【憎悪】【苦痛】【快楽】【生】【死】

すべてが此処に…

これこそ【人間】

これこそ【魔】だ。


「貴方の夢に あなたのその儚い・・・
 乾杯しましょう ほら天使が泣いている」



宴は続く、醒めない夢の中で。
それでいい。
舌を丸めて唄う櫻井敦司。

「失楽園」を巡る戦闘も、すでに泥沼化し、
もう、天使も悪魔も入り乱れての局地戦だ。
酒でも呑まずに、やってられるか!

蟻地獄にBacchus bless。
真昼の園を歩け!
蛇苺をふみつぶせ!

弛緩する快楽に溺れながら、
ラム酒の海に沈みながら。

鬩ぎ合いは続く。

その時が来るまで。

「DIABOLO」の咆哮が、横浜から響き渡る。


今宵は、本当に、よくぞ集結してくれた。
ここは、彼なりし亜の刻、亜なりし彼の地。



ありがとう。酔いしれてくれ。






【BUCK-TICK SETLIST】

SE (with KEN ISHII)
1.Baby,I want you(with KEN ISHII)
2.RENDEVOUS~ランデヴー~
3.Alice in Wonder Underground
4.ROMANCE
5.DIABOLO
6.夢魔-The Nightmare
~ENCORE~
1. スピード(with MCU)
2. JUPITER





DIABOLO
 (作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)


さあさあ寄っておいで覗いてみな 今宵皆様お贈りするはbaby
ありとあらゆる愛ヌラリ お楽しみあれ

歌にダンス妖しい酒 テーブルの下張り裂けそうな
ハシタナイモノ光らせて御気の召すまま

貴方の夢に あなたのその儚い
乾杯しましょう ほら天使が泣いている

ああ 今夜も血に塗られた 魔王の羽ブルーベルベットbaby
尖るシッポ 群がる淑女 眠れない夜

貴方の闇に あなたのその暗闇に
乾杯しましょう 最後の血が涸れるまで

貴方の夢に あなたのその儚い
乾杯しましょう ほら天使が泣いている
涙涸れ果てるまで
御機嫌よう さようなら

貴方の闇に あなたのその暗闇に
乾杯しましょう最後の血が涸れるまで
貴方の夢に 貴方の闇に
乾杯!




$【ROMANCE】


$【ROMANCE】