「(BUCK-TICKとは?)
う~ん…大切なモノです」
2008年4月2日リリースのスペシャルDVD『BUCK-TICK FEST 2007 ON PARADE』
完全予約限定盤 リミテッドコレクターズ・エディション(DVD2枚組)に付属されるディスク2より。
7/01(日)愛知/Zepp Nagoyaでのステージとバックステージの模様。
BUCK-TICKファミリーの末っ子にして、初期より渉外担当のベーシスト樋口“U-TA”豊に、
焦点が定められるメンバー紹介映像の第四弾でもある。
『Focus to 樋口豊』
今回の映像の主役“U-TA”が、対バン形式で20周年と祝うライヴツアー【PARADE】について、
こんなコメントを話し、映像は開始される。
「なんか、こういう経験出来て、とっても良かったナっていうの、ありますね。
うん。今まで、そういうイベントとかって、まあ、やってたんですけど、
こんなに密に出来たのは久しぶりなんで。
うん、よかったと思います」
いつも、笑顔で、すべてに感謝している。
そんな印象の人間性を持つ樋口豊らしい感謝と祝福の時を伝えるコメントになったと思う。
そう、彼は、BUCK-TICKの“アイドル”だ。
彼の笑顔があるから、どんなシリアスな闇の世界に入り込んでも、
これは、夢物語=フィクションなんだ、と安心してこのバンドを見ていられる。
そして、このバンド内でも、唯一の常識人といったイメージもある。
メンバーの会話を見ていても、
彼の存在で、逆に、各メンバーの個性が浮き彫りになるということがある。
そんな、常識人的な要素は、個性的な他のメンバーからすると、
樋口豊という人間性が、スペシャル=特別な存在と映るのであろう。
その証拠に、各メンバーが、“U-TA”を語る時の表情は、
常に愛すべき人物を語る“あたたかい”ものになっている気がするのだ。
そうメンバーは、そして、スタッフや、ファンは、
“U-TA”のことが、大好きなのだ。
それは間違いない。
まずは、いつも、まるで、悪友のように、付き合う次男坊の兄貴分:今井寿。
彼も櫻井敦司と同様、理想的な兄弟像として“樋口兄弟”を例えにしてコメントしている。
「(U-TAですか?)おにいちゃんのおとうと」
そして、実兄ヤガミ“アニイ”トール。
やはり、血の繋がった兄弟だけに、詳しく“弟”について語る。
「弟です(笑)。
もともと、このバンド、U-TAに誘われて入ったんで。
でも、まさか(兄弟で)同じバンドになるとは…、若い頃、思いませんでしたね。
兄弟だから、こう、遠回しじゃなくって、直接言えるじゃないですか?
だから、そういうのは、コミュニケーションはスムーズじゃないですかね。
結構、こう、細かいんですよね、弟は。
兄弟だから“イイ感じ”だろ?って言うけど、
結局は、こういう芸事っていうのは、やっぱり練習しなきゃダメだから(笑)。
だから血とか、そういうの関係ないから(笑)。
だからレコーディングとか、最初二人だけで入るんですよね。リハとか。
そういう風に固めて、それから演るんで。
事前に、なんか二人で入ってみたいな、そういうパターン多いんですよね。
他のバンドの人に訊くと“リズム隊だけ”でリハ入るっていうのは、結構、珍しいみたいで。
やっぱり入るんだったら全員で入って、ワァーーーっと演る、みたいな」
兄弟の時間。
ふたりきりの時間。
樋口兄弟は、レコーディングのリハーサルに二人だけで入り、
お互いの楽器(ドラムとベース)を通じて会話する。
リズムと音程だけの“会話”。
そこには、誰も立ち入れないのかも知れない。
そうして、BUCK-TICKの楽曲の底流に流れる骨組みが出来あがっていく。
ダイナミックな兄と緻密な弟。
お互いを補いながら、この作業が続いていく。
やがて、それに、ヒデの空間を埋めるギターリフ、今井の独特な歪むフレーズ。
唯一無二の櫻井のヴォイスが加わり、珠玉のBTナンバー達が産まれていく。
地元群馬県藤岡高校の同級生は星野英彦。
「一番、メンバーの中で、長い付き合い、というか」
U-TAも思い起こす。
「ヒデとは高校入学した時からですからね」
ヒデは語る。親友との友情は、その青春時代から、なんら変化がない、と。
「変わってないですね。見かけは変わりましたけど(笑)、ね。
見かけは、だいぶ、“長髪”になりなしたけど、ね(笑)」
なぜか、またもや自分の事を語るかのように照れるヒデを見ていて思う。
もう、すでに、BUCK-TICKという存在自体が、ヒデにとっては“自分自身”と変わらないのでは?
またベーシスト:樋口豊は、ストイックなミュージシャンでも、ある。
BUCK-TICKの“タイムキーパー”。
すべてのこのバンドのテンポは、彼に司(つかさど)られている。
そう言っても、過言ではない。
天才:今井寿が、どんな奇天烈なプレイで、ありえない様なコード進行で、楽曲を演出しても、
正確に時を刻む、ベーシスト“U-TA”のポリシーがある。
地味な努力こそが、普遍性を生み出す原動力であることを、
この20年間、継続してきた。
継続こそ、力なり。
その一歩は、明日を掴み取る。
そんな事を毎日、踏み締める。
彼は、そんなタイプのミュージシャンである。
几帳面で、時間に正確…。
そういった意味では、今井寿と正反対の気質と言えるかも知れない。
今井は前のこんな事を言っていた。
「どうして、同じフレーズをなんども練習するのか?わからない?
新しいフレーズを、考えればいいのに・・・」
これは、どちらが正しい、という問題ではない。
言うなれば、どちらも必要だ。
そして、その方法論が掛け合わされた時にこそ、バンド・アンサンブルのマジックが発生する。
それが、BUCK-TICKサウンドの秘密だ。
今井寿が、U-TAを茶化す。
「毎日毎日、ピコピコピコピコ……。意味あんのかな?」
テンポ・キープ。
この基本中の基本こそ、彼の真髄。
「あのー。自分が安定するように演ってるダケなんですよね。
みんなが混じったら、みんな違うリズムがあるんだけど…。
なるべく、なんか、その、あるじゃないですか?日に日によって、そのCDで聴いても、
“あれー?今日、酒呑んでるから、なんか、テンポ速いな、このCD”とか…。
そういうのなるべく無い様にしようと思って。
大体、こうやって、曲の順番とかで演ると、テンポは全然遅くなったりとかするから。
そういうのも無い様に練習になったりするから…」
無邪気な笑顔の天使は、悪魔のような神経質さを垣間見せる。
これが、プロ・ミュージシャン“U-TA”の素顔かも知れない。
いや、むしろ、それを自然に発揮できる環境こそプロ集団“BUCK-TICK”なのだ。
そして無邪気にはしゃぐ“U-TA”も本当の彼…。
毎日欠かさず“練習”に明け暮れる“U-TA”も本当の彼…。
そんな“U-TA”について語る櫻井敦司も、
まるで、実の弟を愛しく、包むような眼差しで語る。
「まあ、U-TA、あいかわらずU-TAで。全然変わんないですね(笑)。
子供っぽいのは、みんな、子供っぽいんですけど…。
(U-TAは)その中でもかなり子供っぽい(笑)」
ふざける“U-TA”を、或る意味、尊敬を込めて評価する天才:今井寿。
「あんな……カンジ……です。あの……バカさ加減です(笑)」
個性的でアクの強いメンバー達が、持っていないものを、
BUCK-TICKのベーシスト樋口“U-TA”豊はすべて兼ね備えている。
まさに、音楽に、笑いに、人間関係に万能なスーパー末っ子。
今井寿は仲が良すぎる弟分の評価に、困る。
近くに居て、当り前。
きっと、U-TAの居ない状態なんて、想像も出来ないんだろう。
「(U-TAのすごい所は?)
あっ?すごいところ?すごいところでしたっけ?…………。
ナニ?何かな?すごいところ?え?違う、すごいところ、ナニ?」
困った今井がスタッフに訊く。スタッフも答える。今井サン大好きなくせに…。そんな感じで。
「…真面目な所」
今井寿
「エッ!?ナニ?ソレ。ヒャッツ、ヒャッツ、ヒャッツ(笑)。
・・・・・・・・・・・・。んん~~マジメなところです(笑い)」
U-TAの良さを一言で言うのは、恐らく“不可能”。
なぜなら、他のメンバーの欠けた所すべてだから…。
同級生のヒデも苦し紛れ。
「マジメなところ、は、ありますよね」
でも、櫻井敦司は、少し発見したように
「そう。不真面目と真面目の振り幅がすごいですね!」
と、U-TAのすごさを語る。
そう。みんな“U-TA”が居ないと、
こんなにバンドが楽しいと、思えるはずない、と知っている。
ありがとう。“U-TA”。
◆◆◆◆◆
ニューアルバム『天使のリボルバー』発売を控え展開される
ライヴツアー【PARADE】の第四夜と第五夜は、このツアーにおける唯一の土日連夜公演。
BUCK-TICKメンバーたちは大阪公演の熱狂(とBALZACとの熱狂あふれる吞み会)の余韻が残るなか、
7月1日の午前中に名古屋に移動した。
9月から始まる【天使のリボルバー ツアー】ではこうした時間の流れが当り前になってくるわけだが、
こうした場面に出くわしたときに痛感させられるのが
“ステージに立つプロフェッショナルたち”の集中力の素晴らしさである。
テンションを保ちながら、しかも自分自身のスイッチを自在に切り替えられること。
それはツアーの日常に身を置く人たちにとって必須の才能のひとつと言っていいはずだ。
ロックンローラーの“HOME SWEET HOME”はロード・サーキットだ。
そして、このハングリーさが、エッジの立ったロックの風を運んで来る。
また、新しい夜が幕を開ける。
2007年7月1日、午後6時。
まさに定刻に【Zepp Nagoya】のステージに現れ、客席からの視線をひとりじめにしていた男がいる。
“清春”だ。
今回の映像の主役U-TAもコメントしている。
「名古屋…。ん~~、そうだな。
清春くんと初めてしゃべって。
あんなイイ人なんだ、と思わなかったっていう」
清春は、いきなり新曲2連発という大胆な幕開けながら、滑り出しは上々。
彼がギターを掻き鳴らしながら歌う姿にはまだ免疫のない観客も少なからずいたはずだが、
メロディに絡みつくようなあの甘い歌声は、
そこに居合わせたすべての人たちにとって馴染み深いものであったはず。
それを裏付けるように、SADSそして黒夢時代の自身の名曲をも披露してくれた。
「忘却の空」「少年」と続いた終盤の展開は、BUCK-TICKファンにも奇跡的に嬉しいプレゼントだ。
フロア前方で清春の一挙手一投足を見逃すまいとする人たちのみならず、
場内を埋め尽くしたオーディエンスの大半が“揺れて”いた。
櫻井敦司も語る。
「今回、トリビュートに参加して頂いて。
その対談みたいなモノも一緒にさせて頂いたりとか。
あまり、その、回数、そんなに逢ってはいないんですけど。
なんか、こう、親近感は感じますよね」
清春は、すでにスーパースターだ。
いまやBUCK-TICKの前座というポジションには納まりきれない。
しかし、この出演も快く引き受けてくれたと聞く。
そんな彼のアテチュードは、“リスペクト”という言葉に集約されているのだ。
清春も、BUCK-TICKが大好き!
と憚らず声を大きくして宣言する一流アーティストのひとりなのだ。
そこに、また、20周年を迎えるBUCK-TICKというバンドの偉大さを見るような、
そんな気がした。
そんなグルーヴとエモーションの激流の末に用意されていたクロージング・チューンは、
「JUST ONE MORE KISS」!
グラム・ロックとニュー・ウェイヴの匂いを併せ持った清春流の解釈によるこの楽曲が、
室温をさらに上昇させることになったのは言うまでもない。
いやまさに、この楽曲が清春の為に書かれたのではないか!?
そんな錯覚に陥る。
それは、彼がこの「JUST ONE MORE KISS」を己の中で咀嚼してから表現しているから。
話は前後するが、そのクールさに対しては、のちに櫻井敦司もステージ上からエールを贈っていた。
また、清春のステージ中に披露されたもうひとつの極上カヴァー・チューン、
「TATTOO」(原曲は中森明菜のヒット曲)が、
この楽曲が、ライヴの直後8月22日に発売された彼のニュー・シングルであることも付け加えておきたい。
そんな清春の熱演を経て、
BUCK-TICKはこの夜もあらかじめエンジンの温まった状態でステージに登場し、一気に放熱を始めた。
神々しい光を浴びながらのオープニング、そこからうねるようにして艶かしき官能の世界に飛び込み、
さらには破壊的な流れへと転じていく序盤の展開のスリリングさには、
回を重ねるごとに磨きがかかっている。
「楽しんでいってください。俺は、楽しみます!」
そんな言葉を発すると同時に、
櫻井敦司はさらにアクセルを踏み込んでいく。
「名古屋Baby!!」で始まった「Baby,I want you 」
ステージに出てきたU-TAが戻ろうとしたとき、櫻井敦司が前に立ちはだかって邪魔をする。
次の瞬間、背を向けたU-TAを後ろから抱きしめる。
今宵もお決まりとも言えるメンバーのアクション・シーンも、
20周年を迎えるとなると少し感慨深い。
そして、BUCK-TICKのライヴは、この夜もさまざまな風景と豊富な起伏を伴いながら、
圧倒的な体感スピードで転がっていった。
ちなみに、この名古屋でのライブは熱演後の清春自身も2階席から観戦していたようだ。
彼もBUCK-TICKの姿を観るのが楽しみでしょうがなかった、と自身のラジオ番組で告白している。
そして、“シンガー”としての櫻井敦司が、憧れであり、目標のひとりだった、と。
ライヴ全体を通じて改めて感じさせられたのは、
BUCK-TICKというバンドの稀有さだ。
たとえば清春は現在、ソロ名義で活動している。
バンド・サウンドを後ろ盾にしてはいるが、彼自身と完璧な演奏陣との関係は、
“プロフェッショナルなシンガーとバック・バンド”のそれに限りなく近い。
それは清春が“シンガー”として絶対的な存在であるからこそ成立している図式だといえる。
そしてBUCK-TICKもやはり、櫻井敦司という絶対的“シンガー”を擁している。
が、同時にこのバンドにはすべてのメンバーが絶対的に不可欠であり、
各々がプロフェッショナルだからこそ“バンド”であり続けているのである。
考えるまでもなく、もうずっと前からわかりきっていたことではある。
しかし、こうして長年続いているバンドだからこそ、
その稀有さについて当然のもののようにしか感じなくなってしまっているところが、少なからずある。
大切なモノは、意外と近くに存在する。
幻想の花そのものだ。普段は気が付かない
しかし、その価値に偽りは存在しない。
櫻井敦司に限らずメンバーの誰一人が欠けてもBUCK-TICKは存在しないのだ。
そこでこんなことを思い起こさせてくれたのは、
実は“バンド”というものについて高い理想を持っているからこそ
安直に“バンド”を名乗ろうとしない清春という人物が、
この夜、BUCK-TICKに対して発していた“リスペクト”の視線そのものだったのかも知れない。
今回の主役U-TAが語る【PARADE】の印象的な楽曲。
「そうですね。ホント、でも、時期的にアルバムの曲、新しいアルバムの曲も出せたし。
「モンタージュ」もロックっぽいっていうか。
バンド・サウンドって感じが、すごく出せた感じがするんで。
すごい、結構イイですよね」
アンコールで披露されるこのロックテイスト剥き出しの「モンタージュ」の後、
櫻井敦司はこのツアー【PARADE】では初めてのメンバー紹介をした。
その声の響きが、とても晴れやかで誇らしげなものに聞こえる。
そして、「皆さんの夢に乾杯!」という言葉とともに、第五夜は最終場面へと向かっていった。
ライヴツアー【PARADE】は、こうして終盤へと突入していったのだ。
7/01(日)愛知/Zepp Nagoya
オープニングSE THEME OF B-T
01.ANGELIC CONVERSATION
02.Baby,I want you
03.BUSTER
04.MY FUCKIN' VALENTINE
05.GIRL
06.ノクターン-RAIN SONG-
07.RENDEZVOUS~ランデヴー~
08.スパイダー:新曲
09.ROMANCE
10.夢魔-The Nightmare
11.ICONOCLASM
アンコール
12.DIABOLO
13.モンタージュ:新曲
14.MY EYES & YOUR EYES
15.スピード
「全体的に見て、ホント、いいタイミングで、出来たなっていう。
自分達のモチベーションも、その次のツアーに行ける感じだし、
なんかその、見に来てくれる人も、なんか、なんていうんですかね?
その少しサービスっぽい曲もいっぱいあったから、よかったと思います、けど」
そのサービス精神こそ、彼らの真髄であり、
いつも楽しんで欲しいということを代弁するU-TAの人間性の表れだ。
それは、ライヴ後の打ち上げでも同じこと。
気遣いの人“U-TA”のこのネギライの言葉でこの映像も締められる。
「どうも、ありがとうございました。乾杯!!どうも、お疲れ様でした」
どういたしまして、U-TAこそ、本当に、いつも、ありがとう。
