「狂おしく眠れ永遠の夜に 誰か抱きしめて Embrace me(抱擁して)」


2006年12月29日、日本武道館【 THE DAY IN QUESTION 】
堂々と3曲目に「JUST ONE MORE KISS」を聴かせたBUCK-TICK。

櫻井敦司のクールなMCが入る。

「今晩は。
 お忙しいところを来て下さってありがとうございます。
 最後まで楽しんでいって下さい」

そして、「SEX×××××」と囁く。



次の楽曲は、「SEXUAL ×××××!」ではなく
「SEX FOR YOU」!

ステージではマイクスタンドを背に横向きで唄う櫻井敦司。
物悲しげなイントロをトレードマークの赤マイマイで奏で、マイマイ・ステップに興じる今井寿。
久々のナンバーだろう。

この2006年【 THE DAY IN QUESTION 】日本武道館公演は、
パーフェクト・チョイス、スカチャンでペイ・パー・ビュー放送される。

BUCK-TICKというバンドの印象を決定づけたと言える通算3枚目のオリジナルアルバム。
それが『TABOO』。

そのタイトル通りに、BUCK-TICK史上最もダークな作品であったかも知れない。
そこに収録された楽曲には、血を垂れ流した様な色合いを想像させるモノばかり並んだ。

意識的に、それまで追求していたポップさを排除した。

“ゴシック”というモチーフでは、次作4枚目アルバム『惡の華』もダークではあるが、
そのメロディにポップさが蘇り、寧ろ、ファンタジックな面が強調された。
どちらかいうと御伽草子の物語を聴いているような感覚だ。

続いた5枚目アルバムは覚醒した『狂った太陽』で、この“闇の霧”を吹き消すかのような、
エレクトロニクスとハイパーでサイバーな発光色を鮮やかにした。
“リアル”という観点では『TABOO』と共通する所が見受けられるが、
サウンドの音色と表現方法は、対局に位置する。
『TABOO』は、この蛍光色とも言える彼らの持つキャッチー性を、一切排除した作品といえる。

その後、再び暗黒世界の慟哭を描いたアルバム『darker than darkness -style93-』をリリースするも、
この『TABOO』で描いた世界よりは、へヴィネスではあるが、まだ躍動感があると言えよう。
この作品『darker than darkness』に至っては、ゴシックの拡大解釈がキーワードで、
ハードなサウンドが、怒号とともに、我々を“キラメキ”の彼方に連れ去ってしまう。

『TABOO』は、決して重たいサウンドではないが、もっと、こう濃くて、鈍い、
なんと表現しようか…、もっともっと暗い原色の黒と赤だ。
いや、赤と黒の油絵具が混じり合ったマーブル?

「夜明け前が、一番“暗い”」という言葉があるが、
それを体現するような楽曲が並んでいる。

BUCK-TICKの“開戦前夜”と言った処だろう。





このアルバムをリリース後、櫻井敦司は、こんな事を語った。

「俺は変わりたかったんです、義務でも戦略でもなくて、俺自身のワガママでね。
『SEVENTH HEAVEN』を録音してる頃から、自分のやりたい事がハッキリしてきてて、
漠然としてたものが形になったのが『TABOO』だった。
ダークでハードな事をやりたくて、それが出来た。
変えたいとかひっくり返そうとか、まわりの状況を変化させたくて変わったんじゃなくて、
俺は自分のやりたい事をやるために、俺が変わりたかっただけ」

でも、それによってBUCK-TICKが変わってしまったという人もいるのでは?との問いに…

「でもやりたい事をやりたかった」と答えた。

「「SEX FOR YOU」の内容とか、「EMBRYO」の内容とか、
そういうのは東京にいる時からぼんやりと浮かんでたんだけど、
その時に今井から『TABOO』という言葉が出てきて。
“SEX”だってケースによっては“TABOO”になるし、
“EMBRYO”だってケースによってはやっぱり“TABOO”になる。
TABOOは全体を包み込める言葉ですよ。
「TOKYO」の全体をブチ壊すイメージにしたってそう。
すべてが『TABOO』に包まれてると思う」

と語り、自身の心の“闇”を開放し、周りの人間にドン引きさせた。



このアルバム『TABOO』も、『十三階は月光』同様、
“ゴシック”のトータル・コーディネイトをした今井寿は、当時、

「変えるというより違う部分、見せなかった部分を見せたっていうのが強いけど」

と暗黒の意志をあまりにストレートに語った櫻井敦司のコメントにフォローを入れた。



「No No No No 熱く燃えて
 No No No No 眠れ眠れ」




そうして、リリースに至った『TABOO』を、
彼らのフリークを自称する元LUNA SEAの“J”は、BUCK-TICKの目醒めはこのアルバムだ、と語る。
すべてを拭い捨て、ここに至った、と。
恐らく、それは、彼の人生=ロック・ミュージックにさえ、大きな影響を及ぼした。

初のシングル盤「JUST ONE MORE KISS」を含むアルバムとして『TABOO』のセールスも、
当時のBUCK-TICKの過去最高を記録した。
外人プロデューサー・ウィル・ゴスリンを迎え、初のロンドンにての海外レコーディング。
ロンドンの曇り空を映し出すように陰鬱な、それでいてメロディックな作品だ。


遂には1989年1月30日付で、オリコン週間アルバムチャート第1位を記録している。


ロンドン・レコーディングという割には、まだデジタル音楽的アプローチはなされておらず、
あくまでバンドサウンドであるものの、ダークでサイバーで、混沌として、どこか淫靡なアルバム。
それまでのリスキーな外見と相反するキャッチーさが、BUCK-TICKのバンドとしての特徴であったが、
それを排除した潔さが衝撃的だった。

コンセプトは「偶像破壊」(=脱アイドル)を意味するオープニング楽曲「ICONOCLASM」
に集約されるが、それに続く各曲が、それぞれに個性的だ。
アニイの疾走するバスドラムに、わずか4音で構成されたベースリフが延々とループする“U-TA”。
猛獣のように唸る今井のギター、軽快に刻まれる星野のカッティング、
櫻井敦司もオクターヴで唄い込む、低いポジションでの疾走し、最期にハイトーンで破裂する。

そして、このアルバムの中盤で淫靡感、混沌感を高めているのが
「SEX FOR YOU」、「EMBRYO」、「“J”」の3曲である。




2006年の【 THE DAY IN QUESTION 】の肝は、此処で演奏された
「SEX FOR YOU」「“J” 」
の2曲の“TABOO”パフォーマンスと言っていいだろう。

デビュー20周年のアニヴァーサリー・イヤーを翌年に控え、
此処にパフォーマンスされるこの2曲は、まさに、BUCK-TICKの成長と、
また、当時から、見事なクオリティー楽曲を創作していた証拠となる。

確かに1988年当時の彼らの再現力で物足りなかった。
櫻井敦司の英語歌詞もたどたどしく、今井寿が標榜するダーク・インダストリアルも、
実現に至るには、まだ、足りない部分が多い。
(※「ICONOCLASM」などは、いいセンを行っているのだが…
 この楽曲に関しては、オリジナルが、僕個人は好きだ)
そのフラストレーションは17年の歳月を経て、見事に昇華している。



楽曲は“生き物”だ。

その証拠であろう。




「No No No No 今宵だけは
 No No No No 抱いて抱かれ」





「SEX FOR YOU」は、実際、青臭いエロシチズムから、
“生命”の尊厳と“執拗な愛”のカタチを表現する情愛の神秘を表現するに至った。
ここでの、“SEX”は、“TABOO”が示す通り、“禁断の愛”である。
アルバムの順列では、“SEX”が来て、その次に“EMBRYO”=堕胎を扱っている。

「なまめく地図を裂く AH 歓喜の夜
 呪われた命は そう息を殺す

 乳房のぬくもりと AH 不実の罪
 許されぬ命の そう乳飲み子達

 Maria love me do ? 」

これだけで、いかにディープな世界を櫻井敦司が描こうとしたか?身も震える想いであるが、
さらに、ストーリーは、ロンドンに入ってから急遽制作された「SILENT NIGHT」の“殺人現場”へと流れ、

「釘づけのつま先に そっと唇
 血だらけの手のひらに 突き刺さるナイフ

 鏡映す面影は こなごなで
 何もかも消えて 消えては浮かぶ」

そして、タイトル・ソング「TABOO」で決幕を迎える。

「Au-revoir oh I say "Still I love you"
 死ぬ程好きさ You say "LOVE" キレイだよ

 静かに静かに 最後の曲流れ出す
 A-mour A-mour A-mour ふたり TABoo・・・TABoo

 涙が涙が この世界の悲しみが
 Au-revoir Au-revoir Au-revoir 消えて TABoo・・・TABoo」




間奏では、オーディエンスに背を向けてしまう櫻井敦司。
自身の背中のマイクスタンドに手を這わせている。

極めて妖艶なナンバーでは、あるが、
この楽曲は、決して、“SEX”の享楽を唄ったモノではない。
【TABOO】というモチーフの上に成り立つ、男と女の悲劇の切欠。
そして、その後、刹那の刻を刻む、情熱を顕したモノだ。




そして、その“原罪”に、打ち震える人間の、なんと狂おしく、愛しく、美しいことか…。




「夢に焦がれて愛に溺れ 傷をなめあえば Deadly love(執拗な愛)」




SEX FOR YOU
 (作詞:ATSUSHI / 作曲:HISASHI / 編曲:BUCK-TICK)


狂おしく眠れ永遠の夜に 誰か抱きしめて Embrace me
夢に焦がれて愛に溺れ 傷をなめあえば Deadly love

凍えそうな身体が 熱く熱く SEX FOR YOU
身悶えする心は 落ちる落ちる SEX FOR YOU
飲み干しておくれ 甘い蜜を 舌をとがらせて Embrace me
狂おしく眠れ永遠の夜に 誰か抱いて OH Deadly love

赤くにじむつぼみに 熱く熱く SEX FOR YOU
そうさ腰を突き出せ OH OH OH SEX FOR YOU

No No No No 熱く燃えて
No No No No 眠れ眠れ

赤くにじむつぼみに 熱く熱く SEX FOR YOU
そうさ腰を突き出せ OH OH OH SEX FOR YOU

No No No No 熱く燃えて
No No No No 眠れ眠れ
No No No No 今宵だけは
No No No No 抱いて抱かれ
No No No No


【ROMANCE】