12月29日、日本武道館公演【THE DAY IN QUESTION】のシリアスな“夢”も、
アンコール1のファイナル「夢魔-The Nightmare」を迎えていた。

「ROMANCE」「蜉蝣ーかげろうー」と続く“夢”から、
一気に、現実に引き戻されるような衝撃「夢魔-The Nightmare」。

現実世界も、やや浮かれ気分の実感なき上昇景気が、漂う2006年から、
翌2007年には、反転して、100年に一度の世界金融危機へのトリガーが引かれ、加速して行く。
これをそのまま映し出すような楽曲だ。

この熱に犯されたような“浮かれ景気”。
欧米主導の金融政策により2003年から空前の金融バブルが発生していた。
まさに“夢見ゴコチ”だ。



原因は、遡る。
2001年9月11日にアメリカ合衆国で発生した同時多発テロで国内は混乱し、
ニューヨーク証券取引市場は太平洋戦争開戦以来の市場閉鎖に追い込まれた。
破壊された資本経済の象徴=世界貿易センタービルでは多くの金融機関が入居しており、
その被害も甚大だったことから、当時のFRB議長アラン・グリーンスパンは金融秩序維持の為に、
これまでの政策を一転させて、全面的な金融緩和政策に転じ、米国国内は超低金利下となった。

当時、日本発のデフレーションが世界的に伝播する懸念もあり、
その政策は正当視されていたものの、その後の米国国内土地バブル景気の温床となったとされる。

日本でもその傾向に追随しており、
1990年代以降、マスコミの報道などにより
国民の間で財政再建の機運やインフレを嫌う傾向が高まった。
政府は公共事業などの適切な財政政策や市場への資金供給などの適切な金融政策が行えず、
消費の低迷や国内への投資を喚起できないでいた。
“平成大不況”という時期の出口を誰もが探していた。
欧米の“ハゲタカ・ファンド”が、その戦後処理を啄ばむ。

しかし、2003年、小泉政権において大規模な為替介入が行われたことにより
円相場の実質実効為替レートは低下傾向を示した。
彼は、日本人に、珍しい“改革者”であった。
彼は、自身を、日本の変革者“織田信長”に比喩した。
が、その裏では、米国金融経済が、その利権を手ぐすねを引いて待っている噂された。
結果、輸出系企業は国内に積極的な投資を行った。
この間、輸出系企業は米国およびBRICsなどの新興国、
また、中東・オーストラリアをはじめとした資源国など、
特に経済成長が著しい国家を主要販売先として、外需依存型の経営を行なっていた。

しかし、海外で好調であっても、国内ではインフレが起きなかったため、
2000年代の雇用報酬は伸び悩んだ。
また、失業率や有効求人倍率は改善したが、退職給与引当金の損金繰り入れが廃止されたことや、
非正規雇用の規制緩和などにより、
企業が正社員よりも低賃金・低待遇ですむ非正規雇用者の採用を進めたこともあり、
個人消費は伸び悩んだ。
そして企業がバブル崩壊後の借金経営に対する批判から、
大規模な借金によるレバレッジ投資を控え、儲けた利益の範囲内で投資を行ったため、
雇用報酬は伸び悩んだ。
これらの現象は「実感なき経済回復」と総称された。
2006年以後、日銀はデフレを脱したと判断して、不況対策としての量的金融緩和政策を解除した。
これ以後、企業倒産件数は増加傾向にあり、
さらに原油・原材料価格の高騰によるコスト増などで、
景気後半でようやく盛り上がった建設・不動産・運輸業は低迷していた。

こうした背景の中で、翌2007年8月より表面化した米サブプライムローン問題に端を発した
世界金融危機の影が忍び寄っていた。

この時、その事を知る由もない一般市民は、まだ“夢”のなかにあった。




実社会こそ、まさに、“夢魔の物語”のようだ。


あぶく銭を掴んだエスタブリッシュメント達が、地に墜ちる。
株式を公開し資産を増大させたITベンチャー企業は、
2003年に開業した六本木ヒルズに相次いでオフィスを設けた。
これらの企業の成り上がった経営者たちは、若くして多くの資産を築き上げ、
派手なパフォーマンスで注目され「富の象徴」として認識されるようになり、
「ヒルズ族」という言葉が注目されるようになった。

しかし、その数字の書かれた紙は、紙屑に変わってしまった。

「ヒルズの呪い」とまで評されている蜜月の終焉。

虚構の数字達が、悲鳴を上げながら“闇”の奥底へと孵って逝く。

僕が、目の当たりにしたのは、“幻想の華”?

いいや。自らが、“密室”に悦し出した欲望の情景…。


人間の欲望こそが、人の“密室”に宿る“魔”の正体と言えよう。
そんな悪魔達にとっては、この現実世界こそが、魑魅魍魎の跋扈する“アナザへヴン”だ。


“もうひとつの天国”


其処は何処?

其処は此処。





この現実世界を“アナザヘブン”に見立てたストーリーがある。



角川書店から刊行されている飯田譲治と梓河人による小説『アナザヘヴン』は、
1995年から『小説ASUKA』(角川書店)で連載された。
飯田譲治は、1992年10月8日から1993年3月18日までフジテレビ系で深夜に放送された
SFテレビドラマ『NIGHT HEAD』の脚本家として有名。
超能力をもつ兄弟の逃避行を描き、カルト的な人気を得た。

小説『アナザヘヴン』は、2000年に公開された映画『アナザヘヴン』となった。
主演の江口洋介と原田芳雄のコンビが見事な作品だ。
市川実和子、松雪泰子、柏原崇、加藤晴彦、そして柄本明などの個性派俳優が脇を固める。

映画「アナザヘヴン」と世界観を共有した『アナザヘヴン~eclipse~』が、
テレビドラマとしてテレビ朝日系列で放送された。
こちらの主演は、大沢たかお、本上まなみで
映画版に出演したキャスト加藤晴彦がメインキャストされ、
映画版主演の江口洋介、原田芳雄コンビも特別出演している。

両作品とも主題歌「gravity」で、ソロ活動から活動再開したLUNA SEAがフューチャーされている。

この世界観など、まさに、現代の“夢魔物語”を顕しているかのようだ。


殺害した被害者の脳を料理する連続猟奇殺人が起こる。
ベテラン刑事・飛鷹健一郎とその部下・早瀬学は犯人を追うが、
それをあざ笑うかのように次々と犯行は繰り返されていく。
遺体や現場の状況から検屍官の赤城によって、犯人は体重100キロ、握力150キロ以上、
しかも料理が得意な人物と鑑定された。
ある被害者が書いた犯人の似顔絵を元に、捜査一課の早瀬刑事は、
犯人像とは似ても似つかないと反対する飛鷹警部の意見を押し切り、
事件の3日前に美術館に出かけたまま行方不明になっていた女子大生・柏木千鶴を容疑者として捜索を開始する。
だが、逮捕を目前とし彼女もまた脳みそがない状態の死体で発見されるのだった。

しかし、事件はそれで解決した訳ではなかった。
また同じ手口の殺人事件が発生し、早瀬は「犯人は人間ではないのではないか」という疑問を抱き始める。

その後、模倣事件が若い会社員・木村敦や警察病院の医師・笹本美奈によって引き起こされる。
早瀬は、以前担当した事件の犯人だったの大庭朝子に、真犯人は人間ではない“ナニカ”だと助言を受けるが、
彼女もまたその“ナニカ”に体を乗っ取られてしまう。

そして、その“ナニカ”とは「悪意」そのものだった。

退屈な天国に飽きた“悪意”は、その姿をWに変えて地上の人々に乗り移り、殺人を繰り返していたのだ。


悪意はこう語る。

「この世界は“天国”だ。
こんなにも“刺激”に満ち満ちている」

すなわち現世界こそ“アナザヘブン”=“Another Heaven”である、と。

そう“天国”なんて、嫉妬も、憎悪も、殺意(タナトス)もない、退屈極まりない場所だ、と。


このストーリーは、続編小説『アナザヘヴン2』へと引き継がれ、
テレビドラマ版「アナザヘヴン~eclipse~」をベースに、
説明が不十分だった部分の補完と共に語られている。
早瀬マナブ、飛鷹健一郎、皆月悟郎の3人を主人公に数奇な宿命が進行していく。


人間の中に巣食う“魔”こそが悪魔の喰い物だ、というテーマで展開されるストーリーであるが、
逆に言うと、それに対抗できるモノが、人間の“心”であるということを逆説的に示唆している。



そんな分岐点が、この2006年という年であったようにも感じる。
ポイント・オヴ・ノー・リターン。
本物か偽物か、それが勝負の分かれ目。


そんな年の締め括りに、パフォーマンスされる「夢魔-The Nightmare」での、
壮絶な“死の行列”も人間の“魔”が繰り広げる世界に他ならないだろう。
大々的にこの年の【THE DAY IN QUESTION】にフューチャーされた『TABOO』の仮想現実。
それも“The Nightmare”に他ならない。


渇望の“欲望”が、芽を出す時、
我々は心しなければなるまい。

櫻井敦司が、高らかに唄う。

「幻影を追い駆けて 狂人となり走る」

どちらが、“夢”か“現実”か。


それを判断するのも、我々、愚かなる被造物“人間”次第ということだろう。


天空より、主が、見つめている。


偽善はまかり通らない。


復活せし、主が笑う。


月影から、下界を見て、…笑う。



「お前の欲望は…、その程度か?」







夢魔-The Nightmare
 (作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)


ツンドラの大地 我 死装束の魂よ
黄泉彷徨える 我 百鬼夜行を逝く魂よ

亡霊を追い駆けて 狂人となり走る

白夜の空を 我 朱に染め逝く魂よ
黄泉彷徨える 我 百鬼夜行を逝く魂よ

郷愁を想い涙 盲人となり喚く

満天のオーロラ 我 切り裂いて逝く魂よ
黄泉彷徨える 我 百鬼夜行を逝く魂よ

幻影を追い駆けて 狂人となり走る

ツンドラの大地 我 死装束の魂よ
黄泉彷徨える 我 百鬼夜行を逝く魂よ

貴方を夢想い 盲人となり叫ぶ

ツンドラの大地 我 死装束の魂よ
白夜の空を 我 朱に染め逝く魂よ
満天のオーロラ 我 切り裂いて逝く魂よ
黄泉彷徨える 我 百鬼夜行を逝く魂よ

ツンドラの大地 我 死装束の魂よ
白夜の空を 我 朱に染め逝く魂よ
満天のオーロラ 我 切り裂いて逝く魂よ
黄泉彷徨える 我 百鬼夜行を逝く魂よ

ツンドラの大地 我 死装束の魂よ
黄泉彷徨える 我 百鬼夜行を逝く魂よ


【ROMANCE】