「信じるものは神じゃない 沸き上がる血の匂いだけ」


2006年の【 THE DAY IN QUESTION 】は、合計3公演で、
12月16日の仙台サンプラザホール、12月20日の神戸国際会館こくさいホールに続き、
お約束の12月29日の東京・日本武道館での公演となる。

この年から、BUCK-TICKは地方都市に目を向け、
三都以外の地にも出向いて年末のイベントを盛り上げるようになる。
【 THE DAY IN QUESTION 】も、やや小規模のライヴツアー化していった経緯には、
間違いなく、ファンの要望によるものであることは間違いない。

近年ではファンクラブ限定ライヴの【FISH TANKer's ONLY 】との合わせ技で、
最大公約数のリスナーに対して、このBUCK-TICKの軌跡を辿るパフォーマンスを公開する方法を考えている。

すでに、【 THE DAY IN QUESTION 】は、12月29日、日本武道館だけの伝説ではなくなっている。

それは、決して、希少性の損失というモノではなく、
時代お流れに合わせる特質を持ち得るBUCK-TICKというバンドの柔軟性に他ならない。

お決まりカタチなどに、なんの意味もない!とばかりに、
その偉大なる活動の形骸化を破壊し続ける“力”こそが、
このバンドの長年に渡る活動の真骨頂と言えるだろう。

常に、驚かせたい。

常に、刺激的でありたい。

その衝動こそが、彼らを突き動かす原動力に他ならず、
ベテラン特有のスノッブな伝説化なんて、クソくらえとばかりに、
その活動は、変幻自在に、加速していくのだ。

これを“進化”と取ると仮定すれば、
これほど、理想的な姿はないのでは、ないか!

しかも、彼らは、その長い活動の中で、
メジャーデビュー以来一度もメンバー・チェンジを行っていないのだ。


勿論、幾度とトラブルは訪れた。


昨今、巷を騒がせた“ドラッグ”の問題も含めて。


しかし、未だ、刺激を求め続け、変体を繰り返す彼らが、
20年前を、同じような人間関係を継続し、活動を続けていることに、
“尊敬”とともに、人生たるものの“理想”を垣間見るのである。

少し、大袈裟な表現かもしれないが、少なくとも、僕は。


「MACHINE」。

この楽曲は、そんな彼らが、初めて自らの意志に於いてすべてをコントロールし出した傑作
アルバム『狂った太陽』のオープニング・ロック・チューンだ。
同アルバムは、先行シングル「スピード」でスタートするが、同アルバム発売時、
すでに、メディア、その他で、この「スピード」を死ぬ程、耳にしていたファンにとっては、
この「MACHINE」という作品で、本格的に『狂った太陽』の世界へと突入していくことになる。

「覗いたら駄目さ 二度と戻れないよ いいんだね
 天国への螺旋 武者震いひとつ 行くぜ」

まさに、こんなセリフがピッタリだったろう…。

この先は、ポイント・オヴ・ノー・リターンだ。



「真夜中過ぎTVを飛び出した俺は
 
 どこへ向かう満たされちゃいない」




今井&星野の軽快なギター・ワークに、ヤガミ&樋口のリズム隊のグルーヴも、
ノッケから全開でアクセルを踏んで行く。

この楽曲のオリジナル・ヴァージョンでは、そんな疾走感の中、
櫻井敦司のオクターヴ歌唱法が、前半部分を引っ張る。
それが、後半一転し、ハイテンションにジャイブするのだ。

古典的と言えば、それまでの展開ではあるが、
こんな“BUCK-TICK”は、当時、それまで聴いた事がなかった。

脳の中で、“プチリ”と音を立てて“ナニカ”が弾けた。



「何が見えた光と闇の群れ君は

 泣くのをやめ機械(MACHINE)に溶け込んだ」




そして、今井寿のギター・ソロ。
これが、また、見事であった。

“細い線”ながら、それまでのメロディックなフレーズ旋律をなぞりつつ、
なにか光の向こう側へ消えていくような…。
シンプルで有りつつ、スペイシーな、スピーディな“ナニカ”が存在した。

高速道路。
それも首都湾岸線C-3のような、少しスピードの出し辛いワインディング。
それを、身体を一体になった機械(MACHINE)で突っ込んでいく瞬間。
すべて、自分の身体から抜け、自分の後ろに置き去る感覚。
そして、すべてが光に包まれる。



「ギリギリまで皮膚がちぎれるまで走る

 息を止めてこの世を飲み込む」




これを持って、BUCK-TICKは、覚醒し、すべての“シガラミ”を過去の後ろに抜き去った。


あれから、BUCK-TICKは、見事に変体を繰り返しながら、
それでも、変わらずに“キラメキ”の中で、アクセルを踏み続けた。

そして、今まさに、
2006年の最後のコーナーをフル・スピードで、曲がろうとしている。




「ガラスの雨電飾のビルディング見つめ

 正気のままここで夢見るの?」





繰り返すが、この年の【 THE DAY IN QUESTION 】、
櫻井敦司のヴォーカルの調子は、最高水準のコンディションである。
低音が伸びやか伸びて、美しいヴィブラートを奏でている。

そして、特質すべきは、この「MACHINE」の特徴とも言える後半部のオクターヴ上げのシフト・チェンジ。
これが、為されていないのだ!

しかし、この楽曲の持つハイテンションはそのままで、際どいコーナーを潜り抜けて行く。
違和感なく、ハイスピードを、オクターヴ歌唱のみでこなす“実力”がそこにはあった。




「飛び込んで行く光速に まぶし過ぎる星になるまで」




なにも、エンジン全開だけが、最高のスピード感を体現する術ではないことを、
櫻井敦司は此処に証明して見せたのだ。

ヴォイスに余裕がある分、そのヴィブラートと共に、スピード感が増している。

その歌唱実力に、伯仲するように、今井&星野も、コーラスを決める。 (Who are you?)
ヒデのザクザクと刻むBUNNYのレッド・ギターがキラリと光ると、
今井寿のスタビライザーが、アーミング・プレイを絡めてドライヴする。

ブレイクでは、鳥肌が立つようなジャストのフィルは入れるヤガミ“アニイ”トール。
その下で、しっかりと地盤を固める樋口“U-TA”豊のベース。


最高の“スピード・ロック”がここに再現された。

彼らは、おそらく、いつまで経っても、ベテラン・バンドには成りえない。

それは、いつまでも、限界突破を目論んでいるからだ。
今日より明日、明日より明後日、きっと彼らは…。



光の向こう側に、ぶっ飛んで行ってしまうのだろう。



だから、僕らも、手は抜けない。

全力で着いていかないと、遥か彼方に、置き去りになるからだ。




「信じるものは夢じゃない 走り出すこの俺だけさ」




MACHINE
 (作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)


真夜中過ぎTVを飛び出した俺は
どこへ向かう満たされちゃいない
何が見えた光と闇の群れ君は
泣くのをやめ機械(MACHINE)に溶け込んだ

ギリギリまで皮膚がちぎれるまで走る
息を止めてこの世を飲み込む
ガラスの雨電飾のビルディング見つめ
正気のままここで夢見るの?

TVモニターが (Who are you?) サヨナラを告げている

飛び込んで行く光速に まぶし過ぎる星になるまで
信じるものは神じゃない 沸きあがる血の匂いだけ

ギリギリまで皮膚がちぎれるまで走る
息を止めてこの世を飲み込む
バカゲテイル奴らちぎれるまで走る
正気のままここで夢見るの?

TVモニターが (Who are you?) サヨナラを告げている
スピードが全て 恐怖だけ感じている

飛び込んで行く光速に まぶし過ぎる星になるまで
信じるものは神じゃない 沸き上がる血の匂いだけ

飛び出して行く光速に 冷た過ぎる風になるまで
信じるものは夢じゃない 走り出すこの俺だけさ



【ROMANCE】