「いくよ もういいかい まだだよ
 君の耳元で息を吐く」


それは黄金の昼下がり
気ままにただようぼくら
オールは二本ともあぶなげに
小さな腕で漕がれ
小さな手がぼくらのただよいを導こうと
かっこうだけ申し訳につけて

ああ残酷な三人!こんな時間に
こんな夢見る天気のもとで
どんな小さな羽さえもそよがぬ
弱い息のお話をせがむとは!
でもこの哀れな声一つ
三つあわせた舌に逆らえましょうか?

居丈だかなプリマがまずは唱える
その宣告は「おはじめなさい」
すこし優しげに二番手の希望
「でたらめをいれること」
そして三番手が語りをさえぎること
一分に一度以上ではないにせよ

すぐに、とつぜんの沈黙が勝り
想像で彼女らが追いかける
夢の子が奔放で新しい謎の地を
動き回るのを追って
鳥や獣と親しく語る――
そしてそれを半ば真に受け

そしてやがて、お話が渇えると
想像の井戸も枯れ
そして疲れた語り手が
肩の荷をおろそうとすれば
「つづきはこんど――」「いまがこんどよ!」
と声たちがうれしそうにさけぶ。

かくして不思議の国のお話がそだち
ゆっくり、そして一つ一つ
その風変わりなできごとがうちだされ――
そして今やお話は終わり
そしてみんなでおうちへと向かう
楽しい船乗りたちが夕日の下で

アリス! 子どもじみたおとぎ話をとって
やさしい手でもって子供時代の
夢のつどう地に横たえておくれ
記憶のなぞめいた輪の中
彼方の地でつみ取られた
巡礼たちのしおれた花輪のように

(ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』巻頭詩 より)


NHK系列音楽番組『POP JAM』に出演したBUCK-TICKの櫻井敦司は
2007年8月8日リリースの最新シングル楽曲「Alice in Wonder Underground」を

「この曲は、ポップ…。ポップで、ヒップです…(笑)
 どうぞ、聴いて下さい。宜しくお願い致します」

と表現している。


まさしく、跳ねる様なこの躍動感こそモチーフとなった児童小説『不思議の国のアリス』の
ファンタジック・ワールドを表現するのに相応しいものとなった。

著者は、イギリスの数学者にして作家チャールズ・ラトウィッジ・ドジソンが、
“ルイス・キャロル”の筆名で1865年に出版した児童文学である。

『不思議の国のアリス』は、学者であるドジソンと友人ロビンソン・ダックワースが、
3人の少女たちと一緒にテムズ川をボートで遡っていた間、
旅路の途中でドジソンが、
アリスという名前の女の子の冒険の物語を即興で少女たちに語って聞かせたものが原案となったとされる。

この語り物語は、少女たちのお気に入りとなり、
3人の少女の一人アリス・リデルは自分のために物語を書き留めてくれるようドジソンにせがんだ。
そのため、遂にドジソンは物語を文章にまとめて、
1863年2月に『地底の国のアリスの冒険』(Alice's Adventures Under Ground)
の最初の原稿を書きあげたそうだ。

この物語『地底の国のアリスの冒険』は未完成原稿のままであったそうだが、
友人ジョージ・マクドナルドの提言により、ドジソンはこの物語を出版社に送るという決断をした。
ドジソンはチェシャ猫やキ印のお茶会の挿話等を書き足すことにより、
18,000語の原稿を35,000語に加筆した。
1865年に、ドジソンの手によるこの語は、ペンネーム“ルイス・キャロル”筆による
『不思議の国のアリス』として、ジョン・テニエルの挿絵を伴って出版された。


よって、今井寿のネーミングによる
「Alice in Wonder Underground」は、
ドジソンが1863年に書き上げた『地底の国のアリスの冒険』のニュアンスに近いと言えるだろう。

1865年に『不思議の国のアリス』が出版されると、
この完全版は、一大センセーションを巻き起こす。

この不思議童話は出版界における一大事件であり、子供たちと同様に大人たちからも愛好され、
それ以来、途切れることなく版が重ね続けられている。
現在の『不思議の国のアリス』には100版以上の版が存在し、
ロック、ポップスのミュージック・シーン以外でも無数の舞台化や映像化がおこなわれている。


この原作童話『不思議の国のアリス』の第1章の章題である
「“Down the Rabbit-Hole”(ウサギの穴に落ちて)」は、
未知の世界への冒険の出発を表現する有名なキーワードとなった。

世界的ヒットを記録した映画『マトリックス』のなかで、
モーフィアスはネオをウサギの穴を落下するアリスになぞらえる。
コンピューターゲームにおける「ウサギの穴」はプレイヤーをゲームの世界へと導く
最初の要素かもしれない。

白ウサギは、冒険の開始を示す合図として、同様の含意を持っている。
『マトリックス』において、
PCに表示された「白ウサギの後を追え」というメッセージに促されて、
救世主ネオの冒険は開始されるのだ。

『マトリックス』では、この白ウサギのタトゥーに誘われて
反乱組織に加わった主人公ネオが少女アリスの立場として描かれている。
更に、この映画の監督であるウォシャウスキー兄弟は、
『不思議の国のアリス』がマトリックス三部作を貫くテーマであると述べている。
また、アニマトリックスの『ディテクティブ・ストーリー』も
続編の童話『鏡の国のアリス』からの引用が多数見受けられる。


この『マトリックス』という映画作品が、BUCK-TICKのアルバム『Mona Lisa OVERDRIVE』と
同タイトルのアメリカのSF作家、ウィリアム・ギブスンの著書に同名の小説が、
モトネタになっているという話は以前も述べたが、
こういった古典的童話世界が、普遍的なキーワードとなって想起させる世界観は、
このBUCK-TICKによる「Alice in Wonder Underground」も同様であろう。


きわめて有名な作品であるにもかかわらず、今までに一度も読んだことのない古典の名作、
というのは意外と沢山ある。

いくらそれが有名であろうとも、流行ったのは遠い過去のことであり、
果たして現在の感覚で今読んで、面白いと思えるのかは分からない。

むしろ、その時代誤差がつまらないのだろうという否定的なイメージを抱く。
そういった意味で古典の名作には、あまり期待することができないという方も多いだろう。

BUCK-TICKというバンドは、そういった古典に、
文字通り“温故知新”の息吹を注入するのが本当に上手いと感じるアーティストのひとつだ。

やはり名作と唄われる古典には、時代を超越する何かしらのパワーを感じる。
そのエッセンスを抽出して、新しい“命”を吹き込む。

素材としては、非常に魅力的と言わざる得ない。

『不思議の国のアリス』は、じつに面白い素材であったことだろう。

なにしろBUCK-TICKのメンバーの気質にピッタリであった。

この作品の魅力は、作者の想像力によってつむぎ出された不思議な世界と不思議なキャラクターたち、
でももちろんある。
しかし、『不思議の国のアリス』が単なる童話にとどまらず、大人にでも十分楽しめる、
むしろ、大人であればこそ楽しめる作品になっているのは、
アリスの極めてはっきりとした性格、もっと言えば、性格の悪さにある。

そう断言してしまおうアリスは性格が悪い。
もちろん、子供も楽しむ童話であるのだから、残虐だとか、卑劣だとか、
そういう救いようのない悪さではない。
嫌なものははっきり嫌という素直さ、若さゆえの怖いもの知らずな物言い、
ちょっと他人を小馬鹿にした態度、といった可愛げのある悪さだ。

他人(あるいは動物)を平気で傷つけるような発言をするし、
気に入らなければすぐにつっけんどんな態度をとる。

大人になれば自分の頭の中だけにとどめておくような悪さを、アリスは露骨に表に出すのだ。
そして、ほかのキャラクターたちも、アリスに負けず劣らず、愛すべき性格の悪さを持っている。

そういう性格の悪さ、たちの悪さが、童話的で不思議な世界とあいまって、
この童話を極めてユーモラスで魅力的なものに仕立てている。

それにしても、この手のたちの悪さ…。
どこかのバンド・メンバーにそっくりではないだろうか?
少女アリスの性格なんて、某天才ギタリストにそっくりではないか!?

むしろ、それまでモチーフに取り上げられていなかったのが不思議なくらいだ。

単なる子供向けの童話という事で片づけられやしない。
兎に角、原作『不思議の国のアリス』も、
「Alice in Wonder Underground」も、
迸るような“魅力”に満ち満ちている。




大太鼓を打ち鳴らすようなイントロ・アクションのヤガミトールに、
初っ端からマイマイ・ダンスを披露する今井寿。

首振りもリズミカルに躍動する樋口“U-TA”豊と、
髪を振り乱す星野英彦。

こんなホップでヒップな悪童たちに囲まれて
タキシード姿で、この不思議世界の童話物語を唄う櫻井敦司は、
まるで、子守り唄を歌うような“優しさ”を放出している。

残念ながら、大幅にサビ部分と間奏をカットされてしまった
テレビ・ライヴ・ヴァージョンの「Alice in Wonder Underground」ではあったが、
全国ネットを通じて、BUCK-TICKのこのゴシック童話が放映されたのは感慨深い。

ライヴツアー【PARADE】を終了(※沖縄公演は台風4号の為、延期となったが)していた
BUCK-TICKは、同ツアーでカバーされていなかった北の大地:北海道のイベントに参加することが、
報じられていた。
(8月17日、【RISING SUN ROCK FESTIVAL 2007 in EZO】に出演)

この「Alice in Wonder Underground」のヴィデオ・クリップは、
全国にメジャーデビュー20周年を迎えるBUCK-TICKというバンドが、
1980年代のバンドブームを経て、現在もオリジナル・メンバーで活動を続けていることを知らしめるに、
充分なインパクトを持って放映された。

そして、そのベテラン・バンドが奏でる、どうにも、楽しげな躍動感。
その躍動感に、モチーフの『不思議の国のアリス』の登場キャラクターが、
BUCK-TICKのキャラクターに掛け合わされるような空気感が、たまらない。





発売されたシングル盤にカップリングされた楽曲は、
先のリリースされたシングル盤『RENDEZVOUS~ランデヴー~/MY EYES & YOUR EYES(セルフカバー)』
と同様に以前のBTナンバーの「tight rope」がセルフカバーされた。

注目のアレンジの違いに関しては、是非、ご自身の耳でご確認頂きたいが、
これこそが、来る新アルバム『天使のリボルバー』の内容を示唆するモノであったのだ。
マシナリーな打ち込みや過度のノイズアートを禁じ手とした
バンド・アンサンブルで聴かせる楽曲には、
演出、効果音では、誤魔化しきれない生音勝負の気迫が漲っている。

在る意味、これまで、アイデア重視で、その演奏の実力を正当に評価され難いイメージのBUCK-TICKが、
直球勝負をかけたアルバム『天使のリボルバー』。

アンヴィエントだった「Tight Rope」が
骨太サウンドの「tight rope」へと生まれ変わっていく様には、
この20周年のかけるBUCK-TICKの想いが、封じ込められた。

やや、絶望感を肯定的に捉えている感のあるオリジナル「Tight Rope」も、
躍動する魂の注入により印象も新たに明日への希望が漲る曲調へと【REBIRTH】した。


ポップでヒップな「Alice in Wonder Underground」とともに、
この楽曲も20周年のサービス精神旺盛な彼らの
“躍動感”たっぷりのプレゼント・ナンバーとなったと言えるだろう。




Alice in Wonder Underground
 (作詞・作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)


愛とか世界 儚い 羽をたたんだ皆殺しの天使
お願いだ 天使のラッパ鳴り響く

残酷だね ダーリン 愛と血肉をむさぼるゾンビーナ
泣いたりしない 愛はネコソギだぜ NIGHTMARE

いくよ もういいかい まだだよ
君の耳元で息を吐く

OH!YEAH!ALICE IN WONDER UNDERGROUND
DEVIL,ANGEL AND EPICUREAN LET'S GO!

ベットの中 流星 君の孤独を抜け出そうよ 今夜
アンドロメダ タンバリンはピエロ UP SIDE DOWN
真っ逆さま 跳んで 迷子になりに出掛けようパレード
高く高く 息を止め潜って FALLING DOWN

高く そう高く沈んでいく
君の耳元で囁いた

OH!YEAH!ALICE IN WONDER UNDERGROUND
DEVIL,ANGEL AND EPICUREAN LET'S GO!

OH!YEAH!ALICE IN WONDER UNDERGROUND
DEVIL,ANGEL AND EPICUREAN LET'S GO!

ENTER DIABOLO

いくよ もういいかい まだだよ
君の耳元で息を吐く
高く そう高く沈んでいく
君の耳元で囁いた

OH!YEAH!ALICE IN WONDER UNDERGROUND
DEVIL,ANGEL AND EPICUREAN

OH!YEAH!ALICE IN WONDER UNDERGROUND
DEVIL,ANGEL AND EPICUREAN

OH!YEAH!ALICE IN WONDER UNDERGROUND
DEVIL,ANGEL AND EPICUREAN

OH!YEAH!ALICE IN WONDER UNDERGROUND
DEVIL,ANGEL AND EPICUREAN LET'S GO!

DEVIL,ANGEL AND EPICUREAN LET'S GO!
EPICUREAN LET'S GO!
EPICUREAN LET'S GO!
DEVIL,ANGEL AND EPICUREAN LET'S GO!


【ROMANCE】

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