「ロメェンス!!!」



青紫の照明が焚かれ「ROMANCE」が告げられる。
身体を仰け反らせながら叫ぶ櫻井敦司。

デビュー20周年記念イベントとしての
横浜みなとみらい 新港埠頭特設野外ステージ
『BUCK-TICK FEST 2007 ON PARADE』は、
前日の台風9号の直撃を受けながらも晴天に恵まれ、
灼熱の日中を経て、海風の心地良い夜を迎えていた。

THEATRE BROOKの佐藤タイジによれば、
「これは、“妄想”実現組(フェス)!
“妄想”を実現してますよね・・・」
というような、壮大な“妄想”のもとに、馳せ参じた、
本当に、個性的な世界観を有する参加アーティストたちの“妄想”を、
具現化していくように、展開していった。

まるで、夢物語でも、観ているかのような“清春×櫻井敦司”のファンタジックなデュオに始まり、
欧米のロック・フェス・イベントを思わせるような疾走感で、駆け抜けたBALZAC。

RUNAWAY BOYS(kyo and nackie)の壮絶なるハードコア・へヴィ・スラッシュと、
師弟愛を貫くキャッチーでパンキーなビートサウンドのAGE of PUNK。

アウェイの地で、見事に自らの道を切り開く新生ATTACK HAUSと、
遠藤ミチロウがアコースティック・ギターをかき鳴らしながら迫力あるステージングを見せつけると、
THEATRE BROOKは、なんと1曲だけを延々と演奏。
グルーヴ感溢れる演奏とともに、ヴォーカルの佐藤タイジは名MCを連発する。


女性のベース&ドラムなどをメンバーに加えて登場したのは土屋昌巳も、
最後にギター弾き語りで歌を披露。彼の人柄がにじみ出た優しいナンバーでオーディエンスを泣かせると、
西川貴教が迫力のヴォーカルでドラマチックな空間が会場を包み込み、
ハードなロック・ナンバーで堪能させるabingdon boys school。


夜は張り巡らされると超大型新人ユニット:Rallyのお披露目。
「You Really Got Me」のカバーではMCUが飛び入り参加でお祭り気分を盛り上げる。

気合いの入った弟分“J”の「そんな声じゃ、BUCK-TICK兄さんたちに届かないぞ!」の叫びと
たたみかけるような「ICONOCLASM」のエネルギッシュな「手振りダンス」。

短いながらも堂々としたヒップ・ホップで、ラップの新境地を開拓するMCUと、
世界レベルでの知名度を誇るテクノ・ゴッド:KEN ISHIIが
“テクノの太陽”を再び登らせるような、DJプレイ。


このような、ひと癖もふた癖もあるような参加アーティストの中でも、
本当に、独自の“光”と“闇”を演出して魅せるBUCK-TICKであった。

「RENDEZVOUS~ランデヴー~」「Alice in Wonder Underground」と、
ニュー・シングルを次々に演奏したBUCK-TICK。

明るくはじけたナンバーの連続のなかにも、独特の死生観や愛情の漂う“唯一無二”の存在感に、
新港埠頭特設野外ステージも大きく揺れる。

海風が吹くとはいえ、まさしく鎧とも言える様な衣装で登場した櫻井敦司には、
まだまだ、暑い夜と言えるだろう。
ミネラル・ウォーターを口に含んでは、水を頭から被る。
上昇し過ぎた身体をクールダウンさせるが如くに。



ここから、「本物の“妄想”というものをお見せしよう」と彼らの本領発揮とばかりに、
展開される“GOTHIC”の傑作『十三階は月光』のBTワールドが、幕を開ける。

「ロメェンス!!!」
そう櫻井敦司が告げると、ヤガミトールが、スティックでカウントし始める。
ステージは、霧の中で暗転している。

横浜の夜空、、またたく照明に、スモッグが炊かれて、
後光が差すように、幻想的なイントロを奏でる星野英彦に、
“DIABOLO仕様”のブラック・マイマイへ持ち替えた今井寿が、
バロックな調べを弾き、ロマンティックに突入していく「ROMANCE」。


どう、考えても、この楽曲がNo.1だ。


どんな側面から、観ても耽美なこの楽曲は、ある意味なにものにも代えがたい奇跡だ。

この日の櫻井敦司は、死を覚悟した騎士:KNIGHTである。

彼が、ヴァンパイアに変身すれば、この戦局が、いかに不利であろうとも、
この一曲で、“一騎当千”の戦力になるのは、間違いない。

厳粛な儀式の指揮を執るようなヤガミ・トールの先導で、
櫻井敦司が、また、麗しき“愛”のロマンスを唄っている。
頭上のモニター・スクリーンには、ずぶ濡れの騎士が、
嘆くようにヴァンパイアに変化していく様が、映し出される。

ライト・アップの前の3曲とは違い、“闇”と“霧”を利用した素晴らしい空気感を生みだしている。
櫻井敦司以外のメンバーは、バックからの後光で、シルエットを浮かび上がらせ、
ヴァンパイアを赤く照らし、血に餓えた戦場のようす演出する。

そう、それがお前だ!幻などではない。
それはお前の意識界における真実。

“月夜の花嫁”をめざし、頂に屍を積み続ける。

それがお前だ!

千の仲間の屍の上を、
千の仲間の築きし万の屍の上を、
そのどちらでもない名も無き屍の上を、
お前は踏みしだいてきた。

唯一(ただひとつ)の渇望(おもい)がゆえに、
この荒野の果てに、麗しき“闇夜の花嫁”を求めて、
彷徨い歩く“魔王”が、横浜の夜に降臨している。

これを“唯一無二”と言わずに、なんと呼ぼう。

何度、視聴を重ねようが、この楽曲は、普遍的だ。

BUCK-TICK。

その漆黒の羽一枚一枚、
恐怖に震えながらも濁らぬ瞳であなたを見上げている。
血腥い旅路の果てに
あなたに最後に残されたもの…。

彼らはあなたを許すでしょう。
たとえ今は絶望に打ちひしがれていても、
あなたを暖かく迎え入れるでしょう。

そしてあなたは生きていける。

傷ついた身を彼らに委ねて、
すべてを過去にかえて、
夢の残骸に埋もれて。

悪魔が天使で、天使が悪魔。
快楽主義者も、我を忘れることだろう。

なんたる【闇】!なんたる【魔の祝福】よ!

彼らにしか、表現出来ない“境地”がここにある。
ライトがブルーに変わり、“青の世界”に包まれると、
魔王:櫻井が“闇”を己のパワーに変換したかのように舞い上がる。





横浜みなとみらい・新港埠頭に浮かぶ観覧船から、この姿を観るアーティスト達の胸には、
このシーンがどのように映ったのであろうか!

所謂、同業者、“嫉妬”とという感情なしに、
この姿を直視するのは、“不可能”であろうと、ここに断言したい。

いや、ロック・ミュージシャンだけではない。
創作というモノに携わる者ならば、必ずや感じるであろう“感情”だ。

そして、それは、彼らの“生き様”や“個性”“世界観”というフィルターを通して、
なんらかの影響を及ぼさざる得ないであろう。

しかし、今は、今だけは、光る産毛に見とれるしか術はないのである。
ナンピトもだ。

そんな、同士であるからこそ、
この大いなる祝福の刻、
彼なりし亜の刻、
亜なりし彼の地へ、
馳せ参じたのであろう。
今宵、よくぞ集った!同士よ!




誠、恋とは、魅力的な人に出逢ったときに、始まるのではない。
 恋とは、嫉妬を感じたときに、堕ちるものである。


「ROMANCE」は、それを知らしめるのに、十二分な魅力を有する楽曲である。


嗚呼、また、彼の血が夜と混ざり合っている。
だから、彼の叫びが聞こえると、夜は“真っ赤に”染まってしまう。
血まみれの“愛”こそが其処に在る。
もっと、もっと、真っ赤に染まれ!

星野英彦のホワイト・バニーが、戦慄のメロディを奏でている。
天使は、誰だ。
そこで、見ているあなたは、誰だ。
その視線に耐えられなくなったら・・・
月を消して・・・。
死の窓辺に、花を挿そう。
そうだ。これがハナムケだ。


嗚呼、また、あの男が、跪いて、祈りを捧げている・・・。

なんという【闇】!なんという【欲望】!なんという【ROMANCE】か!

ライヴ独自の戦慄を紡ぎ出す今井寿のブラック・マイマイ。
樋口豊は目を瞑り、この幻想なリズムに身体を委ねている。
七色の大観覧車が、光を放つ。
青の世界に包まれた櫻井敦司がナイフで胸を抉る。
青の世界が、紫から真っ赤な霧に包まれていく。
歓喜の歌は、今や狂気・・・。

「人の造りし神ならざる神の子羊達よ
 この聖なる夜祭存分に味わうがよい

 因果律により選ばれし 鷹よ

 お前は選ばれし者
 この刻この地にあるように

 大いなる神の御手により定められし者

 我らが眷族
 渇望の福王なり」

嗚呼、今夜も血が欲しい。闇をゆき闇に溶け込む。
嗚呼、今宵もこんなに麗しい。跪き祈りの歌を。
嗚呼、そして、いつしか腐りゆく。跡形も無く消えてゆく。



「ロメェェェンン~ス!!」


呻き声すら、耽美に響く「ROMANCE」。
この野外ステージでも、存分に“GOTHIC”の魅力を振り撒いて魅せるBUCK-TICKに、
オーディエンスも、参加してくれたアーティストも、そしてスタッフも、
一瞬、我を忘れる。

たとえ、嫉妬という恋が、胸の内燃え上がり、
ナイフで貫かれたような痛みが伴っても。

このBUCK-TICKが、「ROMANCE」を生み出してくれたことに、感謝せずにはいられない。
それほどまでに、“美”というモノは、
すべてを忘却の彼方へと追いやれるモノなのだろうか?

これは精神的SM関係を構築しているのに他ならない。
この“絶対的美”の前に、在るのは、“絶対服従”しか許されていないのだから。

そうして、また、跪き、この「ROMANCE」に服従を誓ってしまう。。
この威力の前には、どんなにパンキッシュなビートも、ノスタルジックなメロディも無力だ。

そうして、まさしく“敵なし”の無人の荒野をBUCK-TICKは無敵な輝きを讃えながら、
突き進むことになる。

追随者は、皆無だ。
というか、不可能である。
そんな“諦め”にも似た境地に身を置きながら、
己の血をすべて、捧げてしまう。
真のヴァンパイア・ナンバー「ROMANCE」。

ここに至り、このアニヴァーサリーな一日を、遠く回想の向こう側に押しやり、
オーディエンスは、なす術も無く、「ROMANCE」に浸る横浜の夜である。



やはり。というべきか!


「ROMANCE」


恐るべき魔力を秘めたナンバーである。





あらためて認めよう。

僕にとって、全世界のいかなる楽曲と比類しても・・・

この楽曲が、No.1だ。








【BUCK-TICK SETLIST】

SE (with KEN ISHII)
1.Baby,I want you(with KEN ISHII)
2.RENDEVOUS~ランデヴー~
3.Alice in Wonder Underground
4.ROMANCE
5.DIABOLO
6.夢魔-The Nightmare
~ENCORE~
1. スピード(with MCU)
2. JUPITER


 





ROMANCE
 (作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)


月明かりだけに許された
光る産毛にただ見とれていた
眠り続けている君の夢へ
黒いドレスで待っていて欲しい

ああ 君の首筋に深く愛突き刺す
ああ 僕の血と混ざり合い夜を駆けよう
月夜の花嫁

天使が見ているから月を消して
花を飾ろう綺麗な花を

ああ ひとつは君の瞼の横に
ああ そしてひとつは君の死の窓辺に
闇夜の花嫁

ああ こんなに麗しい跪き祈りの歌を
ああ 今夜も血が欲しい闇をゆき闇に溶け込む
ああ こんなに麗しい跪き祈りの歌を
ああ いつしか腐りゆく跡形も無く消えてゆく

ROMANCE

ああ そして最後の場面が今始まる
ああ 君のナイフが僕の胸に食い込む
そう深く・・・さあ深く
ああ こんなに麗しい 跪き祈りの歌を
ああ 今夜も血が欲しい闇をゆき闇に溶け込む
ああ こんなに麗しい跪き祈りの歌を
ああ いつしか腐りゆく跡形も無く消えてゆく

$【ROMANCE】


$【ROMANCE】


$【ROMANCE】