「ちゃんと弾けたら…
バクチクにいない」
2008年4月2日リリースのスペシャルDVD『BUCK-TICK FEST 2007 ON PARADE』
完全予約限定盤 リミテッドコレクターズ・エディション(DVD2枚組)に付属されるディスク2より。
6月23日(土)福岡/Zepp Fukuokaでのステージとバックステージの模様。
同時に、ここでは早くも“BTの名付け親”であり“BTのダイナモ”今井寿にフォーカスする
『Focus to 今井寿』のタイトルが収録されている。
BUCK-TICKファミリーの荒唐無稽の世界を創り出す次男坊。
【Zepp Fukuoka】の楽屋に付くやいなや、バックステージ撮影をするスタッフに向かって
「あっ!そうか。……俺“特集”だ」
とフランクに語る今井寿。
そのエキセントリックなイメージと同居する素朴な一面が、ファンの心を擽らずにはいられない。
BUCK-TICKでは、絶対的な創作面のリーダーとして君臨する彼も、
その音楽的な才能以外、もしくは、自身の関心のあること以外は、
他のメンバーを、信頼しきって、任せている姿が、
このデビュー20周年の楽屋裏を覗き見ることで、確信に至ることになる。
いわゆる、世間一般で言われる“天才”という部類にカテゴライズされる人物は、
一般的に、非常に神経質で、付き合いが難しい、というイメージが付き纏う。
だから、こそ、今井寿には、“BUCK-TICK”という人間組織が、絶対必要条件であった。
エイドリアン・ブリュー(Adrian Belew)というアメリカ出身のミュージシャンがいる。
ギタリストであり、ヴォーカリストである。
彼はプログレッシブ・ロック・バンド、KING CRIMSONのメンバーとして知られているが、
フランク・ザッパ(Frank Zappa)一門の門下生で、動物の鳴き声などさえギターで表現してしまう、
いわば、実験的ロック・ギタリストのひとりで、ニュー・ウェイヴの旗手のひとりだ。
メンバー・チェンジの激しいKING CRIMSONにおいて、
現在に至るまで正式メンバーとして活動を継続しており、
1977年のデヴィッド・ボウイの名作アルバム『“HEROES”(英雄夢語り)』収録に貢献した偉大なるギタリスト、
ロバート・フリップに次いで、ボウイのバックバンドで重要な役割を担ったギタリストでもある。
偉大なミュージシャン達と仕事をしてきた経歴を持つ、
エイドリアン・ブリューによる【付き合いにくいアーティスト・ランキング】において、
デヴィッド・ボウイ(David Bowie)は堂々の第3位にランクインしている。
ちなみに2位はロバート・フリップ(Robert Fripp)、
そして輝かしい1位はフランク・ザッパ(Frank Zappa)だとブリューが発言している。
かつて、おそらくKING CRIMSON関連のアルバムの解説の中で、
エイドリアン・ブリューのヴォーカルについて、
「ブリューのヴォーカルにデヴィッド・ボウイのような説得力があれば…」
の批評が載っていたというが、
これは、このデヴィッド・ボウイのバック・バンドで、
ブリュー自身が体験したところが出所だろう。
デヴィッド・ボウイといえば、櫻井敦司のお気に入りのシンガーのひとりであるが、
ボウイのヴォーカルの味わいは、決して技術的要素ばかりでなく、
そこには独特な魅力があって、
特にこの「“Heroes”」では、まるで映画を観ているかのようなストーリーテラー的感覚がするのだ。
ボウイの音楽は基本的にポップでキャッチーであるのだが、
アート・デザイナー的な非実力系との先入観を持っている方が少なくないのかも知れないが、
パフォーマーとしてだけではなく、彼の持つアーティストとしての実力はとんでもなく高いものだ。
同タイプの、柔軟で内向的な創造者として比肩しうるのは、
『“HEROES”(英雄夢語り)』制作の肝と言える元ROXY MUSICの
ブライアン・イーノ(Brian Eno)ぐらいだったのかも知れない。
こういう感性豊かで屈折気味のアーティストというのはやはりイギリス出身アーティストの特性もあろうが、
そのようにちょっと屈折気味の感じがあるので、若干付き合いが難しいところもあるのだろう。
誤解を恐れずに言えば、今井寿にも、そんな感覚は存在するはずなのである。
彼は、この種の“空気感”を持っている。
アーティスト的な繊細さと裏腹に、繰り出すキャッチーなメロディ。
しかし、凡人の我々には、少し近寄りがたい壁。
音楽の世界に限らず、この“才能”を有する“天才”の“付き合いにくさ”は、
恐らく、どの世界にも存在するものであろう。
しかし、BUCK-TICKでの今井寿のこの“フランク”さは、一体、なんなのだろう?
これこそが、“BUCK-TICK”という楽隊の持つ“奇跡”の具現化された姿と言ってもいいだろう。
“天才”をも包み込んでしまう抱擁性が、このバンドの本質なのだ。
BTのメンバーは“天才=今井寿”を決して、特別扱いしない。
極、普通の人間関係の中に、その“才能”の発露を孵化する環境を提供している。
それは、無理にそうしているのではなく、“敬意”を込めた上で、彼の才能をからかったりさえしているのだ。
(※ヤガミトールは「アイツの場合、すべてが紙一重だから…」と発言し、
U-TAも「今井サンは、たまに、絶妙なギター弾くからな…」と発言している)
これは、彼という人間への完璧なる“理解力”が成せる技である。
これが、構築されているからこそ、今井寿は、全力でBUCK-TICKで泳いでいられるのであろう。
かつて、彼の巻き起こしたトラブルで、BUCK-TUCKは、活動停止した時期がある。
そんな時でも、彼に対してBTの他のメンバーは、ただ「待って、いた」とコメントを残している。
トラブルを起こしてしまった彼を、励ますでもなく、勿論、責めるでもなく。
共に、また、再び、音楽を創ることの出来る彼を「待って」いた、というのだ。
それは、恩着せがましく、辛気臭く「待って」いたのではない。
ただただ、普通に生活を続けながら彼が帰ってくるのを「待って」いたのだ。
彼が、再び、音楽を創り出すことを信じて「待って」いたのだ。
生きていく中で、「待って」いてくれる存在が、
どれほど、ありがたい事だろうか。
だから、きっと、今井寿は、復帰後すぐに活動を開始し、
「待って」いてくれた“仲間”に応えるかのように、楽曲を提供していった。
そう、それ以外の事は、関係ない。
ただただ、彼と音楽が演りたくて彼を「待って」いた仲間の欲求に素直に応えるように、
自身の天賦の才を使用したのだ。
これほどの奉仕(サービス)があろうか?
余計なモノは必要なかった。
彼らには、彼らの“音楽”があり、“ロック”があった。
ただただ、それだけ。
それは、他のメンバーの“夢”が、今井寿そのものであったからかも知れない。
今井寿は、彼らから、“必要”とされたのだ。
だから、応えた。
それだけ。
そんな事を考えながら、今井寿への他のメンバーのコメントを聞いていると、
非常に、感慨深いものがある。
樋口“U-TA”豊
「(どんな存在?)そうですね…(静かになれる?)静かなんですよね。今井サンは」
もう、余計な事を話さなくてもいい関係。
そんな、大袈裟に言えば“究極の人間関係”が構築されているのだろう。
バンド・マスターであり、所属事務所の代表取締役社長でもあるヤガミトールも、
今井寿について、語る。
「今井ですか?でも、もともと、そういう、なんですかね。
リーダー的っていうか、リーダーシップっていうか。
で、“BUCK-TICK”の名付けの親でもあるし、
彼が一番そのバンド始めた頃っていうか、ヴィジョンがあったんじゃないですかね。未来像みたいな。
で、もともと、今日も一緒に演る。ミチロウさんとか…スターリンのコピーバンドやってたんですよ」
そう、バクチクの名付け親:今井寿にも、ルーツがある。
◆◆◆◆◆
2007年6月23日、ライヴツアー【PARADE】は福岡に突入して三番目の夜を迎えた。
ほぼ定刻に暗転した【Zepp Fukuoka】のステージにまず姿を見せたのは、遠藤ミチロウ。
伝説的パンクバンド、ザ・スターリンを率いていた時代から現在に至るまでの長い歴史については、
またの機会の【ROMANCE】にしよう。
そして彼ら先駆者の影響をモロに浴びて育ったロック・キッズのひとりに、
今井寿が存在しているのは誰が見ても明白である。
今井寿のロックスター。伝説のジャパンパンクの先駆者。
何よりも重要なのは、この人物が現在もさまざまな表現形態を用いながら
精力的な音楽活動を続けているということであり、
ギターを掻き鳴らしながら吐き出される声そのものが、
彼自身が唯一無二の存在であることを物語っているという事実である。
遠藤ミチロウは、このツアー【PARADE】参加についてコメントしている。
「トリビュートに参加させて頂いたお陰で、ナンカ、色々、面白い事があって、楽しいです。ホント」
この日の対バンとして登場したM.J.Qは、山本久土(g)、茶谷雅之(ds)を伴ってのトリオで構成される。
その音楽スタイルをアコースティック・パンクと形容するのは間違いではないはずだが、
ベーシックなアコースティックスタイルの楽隊編成によるそのパフォーマンスは、
耳にやさしいシンガロング系の楽曲など想定していたら、その衝撃度に腰を抜かすことになる。
ハード・ロック創成期を思わせるようなプリミティヴな野性のグルーヴに、
大地から突き上げてくるかのような躍動感。
そしてパンクロック特有の心臓を握られてしまうような言葉が連なる唄。
「BUCK-TICKの、いちばんイヤらしい歌を選んだ」
と語って笑いを誘いながら披露されたトリビュート楽曲「囁き」も
淫靡な印象を残しつつ躍動感タップリにパンキーな味付けが素晴らしく演奏される。
もはやロックンロールのスタンダードとなったボブ・ディランの名曲
「天国への扉」(Knockin' on Heaven's Door)の圧倒的な濃密さは、
エリック・クラプトンやガンズ・アンド・ローゼズのヴァージョンで聴き慣れてきた
この楽曲像を忘れさせるほどに強烈だった。
(※ちなみに日本でもKUWATA BAND、アンジェラ・アキなどがカバーしている)
しかし、この夜最初のクライマックスは、同楽曲に続いて披露された「ワルシャワの幻想」で訪れた。
「飯喰わせろ」
これは、町田町蔵(現:町田康)を中心に結成された日本のパンクバンドINU(イヌ)の
1981年3月1日に発売されたアルバム『メシ喰うな!』へのアンサーでもある。
「お前らは全く 自分の空間に
耐えられなくなるからと言って、
メシばかり喰いやがって、メシ喰うな!」
衝撃的な楽曲である。
そして、そんな楽曲に追い打ちをかけるかのように、
ミチロウの「ワルシャワの幻想」がセットリストされる。
Q「今日はナンカ、いつもと違う所は、あるんですか?」
今井寿が答える。
「あっセッションやるんで、微妙に、引き締まってるカンジです」
このツアー【PARADE】の奇跡的シーンを彩るBUCK-TICKメンバーの
スペシャル・セッション!!
遠藤ミチロウも意欲満タン状態で臨んでいる。
「楽しみですね。
なんか意外と自分のファンじゃない客が一杯いる時のほうが、
なんか、面白いんですよね」
【Zepp Fukuoka】のステージでは、遠藤ミチロウが、熱烈な紹介MCで迎える。
「…最後の曲です!スペシャルゲストを迎えます」
「キンチョーして来た!」
と楽屋裏では、今井寿が武者震いしている。
ミチロウが高らかに名を呼ぶ!
「…今井寿!!」
そして、次の瞬間、
なんと、今井寿がギターを抱えて登場したのである。
自らが、コピーして来た憧れのミュージシャンに紹介され、
颯爽とステージへ飛び出す時の気分は、果たしてどんなだろう?
今井寿がコメントしている。
「ドキドキ感が……。なんだろ?いいドキドキ感が急に来たっていうか」
ここが現実か夢か、わからなくなるような、そんな瞬間に違いない。
自分の部屋にポスターが貼ってあるスターとの共演。
しかし、映像で見ての通り今井寿のギターは“魔法の杖”だ。
「ワルシャワの幻想」も見事に、“夢”を“現実化”させるようなマジックを魅せつけるかのような、
そんな、フラッシーで、スペイシーな今井テイストに変化していく。
そこに、山本久土、茶谷雅之、そして遠藤ミチロウが、
容赦なく襲いかかる。
自分のファンだったからって、一切の容赦はない。
喰うか?喰われるか?ライヴはいつも真剣勝負のサブミッション。
今井寿も、全力で、飛び込んで行く。
味方は、愛機スタビライザーのみ…。
「面白かったですね。気持ちよかった」
そう、このセッションについて語る今井寿。
遠藤ミチロウは、退場時も高らかにエールを贈る。
「今井寿!今日はありがとう!!」
「ミチローカッコイイ!!!」
福岡のオーディエンスの歓声が聞こえる。
その通り!
ひたすら、日本パンクロックのパイオニア“遠藤ミチロウ”はカッコ良かった。
そして「ワルシャワの幻想」終演後、実はその場で緊張を味わっていたことを認めていた今井寿だが、
その潔い暴れっぷりが、観ていて痛快そのものだったことは言うまでもない。
◆◆◆◆◆
櫻井敦司が【Zepp Fukuoka】に入場する。
他のメンバーよりは少し遅い入り時間である。
「おはようございます。チコク(遅刻)です」
コメントの割には、落ち着いた表情だ。
BUCK-TICKのフロント・ラインを今井寿と共に張る。
美麗のフロントマン櫻井敦司。
今井寿と櫻井敦司は地元群馬藤岡高校の同級生だ。
「いや、もう、今井サンは…、あの~我が家の“ダイナモ”ですね」
ダイナモ (dynamo) は発電機の意味で、
特に自転車や自動車に付けられる直流の発電機や、発電式の懐中電灯・ラジオなどの発電機を指す。
今井寿こそが、BUCK-TICKというバンドの“原動力”そのものだ。
実家群馬の今井商店という“溜まり場”にたまり、
ともに音楽を聴いていた、ひとつ下の弟分の樋口“U-TA”豊も語る。
「今井クンのいいところは……う~~ん。
そうですねぇ、あんまり……
(櫻井敦司が「無理すんなよ(笑)」とちゃちゃを入れる)
んん~~。あんまり、ペラペラしゃべんないところですね。余計な無駄口叩かないトコですね」
なぜかメンバーは今井寿を語る時、少し照れたような表情になる。
そして、必ず含み笑いを浮かべ「言葉じゃ、表現出来ないんだよねぇ~」という感じでほくそ笑み、
表面的な事だけ、語って逃げてしまうのだ。
ヤガミ“アニイ”トールはもう少し、具体的に今井寿を語る。
「基本的には…彼はシャイなんじゃないですかね。
知り合って、彼から先に話しかけてきたのは、知り合って一年後ぐらいですよ。
(そうなんですか!?)
それまでは、『オウッ今井。オウッ今井』つってて、
『オー、アニイ』とかって。
『オオッ!!』みたいな『オッ、今井の方から話しかけて来たゾ!』みたいな。
それが(知り合って)一年ぐらいですね」
さて、BUCK-TICKを率いるカリスマ・ギタリスト今井寿。
並び立つギタリスト星野英彦の今井寿像はいかがなものか?
「(今井サンってどんな人ですかね?)
どんな?ひょうきんな……ひょうきんな方です(笑)」
今井寿が笑う。
「ひゃっつ、ひゃっつ、ひゃっつ」
この二人の間に【言葉】はひょっとして必要ないんじゃないか?
そんな気がしてくる。
BUCK-TICKのギタリスト二人。
インタヴューでも聞き出さない限りは、極端に口数の少ない二人。
この二人が、BUCK-TICKのメロディを創り出しているのは、厳然たる事実だ。
そして、今後の展開、サウンドの行方の手綱をコントロールしているのもこの二人。
すべてがこの二人次第であり、そして、お互いに欠かせないベターハーフ…。
この二人の宇宙には、いわゆる人類の文明の象徴【言葉】すら、
付属的な役割しか果たさないのでは、ないだろうか?
二人の会話を聞いているとそんな気にさせられる。
今井&星野。
今井「そうだ、ヒデ。「スピード」さ。こないだぐらいなの?」
星野「うん、ダイジョーヴよ」
そ、それだけ!?
そんなサウンドメイクの相棒:星野英彦に、今井寿というギター・プレイヤーについて語ってもらった。
「(プレイヤーとしての今井サンは?)
プレイヤーとしては?……まあ、なんすかね。ハハハ。
んん~、なんですかね?照れますね。フフッ、ハイ」
結局、こんなコメントしか撮れなかったというような内容である。
しかし、なぜか、充分に伝わってくる。
この二人の関係が、だ。
だから、ヒデもまるで、自分自身の事を語るように、照れ笑いで、誤魔化してしまう。
そう、この二人に【言葉】はいらない。
ヒデのこの表情を見ていれば、わかるだろう?
U-TAは?今井寿をどんなプレイヤーと思ってる?
「いや、すごい…いつも新鮮な風をBUCK-TICKに送り込んでくれますよね」
うん。いかにも、上手い例えだ。
さすがは、BUCK-TICKのスポークスマン。
きっと、今井寿は“風”なんだ。
いつも、きまぐれに吹く“風”は、時に、暴風雨となって荒れ狂ったり、
吹雪を舞い散らし、大木すらなぎ倒してしまう。
しかし、ひとり、フラッと散歩に出た時、なんとも表現し難い、気持ちのイイものを運んでくれるのも、
また“風”というモノだろう。
“風”のような今井寿よ。
今回のライヴツアー【PARADE】はどんなだった?
「…フフ。忘れた気がします…。そうですね。対バン形式だし。
なんだろ…、まあ、その辺が、いつもと違った緊張感というかスリリングな感じで。
面白くなりそうな予感は、してました、けど」
そうか、そうだったのか。
じゃあ印象に残った楽曲はナニ?
「演奏した曲?【PARADE】ですよね?
何……何演ったっけな……(笑)。
ナンカ、新曲で、結構、盛り上がれたんで…。
ソノへんが、結構、うれしかったな、と、思います」
「RENDEZVOUS~ランデヴー~」とか……。ま、ピッタリかな、と思いますけど」
正しく、この2007年のBUCK-TICKの気分を表現した楽曲が、
このライヴツアー【PARADE】開幕とともにリリースされたシングル。
この「RENDEZVOUS~ランデヴー~」であったのだろう。
◆◆◆◆◆
6月23日【Zepp Fukuoka】午後7時21分、遠藤ミチロウ(M.J.Q)&今井寿による
衝撃のコラボレーションが終焉し、短いインターヴァルを挟み、
まるで場内が充分に暖まったのを見計らったかのようにしてBUCK-TICKのステージがスタートする。
今回のツアーは週末のみに公演の組まれた緩やかな日程のものだが、
それゆえ演奏する側にとっては、ライヴツアーならではの流れや
波に乗りにくいという部分も少なからずあるはず。
しかしこの第三夜、強く感じたのは、ライヴツアー【PARADE】そのものが、
ロックンロール・ブースターを加速度的に噴射しながら、
転がり始めているという事実だった。
“流れが良い”なんて陳腐な言い方では片付けられないほどに、
楽曲同士の相互関係が機能性を高め、
時間経過の体感スピードがすさまじく速くなってきていた。
本当に大袈裟じゃなく、この夜の彼らのライヴが、
あっという間の刹那の出来事だったかのように感じられたという。
このローリング・ストーンは、やがて“光速回転”を始める。
が、もちろんそうしたスピード感で全体を貫きながらも、
20周年記念という“祝福”の雰囲気やそれまでのドラマチックな展開をじっくり聴かせてくれる。
そして全方向に放たれる怪しい閃光を失うことがないのが、
2007年のBUCK-TICKのアニヴァーサリー・ライヴにおける特筆すべき点だろう。
すっかり新たな定番チューンへの道を歩みつつある「RENDEZVOUS~ランデヴー~」のキラメキも、
櫻井敦司が黒いジャケットで顔を覆いながら歌ってみせた「ROMANCE」の神秘性も、
さらには「皆さんが生まれる前の曲です」とのMCに導かれて始まった初期BTの傑作
「MY EYES & YOUR EYES」の懐かしさと新鮮さの同居する感触も、
そうしたドラマを成立させるうえで欠かすことのできない彼ら側面であった。
そおして、色々な角度から充てられる光に、
姿を変えながら福岡の夜も疾走するロック・バンドBUCK-TICK。
転がりながら、けたたましく爆音と光を発していく【PARADE】。
まさしく“It's a Rolling 爆竹”。
この夜の最後の風景は、ステージを去り際に樋口“U-TA”豊が見せたお決まりの投げキッスと、
オーディエンスの満足そうな笑顔。
こうしてライヴツアー2007【PARADE】は、折り返し地点へと向かうことになった。
2007/6/23(土)
福岡/Zepp Fukuoka
【SET LIST】
オープニングSE:THEME OF BT
01.ANGELIC CONVERSATION
02.BABY,I WANT YOU.
03.BUSTER
04.MY FUCKIN' VALENTAINE
05.GIRL
06.ノクターン-RAIN SONG-
07.RENDEZVOUS~ランデヴー~
08.新曲【スパイダー】
09.ROMANCE
10.夢魔-The Nightmare
11.ICONOCLASM
【ENCORE】
01.DIABOLO
02.新曲【モンタージュ】
03.MY EYES&YOUR EYES
04.スピード
そして、公演終了後も彼らの“夜”は終わらない。
午前様どころか、翌日の昼食時まで、呑み続けるという打ち上げ。
(※一時的に“地蔵化”するメンバーがいたとしても…)
この福岡でも、ロックに付き物は、アルコール。
リハーサルで、櫻井敦司が、スタッフのTシャツにプリントしてあるセリフを
マイクを通して読み上げてた。
「“25度以下は、酒じゃねぇ~~~”って書いてマス」
ミッドナイトもハードに攻めるBUCK-TICK。
こちらが本来の彼らの姿なのかも知れない。
そして、勿論、今宵も主役は“今井寿”!
「今井サン、今日の絞めの一言を……」
「まだまだ・・・続きます・・・」
(今井寿)
